核戦争を想定するのは現実的でない。

沖縄県会議員選挙で見られた異変
 沖縄県議会は、選挙前には、与野党とも24議席で拮抗していたが、選挙の結果、野党の自民党、中立的な立場を表明する公明党や日本維新の会などが28議席と増え、玉城与党は20議席と少数派となった。
 今後は、玉城知事は厳しい議会運営を迫られることになる。投票率は45.26%と過去最低であった。
 何がこのような結果をもたらしたのか?
 第一の理由は、経済情勢の悪化で、物価高など生活が苦しくなったことである。米軍基地問題も重要だが、それよりも目先の生活が大事だという切実な認識を持つ有権者が増えたのである。
 沖縄県は、子どもの貧困率が全国平均の2倍であり、この問題も大きな争点となった。中学生の学校給食無償化について、県と市町村の間で費用分担を巡ってもめている。この問題は、沖縄の経済状況を示す象徴的な問題である。
 第二の理由は、ウクライナ戦争、北朝鮮の核ミサイル開発や台湾有事である。ロシアがウクライナに軍事侵攻したことは、日本もウクライナと同様な事態に直面するかもしれないという危機感を日本国民に与えている。沖縄県も例外ではない。
 そのアジア太平洋地域の戦略的に重要な位置にあるという地理的条件は、普天間基地の辺野古沖移転も現実的な解決策として受け入れざるを得ないという認識が広まっている。鳩山由紀夫元首相の「米軍基地は最低でも県外」というようなユートピア的な発想を否定する現実が進行している。
 辺野古移転についての代執行訴訟で、昨年12月に国が勝訴し、辺野古移設反対を最大のスローガンとする玉城知事には、もはや移設工事を止める手段がなくなった。今回の県議選での大敗は玉城知事の求心力低下を示すものである。
 何よりも台湾と目と鼻の先にある沖縄県そのものを外敵の侵入から守るために、自衛隊や米軍の存在が不可欠となっている。
 陸上自衛隊は、2016年に与那国駐屯地、2019年には宮古島駐屯地、2023年には石垣駐屯地を開設している。宮古島と石垣島には地対艦、地対空のミサイル部隊が配備され、与那国にも電子戦部隊とミサイル部隊が追加配備される。
 今回の県議選で、辺野古のある名護市(2議席)では、自民党の比嘉忍候補が10,447票(52.1%)で1位、玉城与党の山里将雄候補が8,510票(42.4%)で2位の当選であった。
 宮古島市(2議席)では、野党候補の新里匠候補が7,934票(36.7%)で1位、自民党の下地康教候補が7,207票(33.4%)で2位と、反玉城勢力が議席を独占した。
 石垣市(2議席)は無投票で、玉城与党の次呂久成祟候補と自民党の大浜一郎候補が当選した。
 那覇市・南部離島(11議席)では、自民党が3人、公明党が2人、維新が1人、玉城与党が5人当選している。
 以上を見れば、辺野古移転、陸自の駐屯地開設が、県議会選挙で玉城勢力への追い風にはならなかったことが分かる。厳しくなりつつある国際安全保障環境の下で、沖縄もまた、長い間の「平和ボケ」から脱出しつつあるのかもしれない。

欧州にも同じ状況が見て取れる
 第二次世界大戦後、ヨーロッパの大国間では80年近く平和が続いてきた。東西で対立した米ソ冷戦時代にはNATOとワルシャワ機構軍の間で軍備競争が行われた。しかし、1989年秋のベルリンの壁崩壊、1991年のソ連邦の崩壊で、すっかり雪解け状態となり、軍備縮小が進んだ。
 ところが、それから30年後、2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻した。NATOはウクライナを全面的に支援し、事実上の代理戦争となっている。
 バルト三国をはじめ、ソ連・ロシアによって攻撃され、併呑された歴史を持つ東欧諸国にとっては、悪夢の再来を避けるために、自らの軍備を拡充するのみならず、NATOの結束を固める必要性を再認識している。ポーランドは、2023年の国防予算をGDPの4%に引き上げた。
 それは、東欧諸国のみならず、ドイツやフランスという西欧の大国についても同じである。
 ドイツは、東西冷戦時代の西ドイツの時代には50万人の兵力を有していたが、今は18万人にまで減っている。1989年には5000両あった戦車は、今は300両である。兵器や装備品も老朽化が酷く、使い物にならないという。
 国防費は、今はGDPの1.4%にとどまっているが、ショルツ首相は2%にまで引き上げることを明言している。連邦軍の増強のために、1000億ユーロ(約15兆円)基金も創設した。
 さらには、ロシアの核による威嚇を前にして、ショルツ政権は核抑止を重視する姿勢に転換した。これまで平和主義的主張を強調してきた社会民主党(SPD)であるが、アメリカの戦術核の配備の必要性を再確認している。
 NATOの非核保有国であるドイツ、オランダ、ベルギー、イタリア、トルコは自国内にアメリカの核兵器を持ち込み、ソ連・ロシアからの核攻撃に備えてきた。これがNATOの核共有政策である。
 ドイツは、ナチス時代の反省から、紛争地帯への武器供与に慎重な姿勢を維持してきたが、ウクライナ戦争の勃発で大きく方針を転換したのである。
 男性の兵役を義務とした徴兵制は2011年に停止されたが、その復活も議論されるようになっている。ピストリウス国防相は、予備役を含めると24万人の兵力を46万人にまで引き上げる必要があるとしている。
 徴兵制復活には警戒する声も高い。そこで、志願制は維持しつつ、男性の兵役登録を再開する方針である。具体的には、18歳の男女に入隊意思などを尋ね、適任者を招集するが、男性には回答を義務づける。適任者として選ばれた人は、適性検査を受けねばならない。兵役期間は6ヵ月で、最長17ヵ月の延長が可能である。
 苦肉の策であるが、ヨーロッパ情勢が悪化すれば、徴兵制の復活もありうるであろう。
 フランスのマクロン大統領は、2024〜2030年の7年間の国防費を4000億ユーロ(約55兆5000億円)にすることを決めたが、これは2019〜2025年の2950億ユーロ(約41兆円)の3割増しである。欧州は軍拡の時代に入ったと言える。
 6月17日、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、『年次報告書2024』を公表した。
 それによると実戦配備済みの核弾頭数が3904発となり、昨年よりも60発増えたという。核弾頭の保有数は、ロシアが5580発、アメリカが5044発であるが、中国が核兵器開発を加速化させていることに注意を促している。今の中国は500発の核弾頭を保有しているが、10年後には、米露と並ぶ数のICBM(大陸間弾道弾)を保有するだろうとしている。
 核戦争の危機もまた深まりつつある>(以上「現代ビジネス」より引用)




 舛添要一(国際政治評論家)氏が「世界中で「第三次世界大戦シフト」着々…日本の沖縄も、欧州のドイツも、長年の「平和ボケ」から脱出しつつある」と題する剣呑な論評を発表した。
 世界各国が第三次世界大戦へシフトした、と舛添氏は警鐘を鳴らしている。そして日本は平和ボケから覚醒しつつある、と論じているが、果たして世界は第三次世界大戦へシフトしたかどうか疑わしい。

 確かにウクライナ支援の一環で西側諸国の武器弾薬が不足し始めたため、ドイツでも砲弾製造能力を高めたという。もちろん米国も各種ミサイルの製造能力を拡大している。それが第三次世界大戦へと「シフト」したことになるのか。
 ロシアもソ連当時から備蓄していた戦車や砲弾が払底したため、北朝鮮から博物館級の砲弾を供与してもらって戦場で使用している。そのため不発弾などの不具合が多発して、ロシア軍の兵隊を死傷させているという。それでもロシア軍は北朝鮮に砲弾の供与をお願いするしかなく、プーチンが直々に北朝鮮へと出向いた。

 第三次世界大戦になると舛添氏が予測する根拠は何だろうか。ロシアがウクライナ侵略戦争を始めたから、というのがその根拠とするなら、舛添氏は国際政治の何たるかをご存知ないのか、と疑問を抱かざるを得ない。そもそもプーチンがウクライナ侵略戦争を始めたのは独裁者たる地位を保つためでしかない。
 独裁者には絶え間ない紛争や国際的な緊張が必要だ。そうした国際的な緊張関係をうまく捌き国家の意を高める人に値する指導者は自身を置いて他にいない、いうプロパガンダで国民を洗脳し続ける必要がある。一瞬でも洗脳が解けたなら「プーチンもロシア国民の老いぼれの一人でしかない」と国民はプーチンの「ありのまま」の実像を見る。そうすると、ロシア国民の目に移るプーチンは極めて独善的な欲望の塊の守銭奴でしかないことが明らかになる。その先に待ち受けるプーチンの運命はチャウシェスク氏と同じ運命を辿ることになる。

 それは世界中の独裁者たちに共通する。彼らには紛争や国際的な緊張が必須だ。国際平和など、決して実現してはならない。なぜならその瞬間に独裁者の化けの皮が剥がれるからだ。
 習近平氏もプーチン氏たち独裁者と全く同じだ。だから台湾進攻などと「戦争」を煽り、近隣諸国とイザコザを敢えて起こして、国民に「国家指導者は習近平氏でなければならない」と洗脳し続けなければならない。香港を国安法下に置いたのも習近平氏が中国全土を支配するためだ。そのためには香港の国際金融センターとしての機能を破壊し、甚大な国家損失を招こうとも、自身の独裁者の権威昂揚のためには意に介さない。たとえ国民が飢えて死のうと、自分さえ暖衣飽食の立場が守られれば、それで了とするのが独裁者だ。

 舛添氏は「プーチンの復讐と第三次世界大戦の序曲」と題する著書を発刊した。しかしプーチンのウクライナ侵略戦争は終結が見えてきた。西側諸国が供与した武器でロシア領内も攻撃して良い、と「ゴー」サインを出した。これまでポンコツ戦闘機でも制空権を維持してきたロシア軍は、もはや西側の最新戦闘機の相手ではない。現にS-400といったロシア軍の最新防空システムもウクライナ軍の自爆ドローンの攻撃により次々と破壊されている。
 制空権を失えば、いかにロシア陸軍が数に物を云わせようとしても、その戦法は通用しない。ただただ将兵の損耗を増やすだけだ。

 翻って日本への戦争の脅威はどうだろうか。習近平氏は台湾軍事侵攻を2027年までに決断する、という予測が言論界を中心に流れているが、そんなのはデタラメだ。陸続きのウクライナへ軍事侵攻するケースと異なり、台湾軍事侵攻には「台湾海峡」という大きな障壁がある。そのため、習近平氏が台湾を軍事的に奪うとすればロシア軍のウクライナ軍事侵略の数倍に達する犠牲が必要とされるだろう。
 いや、そもそも台湾を占領するには数十万人もの兵員を台湾に上陸させなければならないが、そのための動員に必要な兵站を準備できるだろうか。そもそも、それらの物資や兵員を輸送する艦艇を調達できるだろうか。いや、そもそも数十万人もの兵士たちを数ヶ月も養う食糧を中国は確保しているのか。一月分しかないと云われる石油備蓄で、戦争を始められるのか。中国経済は崩壊の最中で、失業者をすべて兵隊に刈り取れば兵員は揃えられるかもしれないが、彼らの訓練を何処でどのようにするのか。そのための戦費を中共政府は調達できるのか。

 しかも台湾に軍事侵攻するとなると、中国は米軍と日本の自衛隊と戦火を交えることも想定しなければならない。そうすると制空権や制海権、さらに制海中権を中国軍は保持できるだろうか。そうした軍事的優勢がなければ台湾軍事侵攻など決して出来ない。
 それでは中国は戦争を有利にするため、核兵器を使用するのか。いや中国が核兵器を使用すれば、習近平氏は即座に排除されるだろう。いかに正当な理由があろうと、国際社会は核兵器の使用を断じて許さない。他国を侵略するために、核兵器を使用するなど論外だ。「一つの中国」を叫ぼうとも、現実に台湾は中国の占領下にない。決して「一つの中国」は現実ではなく、それは中国の願望でしかない。そろそろ米国をはじめ、西側諸国は「一つの中国」を否定して、「台湾は独立国だ」と表明すべきだ。そうすることが、台湾有事を一歩遠ざけることになる。


<私事ながら>
この度、私が書いた歴史小説「蒼穹の涯」を出版するためにCAMPFIREでクラウドファンディングをはじめました。「蒼穹の涯」は伊藤俊輔(後の伊藤博文)の誕生から明治四年までを史料を元にして描いたものです。維新後の彼の活躍は広く知られていますが、彼が幼少期からいかに苦労して維新の功労者になり得たのかを史実に基づいて記述しています。現在、明治維新以前の彼に関する小説等の著書は殆どありません。
 既に電子版では公開していますが、是非とも紙媒体として残しておきたいと思います。クラウドファンディングは7月3日までです。残り少なくなりましたが、皆様方のご協力をお願いします。ちなみに電子版の「蒼穹の涯」をお読みになりたい方はこちらをクリックして下さい。

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