追い詰められた二人の独裁者。

支援予算は通った、問題はウクライナの兵員
 4月24日、この数カ月間の懸案だった米国のウクライナ支援予算が議会を通り、バイデン大統領の署名で成立した。そもそも、年末から年明けにかけての戦況予測は、支援予算が通ってウクライナに武器弾薬がちゃんと供与されて始めて、ウクライナは今年2024年、かろうじて戦線を維持できるだろう、というものだった。
 昨年6月から始まった反転攻勢が思うような成果を上げなかった上、ウクライナ側は武器弾薬も不足し、兵士も疲弊している。
 一方、ロシアは依然として動員をやらずに志願兵で兵力を一応調達できていること、軍事産業そのものが回復してきていること、更には北朝鮮やイランからの武器弾薬調達も含めて、今年に限って言えばロシアが有利な状況にある。このことは年末から年始にかけてすでに予想されていたことだ。その上で、本当にここで米国の支援予算が通らなければ、ウクライナは戦線が崩壊してしまう懸念があった。
 しかし、かろうじて予算は通った。徐々に武器弾薬はウクライナに入っていく。これまで供与されていなかった射程の長い戦術弾道ミサイルのATACMSなども既にウクライナに送られている。まだ不足してはいるが、砲弾の問題はカバー出来るだろう。
 ウクライナ側の問題は兵員の数だ。追加の動員については、法律は通したけれど、うまくいっていない。今、海外にいるウクライナ国籍者を動員対象にして、応召しなければパスポートを更新しないと言うこともやっているが、成果が上がっていない。
 開戦以来、2年以上闘いつづけており、前線の兵士の疲弊は凄まじい。入れ替えを行わなければならない。国内的にも政治問題になりかねない状況だ。当然、ウクライナ国民の間にも、不満がたまってくる。今のところゼレンスキーに対する政治的反対運動は起きてはいない。が、やはり潜在的にはこのまま行くと、この問題は政治問題化しかねないファクターだ。
 また、ゼレンスキーは5月20日で大統領任期が切れた。ただし戦争中と言うことで、戒厳令下、大統領選は行わないことになっている。一応、国民は納得しているが、いずれ、ゼレンスキーにとって正統性を問われる問題になる可能性がある。当然ロシア側は今後そこをどんどん突いてくるだろう。一方のプーチンは選挙を行った。国内政治的にグリップを利かせられる国とそうでない国の差が出かねない。

ウクライナを崩壊させるわけにはいかない、が
 ロシアはウクライナに武器弾薬が届き、軍事的に力を盛り返してくる前に、ハリキウの国境の北から攻勢をかけ占領地の拡大を図っている。
 プーチンの大統領選挙の前後に、逆にウクライナ国境からロシア領内にロシア人の反政府武装勢力が侵入して一時的に村落を占拠し、またウクライナ軍が国境を越えてドローンなどでの攻撃を繰り返していたので、ロシア側は国境地帯に緩衝地帯をつくる必要があると主張していた。それが今回のハリキウへの攻勢に繋がっている。ハリキウ市自体まで攻め込むことは出来ないと思うが、可能な限り緩衝地帯を拡げるという作戦であろう。
 ここに来ての最大の懸念はウクライナがどこまで耐えうるかであろう。欧州も米国もこの段階でウクライナへの支援を止めるという判断はないはずだ。
 特に欧州は、フィンランド、スウェーデンが長年の中立政策を放棄してNATOに加盟するほど、ロシアのウクライナ侵攻に対する危機感は極めて高く、ウクライナを支えなければならないという意識はますます高まっている。
 しかし、米国は、今回の支援予算の停滞は何とか乗り越えたが、この予算はどこまでも2024年度分についてのこと。来年度以降については、また改めて決めていかなければならない。しかも、今年11月には大統領選挙がある。ウクライナ支援に否定的で、今回の議会共和党の支援予算審議拒否の原動力となったトランプ前大統領が優勢と言われ、次の大統領に就任するかも知れない。そうなるとロシアと実際の戦闘を繰り広げているウクライナの国民の士気がどこまで保つのかが問題になってくる。

マクロン発言の意図するところ
 仮に、ウクライナが戦線を維持できなくなり、崩れそうになったら何が起きるのか。
 今年2月以来、フランスのマクロン大統領が繰り返し発言している欧米の地上部隊を、ウクライナに送るかどうかというのは、間違いなく問題になってくる。
 この戦争が始まった頃から、プーチンは核使用を匂わしてきた。NATO軍のウクライナ戦争への介入を牽制する為だ。実際、米バイデン政権はウクライナでのロシア軍との過度なエスカレーションを回避することを最優先としており、結果としてウクライナへの武器供与のタイミングはことごとく遅れている。ここに来て、これまで躊躇してきた長射程の攻撃能力を持つミサイルシステムのウクライナへの供与に踏み切ったが、依然としてこれをロシア領内への攻撃に使用することは容認していない。これに対して、ウクライナのゼレンスキー大統領は「ウクライナのパートナー達(=米国)」はロシアが戦争に敗北することを恐れており、ロシアが敗北しない程度にウクライナの勝利して欲しいのだ」と述べ、不満を表明している。
 しかし、マクロン発言に見られるように、もはや、欧州にはウクライナを維持するためには直接的な軍事行動も必要という認識が生まれつつある。彼らにとってこの戦争は、もはや単にウクライナの戦争ではなく、欧州とロシアとの戦争になりつつあるのである。
 ウクライナが保たなかった場合にどうするのか。ロシア勝利という事態を許容できるのか。ウクライナとの国境でロシア軍と対峙することになる前に、つまりウクライナが崩れる前に、出来るだけ支援して、そこで踏みとどまって貰う、と考えるのではないか。
 プーチンが大統領就任時に改めて核の使用を示唆する発言を行ったのは、このよう欧州内の微妙な変化への牽制と見るべきだろう。プーチンからすると、ウクライナにNATO軍、あるいは欧州諸国の地上軍が投入されるとすれば、ロシアも相応の対応を取る用意があるとのメッセージだ。それだけ徐々に状況が煮詰まってきていることだと思う。
 かなり危ない状況だ。NATO軍は、戦闘以外の形では、武器弾薬の支援から、兵員訓練まで直接、ウクライナに地上軍を投入する以外のことは既にほとんど全て行っている。2022年9月、ロシアがウクライナ軍にハルキウ州の占領地域を奪還されるなど、相当追い込まれたときにプーチンが核の使用を示唆したのと同じで、欧州では地上軍の投入に関する議論が始まっている。現在のウクライナの最大の問題はともかく兵士が少ないことだからだ。

プーチンが交渉の可能性に繰り返し言及する真意
 では、ロシアも、ウクライナも、という西側にとっても、どういう形になったら「勝ち」といえるのか、もしくは停戦できる状況になるのか? プーチンはここに来て次のようなメッセージを繰り返して発している。プーチンの真意をどう理解すべきか?
・ロシア側には交渉を用意はある。
・ロシアによるウクライナ侵攻直後の2022年2月28日に始まった両国による停戦・和平交渉を経て2022年3月末から4月半ばにかけて作成された「イスタンブール・コミニュケ」がその出発点になり得る。
・これを拒否しているのはウクライナ側である。
 まず、このイスタンブール・コミュニケの内容を確認する必要があるだろう。2024年4月16日、米外交専門誌フォーリン・アフェアーズが掲載した論文「ウクライナでの戦争を終わらせたかもしれない交渉」によると、あの時点でロシアとウクライナは以下の点ではほぼ合意に達していたという。
・ウクライナは永世中立かつ非核保有国になる。
・ウクライナは軍事同盟への加盟または自国領内に外国軍基地や軍隊の駐留に関するあらゆる意図を放棄する。
・ロシアを含む国連安全保障会議常任理事国並びにカナダ、ドイツ、イスラエル、イタリア、ポーランド、トルコがウクライナの安全保障を供与する。もしウクライナが攻撃に晒され、支援を要請した場合、全ての保障国はウクライナならびに保障国間との協議の上、ウクライナの安全保障を回復する支援を供与する義務がある。具体的な措置としては、飛行禁止区域の設定や武器の供与或いは保障国の軍隊による直接介入が明記されている。
・ウクライナのEU加盟を促進する。
・両者はクリミアを巡る論争については今後10~15年かけて解決する。
・なお、ロシアがウクライナへの「特別軍事作戦」開始の主目的として掲げた非ナチ化と非軍事化に関してはロシアがウクライナに対してナチズムやファシズム、ネオナチズムの禁止やソ連時代の歴史問題にかかわるウクライナの6つの法律の廃止を求めたが、これはウクライナ側が拒否した。また、ウクライナが保有し得る軍事力に関しても双方の主張には大きな隔たりがあり、これらの点については合意には達していなかった。
・また、ロシアが既に占領しているウクライナ東部や南部の領土や国境線の問題についてはプーチン大統領とゼレンスキー大統領の首脳会議で決着が図られるとの考えから、一連の交渉ではこれらの問題への言及は意図的に避けられていた。
 このように、まだ未解決の問題はあったものの、この時点でロシアとウクライナの間では停戦・和平についてかなり具体的な交渉が進んでいたのである。では何故、一連の交渉は最終的に決裂してしまったのか? 従来、この直後の明らかになったロシア軍によるブチャやイルピンでの民間人に対する非人道的な行為の結果、ウクライナ側が態度を硬化させたことが主な理由と考えられてきた。
 これに対して、プーチン政権はウクライナは停戦・和平合意を締結する意向があったにも関わらず、西側諸国、特に米国と英国がこれに拒否権を発動したため、決裂したとの主張を行っている。
 本論文の筆者によれば、この何れも完全には正しくないという。まず、ブチャやイルピンでの非人道的行為が発覚した後も、両者の間では最終合意に向けて交渉が続けられており、二次的理由にはなり得たが、決定的な理由とは言えなかった。
 一方、米国がこの停戦・和平交渉を真剣に受け止めなかったのは事実だが、その最大の理由はいわゆるウクライナへの安全保障の供与に関して、ウクライナから事前の打診が全くないまま、このイスタンブール・コミニュケの内容が独り歩きしたからだという。
 なお、イスランブール・コミュニケ案に明記された関係国が負うべきウクライナへの安全保障供与の義務は北大西洋条約機構(NATO)第5条で明記されたものより具体的であり簡単に受け入れられるものではない。
 むしろ米国としては、ウクライナへの兵器供与を優先し、ゼレンスキー大統領も停戦・和平合意の絶対条件である自国の安全保障の供与に関する関係国との合意に目途が立たない中、ある時点から西側の武器支援を受ければロシアに対して勝利できると考え始め、ロシアとの一連の交渉から離脱したという。

落とし所のないナラティブの対立
 以上を踏まえた上で、ここに来てプーチンが繰り返しイスタンブール・コミュニケに言及する意図をどう理解すべきか?
 まず、プーチンはロシアには同コミュニケをベースに停戦・和平交渉を再開する意向はあるが、ウクライナと西側がこれを拒否しているので、やむを得ず「特別軍事作戦」を継続しているのだ、とのメッセージを特に中国やグローバルサウスの国々に向けて送っているとみる。
 また、実際に停戦・和平交渉を行うとすれば、現在、戦況が大きくロシアに有利に傾いていることから、その現実を踏まえ、ウクライナの中立化は大前提として、西側諸国がウクライナへの安全保障の供与、イスランブール・コミュニケ案でも合意に達しなかった非ナチ化や非武装化についても、より厳しい条件をウクライナ側に突き付けてくるだろう。
 もちろん、ウクライナや西側諸国はロシアの条件を到底受け入れることは出来ないし、ロシア側もそのことは十分に理解している。前述のようにロシアはウクライナでの長期戦によってウクライナを消耗させることも狙っているのだ。
 ロシアにとってウクライナでの戦いは、米国の世界支配に対する戦いでもある。その前面に掲げているのが新反植民地主義のナラティブだ。中国の習近平国家主席も2023年3月、訪露した際、「我々は100年に一度の世界の大変革を目の当たりにしている。一緒にこれを促進していこう」とプーチン大統領に語り掛けるなど、両者は酷似した歴史観、世界観の持ち主である。
 一方、ウクライナは、ロシア・ソビエト帝国からの民族独立の戦いという主張で対抗することになる。ロシアもウクライナもこれらのナラティブを駆使してグローバルサウスにどれだけ響くかという戦いを繰り広げている。
 このまま落とし所が見えないまま、ポスト米国大統領の2025年に突入していくことになりそうだ>(以上「現代ビジネス」より引用)





「欧州が覚悟する地上軍ウクライナ派遣とプーチン核使用のリアリティー」と題して畔蒜泰助(笹川平和財団主任研究員)氏が寄稿している。だがその寄稿文中で展開しているウクライナの戦況に関して、「この戦争はもはやロシアvs.欧米だ」と、随分と的外れの危機感を表明している。
 なぜ的外れかというと、当初からプーチンの戦争はウクライナだけを相手にした戦争ではなかったからだ。対ロ経済制裁や武器などの供与を通して、ロシアがウクライナ領内に侵攻した段階で「NATO及び西側諸国」対「独裁者プーチン」との戦争だった。

 それは習近平氏が台湾を軍事侵攻しても同様の構図になるのは明らかだ。習近平氏が台湾海峡を越えて台湾に軍事侵攻したなら、直ちに米国と日本は反応して台湾を支援する「西側自由主義諸国」対「独裁者・習近平」との戦争の構図になる。そうすると、たとえ中国が電撃的に勝利を得たとしても国際社会を相手に中国は孤立するだろう。常識的に考えれば中国軍は台湾に上陸できないし、上陸したとしても上陸した戦闘部隊が台湾で孤立して殲滅される可能性が高い。そのようにある意味、中国に勝ち目のない無謀な戦争に敢えて習近平氏が突入するのか、という疑問がある。
 それではなぜプーチンは勝ち目のないウクライナ軍事侵攻に踏み切ったのだろうか。それはプーチンだけは「勝ち目がある」と、それも100%以上の確率で勝ち目があるから、習近平氏に「俺はウクライナを三日で占領するから、お前もオリンピックで西側諸国が油断しているこの機会に台湾へ攻め込め」と、北京冬季五輪開会式直前の中ロ首脳会談で習近平氏を唆したはずだ。しかし臆病な習近平氏はそれを応じなかった。その臆病さが習近平氏の命を救ったと云える。

 ただ「中国の習近平国家主席も2023年3月、訪露した際、「我々は100年に一度の世界の大変革を目の当たりにしている。一緒にこれを促進していこう」とプーチン大統領に語り掛け」たという。習近平氏は自国の経済が崩壊過程にあることを知らないのだろうか。それとも習近平氏は現実社会で生きているのではなく、誇大妄想狂の世界に遊離しているのだろうか。
 確実に云えることは、習近平氏は経済実務を知らない。そして彼の周辺には経済政策に疎いイエスマンだけを集めて、バカげた誇大妄想の毎日を送っているのか。いずれにしても余りに単純な思考回路しか持ち合わせてないようだ。

 習近平氏が犯した最大で唯一の過ちは鄧小平氏が打ち出した「改革開放」策を排したことだ。そして中国を40年前の毛沢東時代の粛清と混乱と貧困の社会に戻そうとしている。100年に一度の変革どころではない、中国は40年振りに中国困窮時代への回帰している。同時にロシアもプーチンがソ連崩壊当時の困窮時代へ戻そうとしている。
 なぜプーチンがウクライナに停戦を呼び掛けているのか。ロシア経済が持たなくなったからだ。戦時経済で空疎な「好況」に沸いたが、兵器製造の需要は国民所得を増やしはしない。ただただ戦場で消費するだけの「需要」だ。戦時経済は経済原則から埒外も「好況」を一時的にもたらすが、その富は国民に分配されず特定の軍需産業が独占してお仕舞だ。だから経済サイクルから埒外なのだ。つまり国民経済は疲弊して、戦争需要によりハイパーインフレになる。畔蒜氏もロシア経済の現状をご存知ないのではないだろうか。

 なぜプーチンがウクライナを占領していない段階で停戦を呼び掛けたのか。それはロシアが戦争遂行に困難な状況に到っているからだ。畔蒜氏はロシアは徴兵していないと述べているが、ロシア男性が次々と軍隊へ取られている現状を知らないのだろうか。既に50万人ものロシア兵が消耗したと云われる。そうすると、約80万人いたロシア軍の内、戦闘部隊の殆どが殲滅したことになる。つまり徴兵した兵隊がウクライナ戦線の主力兵になっている。それはロシア軍が弱体化していることを意味する。訓練された職業軍隊と徴兵による素人軍隊とでは練度が異なる。
 しかもウクライナにはバイデンが大統領選直前の「ウクライナの勝利」を逆算して供与した強力な誘導ミサイルなどが到着している。既にクリミア半島の軍事施設は壊滅し、ロシア軍はクリミア半島を放棄して撤退する準備をしているという。東部戦線で攻勢をかけたロシア軍は兵隊を消耗して撤退しているという。

 前世紀の遺物と云うべき独裁者の気紛れな戦争は終わりにしなければならないし、21世紀の内に地球上から独裁者を一掃しなければならない。すべての人類が尊重され、すべての人類が自由に生きられる世界にしなければならない。
 そのための戦争をウクライナでウクライナ国民が戦っている。私たち自由主義諸国はウクライナを全面的に支援しなければならない。そして台湾を軍事的に脅かす独裁者を排除するために、対中デカップリングを推進しなければならない。そうすれば軍事力を用いずして、中国共産党の中国は自ら崩壊する。



<私事ながら>
この度、私が書いた歴史小説「蒼穹の涯」を出版するためにCAMPFIREでクラウドファンディングをはじめました。「蒼穹の涯」は伊藤俊輔(後の伊藤博文)の誕生から明治四年までを史料を元にして描いたものです。既に電子版では公開していますが、是非とも紙媒体として残しておきたいと思います。皆様方のご協力をお願いします。ちなみに電子版の「蒼穹の涯」をお読みになりたい方はこちらをクリックして下さい。

このブログの人気の投稿

それでも「レジ袋追放」は必要か。

麻生財務相のバカさ加減。

無能・無策の安倍氏よ、退陣すべきではないか。

経団連の親中派は日本を滅ぼす売国奴だ。

福一原発をスーツで訪れた安倍氏の非常識。

全国知事会を欠席した知事は

安倍氏は新型コロナウィルスの何を「隠蔽」しているのか。

自殺した担当者の遺言(破棄したはずの改竄前の公文書)が出て来たゾ。

安倍ヨイショの亡国評論家たち。