終戦が近づいたプーチンの戦争。

1.ハルキウ正面ウクライナ軍陣地突破できず
 ロシア軍は5月10日、ハルキウ正面から攻撃を開始した。
 その兵力は3万~5万人という。概ね10日ほど経過したが、国境から5~10キロを前進したものの、ウクライナ軍の陣地を突破できずにいる。
 ロシア軍は、戦闘に慣れていない不十分な戦力で戦っている。ロシア軍の力不足という印象だ。
 とはいえ、ウクライナ軍は予備戦力をこの正面に転用せざるを得なかった。
 ウクライナ軍は、事前に準備した前方陣地と主陣地で、防御戦闘をほぼ計画通り実施している。
 ウクライナ軍の主陣地は、国境よりも5~10キロほど後方にあるので、陣前までは前進されている。
 これは、侵攻を止めるためには、当然の戦術である。ウクライナ軍にとっては、ほぼ、予期した通りの戦いであると判断できる。


2.ハルキウ正面攻撃は「戦力分散」で失敗
 ロシア軍がハルキウ正面の攻撃を開始する前、どの地域を重点に攻撃していたかというと、アウディウカからオチャレティネ、バフムトからチャシフヤールの地域だ。
 特に、アウディウカからオチャレティネへの攻撃では、アウディウカの要塞を奪取し、その後ウクライナ軍の防御の一線を破り、陣内戦闘に入っていたところである。
 この戦闘については、JBpress『武器弾薬が届くまでの隙をついたロシア軍の猛攻、ウクライナ地上軍に危機迫る(2024.5.9)』に、「ウクライナ軍がアウディウカの地域で、ロシア軍の攻撃を止められるか、突き抜けられて、戦果拡張されるかで、今後の戦況は大きく変わる。ウクライナ軍は今、その瀬戸際にきている」と書いた。




 ロシア軍がハルキウに投入している3万~5万人という強大な戦力を投入して戦えば、ウクライナ軍の武器弾薬不足を突いて、この地での作戦は上手くいったはずだ。
 この地で突破口を形成し、それを拡大し、ウクライナ軍の防御の一つを突き破れたかもしれなかったのだ。
 しかし、ロシア軍は3万~5万人の戦力をアウディウカ方面に投入せずに、ハルキウ攻撃に投入してしまった。
 このため、アウディウカ方面は大きく進展することはなく、ハルキウ正面もウクライナ軍防御を突き破る戦果を出してはいない。
 ロシア軍は、中途半端な攻撃で、自滅の兆候が出ている状況だ。

3.中途半端な攻勢で自滅に向かうロシア軍
(1)キーウ占拠を途中で諦めた
 ロシア軍は侵攻当初、ウクライナに全正面同時侵攻を行った。
 この時、ロシアからウクライナを占拠することが目的であれば、2つの案、
①全正面から攻撃するもののキーウを重点にしてその他の正面の戦力は減らして攻撃する案と
②すべての戦力を全正面から攻撃するという案があったかと思う。
 この時、ほかの作戦がうまくいかなかったとしても、①の案を採用すべきであった。
 ところが、ロシアは最も優先すべきであったキーウ占拠をあとわずかというところで攻撃続行を放棄して撤退してしまった。
 最も優先すべきであったキーウ占拠を途中で諦めたのだ。
 キーウ近郊の空港への空挺・ヘリボーン作戦の失敗、兵站上の問題や侵攻経路が水没で塞がれたという障害が発生したからだというが、途中で諦めてしまった。
 第1の目的を達成するためには、そこに全戦力を集中して、攻撃衝力(攻撃を継続する力)を維持し、あらゆる犠牲を払ってでも占拠すべきであったのだ。
 それを途中で諦めた。ロシアにとって、この作戦からの撤退がウクライナ侵攻の最大の失敗であった。
(2)ハルキウやヘルソンの北半分から早々の撤退
 ロシア軍は2022年4月頃、ウクライナ軍の強い抵抗を受けて、キーウ正面から撤退し、戦線をハルキウ州~ルハンスク州~ドネツク州~ザポリージャ州~ヘルソン州に縮小した。
 そうして、最小限の目標を達成しようとした。
 ところが、2022年6~9月頃、ウクライナ軍の反撃を受けて、ハルキウ州・ヘルソン州の一部から早々に撤退してしまったのだ。
 この地を防御できる戦力が足りず、準備もできていなかったというのも一理ある。
 しかし、戦線を縮小したのだから、火力と戦力を投入して、この地を死守するべきであった。
(3)ハルキウの戦線を拡大、ドネツク北部の突破促進を無駄にした
 アウディウカ方面からの攻勢は、うまくいけばドネツク州の境界まで突進していく計画であった。
 しかし、今頃になって、ハルキウ正面の攻撃を開始した。つまり、アウディウカ攻勢も中途半端になった。
 近代戦の戦理から考えれば、突破が成功しそうであれば、攻勢側はあらゆる戦力を投入して、多くの犠牲を払ってでも突破し、その拡大を図り、ウクライナの防御線を突き破るべきであったのだ。
 だが、ロシア軍は使用できる残りの全戦力をドネツク正面に投入せずに、ハルキウに投入してしまった。
 勝敗の境目であった戦局で、そこに防御を突き破る戦力を投入しなかったのだ。
 結局、ここでもロシア軍は中途半端な攻撃をしてしまった。

4.ロシアには困難な突破追求の概念がない
 ロシアは、攻撃目標達成にあと一歩か二歩というところで、大きな抵抗を受けたり、あるいは自軍に問題が生じたりすると、後退するか、または敵の新たな弱点を求めて、攻撃正面を変える戦闘を行う。
 本来の目的を変えるという決心が速いようだ。
 当初は巨大な軍事力を持っていた。それを重要な地域に、最大限に投入することなく戦ってきた。
 つまり、突破の形成、突破口の拡大、戦果拡張という概念、すなわち困難であってもあらゆる戦力を一点に集めて敵を突き破るという「突破攻撃」成功の概念(下図参照)がないのかもしれない。
 攻撃してみて、早い段階でダメであれば、それをいったんやめて別の方策を追い求めるやり方を追求しているようだ。




5.ロシアの中途半端な攻勢後に来るもの
 ロシアは、多くの戦力をすり潰してきた。
 約50万の兵、7600両の戦車、1万5000両の装甲戦闘車、1万3000門の火砲類が破壊されている。
 最近では、使える戦車や装甲歩兵戦闘車も減少してきている。
 米国によるウクライナへの軍事緊急支援が4月26日に決定され、米国務長官は、ロシア領内への攻撃については奨励してはいないとの米政府の立場を示したものの、その上で「この戦争の遂行方法は最終的にウクライナが決めることだ」とも付け加えた。
 つまり、「供与した武器をどこに使おうが、ウクライナの判断による」と言及したものとみられる。
 これからは、ロシア軍の継戦能力を削ぐために射程300キロのATACMS(Army Tactical Missile System=陸軍戦術ミサイルシステム)で、クリミア半島やウクライナに隣接する地域の空軍・海軍基地、弾薬庫、石油施設を徹底的に潰しにかかる。
 長射程精密誘導ロケットや砲で、前線で攻撃してくるロシア軍の砲兵陣地や兵站施設を叩く。
 地上軍攻撃兵器が減少しているロシア軍の疲弊は目に見えてきている。
 キーウを制圧し、ドニエプル川東岸に到達できるだけの本格的な攻勢作戦を実施する戦力はもうないようだ。
 もしできても小さな局地的な地域だけだろう。
 ウクライナ軍の今後の反攻については、ウクライナの兵員の増加にもよるが、クリミアへの上陸侵攻が可能かどうかが、注目されるところである>(以上「JB press」より引用)





ハルキウ正面侵攻でロシア軍が墓穴、勝機逃し敗色濃厚に」「アウディウカ突破作戦の戦果生かせず、もはや本格攻勢の余力なし」と、西村金一(軍事評論家)氏がロシア軍の敗色濃厚な現状を分析している。
 ジョイグ国防相が更迭されたのも、こうした戦況の責任を取らされたのかも知れない。ジョイグ氏の後任で国防相に就いたのは経済政策を担当してきたアンドレイ・ベロウソフ氏だという。いよいよ戦時経済が行き詰まりを見せ、兵站確保を優先するために経済政策の専門家を軍の最高責任者に回した、ということだろう。

 西村氏が分析しているように、ロシアは軍の逐次投入と中途半端な作戦遂行と大量の兵員消耗戦を繰り返したため、ついに「本格攻勢の余力なし」という状況に陥ったようだ。
 ロシアが強大な軍事国家だったとしても、人口1億4千万でしかない。確かにウクライナの人口5千万人ほどと比べれば3倍の兵員を動員できるかも知れないが、3倍も消耗すればウクライナの兵員と同じになる。実際にロシア軍は約50万人と、ウクライナの3倍以上の兵員を消耗したようだ。

 もちろん戦争でロシア軍が破壊された7600両の戦車、1万5000両の装甲戦闘車、1万3000門の火砲類の大半は旧ソ連当時から備蓄していた装備だろう。もちろん軍需工場でそれらの兵器を製造しているだろうが、前線の消耗を上回る供給は不可能だ。つまりロシア軍は兵器も払底しているとみられる。
 西村氏は「(米国から供与される)射程300キロのATACMS(Army Tactical Missile System=陸軍戦術ミサイルシステム)で、(ウクライナ軍は)クリミア半島やウクライナに隣接する地域の空軍・海軍基地、弾薬庫、石油施設を徹底的に潰しにかかる」と分析しているが、既にクリミア半島からロシア軍を一掃したようだ。

 米国が供与したATACMSは強力で、ロシア軍のウクライナ国境に近い兵站と石油供給基地を徹底的に破壊するだろう。ロシア軍はロシア領内へ撤退するしかなく、プーチンが戦争を始める前に確保していたウクライナ東部もすべて放棄せざるを得なくなるだろう。
 プーチンが始めた戦争の敗北がロシア国民に伝わると、ロシア国内の反・プーチン運動は全国各地で沸騰し、プーチンは哀れな最期を迎えるしかなくなる。それはそれほど遠くない未来に起きるだろう。「使うゾ」と脅している核兵器は使われないままにプーチンが最期を迎える公算が大きい。プーチンがクレムリンから逃げ出すとプーチンの戦争は終わりを迎える。

 

<私事ながら>
この度、私の歴史小説「蒼穹の涯」を出版するためにCAMPFIREでクラウドファンディングをはじめました。「蒼穹の涯」は伊藤俊輔(後の伊藤博文)の誕生から明治四年までを史料を元にして描いたものです。既に電子版では公開していますが、是非とも紙媒体として残しておきたいと思います。皆様方のご協力をお願いします。ちなみに電子版の「蒼穹の涯」をお読みになりたい方はこちらをクリックして下さい。

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