ロシアが音を上げるまでウクライナの石油精製施設へのドローン攻撃は続くだろう。

ガソリン禁輸の深刻度
 3月1日付けでロシアは、ガソリンの輸出を禁止した。農繁期で高まる国内需要をまかなうため6月まで臨時に続けると、国内向けには発表されているが、真相は深刻だ。
 今年の初めから強まったウクライナのドローン攻撃で、ロシア国内の製油所が爆破され、ガソリンの生産が西側の推定で16%も低下してしまった。事態は軽視できない。
 隣国のベラルーシからの緊急輸入、2014年から占領中のクリミア半島での配給制などによっても、供給不足を補いきれなくなった。シベリアや南ロシアから値上がりが始まって、3月の時点でモスクワでもガソリンの価格は、1年前にくらべ10%も上昇した。
 物資の輸送はすべてトラックを動かすガソリンにかかっている。だから、ガソリンの減産が進めば、社会を麻痺させかねない。物価インフレをまねき、国民の不満を高めることになる。すでにインフレ率は10%以上が続き、畜産が盛んな南のベルゴロードでも鶏肉が値上がりし、豊かなこの地域でも食品の価格は1年前にくらべて25%も高くなっている。

3ヶ月間でロシア国内製油所23ヵ所を攻撃
 今やウクライナ国境から1000kmの範囲は、ウクライナのドローンの脅威にさらされている。攻撃されたうちの半分の12の製油所で設備が爆破され、精製が停まり、修復に何ヶ月もかかると伝えられる。戦果をあげるのに成功した率は50%ということになる。
 北はサンクトペテルブルク、東はシズラニの製油所すらも目標にされた。ウクライナ国境から、それぞれ約800km、1000kmもへだたっているが、ウクライナのドローンの航続距離の範囲内なのだ。
 どの製油所に、どんなドローンが使われたか、詳細は不明だ。ウクライナが秘密にしているからだが、モスクワの東南200kmのリャザン製油所には、「リュウティ(激しい)」という名のドローンが用いられたことが、地元で撮影されたスマホの映像から確認できる。
 このウクライナ国産のドローンは、ガソリン・エンジンでプロペラを回して飛ぶ。大型の模型飛行機と思えばよい。航続距離は1000kmで、50kgの爆薬を搭載できる。注目すべきは、その命中精度だ。映像から確認できるが、精油所の心臓部の精留塔――蒸発温度の差で軽いガソリンと重い燃料油とに分ける――をめがけて、まるで吸い込まれるように降下して命中した。
 なぜそれが可能か。搭載されたカメラの映像を、記憶されているモデルと照合して、合致している目標に向かって、飛行方向を自動的に変えていくことができるからだ。目標の正確な緯度経度は、偵察衛星の写真から割り出し、あらかじめドローンに与えられている。その目標の近くまでは、GPS(全地球測位システム)によって、命令通りの飛行経路を飛ぶように制御する。電波やレーザーなどによって妨害されない限りは、1000kmのへだたりがあっても、いわば百発百中なのだ。

ロシアのレーダー警戒網は隙間だらけ
 電波の到達距離が6000kmと豪語する少なくとも10カ所の巨大レーダーによって、ロシアは中長距離弾道ミサイル、そして大型爆撃機の飛来を探知できる早期警戒網を備えている。整備不良で常時稼働かどうか、問題があるにしても、建前として360度どちらの方向に対しても、隙間はないことになっている。
 だが、地面を匍うように侵入してくる巡航ミサイルやドローンに対しては、完全にお手上げだ。それらを探知し捕捉するには、防衛したい個々の施設の近くに、レーダーと対空ミサイルから成る部隊をいちいち配置するしかない。そこまでして製油所を防衛する余力がないというのが実情だ。その弱点をウクライナは突いているわけだ。
 ちなみに、ロシアが占領したクリミア半島では、セバストポール軍港の北の2か所に駐屯していたロシアのS-400対空ミサイル部隊に対して、ウクライナは2023年の8月と9月にドローンで攻撃し、まずアンテナを破壊し、その上で巡航ミサイルによって部隊そのものを殲滅した。それによって、以後はウクライナのドローンの攻撃にさらされ、セバストポールを母港とするロシアの黒海艦隊、そしてロシアの戦闘爆撃機は思いのままに行動できなくなり、脅威を大幅に低下させるのに成功した。

戦術兵器と戦略兵器のギャプを埋める不吉な役割
 3月22日付けの英経済紙『ファイナンシャル・タイムス』によると、アメリカが、ウクライナに対して、ドローンによるロシア領内への攻撃をやめるように求めた。
 理由は、世界の石油供給を乱すからだと、伝えられる。この説明を誰が信ずるだろうか。ロシアのウクライナ攻撃をやめさせるため、世界中がロシアの石油を買わないように呼びかけてきたことと矛盾するからだ。本音は、報復として核兵器を使う口実を、ロシアに与えるのを恐れてのことに違いない。
 アメリカの要請に対してウクライナの高官は、「我が国にできることをやっている」と答えた。ウクライナとしては、ロシアがウクライナのエネルギーを始めとしてあらゆるインフラにミサイル攻撃を浴びせてきたのに対して、その何分の一かをやり返しているだけ、と言いたいのだろう。
 目には目、破壊には破壊、殺戮には殺戮と、戦争の在り方がエスカレートする。それにつれて使われるのも、戦術兵器から戦略兵器へとエスカレートする。戦線に影響する兵器から、総合国力に影響する兵器へとエスカレートする。戦闘機から大型爆撃機そして原爆へとたどったのが日本の敗戦過程だったことが想起される。
 戦術兵器だったドローンは、今や戦略兵器の役割も果たすようになってきた。その次の究極兵器に手がのびる前に、早く和平への道を開かねばならない。
 だからこそ中国とインドがロシアと縁を絶つか、それともロシアを助けて世界中を相手にするか、決断をフランスとウクライナがうながした。3月に入ってから、フランス外相が中国を、ウクライナ外相がインドを訪問したのは、それが目的だった>(以上「現代ビジネス」より引用)




 プーチンのウクライナ侵略戦争で戦略が大きく変化した。その代表がドローンの兵器化だ。「戦略兵器となったドローンがロシアを麻痺させるガソリン危機を引き起こす」と題して、赤木 昭夫(評論家)氏がロシアの現状を報告している。
 副題として「究極兵器にまで手が伸びる前に」とあるように、プーチンの指が核ボタンに触れる前に、ロシア全土はガソリン不足に陥って機能不全になる、という。

 もちろん戦争は一日も早く終わる方が良い。しかしロシア軍事侵攻した現状の戦線で領土を固定化するのには反対だ。それでは軍事力で国境を変更することを許さない、とする国連決議に悖るからだ。
 ロシアがウクライナから奪った全ての領土をウクライナが取り返すまで、西側諸国はウクライナを支援すべきだ。米国もウクライナがすべての領土を取戻すまで支援を止めてはならない。米国がウクライナ支援に後ろ向きになるなら、日本を含め米国と同盟関係を結んでいる諸国は米国を信頼できなくなるだろう。

 ロシアはウクライナのエネルギーインフラを破壊している。各地の火力発電施設などを集中してミサイルなどで攻撃している。ロシアのウクライナ攻撃には正義どころか大義すらない。すべては野蛮な領土的野心の成せる業で、プーチンの犯罪はいかなる理屈でも正当化できない。
 いかに70%カットオフとはいえ、石油などをロシア枷大量輸入するインドや中国は我々西側諸国の仲間ではない。彼らとは「軍事力による国境線の変更を許さない」という価値観を共有するものではない。インドが先進自由主義諸国からの投資や工場移転を望むなら、すべての国際的な価値観をインドも共有すべきだ。それが出来ない限り、インドもロシアや中国と同様に信用ならない。

 ロシア国内を戦時インフレの波が襲おうとしている。消費者物価は既に10%も値上がりし、ガソリン価格は25%も高騰している。しかしロシア国民に厭戦気分が高まらないとしたら、まだまだウクライナのドローンによるロシア石油精製所に対する破壊が足らないということなのだろう。
 プーチンが核使用に踏み切るのではないか、という懸念を表明する人々がいるが、ロシアが核兵器をウクライナで使用すれば、インドや中国を含めて国際社会はロシアを決して許さないだろう。許さないだけではない、ウクライナ国土の放射能汚染は偏西風に乗ってロシアにも波及する。ロシア南部の広範な地域が放射能汚染地域になって、ロシアの穀倉地帯が農業生産を直撃するだろう。核兵器は地域限定使用しても、その放射能の拡散を止めることは誰にもできない。

 ウクライナによるロシアの石油精製所攻撃には正当性がある。ロシアのウクライナ軍事侵攻を止めるだけでなく、ウクライナが領土を取戻すにはロシアからガソリンを奪うことは有効な戦術だ。ロシアが音を上げるまでウクライナの石油精製施設へのドローン攻撃は続くだろう。


<私事ながら>
この度、歴史小説「蒼穹の涯」を出版するためにクラウドファンディングをはじめました。既に電子版では公開していますが、紙媒体でも残しておきたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。ちなみに電子版の「蒼穹の涯」を読みたい方はこちらをクリックして下さい。

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