30年前のダイオキシン騒動はどこへいったか?

小泉進次郎氏と河野太郎氏が押し込んだ「再エネ最優先」
 日本は菅義偉(よしひで)政権のときに、2030年までのCO2削減目標(2013年比)を26%から46%へと、20%も引き上げました。
 そして、エネルギー政策の基本的な方向性を示すエネルギー基本計画書には「再エネ最優先」と書き込まれました。
 これは当時の小泉進次郎環境大臣と河野太郎規制改革担当大臣が押し込んだものです。
 しかし、これを実現しようとすると、費用はいったいいくらかかるのでしょうか。政府は沈黙したままです。

3人世帯で年間約6万円が上乗せされている
 これまでの実績を確認してみましょう。再生可能エネルギーは過去10年間、「再生可能エネルギー全量固定価格買取制度」のもとで大量導入されてきました。これによるCO2削減量は年間約2.4%に達しています。
 ところが、これには莫大な費用がかかりました。
 それを賄うため、「再生可能エネルギー賦課金」が家庭や企業の電気料金に上乗せされて徴収されてきたのです。この賦課金は総額で年間約2.4兆円(2019年度)に達しています。
 これは1人あたりで約2万円ですから、3人世帯では6万円になります。3人世帯の電気料金はだいたい月1万円、年間では12万円くらいです。

「再エネ賦課金」で電気料金が約1.5倍に
 12万円に対して6万円ということは、賦課金によって実質的に電気料金が1.5倍になるほどの、極めて重い経済負担がすでに発生していることになります。
 国の総額でみると、2.4兆円を負担して2.4%の削減なので、これまでの太陽光発電等の導入の実績からいえば、CO2削減量1%あたり毎年1兆円の費用がかかっているわけです。
 すると、単純に計算しても20%の深掘り分だけで、毎年20兆円の費用が追加でかかることになります。

「消費税率20%」に匹敵する

 言うまでもなく、20兆円というのは巨額です。今の消費税収の総額がちょうど約20兆円です。すなわち、20%もの数値目標の深掘りは、消費税率を今の10%から倍増して20%にすることに匹敵します。
 これを世帯あたりの負担に換算してみましょう。
 20兆円を日本の人口一人あたりで割ると約16万円、3人世帯だと3倍の48万円です。
 電気料金が年間12万円で、それに48万円が上乗せされるとなると、電気料金が実質5倍の60万円になってしまいます。
 もちろん、現実にはこれらすべてが家庭の負担になるわけではありません。
 しかし、たとえ企業が負担するとしても、それによって給料が減ったり物価が上がったりして、結局は家庭に負担がのしかかります。

政府の脱炭素目標は破綻する
 政府が目標に掲げた2030年といえば6年後です。
 これに国民が耐えられるとは、到底思えません。脱炭素は必ず破綻します。
 電気代が上がるだけでも国民の生活は十分に苦しいのに、岸田政権はさらに、化石燃料の炭素含有量に応じてコストを課する「カーボンプライシング」まで導入しようとしています。
 2022年6月21日には環境省の審議会が開かれ、「CO2排出1トンあたり1万円の炭素税をかけても経済成長を阻害しない」という試算が示されました。
 いったいどういう理屈でそうなるのでしょうか?

「炭素税導入」は消費税を15%に上げるのと同じ
 その主張をまとめると「炭素税の収入の半分を省エネ投資の補助に使うことで、経済成長を損なうことなく、CO2の削減ができる」とのことです。
 そんなはずはありません。
 CO2排出1トンあたり炭素税1万円なら、日本の年間CO2排出量は約10億トンなので、税収は10兆円となります。
 この金額は消費税収20兆円の半分にあたるので、消費税率を10%から15%に上げるのと同じことです。普通の経済感覚があれば、これが大変な不況を招く結果になることはすぐに分かることでしょう。

地方経済にとって重い負担になる
 この「炭素税1万円」が実際に導入されれば、人々の生活はどうなるでしょうか?
 北海道などの寒冷地では、年間のCO2排出量は一世帯あたり5トンを超えます。つまり、炭素税率1万円ならば、年間5万円の負担が発生するわけです。過疎化、高齢化が進む地方経済にとって、これは重い負担になります。
 産業はどうなるでしょうか?
 例えば大分県のように製造業に依存している県では、県内総生産100万円あたりのCO2排出量は6.7トンにのぼります。炭素税率1万円ならば、納税額は年間6.7万円。県内総生産のうちこれだけが失われると、企業の利益など軒並み吹っ飛んでしまうことでしょう。

「再エネ投資で経済成長」はナンセンス
 また、「炭素税収を原資に、大々的に省エネ投資への補助をすれば経済は成長する」という議論もナンセンスです。
 確かに、数値モデル上では、そのようなことも起こりえます。「愚かな企業や市民がエネルギーを無駄遣いしている」ところを「全知全能のモデル研究者と政策決定者」が儲かる省エネ投資に導く、という前提になっているからです。
 しかし、「政府が税金を取って、民間に代わってどの事業に投資するか意思決定することによって経済成長が実現する」という考え方は、そもそも経済学の常識に反します。
 特に省エネ投資のように、大規模な公共インフラとは異なり、無数の企業や市民が自分の利害に直結する意思決定をする場合は、なおさらです。
 政府の補助があったので購入したものの、受注が不調で工場が稼働しない(で使われていない)、という“ピカピカの無駄な設備”は日本のいたるところにあります。
 政府の補助をもらってゼロエミッションの大きな住宅を建てたものの、予想外に家族構成が変わってしまい、一人で住むことになってしまった。そこでローンの支払いに苦労するといったこともあるかもしれません。

「再エネ投資が進まない」のは理由がある
 将来のことはよく分からないと思ったら、あまり大きな投資をしないで、現金を手元に置いておいた方がよい、というのは常識的な経済感覚を持つ経営者や普通の人々がする賢明な判断です。
 単純な計算では、投資回収年数が短くて、一見するとすぐに元が取れそうな省エネ投資でも、現実にはあまり進まないというのは、それなりに合理的な理由がある場合が多いのです。
 政府には、エネルギー効率が悪い粗悪品を市場から排除したり、エアコンなどの機器のエネルギー消費量の表示を義務付けたりすることで、消費者に情報提供をするといった役目はあります。
 しかし、個人が何を買うべきかまでこまごまと指図するのは出しゃばり過ぎです。

政府の事業はよく失敗する
 政府の事業はよく失敗します。これは決して政府の人間が無能だからだということではありません。政府が何か事業をするとなると、政治家が介入し、官僚機構が肥大し、規制を歪ませて利益誘導しようとする事業者が入り込むので、うまくいかないことが多いのです。これを経済学では「政府の失敗」と言います。
「政府が民間より効率的に投資ができる」という発想は、計画経済そのものです。
 北朝鮮と韓国と、どちらが経済成長したかに思いを馳せれば、この考え方の愚かしさが分かるでしょう。朝鮮戦争の直後に南北が分かれた時点では、むしろ北朝鮮の方が工業化は進んでいて、韓国の方が遅れていたのです。
 ところが、今では大きく逆転しています。
 韓国は先進国なみの経済水準に達したのに、北朝鮮は世界で最も貧しい水準です。
 このように、環境省審議会の試算は前提のところですでに根本的に誤っています。
 モデルの詳細は資料を見てもブラックボックスになっていてよく分かりません。というより、知る価値もありません。

審議会は御用学者ばかり
 こんな経済学の初歩に反するような話がなぜ政府の審議会で大手を振って議論されるのでしょうか。
 審議会の委員のセンセイ方は何をしているのでしょうか。
 知り合いのエネルギー経済学者に聞いてみると、経済学を本当にやっている人は、環境やエネルギーのことをよく知らず、興味もないので口を出さないのだそうです。
 その結果、このような審議会に出てくるセンセイ方は政府のお気に入りの御用学者ばかりとなる。
 御用学者だらけの学会も学部もあるので、何も困ることもない。博士にもなれるし、先生にもなれて食い扶持ちには困らない。それどころか、「気候変動」という接頭辞をつければ潤沢な政府予算をもらうこともできる。残念ながらこんな構図になっているようです。

再エネの大量導入で日本の製造業は全滅
 最近よく聞く意見に「日本は海外に比べ温暖化対策が遅れている。製造業が生き残るためには、製造工程でのCO2を減らすために、ゼロエミッション電源の比率を上げなければいけない」というものがあります。
 ゼロエミッション電源というのは、原子力や再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、水力)などによる、発電時にCO2を排出しない電源のことです。
 もちろん、原子力の再稼働でゼロエミ電源比率を上げるなら、安価なので何も問題はありません。
 しかし、再エネの一層の大量導入でそれをやろうとすると、コストが嵩みます。これでは、CO2云々以前に、そもそも日本の製造業自体がサプライチェーン(供給網)に生き残れず、全滅してしまいます。

4.3%だけゼロエミッションであればいい
 海外が製品のサプライチェーンに対してゼロエミを義務付けるといっても、すべての企業がそうするわけではありません。世界全体での割合でいえば、ごく限定的になると思われます。
 ここでは仮に「米国とEUのすべての企業が輸入品に対してゼロエミ電源100%を義務付ける」と想定した上で、日本の輸出のために必要なゼロエミ電源の量を勘定してみます。
 日本の対世界の輸出総額は2019年は7060億ドルでした。
 このうち、対EU輸出総額は820億ドルで、対米輸出総額は1400億ドルです。したがって、これに対EUと対米分を足すと2220億ドル。これは輸出総額の31%にあたります。
 これに対して日本のGDPは5兆1540億ドルでしたから、米国とEUへの輸出合計金額はGDPとの比率では222/5154=4.3%に過ぎません(以上のデータは日本貿易振興機構・ジェトロによる)。
 ここでGDPを1円生み出すための電力消費と、輸出を1円にするための電力消費を等しいとすると、日本の電源の4.3%だけゼロエミッションになっていれば、それを使うことで米国とEUへの輸出製品はすべてゼロエミッション電源で賄えることになります。

日本のゼロエミ電源は“あり余っている”
 具体的な業務手続きとしては、輸出する製品について投入電力量を計算し、実際にそれだけのゼロエミ電力を買えばよいのです。
 もしそれで足りなければ、それに見合うだけのゼロエミ電力の証書である「非化石証書」を買えばよいのです。
 日本のゼロエミ電源比率は2018年度で23%でした。これは2030年度には44%になる予定(図表1)なので、実は日本のゼロエミ電源は、すべての輸出を賄ってなお“あり余っている”のです。




 もしも強引に再エネを大量導入して、前述のように電気料金が高騰すれば、日本の製造業は壊滅するでしょう>(以上「PRESIDENT」より引用)





 杉山 大志(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)氏が「このままでは電気料金は5倍になる…岸田政権の脱炭素政策が目論む「年間20兆円の国民負担増」の恐ろしさ「再エネ投資で経済成長」は政策としてナンセンス」と題する論評を掲載して、孤軍奮闘を続けている。
 政府の方針に反する、もしくは批判することは研究者として補助金が出ないことを覚悟することだ。幸いにして杉山氏はキヤノングローバル戦略研究所に所属しているから、生活の糧を奪われることはない。しかし大学や政府系研究所で働く研究者が政府の方針に反する提言をすることはかなりの勇気を要する。

 しかしエネルギー戦略に関して、政府の誤りを指摘しないのは研究者として自殺を意味する。かつてダイオキシン騒動があった。30年以上も前のことだが、それまで各家庭には簡易な焼却炉があって家庭ゴミの内、燃えるゴミは各家庭で焼却していた。
 学校や各工場にも焼却場があって、学校や工場から出る燃えるゴミは校内の焼却場で燃やしていた。当時は現在のようにゴミ収集車が街を走り回ることはなく、不燃ゴミだけ決まった日に決められた場所に出していた。それを役場の職員が回収して回るだけだった。

 ダイオキシン騒動があって、モノを燃やすときに出る煙には猛毒のダイオキシンが含まれるから各家庭でゴミを燃やしてはならない。家屋解体の際も、現地で野焼きしてはならない、すべては産業廃棄物として金属と木片を分別して処理場に搬入するように、と云うことになった。そして家屋解体費は高騰した。もちろんゴミ回収費もタダから有料になった。
 つまりあらゆる物が有料化されるのが環境に良い、という美名で正当化された。しかしダイオキシンは有毒だが、人類が火を使い始めたことによって耐性が備わった、という結論に到り、ウナギのかば焼きの煙も発癌物質があるとか、囲炉裏の煙にも発癌物質がある、などと云った大騒動はいつの間にか沈静化した。

 現在のCO2地球温暖化、といったバカげたプロパガンダが30年前のダイオキシン騒動に重なって見える。ダイオキシン騒動ではゴミが一部事業者にとっては「金の成る木」になって終息した。ただ国民にはゴミの有料化と分別という費用と手間が押し付けられた。
 その後もレジ袋が海洋にまで流れて環境に被害を与えているから、という名目で有料化された。同じような理屈からプラスティック製のストローやスプーンなども排斥されて紙や木へと変わった。それで環境負荷が軽減されるという理屈だが、プラスティック製品と紙製品とどちらが環境負荷が少ないのか、厳密な検証を何処も行っていない。

 電気エネルギーがクリーンだ、というのは使用時にCO2が出ないからだそうで、電気がどのようにして造られるのか、そしてEVなどの製造時にどれだけ環境負荷がかかっているのか、という検証も何処もしていない。さらにCO2地球温暖化に関しても、気候変動学者の大半が懐疑的だ、という事実すら多くのマスメディアがスルーしている。
 そして左派環境派活動家が雲霞の如く湧いて、その一部は政府の省エネなどのタスクホース委員にまで入り込んでいる。彼らの目的は新しい権益を自分たちで囲い込もうとする宣伝活動を繰り広げている。「環境のためのSDGs」という誰にも抵抗できないアイテムを手にして、正義のような顔をして浸透するから始末に悪い。

 杉山氏が環境のためと称して、国民に多大な経費負担を強いる活動の殆どが無意味だと批判する。私も全く同感だ。かつてのダイオキシン騒動が二重写しになって見えるようだ。多くの気候変動学者は太陽活動の低下などから地球気候は寒冷化へと向かう、と予測している。温暖化では生物にそれほど大きなダメージはないが、寒冷化は食糧生産に確実にダメージを与える。心配すべきは温暖化ではなく寒冷化だが、プロパガンダに毒された人々が目覚めるのはいつのことだろうか。世界的な食糧不足が起きてからでは遅いのだが、左派環境派活動家は世界が飢饉の大混乱に陥れば彼らの目的が達成されるのだろうか。最後に断っておくが、大気中のCO2が0.04%から一割程度増加したところで、地球環境が悪化することなど何もない。CO2が少しでも増加すれば地球環境が破壊されるというのなら、あなたはCO2濃度0.04%の大気を吸って、CO2濃度3%の呼気を吐いている。つまり成人一人当たり一日約1KgのCO2を出している。左派環境活動家のあなたも地球温暖化の元凶なのか。


<私事ながら>
この度、歴史小説「蒼穹の涯」を出版するためにクラウドファンディングをはじめました。既に電子版では公開していますが、紙媒体でも残しておきたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。ちなみに電子版の「蒼穹の涯」を読みたい方はこちらをクリックして下さい。

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