トランプ氏はホワイトハウスに引き籠るのか。

<「もし」トランプ第二期政権が現実のものとなったら、「トランプが戻ってくるかも知れない世界で日本はどう生きるか・1~米国中心の戦後世界秩序はガタガタになる」で見てきたように米国は世界に背を向ける。が、世界を流動化させる要因はそれだけではない。グルーバルサウスという、かつて西側に虐げられてきた諸国が、規模でも発言力でも主役に躍り出てくるのだ。安倍政権の外交・安全保障担当者としてグローバルサウス台頭に立ち会った筆者が、新たな世界での日本の立ち位置を探る。

中国の予想よりも早い低空飛行
 グローバルサウスは決して一枚岩ではない。
 筆頭を走る中国は、イデオロギー色が強く、復古主義的な習近平主席が仕切っている。習近平は、西側諸国が作った国際秩序は自分たちに押し付けられた秩序であり、自分たち自身の国際秩序を作り出すべしとの考えである。自由主義思想は共産主義独裁にとって実存的脅威であると考える彼は、グローバルサウスの中でも最も先鋭な反自由主義者である。
 中国は、70年代の日中・米中国交正常化以降、自由主義的国際秩序の最大の裨益国であった。ところが、リーマンショック以降の西側経済の凋落を見て、東風は西風を圧していると毛沢東のようなことを言い始めた。今、習近平は、中国による中国のための勢力圏をアジアに作り出したいとの野望を隠さない。ただし、習近平が唱える「運命共同体」は、日本の戦前の「八紘一宇」に似て、自分中心の国際秩序を建設して見せるという意気込みだけで具体的な中身がない。
 西側と対決的姿勢を取り始めた中国は、外では一方的な拡張主義に走り、内では少数民族を弾圧し、自由な言論を封殺している。中国は、西側諸国の巨大なマーケットと接合されることによって繁栄を実現してきたにもかかわらず、今、台湾有事を念頭において、自給経済化を進めている。やがていつか米国を抜くと恐れられた中国経済は予想よりも早く低空飛行に移ったように見える。

グローバルサウスの様々な顔

 中国を猛追するのはインドである。インドは、英国の植民地支配を脱した後、冷戦期に東西陣営のいずれにも参加しないという非同盟主義を掲げた。精神的指導者であったガンジーは、「権力は銃口から生じる」という粗野な暴力革命論を唱えた毛沢東と異なり、深い精神性と徹底した非暴力主義によって、英国王権のくびきを外した。インドは、冷戦中、日米中及びパキスタンという枢軸に反発してソ連にすり寄っていたが、昨今の米中対立、中露接近を見て、自らも立ち位置を西側にゆっくりと移しつつある。その傾向は、コングレス派(国民会議派)のシン首相からバジパイ党(人民党)のモディ首相に移り、一層、明瞭になってきている。
 インドは、昨年中国を人口規模で抜き、しかも、中国人よりも平均年齢が10歳も若い国である。今世紀の超大国であるインドは、是が非でも、自由主義社会を支えるリーダーの一つになってもらわなくてはならない。インド自身も、中国のように自由主義社会を外から壊すよりも、自由主義世界の中でリーダーシップを取りたいと考えているはずである。
 続いて日本にとってASEAN諸国の重要性は論をまたない。ASEAN中、最大の国家であるインドネシアは、世界4位の人口を抱える将来の超大国である。インドネシアは、ユドヨノ大統領の下で見事に民主化を推進した。もともとスカルノ大統領が、パンチャシラ(唯一神信仰、人道、統一、民主主義、公正)を唱えて、インドネシア人のアイデンティティを築き上げ、多数の部族や宗教を抱えるインドネシアを一つの国に纏めることに成功していた。ジョコウィ前大統領は、経済発展に最大のプライオリティを置いて政権運営し、インドネシアの発展の礎を築いた。プラボウォ新大統領もジョコウィ路線堅持するであろう。インドネシアもまた、自由主義世界の中にとどまり、そのリーダーシップの一翼を担うことを狙っている。
 このほか、メキシコ、トルコ、ブラジル等の国々が次々と工業化を果たし、国民国家化して西側諸国を追い上げてきている。工業化は、加速度的に進む。新しい国際秩序が生まれようとしている。日本に残されている時間は多くはない。日本は、グローバルサウスの新興国を、自由主義社会の責任あるリーダーの一員として引き込むことが出来るだろうか。出来ると思う。むしろ、それはアジアから唯一先進工業国家の群れに紛れ込んだ日本にしかできないのではないだろうか。
 それでは日本は何をするべきか。

グローバルサウスにとっての日本という存在

 日本は、グローバルサウスに対して、3つのメッセージを発するべきである。
 第一に、20世紀までの歴史的不正義は既に正され、新興国の多くが現在の自由主義的国際秩序から大きく裨益しているということである。
 20世紀は残虐な世紀だった。無差別な世界戦争、ひどい人種差別・植民地支配がまかり通った。しかし、20世紀後半以降、徐々に自由主義的、民主主義的な価値、法の支配と言った考え方が地球的規模で広まっていった。
 アメリカ合衆国独立宣言の最初の数行が、現在に続く自由主義的国際秩序の歴史的原点である。
 人はすべて平等であり、命と自由と幸福実現の権利を有する。その権利を守るために人々は政府を建てる。政府の正統性は人々の同意に基づく。
 僅か200年前、ちょうど産業革命開始のころに書かれたこのわずか数行が、やがて20世紀に入り、国連憲章に繋がる不戦条約のような平和思想を生み、英仏蘭米日等の植民地支配を崩落させ、公民権運動により米国自身の人種差別を撤廃させ、世界中の人種差別を葬った。そして第二次世界大戦を生き残った全体主義である共産主義を打ち負かし、ソ連中心の共産主義圏を崩落させた。
 人類がここに到達するまで200年かかった。夥しい数の人々が不当に差別され、戦争に駆り出され、或いは、プランテーション農場で牛馬のように扱われ、報われないまま、名前さえ覚えられずに、ただ死んでいった。その数は億を超える。屍の山々を乗り越えて、自由主義的価値観が普遍的に拡大したのは、ようやく20世紀末のことである。
 今、ようやく自由、民主主義、法の支配といった価値観が普遍的に地球的規模で受容される基盤が整ってきている。人々がみな平等に良心に従って自己を実現できる社会。幸福を求めることが出来る社会。堂々と正しいと思うことを述べ合える社会。そうして公論によって大きなルールが作られていく社会。権力というものが国民に奉仕するべきものだということが常識になっている社会。それが私たちの自由主義社会である。
 それが地球的規模で拡大していくことが、人類全体の利益である。日本は先ず、この自由主義的な国際秩序が公正なものであり、守るべき価値があることを、グローバルサウスに語りかけるべきである。

どこまでも自由貿易体制の効用を主張しよう

 第二に、グローバルサウスの国々の最大関心事である経済発展のためには、自由貿易体制こそが最も重要であることを説得することである。
 マルクス・レーニン主義では、万国の労働者が立ち上がり、植民地の住民と手を携えて、資本主義国家を打倒するべきものとされている。しかし、それを実践しようとしたソ連は、見事に立ち枯れて人間社会としての生命力を失い倒壊した。巨大な赤軍もKGB(諜報機関、秘密警察)もソ連の崩落を止められなかった。独裁は自由を殺す。自由の死んだ社会は、人々から自己実現の喜びを奪い、生命力を失うのである。
 市場経済は、権力政治とは全く異なった論理で動く。資本は、直接投資の形で安くて優秀な労働力のある国に移転する。工場が移されると、技術がついていく。勤勉で熱心な国民を抱えた国々では、産業が興り、やがて、第一次産品のみならず、工業製品を先進国の巨大市場に流し込み始める。こうして世界に富が拡散し、地球的規模の工業化が加速化される。
 その反面、先進国では工業化の結果として都市化による人口減少が起き、また、工場と技術者の海外流出により産業の空洞化が始まる。それは日本が追い上げた米欧がかつて経験したことであり、今日、中国、韓国、ASEAN、インドに追い上げられている日本がまさに経験していることである。
 力をつけたグローバルサウスの国々が発展するには、先進国から技術と直接投資を積極的に受け入れ、かつ、先進国の巨大な消費マーケットを自らの製品に開放させることが必要である。それを可能としているのが自由貿易体制である。残念ながら、自由貿易を維持するための国際機関である世界貿易機構の機能停滞が語られてから久しい。
 一方、地域的あるいは二国間の経済連携協定は雨後の筍のように増えている。なかんずく、故安倍晋三総理が成し遂げたCPTPP創設、RCEP創設、日EU経済連携協定は、日本がメガ自由貿易圏を作り出すためにリーダーシップを取った事例である。21世紀に入り、巨大な自由貿易圏成立に向けて大きなエネルギーを割き、実際に業績を上げたのは、日本だけである。日本は、新興工業国に対して、自由貿易体制を最大限活用して、また、自由貿易のルールに従って、自国の繁栄を実現し、やがては自由社会のリーダーの一人に育ってほしいという熱い期待を伝えねばならない。

日本の言葉で話せ
 ただし、近代化に先駆けた日本人は、アジア人にもわかるように、自由、民主主義、法の支配という言葉を、日本の社会、伝統に引き寄せて、自分の言葉で説明することが必要である。さもなければ、アジアの同胞他から、所詮、日本は西洋の借り物を上手に着こなしているだけだと思われる。
 例えば、自由とは何か。21世紀の日本人は、自由を自分自身の言葉で説明しなくてはならない。本来、自由とは「自分に由る」という意味の仏教用語で、正に仏心(良心)に従って自己を実現するという意味である。それは本来のフリーダム、リバティと同じ意味である。フリーダムを自由と訳した明治人の本質を理解する力には驚かされる。また、民主主義的革命論は、孟子の革命論に通じる。さらに、法の支配とは、聖武天皇の仏法に由る護国思想に通じるものがある。
 一国主義、孤立主義の傾向を見せる米国に対して、これからの自由主義圏のリーダーシップは多極化する。例外的な国力を誇示してきた米国は逡巡するであろうが、G7に欧米の外の地域から駆けあがってくる新興工業国を、中国のように西側に敵対させず、西側先進諸国がリーダーシップと責任を分有する方向にもっていかなくてはならない。それが日本の歩む道である。
 安倍晋三首相の外交の評価が高いのは、トランプ前大統領についていったからではない。トランプ前大統領が残した外交的真空を見事に埋めて回ったからである。安倍首相が唱えた自由で開かれたインド太平洋地域の実現とは、裏を返せば欧米中心の北大西洋地域から、世界史の中心がインド太平洋地域に移ってきているということである。そこに自由主義的国際秩序を打ち立てるリーダーは日本しかいない。それが亡くなった安倍晋三首相が日本に残した遺言である。もしもトランプ大統領が帰ってきたら、安倍首相亡き日本に、創造的な外交が再びもめられることになるのではないだろうか>(以上「現代ビジネス」より引用)




 どうして国際情勢の分析で、言葉が過激になるのは何故だろうか。たとえば「トランプが戻ってくるかも知れない世界で日本はどう生きるか・2~中国、インド、東南アジア……グローバルサウスに語りかけるべき事」という論評が現代ビジネスに掲載された。書いたのは兼原 信克(同志社大学特別客員教授・笹川平和財団理事・元国家安全保障局次長)氏で、米国の大統領が誰になろうが、米国が左傾化の動きを止められない、と断定している。
 確かに米国社会は混乱し分断されているように見える。しかし、それは左派に引き摺られた民主党の大統領が国内に混乱を持ち込む「不法移民」を歓迎したからだ。社会秩序を混乱に陥れる各種社会運動を助長したからだ。さらに社会が混乱している地域の警察予算を削減して、秩序回復の力を削いでいるからだ。

 兼原氏は論評の中で「グルーバルサウスという、かつて西側に虐げられてきた諸国が、規模でも発言力でも主役に躍り出てくる」との一文を書いているが、グローバルサウスが国際社会の主役に躍り出ているのは西側諸国が構築した国際貿易にグローバルサウス諸国を受け容れたからだ。なにも21世紀になった現在も西側諸国がグローバルサウスを虐げているわけではない。
 往々にしてグローバルサウスと西側諸国(=先進自由主義諸国)とを対立した概念で捉える学者や評論家がいるが、世界はお互いに関係しあっている。先進自由主義諸国とグローバルサウスの国々は相互依存の関係にある。21世紀の国際社会は20世紀以前のような侵略者と被征服者の関係ではない。

 米国内に国際社会の混乱を持ち込んでいるのは国連を支配しているグローバルサウスは西側諸国によって虐げられている、という被害妄想の虜になっている愚かな連中だ。国連難民支援組織は却って後進諸国民に難民を勧誘しているかのようだが、本来なら難民化するよりも国内にとどまって祖国を再建するためにこそ尽力すべきだ。
 兼原氏は「マルクス・レーニン主義では、万国の労働者が立ち上がり、植民地の住民と手を携えて、資本主義国家を打倒するべきものとされている」と捉えているが、マルクスの理論は簡単に云えば「利益の分捕り合戦に労働者が入るべきだ」という労働付加価値説を中心にした「階級闘争論」だ。資本主義国家を打倒して、労働者の国家を建設する、というロジックを用いながら、実態は独裁者が恣に政治を行い私財の蓄積に励む。たとえばプーチンは22兆円、習近平氏も1兆円もの膨大な金融資産を国外に蓄えている。

 グローバルサウス諸国のどれほどが民主主義国家だろうか。もちろんロシアのような政敵を殺害し批判する者たちを投獄する国を民主主義国家に入れてはならない。グローバルサウス諸国の多くは、依然として20世紀以前の独裁者が自身の保身と蓄財のために国民を搾取し恐怖で支配している。そうした国々の独裁者たちが敵を国外に造るために先進自由主義諸国と対立して見せるのは独裁者のレトリックでしかない。
 しかし独裁者たちは国民をレトリックで洗脳しているため、本質的に反・先進自由主義諸国だ。中共政府の中国の経済発展に日本や米国がどれほど手を貸し支援したか分からないが、今では米国を「敵」認定し、日本に対しては「反日」を繰り返している。それも独裁者が権力維持に必要とするレトリックだが、習近平氏は自らがレトリックの罠にはまった中国が経済破綻しようとしているにも拘らず「親ロ反米」策の看板を下ろせなくなっている。もちろん反日も続けるしかなく、習近平氏は頼みの綱の日系企業からもそっぽを向かれて、いよいよ中国経済は崩壊の坂道を転がり落ち、中国は国家そのものがデフォルトに陥ろうとしている。だか、それでも軍拡を止められない、という体たらくだ。彼の頭の中は自身の権力維持と保身だけで一杯だ。

 トランプ氏が再登板すると米国は「内向き」になる、と多くの評論家が予測している。兼原氏もそのようだが、果たしてそうだろうか。トランプ氏は米国を「引籠りニート」にするのだろうか。
 いや、そうではないだろう。「Make America Great Again」は米国を「引籠りニート」にすることではない。自由主義諸国の盟主として他の自由主義諸国に自立の呼びかけを行うかも知れないが、世界を見捨ててホワイトハウスの留守番役に徹することではないだろう。もちろん国境の壁を建設して、難民の多くを祖国へ送還するだろう。それは難民の祖国を救うことでもある。祖国を捨てて米国や他の国に流入することが彼らの幸福ではないはずだ。祖国復興のために力を合わせるべきではないか。先の大戦で日本は米軍の絨毯爆撃や原爆投下で徹底的に破壊された。しかし日本国民は祖国を捨てて難民化しなかった。焼け野原の祖国復興に、日本国民は立ち上がった。その様を日本は難民たちに教えるべきではないだろうか。

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