再び「戦狼外交」に舵を切り、不機嫌に苛立つ習近平氏。

*3月11日、全国人民代表大会(全人代、国の立法機関のようなもの)が閉幕した。閉幕後の首相記者会見もなく、会期もわずか7日と短い、そして盛り上がりの少ない全人代だった。
*そして、中国中央電視台(CCTV)のテレビ画面で全人代の様子をよくよくみると参加者の表情がじつに暗い。こんな陰鬱な全人代は珍しい。
*習近平も、独裁権力を完全掌握し、この世の春を謳歌しているはずなのに、主席台の中央に座るその様子は不機嫌そのもの。その理由とは?


 3月8日の全体会議では、最高法院院長の張軍、最高検察院長の応勇の報告に何か不満があるようで、全人代常務委員長の趙楽際に対し、報告書を指さして、テーブルをたたきながら厳しい表情で叱責している様子が、内外記者に目撃されていた。
 習近平は首相の李強の記者会見を取り消させ、1988年の制定以来はじめて国務院組織法を改正させた。国務院の権限は大幅に低下し、首相は習近平と国務院閣僚の間をつなぐ伝書鳩程度の権力しかないことが明確になった。
 さらに全人代最高位にある常務委員長の趙楽際を人民代表や国内外メディアの面前で子どもに対するように叱責してみせたことは、全人代の権威もさらに低く貶められたということになる。
 国務院、全人代すべて、習近平一人に従う権限のない小機関に過ぎなくなった。そういう状況を内外に知らしめたことが、今全人代の一番のニュース、意義といえよう。
 だが、そこまで個人独裁を極めてなお習近平は不機嫌極まりない。その理由は、習近平が国務院も全人代も含め中国の党政軍民学、東西南北中をすべて支配しても、中国の未来は一向に良くなる兆しがないからだ。

台湾問題で「平和統一」の文言が消えた

 習近平が独裁を強化すれば強化するほど、中国の未来は暗く、その責任を誰に押し付けることもできない状況に習近平はますますいらだつ。そういう状況で、今、さらに陰鬱なムードになっているのは、中国が確実に戦争に近づいているという予感に他ならない。
 今回の全人代の李強の政府活動報告で、台湾問題に関して「平和統一」の四文字がなかったことがちょっと話題になった。さらに、7日の全人代解放軍武警代表団分科会議のときに習近平が打ち出した「新クオリティ戦闘力」発言がこれとリンクして、非常にきな臭い感じが広がっている。
「中国は『新クオリティ戦闘力』を発展させ、包括的な海上軍事闘争の準備をせよ」「新クオリティ生産力と新クオリティ戦闘力の効果的な融合を推進し、双方向に牽引し、新クオリティ生産力と新クオリティ戦闘力の成長を極めていこう」と習近平は解放軍・武装警察代表たちに訴えたのだ。
「新クオリティ生産力」というのは、習近平が今年の全人代でも強く打ち出した経済政策のスローガンだ。これは、中国のハイテク産業が米国ら西側の制裁を受けて苦境に陥っている状況への対策として、習近平が2023年9月に習近平が黒竜江省を視察したときに言及した。
 2024年1月31日の中央政治局集団学習会のとき、さらに言葉の概念について説明していた。新華社による解説では、「伝統的な経済成長方式から脱却し、ハイテク、高効率、高品質の特徴を備えた新たな発展理念に合致した先進的生産力」を指す。
「技術革新の突破性、生産要素のイノベーション的配置によって、産業の深さをレベルアップに転換して、労働者、労働資源、労働対象およびその最適な組み合わせによって飛躍することが基本的な意味合いであり、全要素の生産力を大幅にレベルアップさせることを核心的シンボルとするもの」という。

「新クオリティ戦闘力」とは?

 抽象的すぎてピンと来ないかもしれないが、私たちメディアレベルの理解でいえば、ハイテク製品をつくれる新しい労働者・ワーカーを育成しなさい、エンジニアを育成しなさい、という指示だ。ポイントは、ハイテク分野を研究する開発者ら知識分子の育成とはいわず、あくまで労働者、ワーカー(生産力)育成に焦点を当てている点で、これが改革開放逆走路線の習近平らしさといえよう。
 では『新クオリティ戦闘力』とは何を意味するのか。
 たいていのアナリストたちは、新クオリティ戦闘力とは、ハイテク・スマート化作戦を指すと解釈している。将来的に海洋交通、シーレーンを支配できるかどうかが中国が大国として覇権を握れるかどうかの鍵とみなされているが、これには大量の無人兵器、ドローン運用による海上作戦が必要だとされている。
 習近平的な発想でいえば、新クオリティ生産と新クオリティ戦力の融合というのは、ドローン兵器を製造する技術力のワーカーを育成すること、これが米国らにハイテク分野の制裁を受けている中国産業界の苦境を救い、大卒若者の就職難を解決するという習近平なりの経済処方箋であり、同時に国家安全、国防向上、中国の強軍戦略を支える政策とも合致する、ということだろう。
 首相、国務院軽視が今回の全人代ではっきりし、国務院トップの首相が主導する経済政策に対する軽視路線がはっきりしたかわりに、習近平が打ち出した戦略がこれなのだ。つまりハイテク軍事生産力による経済牽引である。

習近平は軍需経済路線に舵を切った

 だが、それはハイレベル研究開発者の育成ではなく、あくまで技術力を持つワーカー育成に焦点が置かれる。こういう発想は、鉄鍋など屑鉄を寄せ集めて溶かせば、鉄道でもミサイルでも作れて工業化が実現する、という毛沢東時代の大躍進的ニセ科学に近いものを感じないか。
 共産党は農民・労働者の党だとして、資本家や知識分子を軽んじる習近平ならではの発想だ。また、もう少し深読みすると、習近平は軍需経済路線に舵を切ったともいえる。
 鄧小平以降、経済成長することで国防予算を押し上げ、結果的に強軍化がすすめられたが、習近平は強軍化によって経済をけん引しようと転換しつつある。これが習近平の経済軽視による強軍化路線なのだ。
「新クオリティ戦闘力」という言葉はもともと習近平の造語ではない。2015年末の人民日報・国防知識コラムに新クオリティ戦闘力という言葉はすでに出ていた。
 このときの定義は、情報システムに基づく系統的な戦闘力を意味し、包括的な感知、リアルタイム司令、精密攻撃、全方位的防御、セキュリティに集中した一体型情報化条件で行われる戦闘力の基本形態を指すそうだ。
 解放軍報が2017年4月19日に「新クオリティ戦闘力はどこからくるのか」という記事を掲載。「軍事科学技術進歩と軍隊の任務の変化に伴い、かつて新クオリティ戦闘力と呼ばれたものが徐々に一般戦闘力に進化していき、新クオリティ戦闘力が主流にとって変わることになるだろう」と予言している。

AIめぐる倫理問題、習近平は関心なし

 ただ軍事専門家が使うこの言葉と、習近平が今回打ち出したものは若干意味が違うらしい。ボイスオブアメリカに対して、台北国家政策研究基金会副研究員の揭仲がこう説明している。
「習近平のいう新クオリティ戦闘力とはスマート化作戦能力を指しているだろう」「2019年10月の第19回党大会の政治活動報告で、習近平はスマート化戦闘力を強く打ち出し、2020年7月の中央政治局集団学習会議では『機械化、情報化、スマート化の融合発展』を解放軍の建軍目標として打ち出している。これの狙いは、人工知能による作戦のスピード化である」
 もう少しかみ砕いてみよう。
 人工知能(AI)が目標を発見し攻撃するというドローン兵器はすでに世界各地で使用されている。だが、習近平が目指しているのは、AIによる目標発見から攻撃までのプロセスの短縮だ。
 敵の命を絶つ攻撃司令までAI判断に任せていいのかというテーマは西側軍事大国にとって深い倫理的テーマでもある。ところが中国にこうした倫理的葛藤はほとんどなく、新しい形態の作戦モデルをいち早く掌握したものが、戦争の風上にたてる、という考えから、AI兵器開発を急げ、ということらしい。

海上ドローンを多用し台湾を武力統一?

 さて李強の政府活動報告で「平和統一」という言葉が文面から消えたことに話題を戻そう。それは、5月からスタートする頼清徳・台湾新政権とは話し合いによる平和統一の選択肢はない、という中国側の姿勢を示すものだろう。「祖国統一の大事業は揺るがず推進」とは言っているのだから、残される選択肢は武力統一しかない。
 こういう前提のもと、習近平の「新クオリティ戦闘力」についての言及を考えると、台湾に対するハイテク戦争準備の指示という風にも受け取られよう。習近平は台湾武力統一について海上ドローンを多用した精密攻撃作戦をイメージしているのかもしれない。
 ただ習近平のスローガンはいつも抽象的概念の表明で終わっており、具体的にどのように進めるかは現場に丸投げだ。制海権を奪える大量の自律的攻撃も可能なドローンをつくれ、それによって中国経済をけん引せよ、と言うは簡単だが、そのような技術力をどう育成するのかまでは、習近平は考えつかない。
 習近平は人材(ワーカーや兵士)のレベルアップが核心的要素とするが、優れた人材の育成に必要なのは、学問、思想、表現の自由と先達から学び教えを乞う素直さだ。習近平に最も欠落している要素ではないか。

AI兵器、ポンコツゆえの恐ろしさ
 国務院内でも解放軍内でも全人代内でも、知的レベルの高い人たちは、この矛盾に気づいている。だが習近平は今日も不機嫌なので、粛清が怖くて誰も進言できない。
 ならば、かつての大躍進政策と同じく、大号令に黙々としたがって、鉄くずをかき集めて、溶かしてポンコツを作り上げたように、適当に寄せ集めて作り上げた人材や技術で、あまり性能のよくないAIドローン部隊を作り上げることになるのだろうか。
 だが、そんなポンコツAI兵器であっても、いやポンコツだからこそ、私は恐ろしい。
 人間の理性や制御をこえて、人を攻撃するようなポンコツAI兵器を中国が作り出してしまう、あるいはそれが台湾海峡で暴走するなんて悪夢もあるかもしれない。そう思わせるほどに憂鬱な全人代で、習近平は明日も不機嫌だろう>(以上「JB press」より引用)




 最近習近平氏の顔色が冴えないという。3月11日に全人代が終わり全権力を手中に収めて独裁者の地位を不動のものにしたはずにも拘らず、習近平氏は何かに苛立っているようだという。「中国・習近平が全人代でずっと不機嫌だったワケ、台湾武力統一に備えAIドローン兵器に期待…でも人・技術はポンコツ」と題して福島 香織(ジャーナリスト)氏が論評している。
 福島氏の分析は正しいだろうが、一つだけ福島氏が言及していない重要な点がある。それは中国の外務大臣だった秦剛氏が突然、解任された。後任には共産党の外交部門トップ、王毅政治局員を「再登板」させるという異例の事態に陥っていることだ。

 さらに王毅氏は全人代閉幕後の記者会見で質問の第一号に自国・新華社の記者を当てたのはシナリオ通りだが、二番目にロシアの記者に質問させたのは異例だ。中国には新華社と人民日報という二つのプロパガンダ報道機関がある。そのうちの一つ人民日報を差し置いてロシア報道機関の記者に質問させたのは中国が外交を親ロ路線を重視することに決めたことを意味する。
 そして三番目に人民日報記者に質問させた後に、米国Bloombergの記者を四番目になってやっと指名した。だが王毅氏は米国人記者に対して顔色を変えて激しく米国の対中政策を詰った。対中半導体制裁など、大国たる米国が行うべき政策か、と。王毅氏が外相に復活したことは中国の外交方針を親米路線に切り替えようとした秦剛氏が政争に敗れたことを意味する。それは習近平氏が一時期「戦狼外交」を廃するかのような発言をしていたが、再び習近平氏の外交方針が「戦狼外交」に戻ったことを意味する。

 習近平氏はウクライナ戦争の動画を熱心に見ているようだ。戦況の主導権を握るのに重要な兵器は精密誘導兵器だ、ということを理解したようだ。ミサイルはもちろんだが、世界の生産シェアの80%を占めるドローンこそが重要な戦略兵器になる、と習近平氏は開眼したようだ。
 そのためAI兵器開発を急げ、と号令を掛けた。世界に君臨するドローン生産大国・中国ならば最新の攻撃ドローンを開発・製造できるだろう。EV大国により中国が世界を制覇する夢は脆くも崩れつつあるが、ドローン開発なら中国に一日の長がある。ロケット軍を創設したが、ロケット軍は汚職の巣窟と化していて見るも無残な結果になってしまった。しかしドローンなら汚職をしない。しかも一台は極めて廉価だ。ロケット製造のようにブラックボックスは存在しない。つまり汚職の入り込む余地がドローンでは殆どない。

 習近平氏は全人代の全国代議員の前で全人代常務委員長の趙楽際を激しく叱責したという。それは中国経済が崩壊していることに対する苛立ちだろうか。そして本来なら20日間ほど開催する全人代を僅か7日間で終了してしまった。つまり独裁者・習近平氏は全国共産党代表者の会議を一段低い位置に落としたことになる。全人代の議員諸氏に対して、習近平氏は独裁者の権力がいかに強いかを示した。
 習近平氏は「新クオリティ戦闘力」という概念を登場させた。それはAIを組み込んだドローンで敵の発見から攻撃まで、ドローンが自動的に行なう兵器導入を意味する。台湾侵略はAIドローン兵器で戦端を切る、と習近平氏は明言した。しかし現実の中国にそのような科学技術力はない。まず米国により対中半導体規制で、中国はポンコツの7nm半導体しか製造できない。その技術も自国で開発したものではなく、韓国企業が秘かに中国へ譲り渡したものだ。しかし半導体製造に必須の基礎素材を中国は造れない。もちろん半導体製造機械も中国では造れない。そうしてことも、習近平氏を苛立たせているのだろう。

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