既に導火線に火がついて爆発のカウントダウンが始まっている。

春節中の中国で起こっていること
 中国はいま、春節の8連休(2月10日~17日)である。その直前の1月末から、習近平主席は、頻繁に公の場に現れた。1月29日に人民解放軍の元幹部たちと会い、30日には人民大会堂で42か国の駐中国大使に謁見して、信任状を受け取った。31日は、党中央政治局会議を招集した。そして2月1日から2日まで、天津へ行き、商店街などを視察した。
 習近平主席の一連の行動は、「私は元気だ」とアピールしたかったのだろう。前回の号で記したように、すい臓がん説が飛び交っていたからだ。
 一方、予想もしなかったことが起こった。1月29日から2月2日まで、中国の株式市場が連日下落した。上海総合指数は一週間の下落率が6.19%、深圳の下落率は8.06%で、創業板(スタートアップ企業の上場市場)の下落率は7.86%であった。
 中国政府は、利下げや財政出動などで株を上げようとしたが、著しい効果は見られなかった。失望した投資家たちは、思わぬところへ救助を求めるようになった。駐北京の米国大使館だ。
 2月2日21時55分に、駐北京の米国大使館は公式の「微博(中国のSNS)」で、「2月は米国の黒人の歴史の月」という文章を出した。それに、思わぬ書き込みが殺到したのだ。それは「米国を称えつつ、中国の株を救って下さい」と、中国のネット愛好者たちが呼び掛けたものだった。どんどん書き込みは増えていったが、それらは米国への祝福というより、暗に中国を批判するものばかりだった。
 例えば、こんな調子だ。
「彼らは評論もさせない」
「我々の国で、(月収が)3000元(約6万円)は中産階級入りだが、米国では入れる?」
「@人民日報は株の投資家を愛しているか」
「偉大な米国が繁栄するように祈っております」
 以上は、書き込みのごく一部で、2月4日までの分だ。同日時点で、この駐北京、米国大使館の「微博」の記事には56万件もの書き込みがなされ、662回もレーポスト(米大使館の記事を転送して自分のアカウントに公表して、より多くの人々に読まれるように拡散すること)された。また湖南や広東、上海など中国国内からの書き込みが多かった。時がたつにつれ、「いいね」も増加した。

株式市場が安定しない中国

 中には「書き込みが次々と削除されたので、編集者が忙しくで、クレイジーになりそう」と書いた人もいた。つまり、米国大使館のアカウントなのに、厳しい対中批判や隠語での指導者への不満は、全部削除されたのだ。読めるのは、上記のような穏やかな書き込みだけになっている。
 米国大使館のアカウントだから、『人民日報』などの中国政府のマスコミのアカウントのようには、書き込みを封じ止めることが完全にはできない。そう思った中国人の書き込みが殺到したのだった。
 米国大使館の「微博」への書き込みが削除されているのがわかると、中国人はインド大使館の「微博」に書き込みするようになった。これまでにはなかった現象だ。
 ともあれ2月4日、中国の証券行政を統括する中国証券監督管理委員会は、「株式市場の偽情報を絶え間なく除去し、違法案件に重い罰を与え、(規則違反などの)案件に関してあらゆる面から徹底的に調査する」とした。市場の安定を図り、市場の異常な動きを防止すると表明したわけだ。
 だが、有効な具体策はなかった。株式市場の雪崩現象は、偽情報や株式の違法売買が原因だとでも言いたいようだ。
 これに投資家たちは唖然とした。習近平主席とその取り巻きたちが、いかに経済に疎いかが、またもや露わになった。当然のように、中国株は下がり続けた。
 「人民日報」は2月2日、「楽観的で前向きな雰囲気が国中に満ち溢れている」と言うタイトルの記事を掲載した。これも国民の怒りを買った。株が下がって、多くの投資家の悲鳴が上がっているのに、何が楽観的だ。中国社会の一体どこに前向きな雰囲気があるのか?!――そのような罵声が、あちこちで聞かれた。
 一般国民だけでなく、中国政府の経済アドバイザーを務めている大物経済学者ですら、中国経済を憂慮し、習近平主席を否定するような発言をした。習主席の母校でもある清華大学の李稲葵教授である。李教授は経済と社会学の専門家でありながら、国務院の特別手当を受けてもいる。
「ブルームバーグ」(1月27日)が報じたところでは、その李教授が、「中国はいま内需が不足して心配だ」「中国共産党の指導者(習近平)は米国の指導者よりも焦り、不安で、偏屈になっている」と発言した。
 それでも習近平主席は、経済危機に無関心なようだ。2月4日、軍服風のコートを身にまとって、天津の街に現れた。そして経済や株への関心を示すことなく、天津の肉まんは旨いと誉めた。
「1966年、『串聯』(チュアンリエン 文化大革命の際、紅衛兵などが汽車にタダ乗りして全国各地で行った革命運動)で、私は天津駅で肉まんを買った。1箱が6個入りで、すごく旨かった」

今後の中国はどうなるのか

 このように、多くの中国人にとって悪夢でしかない文化大革命を懐かしがったのだ。
 そう言えば、軍服風のコートも、文化大革命を連想させた。中国の株式相場に波乱が起こり、内外の投資家の自信が揺さぶられるなか、習近平主席は10年間にわたって経済を大混乱に陥れた文化大革命時代の体験を、熱っぽく語ったのだ。明らかに文化大革命を肯定するかのような習近平主席の姿と発言が、市場経済を望んでいる投資家たちに与えた衝撃は測り知れない。
 いま中国では、こんな話が流行っている。
「偉大なる習近平主席は何でも思いのままのはずなのに、なぜ中国サッカー代表チームはアジアカップで惨敗し、中国株は暴落し続けるのだろう?」
 春節を3日後に控えた2月7日、突然、中国証券監督管理委員会のトップを交代させた。「証監会の党委員会書記兼主席を現任の易会満から呉清に替えると中国共産党中央委員会が決めた」と、新華社通信が報じた。辞任に追い込まれた易会満前主席は、中国工商銀行での勤務が長かった。そして2019年1月に、工商銀行の党委書記から証監会のトップになった。
 新任の呉清主席は昨年7月に、上海市の党委副書記に就任したばかりだった。経済学博士で、証監会で主任などの幹部だったこともある。そのほかに上海の区政府の幹部から、市政府のナンバー2、党副書記に昇進するなどエリートコースを歩んできた。
 いずれ政権の中枢に入ると目される人物だが、かつて証監会のリスク管理部門のトップを務めた際、規律違反を犯した31の証券会社のうち26社を倒産に追い込み、残り5社は合併させた。強引なやり方で「金融業界キラー(壊し屋)」と恐れられた。
 証券行政トップの突然の更迭劇は、習近平政権にとって、「スケープゴート」が必要だったからだろう。だがその裏には、権力闘争の影もちらつく。
 易会満主席時代の証監会は、この組織を統括する李強首相と関係が悪かった。易主席は、李克強前首相の側近だった。国務院直属の部門で、李強に管轄されている。二人の関係はよくなかった。
 そのため、易会満主席は李強首相を無視して、直接、習近平主席との面会を求めたと、米『ブルームバーグ』が報じた。それ以降も中国株は下がり続けたので、ついにクビになったのだろう。
 ちなみに株式相場の急落は、中国の投資家には「股災」(株による災難)だが、習近平主席に対する反対派が引き起こしたテロだという説もあったほどだ。
 2月10日に春節を迎えたというのに、習近平政権にとって、いい兆候が一つも見つからない。習近平政権にとって辰年は、波乱の一年となるのではないだろうか。>(以上「現代ビジネス」より引用)





中国株「習近平暴落」なのに、本人はあっけらかん!」と林愛華(中国評論家)は到ってのんびりと春節を楽しんでいるようだ。しかし中国経済の崩壊は確実に進行して不動産バブルの崩壊から、中国の金融崩壊の段階にまで達しようとしている。
 金融機関の崩壊を防ぐには膨張したB/Sを実態に即した規模にまで収束させる必要がある。そのためには公的資金を注入して不良債権を償却させなければならないが、不良債権の確定すら出来ないほど、中国の債務は膨張しきっている。

 一説には中国の国全体の債務は1京5千兆円だと云われている。目も眩むほどの巨額債務で、実に中国GDPの10年分に相当する。これほどの巨額債務を償却するとなると、公的資金注入は到底できないため、残る手段は「清算」しかない。
 清算とはいかなる処理手続き化と云うと、政府が全く対策しないまま全てのバブルが弾け、金融機関が崩壊したまま放置して、自然に清算処理が終わるのを待つ、というものだ。そうした処理方式を採用したのがアルゼンチンだ。結果として暴動が起きて政権が瓦解した。制裁方式の場合はアルゼンチンなどを見るまでもなく、国民の不満が爆発する可能性が高い。中国では歴史的に「清算方式」を歴代王朝が取ってきた。

 習近平氏はまさに歴史に倣っているかのように、経済崩壊を成り行き任せにしているようだ。金融崩壊に際して、銀行に払い戻し資金がないなら造幣局から「元」紙幣をトラックに満載して銀行に持ち込むなどの手当てをすべきだ。そうすれば「元」は暴落して、ハイパーインフレを引き起こすが、それでも国家騒乱が起きるよりはマシではないか。
 中共政府は「元」為替相場の下落を恐れて「元」の増刷要請に応じていないが、対米ドルの為替相場は7元台で維持しているものの、対円為替相場は既に暴落の様相を呈している。中国民の「元」離れは深刻で、金価格が高騰しているのは中国民が手持ちの「元」を金に換金しているからだ。「元」は大暴落が予想されるが、金価格は国債相場のため大暴落することはあり得ないからだ。

 国民が自国通貨を信頼しなくなると、次に起きるのは自国政府を見捨てることだ。現にコロナ禍以後だけでも100万人の中国民が国外へ脱出したという。林愛華氏は上海の何処に棲んでいるのか知らないが、上海ですらオフィスビルの空室率は20%を越えているという。数あるショッピングモールから人波が去っているともいう。不況の陰は確実に上海でも広がっている。
「春節90億人の大移動」と中共政府は景気付けに躍起になっているが、国民の大多数は空のポケットで職すらない有様だ。どうやって国内外に移動するというのだろうか。もちろん一握りの富裕層は旅行に出かけるだろうが、以前のような銀聯カードで爆買いすることなどない。彼らの銀行口座すらいつ閉鎖されるか分からない。

 先日開催されたダボス会議で中共政府首脳は「2023年のGDPは対前年比5.2%↑」だったと発表したが、それは根拠のない大ホラだ。現実は対日貿易だけを見ても2023年の対前年比10.7%↓だった。断っておくが、2023年の前年、つまり2022年はコロナ禍の真っ最中で、2023年からV字回復すると云われていた。しかし2023年の対日輸出は8.4%↓で日本から対中輸出も12.9%↓だ。それは中国内に購買需要が減少している現れでしかない。
 中国GDPの約五割を占める貿易が損な状態で5.2%↑とは、決してあり得ない。米国のエコノミストは2023年の中国GDPは対前年比0%~1.2%↑ほどではないか、と実にいい加減な発表をしている。誰がどう見ても2023年の中国経済は対前年比マイナスだ。貿易だけでなく、投資も不動産バブル崩壊で対前年比マイナスだったし、個人消費も対前年比マイナスだった。経済の三本柱の三本ともマイナスの状態で、どうやってプラスになるというのだろうか。

 習近平氏は側近に「イエスマン」ばかり揃えて悦に入っているのだろうが、現実は習近平氏に厳しく政治課題を突き付け解決を迫っている。ヘラヘラと笑って国民の前に顔を出せるのはいつまでだろうか。公務員のみならず、警察や軍人にも遅配が及んでいるという。「金の切れ目が縁の切れ目」になるのはいつのことか、既に導火線に火がついて爆発のカウントダウンが始まっている。

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