ウクライナは独裁専制主義体制と民主主義体制との最終戦争を戦っている。

 <ロシア侵略の背景にあった「文明の衝突」
 1989年にベルリンの壁が崩壊すると、3年後の1991年8月24日、ウクライナはソ連邦から独立した。
 ただウクライナの東南部はロシア人も多く住んでおり、ロシアとの関係が深い。そこで、ロシアは強力にテコ入れした。一方、西部や中部は親西欧派が多く、EUへの加盟を求めた。ウクライナの東西で政治的意見も違い、国が二分される状況となった。いわゆる「文明の衝突」である。
 2004年11月の大統領選決選投票では、親露派のヴィクトル・ヤヌコーヴィチと親西欧派のヴィクトル・ユシチェンコの一騎討ちとなった。選管はヤヌコーヴィチの当選としたが、ユシチェンコ陣営は選挙に不正があったとして、首都キエフを中心に大規模なゼネスト、デモなどの抗議活動を行った。EUなどの仲介で12月に再投票が行われ、ユシチェンコが勝利し、大統領となった。これが「オレンジ革命」である。
 しかし、ユシチェンコ与党の「我らのウクライナ」は、2006年6月の最高議会の選挙で惨敗した。その後、政権内部の抗争で、2010年の大統領選挙では、ティモシェンコと対決したヤヌコーヴィチが当選するという結果になった。
 2013年、プーチンの圧力で、親露派のヤヌコーヴィチはEUとの政治・貿易協定の調印を見送り、ロシアやその経済圏との協力を強化しようとした。すると、これに反発した親西欧派が抗議活動を展開し、騒動は拡大して収拾がつかなくなり、2014年2月22日にヤヌコーヴィチは国外に逃亡した。
 最高議会はヤヌコーヴィチの大統領解任と大統領選の繰り上げ実施を行い、最高会議議長のオレクサンドル・トゥルチノフが大統領代行に就任した。「マイダン革命」である。
 この親西欧政権は、ロシア語を公用語から外すなどしたため、東部のロシア系住民は反発して、独立志向をますます強めていった。

親露派と親西欧派の激しい綱引き

 この事態に、プーチンはロシア系住民を保護するという名目でクリミアへの軍事介入を決め、3月18日にロシアはクリミアを併合した。
 そして、東部のドンバス地方では、分離独立を目指す親露派と政府側の親西欧派との間で武力闘争が始まった。親露派の分離独立派は、4月7日にはドネツク人民共和国(DPR)を、4月27日にはルガンスク人民共和国(LPR)の樹立を宣言した。
 この状況に対応するため、2015年2月にドイツとフランスの仲介で「ミンスク2」という停戦などへの合意が結ばれたが、親露派も政府側も合意を履行せず、期待した成果は上がらなかった。
 2022年2月21日、ロシアは、ルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国の独立を承認した。プーチンは、「ミンスク合意はもはや存在しない」と述べ、24日にはウクライナに侵攻したのである。
 プーチンにしてみれば、「親米・親西欧派のゼレンスキー政権が国際合意を守らず、ロシア人を弾圧した」ということが軍事侵攻(「特別軍事作戦」)の正当化の理由となるのである。

プーチンの誤算

 ベルリンの壁が崩壊した後、西ドイツのコール首相は東西ドイツの統一を実現するため、統一承認の見返りにソ連に巨額の経済支援を行うこと、さらに、ソ連の安全保障上の懸念に配慮して、NATO不拡大を約束した。こうして、1990年10月3日にドイツ統一が実現した。
 ところが、1994年後半になって、クリントン大統領は、大統領選で東欧系移民の票を得るために、「NATOにはどの国も加盟できる」と表明し、大きく政策を変更した。
 これがロシアとの関係に決定的な亀裂を生んだ。
 ドイツ統一を承認したロシアにとっては、「NATOは1インチも拡大しない」というのが約束だったはずである。このクリントンの豹変に、エリツィンは、「アメリカに裏切られた」と激怒した。
 このクリントン政権の政策変更により、1999年3月にチェコ、ハンガリー、ポーランドが、2004年3月にエストニア、ラトビア、リトアニア、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニアが、2009年4月にアルバニア、クロアチアが、2017年6月にモンテネグロが、2020年3月に北マケドニアがNATOに加盟した。このNATOの東方拡大がプーチンのウクライナ侵攻の背景にある。
 ロシアにとって許容の限界は、東欧諸国の中立国化までだったのであるが、こぞってNATOに加盟してしまった。最後の聖域はウクライナであり、NATO加盟を目指すゼレンスキー政権を許すことはできなかった。
 しかし、ウクライナ侵攻の結果、これまで中立国であったスウェーデンとフィンランドまでNATOに加盟させてしまうことになってしまった。これはプーチンにとって最大の誤算である。

ウクライナは戦争に負けるのか

 ロシアがウクライナに侵攻した直後の2022年2月26日、私は、JBpressに〈周辺国への軍事介入で「常勝」のプーチン、西側は勝てないのか〉という論文を寄稿し、次のように記した。
〈第三次世界大戦、核戦争の危険性があるので、欧米は軍事的反撃はできない。経済制裁の効果も限られている。
 西側の対応策の弱みまでプーチンに見透かされてしまっている。ウクライナのゼレンスキー大統領の政治的能力にも疑問符を呈さざるをえない〉
 この2年前の私の危惧は、現実のものとなっている。
 今、ウクライナが反撃できているのは、アメリカを中心とするNATOの武器支援のおかげである。しかし、アメリカでは共和党を中心に、支援に消極的な意見が強まっており、ウクライナ支援予算案の議会承認が難航している。
 そのため、ウクライナにおける武器弾薬の不足が深刻になっており、ロシアの反撃を許している。2月17日には、アウディーイウカからウクライナ軍は撤退した。3月17日の大統領選挙を前にして、プーチンは軍事的成果を国民に示そうとして、軍に攻勢を命じたのである。
 2月8日には、ゼレンスキーは軍の総司令官をザルジニーからシルスキーに代えた。国民に人気の高いザルジニーを更迭するということは、政権内部の不和があったのかもしれない。長引く戦争に、ウクライナでも厭戦気分が広まっている。

継戦能力が高いロシア

 この秋のアメリカ大統領選挙でトランプが当選すれば、ウクライナ支援から手を引く可能性もある。
 また、対露経済制裁も十分な効果を上げていない。ロシアの2023年のGDPは前年比3.6%増である。それは軍需生産がフル稼働で、その財源を原油や小麦の輸出などで稼いでいるからである。経済制裁に参加しているのは、世界の5分の1の国にとどまっている。とくにグローバルサウスと呼ばれる国々では参加しない国が多い。
 それに加えて、イスラエルとハマスの戦闘は、イスラエルを支援するアメリカに対する反感を世界に拡大しており、それはロシアを利することになっている。
 ナポレオン、そしてヒトラーによる攻撃にも耐え忍んで勝ったのがロシアである。広大な領土、豊かな資源、冬将軍などがロシアの継戦能力を高めている。第二次世界大戦中には、レニングラードがドイツ軍によって1941年9月8日に包囲され、それは900日にも及び、解放されたのは1944年1月27日であった。100万人の死者が出たと言われているが、ロシア人の忍耐強さを物語るエピソードである。
 今年もこの記念日の1月27日に、プーチンは戦没者の墓地に献花し、慰霊碑を訪れ、ソ連軍の功績を称え、ウクライナはナチズムに支配されているとして、「われわれは、ナチズムを食い止め、完全に根絶するためにあらゆることをする」と述べた。国民の愛国心に訴えて、戦争継続への強固な姿勢を示したのである。

蘇るスターリン時代

 2月16日、反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイが刑務所で死亡した。死に至る真相は不明であるが、プーチンに責任があるという批判の声が世界中で上がっている。
 大統領選挙を前にして、プーチンは反対派を徹底的に排除している。たとえば、元下院議員のボリス・ナジェージュジンは、立候補が認められなかった。選挙で圧勝するためには、プーチン批判を止めないナワリヌイの存在も邪魔だと考えられたのであろう。
 プーチン政権になって、政敵を、毒、自動車事故、銃撃など様々な手段で殺すことが日常となっている。ブレジネフ、アンドロポフ、ゴルバチョフ、エリツィンの時代には、それはなかった。KGB(現FSB)出身のプーチンは、秘密警察組織を駆使して政敵を抹殺する。スターリンが手本である。
 政権の座にある20年余で、プーチンはKGB国家を作り上げたのである。
 2月13日には、ウクライナに投降した元ロシア軍パイロット、マクシム・クジミノフ(28)が、亡命先のスペインで銃殺された。遺体は車にひかれており、その車は燃やされていた。証拠隠滅のためであろう。ロシアの関与が疑われる。
 亡命先のメキシコで、1940年8月21日に暗殺されたレフ・トロツキーを思い出す。スターリンの命令であった。亡命先にまで刺客を送る執念深さは、スターリンの特色である。

民主主義の脆弱性が露わに

 プーチン体制は、独裁に近い権威主義体制である。選挙といっても、先進民主主義体制ほどの公開性、公平性はない。そして、このような権威主義体制が世界中で民主主義体制よりも拡大している。なぜか。それは以下に述べるような民主主義体制の欠陥がないからである。
 民主主義体制では選挙が人気取りとなり、ポピュリズムが跋扈する。イギリスの国民投票によるEU離脱、2016年米大統領選でのトランプの当選がその典型である。
 今年の米大統領選もトランプが勝つ可能性がある。そうなると、外交・内政政策とも激変する。「ウクライナ支援中止」という決定もありうる。しかし、権威主義のプーチン体制では、戦争継続の方針は一貫している。反対派は弾圧できる。どちらが戦争勝利に向かって前進できるかは明らかである。
 スロバキア、オランダ、ハンガリーに見られるように、選挙の結果、ウクライナ支援反対を主張する政党が政権に就くことはありうるのである。欧米からの支援が止まれば、ウクライナは負ける。プーチンは、風向きが有利になってきたと思っているだろう>(以上「JB press」より引用)



 
 舛添要一(国際政治学者)氏は自らを「国際政治学者」だと標榜しているが、何のことはない「事実誤認」の物書きでしかない。なぜなら「蘇るスターリン時代」の章題を見れば一目瞭然ではないか。プーチンはロシアを共産主義国家にしようとはしていない。ただ独裁者として「恐怖による支配」を国民に強く植え付けたいだけだ。
 最終章に「民主主義の脆弱性が露わに」と謳っているが、ロシアも一応民主主義国の意匠を纏っている。しかしプーチンに反対する者の立候補を許さない、ということでロシアの民主主義が独裁者の纏う意匠でしかないことは明らかだ。つまり世界には民主主義国と独裁専制主義国の二つしか存在しない。その判定により、世界中の国家は二種類に分類される。

 「ウクライナ侵攻から2年、風向きは明らかに「プーチン有利」に」「「逆らう者は徹底的に排除」の権威主義で民主主義体制を圧迫、歴史の流れは変わったのか」と舛添氏は矢継ぎ早に結論を求めたがるが、果たしてウンライな戦争はプーチンに有利だろうか。そして「継戦能力が高いロシア」という章まで設けているが、果たしてロシアの継戦能力は高いだろう
か。
 中国の金融機関はロシア取引を縮小しているという。なぜなら対ロ取引を今後とも続けるなら、米国は中国の金融機関からSWIFTコードを取り上げる、と脅しているからだ。それでなくても外国投資が縮小し、外貨不足に陥っている中国の金融機関がSWIFT停止措置まで取られたら破綻するしかないからだ。国内の不動産バブル崩壊による不良債権処理を一向に勧めない代わりに、国民預金の引き出しを停止して糊塗を凌いでいるが、それすら無駄な努力になてしまう。もちろん金融機関の社員はすべて50%前後の給与カットと前年支給したボーナスの返還を求められている。

 ロシアの二大貿易相手国の一つインドも米国による対ロ貿易規制に違反して原油取引を行って来たが、今後は対ロ貿易を縮小するようだ。ロシアの貿易の二大相手国が原油等の買い入れを停止すれば、ロシア経済は頓死するしかない。そんな国の何処が「継戦能力が高い」と云えるだろうか。
 ロシアのウクライナ軍事侵攻は「文明の衝突」などという高尚なものではない。年老いた独裁者が「帝政ロシアの皇帝」を自ら擬えた妄想狂の成せる悪行でしかない。文明の衝突が戦争をもたらす、とはいつの時代の話をしているのだろうか。まさか十字軍の百年戦争をイメージしているのではあるまい。

 トランプ氏の掲げる公約を舛添氏はポピュリズムだと断定しているが、プーチンがウクライナ軍事侵攻したのも独裁者のポピュリズムではないか。そうすると民主主義のポピュリズムと独裁者のポピュリズムとどちらが平和的だろうか。世界に対して害悪がないだろうか。
 プーチンが勝利することは悪夢でしかない。それはチェンバレンの譲歩よりもタチが悪い。なぜなら中国の習近平氏が真似をする可能性が高いからだ。軍事侵攻しても、国際社会は核保有国には手出しが出来ない、と習近平氏が学習するからだ。断じて、プーチンに勝たせてはならない。自由主義諸国は落伍者など気にせず、ウクライナ支援に全力を注ぐべきだ。

 トランプ氏が2024米大統領選に勝利すれば米国はウクライナ支援から手を退く、と多くの評論家たちが危惧しているが、そんなことはあり得ない。確かに現在の選挙戦でトランプ氏は「大統領になったならプーチンと話をする」と宣言し「ウクライナ支援から手を退く」と話しているが、「プーチンを勝たせる」と云っているのではない。
 トランプ氏は「Make America Great Again」と叫んでいるが、決して米国を「引籠りニート」にしようと云うのではない。トランプ氏が本気で「米国ファースト」策の実施により米国を「引籠りニート」にするつもりなら、日本も世界戦略を練り直さなければならない。それは頼りにならない米国と手を切って、アジアの盟主となってアジアの平和を日本の軍事力で達成する、という国是に日本国内世論を転換する必要がある、ということだ。「引籠りニート」の米国など頼りにならないからだ。

 舛添氏はプーチンの勝利を確信しているかのようだが、そんな悪夢を実現させてはならない。独裁専制国と民主主義国との最終戦争を私たちは戦っている。全人類のために21世紀を独裁専制主義終焉の世紀にしなければならない。

このブログの人気の投稿

それでも「レジ袋追放」は必要か。

麻生財務相のバカさ加減。

無能・無策の安倍氏よ、退陣すべきではないか。

経団連の親中派は日本を滅ぼす売国奴だ。

福一原発をスーツで訪れた安倍氏の非常識。

全国知事会を欠席した知事は

安倍氏は新型コロナウィルスの何を「隠蔽」しているのか。

自殺した担当者の遺言(破棄したはずの改竄前の公文書)が出て来たゾ。

安倍ヨイショの亡国評論家たち。