科学の進歩には自由で公正な社会が必要だ。
<政府によるインターネット規制の一環
これまで見てきたように、生成AIという新しい技術にはさまざまな問題がありますが、しかしこの技術が未来を変え、ビジネスを変革し、それによって大きな利益がもたらされることは容易に予想できます。その証拠に、生成AIの開発が激化しているのです。
現在実用化されている対話型生成AIサービスは、オープンAIのチャットGPTとグーグルのバードが双璧です。この2つのサービスは、世界のあちこちで利用できますが、中国だけは別です。
中国では政府によるインターネット規制の一環として、グーグルなどの外国製サービスの利用が制限されています。海外の情報のなかには、中国政府に都合の悪いものも少なくありません。これらの情報がむやみに広がらないよう、インターネットを規制しているともいわれています。
この規制のため、中国ではグーグルのバードは利用できず、またチャットGPTも利用できません。チャットGPTを使ったマイクロソフトのビングも、やはり利用できません。代わりに進められているのが、中国の大手テック企業や大学研究機構による独自の生成AIです。
「中国版グーグル」が乗り出したAI事業
たとえば、百度(バイドゥ)。同社は中国最大の検索エンジンを提供する企業で、“中国版グーグル”ともいえる企業です。政府によってグーグルのサービスが規制されているため、中国ではインターネット検索や地図、翻訳といったサービスが百度によって提供されています。
検索サービスという性格上、この百度の売上もグーグルと同じく広告に高く依存していますが、コロナ禍によって広告が低迷し、モバイル決済など金融サービスへの対応が遅れたため、業績が低迷してきました。代わって乗り出したのが、AI事業です。
AI事業を行うためには、事前に学習させる膨大な量のデータが必要になりますが、百度では検索サービスを行ってきたため、このデータが利用できます。検索サービスの利便性を向上させるため、2014年に百度では多層な学習モデルと大量の機械学習によってデータの分析や予測を行う「百度大脳」を発表しています。さらに16年には深層学習プラットフォームの「パドルパドル」をオープンソース化し、世界レベルでのAIエンジンの取り込みも図っています。
チャットGPTを猛追する「中国版GPT」
しかもこれらの集大成として、17年には音声AIアシスタント「デュアーOS」を発表し、20年には自動運転プラットフォームによるタクシーサービス「アポロGO」を開始しています。
そんなAIの下地のもと、23年8月に一般公開されたのが「文心一言(アーニーボット)」です。これは対話型生成AIで、チャットGPTに対抗するサービスと位置づけられています。文心一言では、テキストを生成できるだけでなく、自然言語を入力することによって画像や動画まで生成できるようになっています。
中国では、この百度の生成AIを筆頭に、アリババの「通義千問」、テンセントの「混元助手」、ファーウェイの「盤古」などの生成AIが矢継ぎ早に発表され、サービスを開始しています。
アリババ(阿里巴巴集団)は1998年に創設されたオンライン・ショッピング企業。テンセント(騰訊)はソーシャル・ネットワーキング・サービスを提供する企業で、「中国のフェイスブック」などとも呼ばれる企業です。そしてファーウェイ(HUAWEI)は通信機器大手メーカーで、移動通信設備の大手です。
これらの中国のIT企業が、生成AIではチャットGPTやバードを猛追しはじめているのです。
生成AIでも激化する米中の対立
このように、米IT企業のサービスが利用できない中国では、中国IT企業によってやはり生成AIが開発・公開されています。
この米国対中国という対立の図式は、もちろん生成AIに限ったことではありません。もともと米国は自由民主主義を基盤とし、中国は共産主義を基盤としています。両国の価値観そのものが根本から異なり、米中対立が深まる一因になっています。
しかも、ここ1、2年は低迷しつつあるとはいえ、中国の経済成長は著しく、米国の経済を脅かす存在となっています。また、中国は知的財産の侵害や為替操作などの問題を抱えており、米中の経済摩擦が続いています。
そんな状況ですから、生成AIでも米中対立が起こるのは当然なのです。米国では、中国企業のバイトダンスが16年9月に始めた「ティックトック(TikTok)」について、中国企業が運営しているのだから、ユーザーのデータが中国に流出しているのではないか、といった疑念を持っています。
欧米から排除される「ティックトック」
ティックトックというのは、ユーザーが短い動画を投稿し、それを視聴して楽しむことから、ショート・ビデオ共有サイトとも呼ばれ、SNSに分類されるサービスです。
このティックトックを、23年5月には米モンタナ州で禁止する法案が可決されています。20年7月には、トランプ前大統領が中国政府への個人情報流出を防ぐため、米国内でティックトックを禁止すると発表していました(その後バイデン大統領によって取り消し)が、22年にはメリーランド州で、さらにテキサス州、ネブラスカ州、サウスカロライナ州などいくつかの州でもティックトック使用禁止令が出されています。
しかも23年3月には、この米国の動きに呼応するかのように、英国政府が政府端末でのティックトックの使用を禁止。カナダ、EUなどでも政府端末での使用を禁止する動きに向かっています。
まったく同じように、生成AIでも米中対立が起こりはじめています。中国発の生成AIには、偽ニュースやデマなどの偽情報が生成され、これが拡散される可能性がある、と米国では考えられています。逆に中国では、米国発の生成AIでは中国に都合の悪い情報が生成されることを懸念しており、両国の対立を激化させているのです。
生成AIでは悪意のあるウイルスやプログラムといったものも、生成できる可能性があると述べましたが、サイバー攻撃のコードやツールといったものが生成される可能性もあり、米中両国の重要インフラや情報システムを攻撃し、対立を拡大させる可能性すらあります。
日本が迫られる「大きな決断」
米中両国とも、生成AIでは世界をリードする技術を持っており、互いに開発競争を激化させています。そんな状況のなか、ヨーロッパやアフリカには経済的な理由から中国に近づいている国もあります。一方、韓国や台湾といった東アジアでは、安全保障の問題からアメリカに協力することが既定路線となっています。
生成AIの米中対立については、中国メディアも大きな関心を寄せています。23年末に中国の技術系メディアである「GizChina」に掲載された記事では、オープンAIの成長に大いに注目していると記していました。
23年末のオープンAIのレポートによれば、同社の22年の年間収益が2800万ドル(約40億円)だったのに対し、23年には何と16億ドル(約2320億円)を超えたといいます。前年比で57倍もの増加です。オープンAIでは、月に1億3000万ドル(約189億円)もの収益を上げているというのです。
中国メディアはこのレポートを紹介しながら、オープンAIの成長は、AI技術の可能性とさまざまな業界での高度なAIソリューションに対する需要の増加を示している、とまで評価しています。
この生成AIでの米中対立のなかで、日本はどちらの生成AIを利用するのかの選択が求められています。安全保障や機密情報の保護という点では、米国の生成AIを選択するべきですが、価格面から中国の生成AIを選ぶといったケースもないとは言えません。米中対立の間で、日本はどちらを選択すべきなのか、大きな決断に迫られているのです>(以上「PRESIDENT」より引用)
「なぜ中国からはChatGPTが利用できないのか…中国のIT大手が次々と繰り出す「中国版GPT」の本当の実力激化する「米中AI対立」で日本に迫られる大きな決断」と題して田中 道昭(立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント)氏が考察している。しかし本当に日本が米国か中国かと決断を迫られる日がやって来るだろうか。
まず第一に「中国版GPT」に果たして価値があるのだろうか。なぜなら中国は名にし負う「言葉狩り国」だからだ。たとえば天安門という言葉はタブーだし、「肉まん」や「クマのプーさん」も習近平氏を指す言葉として使用を禁じられているからだ。
これまで見てきたように、生成AIという新しい技術にはさまざまな問題がありますが、しかしこの技術が未来を変え、ビジネスを変革し、それによって大きな利益がもたらされることは容易に予想できます。その証拠に、生成AIの開発が激化しているのです。
現在実用化されている対話型生成AIサービスは、オープンAIのチャットGPTとグーグルのバードが双璧です。この2つのサービスは、世界のあちこちで利用できますが、中国だけは別です。
中国では政府によるインターネット規制の一環として、グーグルなどの外国製サービスの利用が制限されています。海外の情報のなかには、中国政府に都合の悪いものも少なくありません。これらの情報がむやみに広がらないよう、インターネットを規制しているともいわれています。
この規制のため、中国ではグーグルのバードは利用できず、またチャットGPTも利用できません。チャットGPTを使ったマイクロソフトのビングも、やはり利用できません。代わりに進められているのが、中国の大手テック企業や大学研究機構による独自の生成AIです。
「中国版グーグル」が乗り出したAI事業
たとえば、百度(バイドゥ)。同社は中国最大の検索エンジンを提供する企業で、“中国版グーグル”ともいえる企業です。政府によってグーグルのサービスが規制されているため、中国ではインターネット検索や地図、翻訳といったサービスが百度によって提供されています。
検索サービスという性格上、この百度の売上もグーグルと同じく広告に高く依存していますが、コロナ禍によって広告が低迷し、モバイル決済など金融サービスへの対応が遅れたため、業績が低迷してきました。代わって乗り出したのが、AI事業です。
AI事業を行うためには、事前に学習させる膨大な量のデータが必要になりますが、百度では検索サービスを行ってきたため、このデータが利用できます。検索サービスの利便性を向上させるため、2014年に百度では多層な学習モデルと大量の機械学習によってデータの分析や予測を行う「百度大脳」を発表しています。さらに16年には深層学習プラットフォームの「パドルパドル」をオープンソース化し、世界レベルでのAIエンジンの取り込みも図っています。
チャットGPTを猛追する「中国版GPT」
しかもこれらの集大成として、17年には音声AIアシスタント「デュアーOS」を発表し、20年には自動運転プラットフォームによるタクシーサービス「アポロGO」を開始しています。
そんなAIの下地のもと、23年8月に一般公開されたのが「文心一言(アーニーボット)」です。これは対話型生成AIで、チャットGPTに対抗するサービスと位置づけられています。文心一言では、テキストを生成できるだけでなく、自然言語を入力することによって画像や動画まで生成できるようになっています。
中国では、この百度の生成AIを筆頭に、アリババの「通義千問」、テンセントの「混元助手」、ファーウェイの「盤古」などの生成AIが矢継ぎ早に発表され、サービスを開始しています。
アリババ(阿里巴巴集団)は1998年に創設されたオンライン・ショッピング企業。テンセント(騰訊)はソーシャル・ネットワーキング・サービスを提供する企業で、「中国のフェイスブック」などとも呼ばれる企業です。そしてファーウェイ(HUAWEI)は通信機器大手メーカーで、移動通信設備の大手です。
これらの中国のIT企業が、生成AIではチャットGPTやバードを猛追しはじめているのです。
生成AIでも激化する米中の対立
このように、米IT企業のサービスが利用できない中国では、中国IT企業によってやはり生成AIが開発・公開されています。
この米国対中国という対立の図式は、もちろん生成AIに限ったことではありません。もともと米国は自由民主主義を基盤とし、中国は共産主義を基盤としています。両国の価値観そのものが根本から異なり、米中対立が深まる一因になっています。
しかも、ここ1、2年は低迷しつつあるとはいえ、中国の経済成長は著しく、米国の経済を脅かす存在となっています。また、中国は知的財産の侵害や為替操作などの問題を抱えており、米中の経済摩擦が続いています。
そんな状況ですから、生成AIでも米中対立が起こるのは当然なのです。米国では、中国企業のバイトダンスが16年9月に始めた「ティックトック(TikTok)」について、中国企業が運営しているのだから、ユーザーのデータが中国に流出しているのではないか、といった疑念を持っています。
欧米から排除される「ティックトック」
ティックトックというのは、ユーザーが短い動画を投稿し、それを視聴して楽しむことから、ショート・ビデオ共有サイトとも呼ばれ、SNSに分類されるサービスです。
このティックトックを、23年5月には米モンタナ州で禁止する法案が可決されています。20年7月には、トランプ前大統領が中国政府への個人情報流出を防ぐため、米国内でティックトックを禁止すると発表していました(その後バイデン大統領によって取り消し)が、22年にはメリーランド州で、さらにテキサス州、ネブラスカ州、サウスカロライナ州などいくつかの州でもティックトック使用禁止令が出されています。
しかも23年3月には、この米国の動きに呼応するかのように、英国政府が政府端末でのティックトックの使用を禁止。カナダ、EUなどでも政府端末での使用を禁止する動きに向かっています。
まったく同じように、生成AIでも米中対立が起こりはじめています。中国発の生成AIには、偽ニュースやデマなどの偽情報が生成され、これが拡散される可能性がある、と米国では考えられています。逆に中国では、米国発の生成AIでは中国に都合の悪い情報が生成されることを懸念しており、両国の対立を激化させているのです。
生成AIでは悪意のあるウイルスやプログラムといったものも、生成できる可能性があると述べましたが、サイバー攻撃のコードやツールといったものが生成される可能性もあり、米中両国の重要インフラや情報システムを攻撃し、対立を拡大させる可能性すらあります。
日本が迫られる「大きな決断」
米中両国とも、生成AIでは世界をリードする技術を持っており、互いに開発競争を激化させています。そんな状況のなか、ヨーロッパやアフリカには経済的な理由から中国に近づいている国もあります。一方、韓国や台湾といった東アジアでは、安全保障の問題からアメリカに協力することが既定路線となっています。
生成AIの米中対立については、中国メディアも大きな関心を寄せています。23年末に中国の技術系メディアである「GizChina」に掲載された記事では、オープンAIの成長に大いに注目していると記していました。
23年末のオープンAIのレポートによれば、同社の22年の年間収益が2800万ドル(約40億円)だったのに対し、23年には何と16億ドル(約2320億円)を超えたといいます。前年比で57倍もの増加です。オープンAIでは、月に1億3000万ドル(約189億円)もの収益を上げているというのです。
中国メディアはこのレポートを紹介しながら、オープンAIの成長は、AI技術の可能性とさまざまな業界での高度なAIソリューションに対する需要の増加を示している、とまで評価しています。
この生成AIでの米中対立のなかで、日本はどちらの生成AIを利用するのかの選択が求められています。安全保障や機密情報の保護という点では、米国の生成AIを選択するべきですが、価格面から中国の生成AIを選ぶといったケースもないとは言えません。米中対立の間で、日本はどちらを選択すべきなのか、大きな決断に迫られているのです>(以上「PRESIDENT」より引用)
「なぜ中国からはChatGPTが利用できないのか…中国のIT大手が次々と繰り出す「中国版GPT」の本当の実力激化する「米中AI対立」で日本に迫られる大きな決断」と題して田中 道昭(立教大学ビジネススクール教授、戦略コンサルタント)氏が考察している。しかし本当に日本が米国か中国かと決断を迫られる日がやって来るだろうか。
まず第一に「中国版GPT」に果たして価値があるのだろうか。なぜなら中国は名にし負う「言葉狩り国」だからだ。たとえば天安門という言葉はタブーだし、「肉まん」や「クマのプーさん」も習近平氏を指す言葉として使用を禁じられているからだ。
中共政府の中国ではAIが進化することは困難だ。なぜならAIは共産党員でないからだ。AIが蓄積した知識の中から反・共産主義的なものを排除し、反・習近平私的なものを排除し、結論として文章を生成する段階でも反・共産党的なモノや反・習近平的なモノを排除することなど出来ないからだ。
しかも人文学的な分野を避けて、科学的な分野に限ってAIを推進することは出来ない。なぜならAIに人文学的な分野を避けるように指定した場合、AIが読み込むデータはかなり限定され、限定されていることを学習するのにさらにAIへのコマンドが複雑化するからだ。思想信条の自由が保障されない人による馬鹿げた規制など、AIにとって思考を生成する際の参入障壁でしかない。
PRESIDENT誌で中国メディアは「オープンAIの成長は、AI技術の可能性とさまざまな業界での高度なAIソリューションに対する需要の増加を示している」と評価していると紹介しているが、中共政府の中国でオープンAIが米国と肩を並べるほど開発されるとは思えない。
中共政府が英語教育を禁じ、習近平氏を偶像化し崇拝させている学校教育でオープンAIを採用することは自殺行為でしかないだろう。それはあらゆる思想を開放することでしかないからだ。科学技術に国境の壁も思想の壁も存在しない。存在するのは科学的なデータと科学的な思考回路だけだ。国民統治のために政治権力者が採用した独裁者の意匠など、AIにとってはバカげた罰ゲームか思考過程のバグでしかないだろう。
中国ではgoogleに匹敵する企業として百度(バイドゥ)を紹介しているが、同社が現在ではどうなっているかご存知だろうか。中共政府は百度が民間企業として巨大化したのに恐怖を覚えて、百度潰しに専念している。だから百度が中国最大の検索エンジンを提供する企業してgoogleを超えることなど決してない。少なくとも習近平氏が君臨する「嫉妬が支配する中国」ではAIが飛躍的に進歩することなどあり得ない。
科学技術の進歩に自由で公平な社会は欠かせない。中世では人は宗教聖職者によって支配され、宗教教義に反する科学の発展は阻止された。有名なガリレオ・ガリレイですら聖職者たちによって迫害された。教義が天動説を唱えていれば、ガリレオが科学的に地動説を主張しても簡単に退けられた。それと同じことが中国では日常茶飯事に起きている。習近平氏が指示するハチャメチャな経済政策を見れば説明の言葉など何も要らないだろう。