「もしトラ」は日本にとって良いことばかりだ。

現実味を帯びてきたトランプ再選
 2024年の米国大統領選の結果について概ね二つの可能性がある。一つは現役のバイデン大統領の再選である。もう一つはトランプ前大統領の当選である。
 現段階でバイデン大統領が再選される可能性もあるが、トランプ前大統領が当選する可能性はより高くなっている。バイデン大統領について高齢にともなう健康問題と統治能力が心配されている。一方、トランプ前大統領が当選した場合、政策の不連続性が心配されている。政策の不連続性とは政策を突如として180度転換することである。
 前回、トランプ氏が大統領に就任したあと、いきなりTPPの離脱を発表した。もともとTPPはオバマ政権が提唱して設置された枠組みだが、トランプ大統領が離脱を決めたことで加盟国間の経済連携が後退した。したがって、今回の大統領選についてアメリカの同盟国を含めて世界は戦々恐々して見守っている。
 トランプ前大統領が当選した場合、世界秩序が大きく乱れる心配がある。ここで主にトランプ氏の当選が米中関係にどのような影響を及ぼすか、中国がトランプ氏の当選にどのように対応するかを分析することにする。

中国共産党の米共和党政権への強い苦手意識

 もともと中国共産党にとって米国の共和党政権よりも民主党政権のほうが付き合いやすいと感じる傾向がある。なぜならば、共和党にはアンチ共産主義の強硬派議員が多いからである。民主党政権は中国政府と一応対話を続ける用意がある。
 前回のトランプ政権以来、とりわけコロナ禍によってアメリカの対中国民感情は予想以上に悪くなっている。当初、中国政府はバイデン政権と対話して関係の改善を模索しようとしたが、バイデン政権が中国に対する制裁をまったく解除していないため、習近平政権はバイデン政権に対する「戦狼外交」を続けている。2023年12月、習主席はサンフランシスコで開かれたAPECに出席して、バイデン大統領との会談に臨んだ。とはいうものの習政権が置かれている状況から、アメリカとの関係はトランプ氏が当選した場合、これまで以上に悪化する可能性が高い。
 トランプ政権は2018年、中国からの輸入品に対して制裁関税を課した。当初、中国政府はトランプ政権の制裁措置が長続きしないとみていた。なぜならば、アメリカにとって代替生産地がないため、中国から日用品などを輸入するしかないと思われていたからである。
 しかし、習政権の期待は外れてしまった。中国にある多国籍企業のサプライチェーンが予想以上に速いスピードで中国を離れている。長い間、中国はアメリカにとって最大の輸入相手国だったが、2023年、メキシコに抜かれてしまい、2番目になった。それだけでなく、インドとベトナムも猛追している。米国企業、日本企業、韓国企業、台湾企業などが中国にある工場をインドとベトナムに移転しているからである。
 トランプ前大統領が当選した場合、中国共産党にとって米中関係はこれまで以上に険悪になる可能性が高い。もともと中国共産党の対米外交は主に経済外交だった。中国の国家主席は訪米するたびに、国有企業のCEOたちを同行させ、ボーイングの旅客機や穀物を大量に注文する。アメリカの大統領は4年に一度の選挙に臨まないといけない。中国のようなバイヤーから大量の注文を取り付けることができれば、大統領選で経済界からの支持を獲得することができる。ある意味では、これはアメリカ大統領選の必勝方程式だった。
 しかし、今はアメリカ人の対中国民感情が悪化して、中国変数は逆効果をもたらすものとなっている。2023年、中国にもっとも理解のあるアメリカの論客キッシンジャー氏が死去した。これも米中関係の一つの時代の終焉を意味するものと受け止められる必要がある。今やアメリカで親中派の論客は声をあげることができなくなった。
 習政権にとってバイデン政権が続く場合、米中関係は急速に改善しなくても、両国関係の悪化が加速しないと思われている。ブリンケン国務長官やイエレン財務長官などはいずれも中国との対話を重視する姿勢である。しかしトランプ氏が当選した場合、その周りはほとんど対中強硬派になる可能性が高い。中国共産党はもともと共和党政権について苦手意識を強く持っており、トランプ氏が再び当選した場合、中国共産党の苦手意識はいっそう増幅する可能性が高い。

対中関税60%の壊滅的なダメージ

 専門家の間では、米中ディカップリングがありえないと指摘する者が少なくない。しかし、現実に中国が米国の最重要な貿易相手国から陥落したという事実から、米中ディカップリングがすでに進んでいることが分かる。今後、米中ディカップリングはいっそう加速する可能性が高い。
 習政権にとって今の中国情勢は内憂外患がぴったりの描写である。中国経済は成長率が下がり、物価がマイナス成長になり、不動産バブルが崩壊した。端的にいえば、中国経済はすでにデフレに突入しており、クレジット・クランチ(信用危機)の手前に差し掛かっている。
 振り返れば、中国経済の高度成長期のピークは2010年ごろだったとみられている。2008年に北京オリンピックが開催され、2010年に上海万博が開かれた。この二つの国際イベントと関連する高速道路、高速鉄道、港湾と空港が相次いで整備され、高い経済成長が成し遂げられた。
 習政権が正式に誕生したのは2013年3月だった。それ以降、中国経済は減速の一途を辿るようになった。なぜ中国経済は減速するようになったのだろうか。オーソドックスな経済理論で分析しても、その原因を必ずしも究明できない。理論的に経済成長を分析する際、個人消費、投資と国際貿易を統計的に検証する。マクロ経済統計が示す動きは短期的な変化であり、本質的な問題を解明するのに不十分である。
 習政権は「科学的発展観」を提唱した胡錦涛政権(2003-12年)と違って、「強国復権」すなわち、強い中国の実現を提唱している。おそらく習政権がイメージしている強国は軍事強国のことであろう。強国復権の夢を実現するには、ある前提がある。すなわち、経済力が支えられる能力以上に軍事力を強化しようとすると、経済は逆に成長できなくなる。この点はかつてソ連の失敗から考察することができる。
 具体的には、強国復権を急ぐあまり、政府はあらゆる資源を軍需産業ないし国有企業に動員しなければならない。習主席は中国国内向けの演説で国有企業をより大きくより強くしないといけないと繰り返して強調している。結果的に民営企業の発展が阻まれている。
 一方、トランプ前大統領はアメリカメディアのインタビューに、自分が当選した場合、中国からの輸入品に対して、60%ないしそれ以上の関税を課すといった趣旨の見解を示したといわれている。トランプ氏の話なので、ある程度割り引いて聞く必要があるが、中国に対する制裁を強化する可能性が高いのは確かなことであろう。習政権にとって不都合なことに、民主党も共和党も中国に対する姿勢について共通している点である。

無謀、トランプ大統領当選に何の備えもない習政権

 近年の習政権の外交を一言で総括すれば、「戦狼外交」がもっとも相応しい表現といえる。「戦狼外交」とは中国の考えと合致しない相手を恫喝して力で抑える強固な外交姿勢のことである。小国なら脅して怯えさせることができる可能性があるが、中国より国力が遥かに強い米国を脅しても、怯えさせることができない。
 では、なぜアメリカに対して「戦狼外交」を展開したのだろうか。答えは簡単である。習政権は中国の国力を過大評価しているからである。
 習政権が誕生した当初、中国国内の御用経済学者たちは「我が国のハイテク技術はすでにアメリカを凌駕している。我が国の経済は向こう20年間、10%成長を続けることができる。我が国のGDPはまもなくアメリカ経済を超越することができる」と繰り返して主張していた。これらの御用経済学者は習主席をミスリードした可能性が高い。
 そもそも外交は敵を増やす仕事ではなくて、友達を増やす仕事のはずである。しかし、「戦狼外交」によって習政権はますます敵を増やしている。今となって、中国はG7のすべての国と関係が悪くなっている。それはそれまでの数十年間構築してきた信頼関係がわずか数年間で壊してしまったということである。
 大胆に展望すれば、トランプ氏が当選した場合、中国に対する制裁措置がさらに強化される可能性が高い。多国籍企業の中国離れがすでに始まっており、仮に制裁関税がさらに上げられると、中国にある外国企業の工場の中国離れはさらに加速する可能性が高い。それは中国が世界の工場でなくなることを意味するものである。
 この点について日本企業も備えなければいけない。日本企業について往々にして決断が遅いのは特徴的である。とくに、多くの日本企業にとって中国は依然有望な市場であるため、ここで中国を離れるのは現実問題として不可能と思われている。これからのグローバル投資はin China for Chinaの投資と中国以外の投資を分けて考える必要がある。とくに備えなければならないのは米中関係がさらなる悪化した場合のグローバル投資戦略のあり方である。
 習政権の問題処理能力は予想以上に低い。トランプ氏が当選する可能性がかなり高くなっているが、習政権はそれに備えていないようだ。同様に、日本企業は中国市場に気を取られ、トランプ氏が当選した場合の米中関係がさらに悪化することに十分に備えていない。
 習政権は岐路に立っている。米中関係を中心とする世界情勢も岐路に立っている。残念ながら、国際社会はトランプリスクと習近平リスクをきちんと管理する戦略を十分に考案されていないようだ>(以上「現代ビジネス」より引用)





 「もしトラ」の論評がオピニオン誌に続々と登場し始めた。柯 隆(東京財団政策研究所主席研究員・静岡県立大学グローバル地域センター特任教授)氏が「トランプ再登場で対中関税60%!それにまったく備えていない習近平の方こそ世界のリスク・おまけに日本企業も備えなし」と題した「もしトラ」論を展開している。
 しかし柯氏の「もしトラ」論は余りに古い。なぜなら「トランプ前大統領はアメリカメディアのインタビューに、自分が当選した場合、中国からの輸入品に対して、60%ないしそれ以上の関税を課すといった趣旨の見解を示したといわれている」との論を展開しているからだ。

 既に中国は米国の貿易第一位国ではなくなっている。対前年比20%近い減少により、貿易相手国の座はメキシコに奪われている。関税を60%に引き上げるのではなく、中国によるデフレ輸出を禁止する措置を講じると見なければならないだろう。
 さらに柯氏が書いた「トランプ氏が当選した場合、中国に対する制裁措置がさらに強化される可能性が高い。多国籍企業の中国離れがすでに始まっており、仮に制裁関税がさらに上げられると、中国にある外国企業の工場の中国離れはさらに加速する可能性が高い。それは中国が世界の工場でなくなることを意味する」という下りもデータが古いと云わざるを得ない。もはや中国は「世界の工場の廃墟」だからだ。

 習近平氏は中国を「改革開放」以前の中国に戻そう、と本気で考えているようだ。相次ぐ朝令暮改で継続的な政策かは疑わしいが、不動産業者が建設途中で放置しているマンションを国が完成させ、それを国有財産として国民を入居させる「寮」にすると発表した。
 原則として不動産の個人所有は禁止する方針だというから、個人で家屋を購入している人たちにとっては寝耳に水ではないだろうか。まさに社会主義への回帰だが、そうした方針変更が何をもたらすか、習近平氏と側近たちは何も理解してないようだ。

 何も理解してないと思われるのは、そうした方針を打ち出した口で、中国への投資を先進自由主義諸国に呼び掛けていることだ。自由市場のない国の何に投資しろ、というのだろうか。株式市場も暴落に堪りかねて「買うのは良いが、売ってはならない」と通達を出したし、民間企業も原則国有化する方針では、投資家たちは何に投資すれば良いか分からない。
 まさか中共政府に投資しろというのかも知れないが、それは中共政府が発行する中国債を買えということだが、改革開放策を放棄した中国にいかなる魅力があるというのだろうか。「もしトラ」でトランプ氏が当選した暁に、トランプ氏が対中貿易関税を60%に引き上げるまでもなく、中国はバブルで巨大化した債務の自重だけで没落する。後は確実に対中デカップリングすれば良いだけだ。米国が中国に手を下すまでもなく、中共政府の中国は経済崩壊により没落し自壊する。

 柯氏は何を勘違いしているのか「多くの日本企業にとって中国は依然有望な市場であるため、ここで中国を離れるのは現実問題として不可能と思われている」と書いているが、中国は有望な市場どころか、関わってはならない厄災の国だ。
 「改革開放」以前の中国に戻ろうとしている中国にいかなる市場があるというのだろうか。ガッチリとコミットしているドイツの自動車企業が撤退すれば、中国はまさに「世界の工場の廃墟」だ。米国はウィグル人を奴隷労働させている、としてドイツ車からウィグルで製造された部品を取り除くまで米国への輸入を禁じた。日本もそうすべきではないか。日本政府も対中デカップリング策を徹底させて、中国経済崩壊の余波が日本に及ぶのを防止する必要がある。むしろ中国との関係を絶つ方が、日本にとって望ましい。「もしトラ」対策を行うとしたら、日本版の対中デカップリング策を俎上に載せて検討しておく必要があるだけだ。トランプ氏にとって、日本はバイデン政権よりも必要で重要な存在になるのは間違いない。なぜなら日本が中国と手を組めば米国の世界戦略が根底から崩れるからだ。

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