台湾は独立宣言などする必要はない。現状維持の「実質的な独立」を維持すれば良いだけだ。

「現状維持派」の勝利
 1月13日に投開票があった台湾総統選の結果を受けて、中国はどう動くのか、日本や米国はどう対応すべきか。
 台湾総統選挙は、与党・民進党の頼清徳(ライ・チントー)氏が大方の予想どおりに勝利を収めた。民進党の頼清徳氏 558万6019票、国民党の侯友宜氏 467万1021票、民衆党の柯文哲氏 369万466票で頼氏の投票は40.0%だった。
 総統選挙と同時に行われた議会・立法院の選挙では、113議席のうち、国民党が52議席、民進党が51議席、民衆党が8議席を、それぞれ獲得。民進党が過半数を維持できなったのは予想通りだが、国民党も第一党とはいえ、過半数を確保できなかった。台湾の民主主義の微妙なバランスだ。
 頼氏は民進党の選挙本部で、「台湾は民主主義国家の共同体にとっての勝利を収めた」と述べた。
 なお、頼氏は「現状維持」派だ。一方、野党の2人は、頼氏がかつて「自分は現実的な台湾独立工作者だ」と発言したことを取り上げていた。
 特に、国民党の侯氏は「民進党政権が台湾海峡の両岸に武力衝突の危機をもたらした」と、まるで中国政府のような批判を展開していた。頼氏は、近年「独立」という用語を避けていたにもかかわらず、頼氏を独立派とした「レッテル張り」は、中国からのプロパガンダでもあるといえるだろう。
 日本国内でも、頼氏のことを独立派と断言する人がいる。意識的か無意識なのかはわからないが、中国のプロパガンダに染まっているとみたほうがいい。

習近平にとっての誤算
 いずれにしても、結果として、台湾は、中国からのプロパガンダに屈せず頼氏を選んだこととなった。台湾の民主主義は上手く機能しており、総統が国民より選出されるようになった1996年(任期4年)以降、3期12年の政権はなかった。今回、民進党3連勝、国民党3連敗となった初めてのケースだ。
 それだけに、習近平氏にとっては誤算だっただろう。中国政府は、13日夜、台湾での選挙結果について「民進党が(台湾)島内の主流の民意を代表できないことを示した」とし、「今回の選挙は『祖国がやがて必ずや統一される』という、阻止できない流れを妨げられない」とした。
 なお、台湾総統選挙では、SNSなどで頼氏を批判したり攻撃する動きがみられたが、使用された字体などから中国の関与が疑われている。いずれにしても、今回の総統選で、台湾はこうした中国のやり方にも反発した恰好だ。
 一方、アメリカのブリンケン国務長官は、「台湾の人たちがまたしても、旺盛な民主制度と選挙手続きの力強さを示したことに、祝意を表したい」と述べた。
 その前に、バイデン米大統領は、記者団の質問に答える形で、アメリカは台湾の「独立を支持していない」と答えている。この趣旨は現状維持を望むということであるが、あえて記者団が独立を支持しないとふっかけ、それにバイデン大統領が応じたという次第だ。
 中国による、台湾統一に向けた挑発は高まっている。だが、行動に大きな変化に直結する可能性は、当分の間出てこない。日本の尖閣諸島・南西諸島に対しても、台湾統一では戦略上の要衝なので、日に日に侵略度はセラミスライスのように一枚一枚と増していくだろう。
 ただし、繰り返しにはなるが当分の間、情勢に大きな変化はないと思われる。今年11月にアメリカ大統領選があり、その帰趨を見て間隙を狙うのが「定石」だからだ。

米大統領選をどう見るか

 頼氏の主張は「現状維持」なので、習近平氏の台湾統一の願いとは異なることは留意すべきだ。この場合、いずれの日に習近平氏が何らかの方法により現状からの「変更」を行うことになるだろう。
 アメリカ大統領選の動向を見るというのは、政治的には当然の流れだ。アメリカでは、民主党政権と共和党政権でどちらかが「好戦的」であるかがしばしば議論されるが、両党ともに様々のグループがいて、結論は出にくい。
 共和党では孤立主義の人は海外のことに関心が薄く、好戦的ではないが、国際介入派は好戦的だ。民主党でも、リベラル思想の強い人は好戦的でないが、共和党の国際介入派のような人は好戦的な傾向にある。
 いずれにしても、米大統領が誰になるか、がポイントである。バイデン氏とトランプ氏を比較すると、トランプ氏のほうがより孤立主義、アメリカ第一主義である。娘イバンカ氏の関係で中東には一定の関心を持つだろうが、ウクライナと台湾の優先度はより低く、関心も低いだろう。
 安倍元首相の時には、トランプの中国に対する関心は低かった。安倍氏が「注意喚起」したことによって関心は高くなったが、それも経済分野に限られ、安全保障では対中で目立ったことをしていない。いずれにしても、中国としては米大統領が誰になるかで、最適な対台湾戦略は異なる。
 もっとも、11月まで中国が何もしないということではない。仮に力による現状変更を狙う場合、尖閣がより重要な戦略的要衝になるので、尖閣への対応が先行する可能性もある。昨年11月下旬、習近平氏が、軍指揮下の海警局に対し、沖縄県・尖閣諸島について「1ミリたりとも領土は譲らない」と述べたことも報じられている。

中国は機を狙っている

 11月17日には日中首脳会談が米サンフランシスコで行われて、岸田首相は尖閣諸島を巡る情勢を含む東シナ海情勢について深刻な懸念を改めて表明し日本のEEZに設置されたブイの即時撤去を求めたが、もちろん中国側の反応はない。
 安全保障では、中国が日本の申し入れを何とも思っていないことが明白だ。着々と中国は機を狙っていると見ていい。
 それまでにアメリカ大統領選結果がどうなっても、アジアの安定のために、日本は相応の負担の覚悟が求められるだろう。
 というのは、アメリカは、ウクライナ、中東と台湾で三正面作戦を強いられており、この三つに同時に対応することはできないからだ。日本の「平和ボケ」はもう許されない>(以上「現代ビジネス」より引用)




 髙橋洋一 (政策シンクタンク「政策工房」会長、嘉悦大学教授)氏は著名な評論家で、彼の財務省に対する鋭い舌鋒には感心している。ただ引用した「台湾統一選のウラにあった習近平の「誤算」…中国が狙う「台湾統一」、鍵を握るのはどの国か」という論評は戴けない。
 なぜか。それは習近平氏が独裁者の常として「戦争するゾ」と国民を脅す、恐怖による支配のスローガンを政策宣と勘違いしていることだ。習近平氏は現状こそが彼にとって最も心地良い状態だ。国内に彼の地位を脅かすライバルはいないし、中国を侵略しようとする国もない。

 ただ経済は崩壊過程にあるが、国民が苦しむ分は自身の独裁権力にとって関係ない。ただ彼が側近から聞いている知識では、国民は貧困から脱して「ゆとりある暮らし」を送っている。だから頓珍漢な「国民一人当たり200万円」もの貯金をしているという宣伝が中国内で罷り通っている。
 そのため景気を良くするには「個人消費を国民が増やさなければならない」とテレビなどで中国の経済評論家たちが異口同音に口を揃えている。国民の多くは「フンッ」と鼻で笑ってテレビを消すが、習近平氏にそうした実情は解っていない。

 高橋氏は「安倍元首相の時には、トランプの中国に対する関心は低かった。安倍氏が「注意喚起」したことによって関心は高くなった」と安倍氏が米国に先んじて「台湾有事」を唱えたように思っているようだ。
 確かに2021年12月1日安倍晋三元首相は台湾で開かれたシンポジウムに日本からオンライン参加し、緊張が高まる中台関係について「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事でもある」と述べた。そして中国側が軍事的手段を選ばないよう、自制を促す取り組みの必要性を訴えた。だから安倍氏が唱えたのは間違いないが、彼が首相在任中に「解釈改憲」して米国製ポンコツ兵器を爆買いするように日本国内のコンセンサスを無理やり変更したのは米国の要請があったからだ。つまり台湾有事は日本に米国製ポンコツ兵器を大量に押し売りするためにトランプから持ち掛けられた「標語」でしかない。

 台湾有事は決して日本有事ではない。そもそも台湾有事とは中国が台湾に軍事侵攻したなら日本の艦船が台湾海峡を通れなくなる、という話だ。台湾に軍事侵攻した中国軍がいきなり日本にも宣戦布告して沖縄諸島に攻め込む、という話ではない。むしろ中国が台湾に軍事侵攻したなら日本には攻め込まない。少なくとも中国軍にマトモな判断能力があれば、習近平氏がそう命じたとしても、決して日本には攻め込まない。なぜなら日本に攻め込めば大っぴらに米軍が関与することになるし、そうすると台湾に侵攻した中国軍は南東シナ海で全面戦争を戦わざるを得なくなる。
 しかも台湾有事は中国にとって貿易輸送の70%を占める海上輸送が全面停止することを意味する。そうすると中国は一月もしないうちに頓死する。半年分以上、三年分もの食糧備蓄した、と中共政府は自慢しているが、それは各地にある食糧備蓄倉庫を開けるまで分からない。原油備蓄に関しては、中共政府は一月分しか備蓄していない。

 以上のような観点から、習近平氏が2024米国大統領選挙のドサクサや大統領選直後の権力の空白を狙って台湾に軍事侵攻するとは思えない。台湾に軍事侵攻を仕掛けるどころか、国内治安を維持するのに習近平氏は汲々としている。それだからこそ台湾軍事侵攻を行って、国民の不満爆発を台湾に逸らそうとする、との読みがあるのも否定できないが、軍隊にまで遅配や減給による躺平主義(寝そべり族)が蔓延している状態で、どうやって彼らの士気を高めるというのだろうか。
 すでに中国民の不満は爆発寸前にまで高まっている。これまでは「失うものがある」現役世代の遅配や減給だったが、今度は国民から集めた社会保険料を各地の地方政府がコロナ禍などで使い切り、高齢者世帯に対する社会保障支給額の切り下げが行われている。切り下げ幅は地方政府によって異なるが、概ね25%~30%とかなりの引き下げ額で、年金世代の不満は社会保険の窓口に抗議デモを仕掛けるまでになっている。

 高橋氏は米国はウクライナ戦争と中東の紛争の他に台湾軍事侵攻まで起きると、三方面作戦に対応できないだろう、と予測しているが、米国の底力を侮ってはならない。現に地中海に空母打撃群を派遣したが、同時に紅海にも海軍艦艇を展開してフーシ派の海賊たちを蹴散らしている。
 それによって日本の佐世保などを母港とする空母打撃群が払底しているかと云うとそうではない。中国の軍事力による世界秩序の変更、という野望を砕くには米国の軍事力を頼りにする必要はない。ただ徹底した対中デカップリング策を先進自由主義諸国が一致団結して続ければ良いだけだ。そうすれば中国経済が崩壊して、熟した柿が落ちるように習近平独裁政権は勝手に瓦解する。だから台湾は独立宣言などする必要はない。現状維持の「実質的な独立」を維持すれば良いだけだ。

このブログの人気の投稿

それでも「レジ袋追放」は必要か。

麻生財務相のバカさ加減。

無能・無策の安倍氏よ、退陣すべきではないか。

経団連の親中派は日本を滅ぼす売国奴だ。

福一原発をスーツで訪れた安倍氏の非常識。

全国知事会を欠席した知事は

安倍氏は新型コロナウィルスの何を「隠蔽」しているのか。

自殺した担当者の遺言(破棄したはずの改竄前の公文書)が出て来たゾ。

安倍ヨイショの亡国評論家たち。