「働かないおじさん」とは、いかなる存在か。
<中高年社員が「働かないおじさん」と呼ばれています。マスメディアやSNSには、中高年社員が働かないのに給料が高いという批判や頓珍漢な言動への嘲笑が溢れています。
若い世代から集中砲火を浴びてサンドバッグ状態の中高年社員ですが、彼らにだって言い分があるはず。今回、75人の中高年社員にアンケートとヒアリングで調査しました。
君達もいずれ歳を取るだろう
まず、「働かないおじさん」と批判・揶揄されていることに反発する意見から。多くの中高年社員が静かな口調で理不尽さを訴えていました。
「たしかに私も含めて働かないおじさんがいますが、ちゃんと働いているおじさんもいます。若い世代にも働かない人が結構いるのに、どうしておじさんだけがこんなにやり玉に挙がるのでしょうか。ちょっと納得できません」(精密機械)
「歳を取ったら、とにかく体が動かなくなります。『働かない』のではなく『働けない』んです。若い人たちが、自分もいずれ歳を取るという事実を忘れて我々を批判するのは、心が狭すぎますね。とムキになっている自分も、かなり心が狭いですが(笑)」(金融)
若い世代に対してだけでなく、中高年社員に厳しい姿勢を取るようになっている経営者・人事部門に対する反発の声も聞かれました。
「当社は、新人採用で苦戦しており、近年、新人や20代の待遇を引き上げ、中高年には『嫌なら辞めろ』とばかりに待遇を引き下げています。そういう場当たり的な対応をする会社に、若い人たちが魅力を感じて入社してくれるんでしょうかね」(物流)
「かつて当社は典型的な年功序列賃金で、私も若い頃は安い給料で長時間こき使われました。50歳を超えてようやく楽して高給をもらえると思ったら、成果主義を導入して中高年は軒並み賃下げです。会社が生き残るためというものの、経営者・人事部門は労使の信頼関係をどう考えているのでしょうか」(電機)
批判は納得できるという声も
逆に、「働かないおじさん」と批判・揶揄されている現状について、「致し方ない」「納得できる」と肯定する意見も少数ありました。
「40代までは情熱を持ってバリバリ働いていました。でも50歳を過ぎてから体力的にしんどくなり、役職を外れてモチベーションも下がり、いまはサボりまくっています。いろいろと言い分はありますが、間違いなく周りの若い人たちに迷惑を掛けており、批判されるのは致し方ないところです」(サービス)
「若い頃、仕事をしないのに説教を垂れてくる中高年を見て、『こういうおじさんにはなりたくないな』と心底思いました。いま自分がまさに『なりたくないおじさん』の世代になっているわけで、我々を批判する若い世代に反論する気にはなれません」(エネルギー)
こうして見ると、「働かないおじさん」の問題は、世代間の利害対立と言えそうです。そして、働きや給料を考える時間軸の長い・短いという違いが、対立の根底にあるように思います。
多くの日本企業では、20代・30代は能力や成果と比べて賃金が安く、40代・50代は高いという賃金カーブです。若い頃は会社に対して“貸し”を作り、40歳過ぎから定年にかけて取り戻します。中高年社員は、“貸し”を取り戻しているだけで、現在の給料が不当に高いとは思っていません。
一方、若い人たちは、そういう賃金カーブや昔の事情を深く知りません。現時点の中高年社員を見て、「働いていないのに給料が高いのはズルい」と腹を立てています。両者の溝は、なかなか埋まりそうにありません。
なぜおじさん批判がエスカレートするのか?
ところで、今回の調査で、いくつか興味深い指摘を耳にしました。まず、「働かないおじさん」がクローズアップされている現状について、次のような指摘がありました。
「バブルの頃、『5時から男』って言葉が流行りましたよね。おじさんが働かないって大昔からのことなのに、どうして最近ここまでおじさん批判がヒートアップしているんでしょうか。不思議です」(建設)
「5時から男」というのは、タレントの高田純次さんが出演した栄養ドリンク「グロンサン」のTVCMから生まれた言葉で、職場では元気がないのに終業時間の5時になると元気になる社員という意味です。1988年の流行語大賞に選ばれました。
「5時から男」と「働かないおじさん」という2つの言葉が意味するところは、よく似ています。ただ、違いもあります。
「5時から男」は、5時から元気に遊び回るということで、職場外の行動に着目しています。一方、「働かないおじさん」は、職場内の行動を問題にしています。
また、「5時から男」では、高田純次さんの親しみあるキャラクターも相まって、若い世代を含む多くの国民が「しょうもない奴がいるなぁ」と笑っていました。一方、「働かないおじさん」では、若い世代が中高年社員を「許せない!」と強く憤っています。
バブル期と現在で大きく違うのは、雇用環境です。バブル期の雇用は正社員が中心で、雇用が安定し、実質賃金も上昇傾向でした。それに対し現在、雇用者全体に占める非正規雇用の割合は36.9%(総務省「労働力調査」2022年)に達し、雇用が不安定で、実質賃金も減少傾向です。
非正規雇用には若い世代が多いことから、不遇をかこっている若い世代が引き続き雇用・賃金が守られている中高年社員を妬み、批判を強めていると推測することができます。
真面目に働くという不思議
もう一つ、筆者が「働かないおじさん」に関するコメントを求めたのに、若い世代の働き方について次のような指摘がありました。
「私も若い頃は、残業や休日出勤を厭わず、安月給で頑張りました。でも、今になって思うと不思議です。誰だって長時間労働や低賃金は嫌なはずなのに、どうしてあの頃は真面目に働いたんだろうなあ、と」(輸送機)
同じように、知り合いのアメリカ人の経営者から、「高い給料をもらって働かなくてもクビにならないなら、働かないのが当たり前。逆に日本の若い労働者は、激安の給料でどうして真面目に働いているわけ? そっちの方がよっぽど不思議」と言われました。
筆者が知るアメリカなど諸外国の経営者から、「中高年がちゃんと働いてくれない」「中高年の賃金が高すぎる」といった不満を聞いたことがありません。
なぜなら、諸外国ではジョブ型や成果主義が主流で、職務や成果で報酬が決まるからです。もし諸外国で中高年社員が働かなかったら、働きに見合う報酬に引き下げられるか、クビになります。働かない中高年社員が高給で会社に居座り続けることはありません。
また、諸外国では雇用の流動化が進んでおり、低賃金の企業には労働者が寄り付きません。企業が若い労働者を極端に安く雇うということもできないのです。
どうやら、「働かないおじさん」も「安月給で真面目に働く若い労働者」も、日本に特有の珍現象と言えそうです。
おじさん批判は経営者・人事部門にとって好都合?
ところで、いま団塊ジュニア(1971~1974年生まれ)が中年から高年になり、経営者・人事部門にとって、この世代の人件費負担をいかに軽減するかが課題になっています。
つい最近まで、役職定年や雇用再延長などを機に年収をいきなり半減させるという手荒なことが行われていました。しかし、訴訟リスクがあり、この常套手段を使いにくくなっています。
この悩ましい状況で、経営者・人事部門にとって、世間で吹き荒れるおじさん批判は非常に都合が良いのではないでしょうか。
中高年社員に対して、「お前たちは、世間からこんなにバッシングされているんだぞ。身の程を知れ」と待遇の引き下げを強く迫ることができます。
また、本来、いびつな賃金カーブを作った経営者・人事部門が「働かないおじさん」問題の真犯人なのですが、中高年社員がスケープゴートになって世間の批判を一身に受け止めてくれます。
もしかしたら、経営者・人事部門は、ヤフコメの「働かないおじさん」批判の投稿にほくそ笑みながら「いいね!」をクリックしているかもしれません……。>(以上「東洋経済」より引用)
日沖健 ( 経営コンサルタント)氏が「「君達もいずれ歳を取る」働かないおじさんの主張ーー反発の声は若手を優遇する経営陣に対しても」と題する論評を東洋経済に掲載した。「働かないおじさん」と命名するのは「子供部屋おじさん」と同系譜に連なる言葉のような気がする。
若い世代から集中砲火を浴びてサンドバッグ状態の中高年社員ですが、彼らにだって言い分があるはず。今回、75人の中高年社員にアンケートとヒアリングで調査しました。
君達もいずれ歳を取るだろう
まず、「働かないおじさん」と批判・揶揄されていることに反発する意見から。多くの中高年社員が静かな口調で理不尽さを訴えていました。
「たしかに私も含めて働かないおじさんがいますが、ちゃんと働いているおじさんもいます。若い世代にも働かない人が結構いるのに、どうしておじさんだけがこんなにやり玉に挙がるのでしょうか。ちょっと納得できません」(精密機械)
「歳を取ったら、とにかく体が動かなくなります。『働かない』のではなく『働けない』んです。若い人たちが、自分もいずれ歳を取るという事実を忘れて我々を批判するのは、心が狭すぎますね。とムキになっている自分も、かなり心が狭いですが(笑)」(金融)
若い世代に対してだけでなく、中高年社員に厳しい姿勢を取るようになっている経営者・人事部門に対する反発の声も聞かれました。
「当社は、新人採用で苦戦しており、近年、新人や20代の待遇を引き上げ、中高年には『嫌なら辞めろ』とばかりに待遇を引き下げています。そういう場当たり的な対応をする会社に、若い人たちが魅力を感じて入社してくれるんでしょうかね」(物流)
「かつて当社は典型的な年功序列賃金で、私も若い頃は安い給料で長時間こき使われました。50歳を超えてようやく楽して高給をもらえると思ったら、成果主義を導入して中高年は軒並み賃下げです。会社が生き残るためというものの、経営者・人事部門は労使の信頼関係をどう考えているのでしょうか」(電機)
批判は納得できるという声も
逆に、「働かないおじさん」と批判・揶揄されている現状について、「致し方ない」「納得できる」と肯定する意見も少数ありました。
「40代までは情熱を持ってバリバリ働いていました。でも50歳を過ぎてから体力的にしんどくなり、役職を外れてモチベーションも下がり、いまはサボりまくっています。いろいろと言い分はありますが、間違いなく周りの若い人たちに迷惑を掛けており、批判されるのは致し方ないところです」(サービス)
「若い頃、仕事をしないのに説教を垂れてくる中高年を見て、『こういうおじさんにはなりたくないな』と心底思いました。いま自分がまさに『なりたくないおじさん』の世代になっているわけで、我々を批判する若い世代に反論する気にはなれません」(エネルギー)
こうして見ると、「働かないおじさん」の問題は、世代間の利害対立と言えそうです。そして、働きや給料を考える時間軸の長い・短いという違いが、対立の根底にあるように思います。
多くの日本企業では、20代・30代は能力や成果と比べて賃金が安く、40代・50代は高いという賃金カーブです。若い頃は会社に対して“貸し”を作り、40歳過ぎから定年にかけて取り戻します。中高年社員は、“貸し”を取り戻しているだけで、現在の給料が不当に高いとは思っていません。
一方、若い人たちは、そういう賃金カーブや昔の事情を深く知りません。現時点の中高年社員を見て、「働いていないのに給料が高いのはズルい」と腹を立てています。両者の溝は、なかなか埋まりそうにありません。
なぜおじさん批判がエスカレートするのか?
ところで、今回の調査で、いくつか興味深い指摘を耳にしました。まず、「働かないおじさん」がクローズアップされている現状について、次のような指摘がありました。
「バブルの頃、『5時から男』って言葉が流行りましたよね。おじさんが働かないって大昔からのことなのに、どうして最近ここまでおじさん批判がヒートアップしているんでしょうか。不思議です」(建設)
「5時から男」というのは、タレントの高田純次さんが出演した栄養ドリンク「グロンサン」のTVCMから生まれた言葉で、職場では元気がないのに終業時間の5時になると元気になる社員という意味です。1988年の流行語大賞に選ばれました。
「5時から男」と「働かないおじさん」という2つの言葉が意味するところは、よく似ています。ただ、違いもあります。
「5時から男」は、5時から元気に遊び回るということで、職場外の行動に着目しています。一方、「働かないおじさん」は、職場内の行動を問題にしています。
また、「5時から男」では、高田純次さんの親しみあるキャラクターも相まって、若い世代を含む多くの国民が「しょうもない奴がいるなぁ」と笑っていました。一方、「働かないおじさん」では、若い世代が中高年社員を「許せない!」と強く憤っています。
バブル期と現在で大きく違うのは、雇用環境です。バブル期の雇用は正社員が中心で、雇用が安定し、実質賃金も上昇傾向でした。それに対し現在、雇用者全体に占める非正規雇用の割合は36.9%(総務省「労働力調査」2022年)に達し、雇用が不安定で、実質賃金も減少傾向です。
非正規雇用には若い世代が多いことから、不遇をかこっている若い世代が引き続き雇用・賃金が守られている中高年社員を妬み、批判を強めていると推測することができます。
真面目に働くという不思議
もう一つ、筆者が「働かないおじさん」に関するコメントを求めたのに、若い世代の働き方について次のような指摘がありました。
「私も若い頃は、残業や休日出勤を厭わず、安月給で頑張りました。でも、今になって思うと不思議です。誰だって長時間労働や低賃金は嫌なはずなのに、どうしてあの頃は真面目に働いたんだろうなあ、と」(輸送機)
同じように、知り合いのアメリカ人の経営者から、「高い給料をもらって働かなくてもクビにならないなら、働かないのが当たり前。逆に日本の若い労働者は、激安の給料でどうして真面目に働いているわけ? そっちの方がよっぽど不思議」と言われました。
筆者が知るアメリカなど諸外国の経営者から、「中高年がちゃんと働いてくれない」「中高年の賃金が高すぎる」といった不満を聞いたことがありません。
なぜなら、諸外国ではジョブ型や成果主義が主流で、職務や成果で報酬が決まるからです。もし諸外国で中高年社員が働かなかったら、働きに見合う報酬に引き下げられるか、クビになります。働かない中高年社員が高給で会社に居座り続けることはありません。
また、諸外国では雇用の流動化が進んでおり、低賃金の企業には労働者が寄り付きません。企業が若い労働者を極端に安く雇うということもできないのです。
どうやら、「働かないおじさん」も「安月給で真面目に働く若い労働者」も、日本に特有の珍現象と言えそうです。
おじさん批判は経営者・人事部門にとって好都合?
ところで、いま団塊ジュニア(1971~1974年生まれ)が中年から高年になり、経営者・人事部門にとって、この世代の人件費負担をいかに軽減するかが課題になっています。
つい最近まで、役職定年や雇用再延長などを機に年収をいきなり半減させるという手荒なことが行われていました。しかし、訴訟リスクがあり、この常套手段を使いにくくなっています。
この悩ましい状況で、経営者・人事部門にとって、世間で吹き荒れるおじさん批判は非常に都合が良いのではないでしょうか。
中高年社員に対して、「お前たちは、世間からこんなにバッシングされているんだぞ。身の程を知れ」と待遇の引き下げを強く迫ることができます。
また、本来、いびつな賃金カーブを作った経営者・人事部門が「働かないおじさん」問題の真犯人なのですが、中高年社員がスケープゴートになって世間の批判を一身に受け止めてくれます。
もしかしたら、経営者・人事部門は、ヤフコメの「働かないおじさん」批判の投稿にほくそ笑みながら「いいね!」をクリックしているかもしれません……。>(以上「東洋経済」より引用)
日沖健 ( 経営コンサルタント)氏が「「君達もいずれ歳を取る」働かないおじさんの主張ーー反発の声は若手を優遇する経営陣に対しても」と題する論評を東洋経済に掲載した。「働かないおじさん」と命名するのは「子供部屋おじさん」と同系譜に連なる言葉のような気がする。
中年を指して「おじさん」と呼ぶのは何かの宣伝コピーとしてはアリだが、社会評論を行う切れ口の言葉としては少しばかりオモネテいるような印象を受ける。誰が誰に対してオモネているのか、と云うと、筆者が読者に対してだ。
中年社員の労働生産性が低いのではないか、という批判を若手社員が抱いている、というのなら分かり易いだろう。もちろん生産現場の話ではなく、営業や管理といった事務職の話だろう。なぜなら生産現場なら生産ラインによって仕事しているから、若手も中年も変わらないからだ。
それなら営業や管理職で若手より中年の方が生産性が低いかと云われれば、統計的にそうした結果は出ていないのではないか。日経ビジネス(2017.5.23日号)に河合 薫(健康社会学者)が「現実、企業は50歳以上を“使う”しかないのだ」と題する論評を掲載している。その文中で河合氏は「流動性知能のうち、記憶力や暗記力は40歳代後半から急速に低下する。しかし語彙力は、若干低下する傾向はあるもののさほどではなく、統計的にも有意じゃない。一方、結晶性知能は60~70歳前後まで緩やかに上昇。74歳以降緩やかに低下するが、80歳ぐらいまでは20歳代頃と同程度の能力が維持される。つまり、「業績の向上」につながる経験を「結晶性知能」とすれば、カラダさえ元気ならエイジレスで業績に貢献することが可能なのだ」との論を展開している。
つまり体に異常がなければ人は60才を過ぎても業績に貢献できる、という。実際に私は後期高齢者だが何ら問題なく朝起きてからブログを2本書き、その後に現役で仕事を続けている。もちろん職種は事務専門職だが、趣味として年に数回はソロキャンプのテント泊を楽しんでいる。
世代間対立をあおるような書き方に、私は賛成できない。なぜならすべての若者も、やがて高齢者になるからだ。現役世代も時の経過とともに年金世代になるからだ。だから高齢者の問題は若者の問題でもある。だから若者たちはそうした観点で老人問題を捉えて、真摯に対応していないと巨大ブーメランとなって我が身に跳ね返って来ることになる。
また河合氏によれば「脳科学の発達により「認知機能が衰え始めるのは亡くなる5年ほど前」ということもわかった。しかもその低下は決して急激ではなく、ゆるやかに低下することが確かめられている」という。
男性の平均年齢がは1.64才だから、平均して76才まで認知機能は衰えない、ということになる。もちろん老齢化すれば個人差が大きくなるため、一概にはいえないが、中央値として76才まで大丈夫ということだろう。
出来るだけ早く引退して、毎日が日曜日が良い、という人は定年と同時に現役から退く方が良いかも知れないが、多くの人は仕事があって規則正しい暮らしを送る人の方が若々しい印象を受ける。
機械でも使わなければ錆付いて固着する。人も精密機械と同じかも知れない。使わなければダメになって機能を失うような気がする。仕事上で人と会って歳を問題にすることなどない。日沖健氏は概念的な論理を捏ねまわしているような気がする。