過去の一時点に留まって国民負担を沖縄県民に押し付け続ける厄災と化しているのが日本政府と裁判所の現実だ。

<沖縄県名護市辺野古の新基地建設を巡る代執行訴訟は県側の敗訴となった。関連工事の承認を担う県はかねて認めてこなかったが、今回の高裁判決は国の求めに沿い、承認を命じた。県が拒めば、国による代執行へ移る。沖縄の人々が猛反発するこの判決。ただよく読むと、矛盾を思わせる記述が浮かび上がる。そんな判決を受け入れていいものか。(西田直晃、岸本拓也)

◆辺野古埋め立て「代執行」の承認を求める

 「多くの沖縄県民の民意に即した判断を期待していただけに、きわめて残念」
 代執行訴訟の判決が出た20日の夕方、玉城デニー知事のコメントが発表された。この日の午前中に大葉性肺炎と診断され、26日までの療養が決まったため、代理の池田竹州(たけくに)副知事が報道陣に読み上げた。
 辺野古の新基地建設を巡って防衛省は2020年、海底に砂杭(くい)を打ち込むなど軟弱地盤対策のための設計変更を沖縄県に申請した。県は調査不足などを理由に承認しなかったため、工事関連の法律を所管する国土交通相が22年、不承認を取り消す裁決を出し、玉城知事に是正を指示した。
 異を唱えた県は国を提訴したが、最高裁で今年9月に敗訴が確定。国は10月に代執行に向けて提訴し、今月20日に福岡高裁那覇支部が判決を出した。
 高裁は「25日までに県は承認せよ」と命じたわけだが、この判決は矛盾を感じさせる記述が目立つ。

◆実質的な審理が行われた形跡は全くない

 判決の末尾には裁判所の付言が添えられ「県民の心情に寄り添った政策が求められている」と言及した。にもかかわらず「新基地は不要」という沖縄の民意は一顧だにされなかった。
 20日の判決言い渡しを傍聴したジャーナリストの布施祐仁氏は「心情に寄り添うなどと言いつつ、今回の判決は国交相の裁決、最高裁決定を踏襲しただけで、実質的な審理が行われた形跡は全くない。10月下旬には玉城知事も法廷に姿を見せ、沖縄の立場を述べたのに、県民の公益は一切考慮されなかった」と語る。
 矛盾を思わせる記述は他にもある。付言で強調されたのは「国と県とが対話を重ねることを通じて抜本的解決の図られることが強く望まれている」という点。しかし、辺野古に新基地を建設して米軍普天間飛行場を移設させる計画を巡り、国との対話を求める県の主張は退けられた。

◆これでは「三権分立が機能していない」

 高裁が固執したのは、普天間の辺野古移設。実現しないと、騒音被害や航空機事故といった普天間の危険性が除去できないとして、関連工事の承認を巡る国の代執行に道を開いた。
 国が描く計画を追認する判決に対して布施氏は憤りの言葉を口にする。「裁判所の責任逃れだ。三権分立が機能していない」
 沖縄に寄り添う言葉を連ねつつ、国に追従する司法。地元住民は何を思うか。

◆「付言は責任逃れ、取って付けたアリバイづくり」
 名護市の測量士、渡具知(とぐち)武清さん(67)は「私たちは何度も、何度も対話を求めてきた。その経緯を裁判官が理解していないからこんな記述になる」と語気を強め、「悔しいよ。住民の痛みが無視されている。代々ここで暮らし、命を守ってきた人たちをばかにしている」と憤った。
 名護市の民宿経営、成田正雄さん(70)は「付言は裁判所が責任を免れるためのもの。取って付けたようなアリバイづくりだ」と批判し、こう続ける。
 「国の裁定をうのみにしただけではなく、平気な顔をしてわざとらしい言葉を続ける。県民のことなど全く考慮していない、完全な沖縄差別の判決だ」

◆地元の頭越しの手続きは異常事態

 国による地方自治法に基づく代執行訴訟は2015年以来で、今回が2回目。前回は辺野古新基地の関連工事に関し、当時の翁長雄志知事が承認を取り消したことから国が提訴した一方、16年に「円満解決に向けた協議を行う」として和解が成立しており、判決に至るのは今回が初となる。
 判決を受け、県が期限の25日までに工事に必要な設計変更を承認しなければ、国が代執行で承認して工事が可能になる。年明けにも、軟弱地盤がある大浦湾側で埋め立てが着手される。
 ただ、地元の頭越しに事が進むのは、異常事態とも言える。1999年の地方自治法改正で、国と地方の関係は「上下」から「対等」に転換したからだ。

◆災害など「例外中の例外」には当たらない
 当時、地方自治体が行う仕事は、本来国が果たすべきものを地方自治体が代わりに行う「法定受託事務」と、それ以外の「自治事務」とに整理された。代執行は、法定受託事務に適用され、今回の辺野古埋め立てに関する公有水面埋立法に基づく知事承認も含まれる。
 成蹊大の武田真一郎教授(行政法)は「地方自治法の改正時、代執行は『例外中の例外』と位置付けられたはず。例えば、法定受託事務の河川管理を怠り、住民を洪水の危険にさらすなど、切迫した場合を想定している。辺野古基地はこれに当たらない」と訴える。

◆「これがまかり通ると、日本中どこでも可能に」

 代執行するには、知事の管理執行に違法性があることが大前提だという。しかし裁判所は今回、玉城知事が工事認可を不承認にしたことが違法か、実質的に審理しなかった。9月に知事の不承認は違法だと形式論で判断した別の訴訟の最高裁判決をなぞった。
 武田氏は、今回の判決が「地元の頭越し」の先例となり、各地に広まる危惧を募らせる。「今回のやり方がまかり通ると、国が日本中のどこでも埋め立てが可能になる。地元の反対を無視して軍事基地や放射性物質の処分場を造ることもできる。本土の人たちにも降りかかる問題だ」
 専修大の白藤博行名誉教授(地方自治法)も「代執行訴訟は、住民の生命・身体の危険など差し迫った危険がある場合であるにもかかわらず自治体が放置しているなど、やむを得ないときに発動する住民保護のための最終手段だ。国策に従わないなら代執行というのは筋違いだ」と批判する。

◆「国に逆らったら損」自治体の委縮が心配
 「心配なのは、日常の法定受託事務の処理にあたって最終的に代執行訴訟されるかもと、自治体がプレッシャーを感じること。萎縮してしまうことだ。国防・安全保障の分野に限らず、国の施策に逆らったら損だと考えるようになれば、地方自治の精神にさらに悪い影響を与えてしまう」
 やすやすと受け入れられない今回の判決。県は上告できるが、工事は逆転勝訴するまで止められない。
 元土木技師で沖縄平和市民連絡会の北上田毅氏は「まずは上告して徹底的に争ってほしい」と病床の玉城知事にエールを送りつつ、代執行で埋め立てが承認されても知事に再撤回するよう求める。

◆米軍再編で「辺野古のような基地が必要とは思えない」

 承認後でも、事情の変化によって承認が適当でないと判断された場合、知事は撤回できると北上田氏は考える。18年に翁長知事が前任者の埋め立て承認を撤回したこともあるからだ。
 国の地震調査委員会が22年3月、南西諸島でマグニチュード(M)8級の巨大地震が発生する恐れがあるとの長期評価を公表したことを受け、北上田氏は「弱い地震を前提とした設計の耐震性を見直す必要がある」と語り、こう続ける。
 「米海兵隊も南西諸島の島々に小規模に分かれて再編される。辺野古のような大基地が必要と思えない。県は事情の変化を検証する第三者委員会を設置して、再撤回に向けて動いてほしい。それが今残された最後の手段ではないか」

◆デスクメモ
 今回の判決は重い。文中にあるように自治体側の萎縮が心配になる。国が各地の空港や港湾の軍事利用をもくろむ中、地元に反対意見があっても自治体が「国にあらがえず」と諦め、やすやすと受け入れに傾かないか。沖縄の苦悩に思いを巡らせつつ、人ごとで済まぬ問題とも捉えねば。(榊)>(以上「東京新聞」より引用)




 日本の司法は政治権力に忖度しているのではないか、と思える節がある。福島原発の放射能汚染で日本は脱原発を固く決意したはずではなかったか。しかし「喉元過ぎれば熱さ忘れる」という諺がある通り、福一原発事故から10年を経過すると、日本国民の多くは痴呆症に陥ったようだ。
 そして各地の裁判所でも再稼働反対の提訴が次々と敗訴している。或いは40年とされた原発の耐用年数が60年に延長され、さらに「稼働してなかった期間も延長される」という摩訶不思議な決定までしようとしている。裁判所は政治権力のために存在している、と断定しても過言ではない状態に、現在の日本はある。

 沖縄県の普天間基地移設は日米間での決定事項だ。しかし「移設先がない」ということで辺野古沖を埋め立てて移設する、という政府案に、当時任期切れ間近の仲井眞弘多沖縄県知事が承認した。一度県知事が承認すれば、その後に承認取り消しの知事が沖縄計民によって選出されようと、頑として裁判所は県知事による「承認取り消し」を受け容れない。
 これが沖縄県の悲劇の始まりだ。民主党政権時代に鳩山首相は「(移設先の辺野古に代わる案として)私に腹案がある」と発言したが、鳩山氏が提案した案を悉く自民党とマスメディアが潰した。現在からでも馬毛島へ普天間基地の米海兵隊を移設しても良いはずだが、政府は頑なに辺野古沖を譲らず、裁判所も「協議せよ」と助言することなく、辺野古沖埋め立てを支持し続ける。

 軍用機が住民の頭上を年中飛行する事態は住氏も軽減されることはないようだ。ただ住民密集地上空の飛行は軽減される、というだけだ。ジェット戦闘機の爆音がいかに凄まじいものか、日本国民の多くはご存知ないのだろう。岩国市を出身地とする私は毎日のようにジェット戦闘機の爆音に悩まされた記憶がある。
 なぜ馬毛島に米海兵隊を移設しないのだろうか。タッチ&ゴーの艦載機訓練場として利用することになっているが、そこに米海兵隊が駐留すれば好き放題にいつでも訓練できるではないか。

 米国内では敵前上陸部隊の海兵隊は役目を終えた軍隊ともいわれている。ウクライナ戦争を見ていても、現代戦争において海兵隊の出番はないように思える。むしろドローン戦闘部隊こそ必要ではないだろうか。
 戦争までもデジタル化し、IT戦争の様相を呈している。そこに肉弾戦を主体とする海兵隊をいつまでも温存する必要があるだろうか。辺野古沖移設に固執する政府もどうかしているし、それを従順に支持し続ける裁判所もどうかしている。彼らは歴史が進んでいるにも拘らず、過去の一時点に留まって国民負担を沖縄県民に押し付け続ける厄災と化している。それが日本政府と裁判所の現実だ。

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