信なくば立たず、は政治の世界だけでなく、経済の世界でも通用する格言だ。

<イスラエル・ハマス紛争や原油価格の低迷を受けて、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)など中東産油国間の溝が深まっている。サウジなど「減産したい国」とUAEなど「増産したい国」が対立し、OPECプラスとしてさらなる減産に合意できなければ原油価格は1バレル=70ドル割れは必至だ。目先のガソリン価格の低下につながるのは消費者にとっては朗報だが、中長期的には中東に原油輸入を依存する日本のエネルギー政策を揺るがすことになりかねない。

 石油輸出国機構(OPEC)は11月22日、「OPECプラスの閣僚級会合を11月30日に延期する」と発表。それを受けて米WTI原油先物価格(原油価格)は一時、73ドル台に急落した。OPECプラス(OPEC=石油輸出国機構とロシアなどの大産油国で構成)は延期の理由を明らかにしていないが、サウジアラビアが他の産油国に強く求めている追加減産に関する調整が難航していることが原因だと言われている。さらなる減産の見通しに暗雲が立ち込め、原油価格が急落した。
 足下の原油価格は1バレル=70ドル台半ばで推移しており、9月末の年初来高値(1バレル=92ドル台)から2割超の安値となっている。そもそも市場では、「第3四半期に供給不足気味だった世界の原油市場が供給過剰になりつつあるのではないか」との声が強まっている。中東地域からの原油供給の懸念が薄らぎ、さらに米中の原油需要の減退が意識されるなか、かろうじて価格を下支えしているのはOPECプラスによる減産への期待だ。
 OPECプラスは昨年11月から日量200万バレルの協調減産を開始した。今年5月からはサウジアラビアやイラクなど8カ国が116万バレルの自主減産を行っている。サウジアラビアはさらに7月から追加で100万バレルの減産を実施している。
 だが、減産の効果は期待するほど出ていない。国際エネルギー機関(IEA)は11月14日、「原油の供給予想は需要よりも大きく上方修正されたため、第4四半期の世界の原油市場は想定されていたほど逼迫(ひっぱく)していない」との見方を示した。IEAは来年の見通しについても「OPECプラスが減産を延長したとしても、世界の原油市場は若干の供給過剰になる」との見通しを示している。
 背景には、一部の産油国が増産に動いていることがある。来年の生産枠を削減することを約束していたアンゴラやナイジェリアは増産する意向に転じている。アラブ首長国連邦(UAE)もこれらのアフリカ諸国に先駆け、来年1月から増産することを表明している。

安くても「増産したい国」

 サウジアラビアは自主減産により生産量が日量900万バレルに低下し、経済成長率はマイナスに転じて財政は「火の車」となっている。窮地に陥りつつあるサウジアラビアは「次なる減産は他の産油国が負担すべきだ」との思いを強めている。
 だが、UAEなどがサウジアラビアの思惑通りに動くかどうかは極めて怪しい。
 例えば、UAEがこのタイミングで増産に踏み切ろうとしているのは、脱炭素時代の将来を見据えてのことだ。価格が下がってでも増産してオイルマネーを少しでも多く稼ぎ、1日も早く経済の多角化を図りたいとの思惑があるとされている。「減産して原油価格の高値を維持する」ことを基本とするサウジアラビアの政策と相容れないのは言うまでもない。
 UAEは昨年10月の会合で「サウジアラビアが減産を強いている」と非難し、「OPECからの脱退も辞さない」との強硬姿勢を見せている。11月30日の会合でもサウジアラビアと激しく対立する可能性がある。

反イスラエルで「減産したい国」も
 一方、ここにきて追加減産を後押しする勢力の声も強まっている。OPECは11月半ばまで「原油市場の基礎的条件はなお強固で、最近の価格下落は投機的な動きが原因だ」との強気の姿勢だったが、市場のセンチメント悪化に抗うことができなくなっている。さらに、イスラエル・ハマス戦争におけるアラブ諸国の反イスラエル・反米意識の高まりが、減産への圧力となりつつある。
 英フィナンシャルタイムズ(FT)は11月17日、「OPECプラスは11月26日に開かれる半年に1度の閣僚級会合で、日量約100万バレルの追加減産を検討している」と報じた。それを受けて原油価格は1バレル=80ドル近辺まで上昇したが、結局、会合の延期で価格が急落したのは先に述べた通りだ。
 このFTの報道で筆者が注目したのは、「今回の追加減産にはパレスチナ自治区ガザに侵攻するイスラエルと、それを支援する米国に反発する狙いもある」という点だ。イランやクウェート、アルジェリアが、特にイスラエルと米国に対する怒りを募らせているという。
 イランやアルジェリアは11月11日に開催されたアラブ連盟(21カ国・1機構)とイスラム協力機構(56カ国・1機構)の緊急の合同首脳会談の場でも、「石油禁輸」といった同様の主張を行っている。イスラエルや米国への怒りが背景にある。
 この動きに対し、米ホワイトハウスは11月21日に「アラブ諸国が原油を『武器化』することを想定していない」との声明を発表するなど警戒の念を抱き始めている。

UAEとサウジの対立が深刻化する懸念
 外交政策を巡るUAEとサウジアラビアの関係悪化も気掛かりだ。
 UAEはイエメンではサウジアラビアが支持する暫定政府に対抗する勢力に加担し、スーダンではサウジアラビアが推し進める和平工作に反する動きを示すなどの行動に出ている。そのため、サウジアラビアのムハンマド皇太子は昨年12月「UAEが敵対的な行動を続けているなら、懲罰的な措置を講ずる」と怒りを露わにしている。
 両国は10月20日、中東情勢の緊迫化を受けて異例の首脳会談を行い、「対立をひとまず脇に置こう」とする動きに出ているが、今後も波乱含みだと言わざるを得ない。
 OPECプラスはこの1年、サウジアラビア主導の下、協調行動を取り続けてきた。だが、「減産したい国」と「増産したい国」の溝は確実に深まっており、11月30日の閣僚級会合は正念場だと言っても過言ではない。さらなる追加減産で合意を成立させることができなければ、原油価格は1バレル=70ドル割れする可能性が高いだろう。
 ガソリン価格高に悩む日本の家計にとっては朗報だ。しかし、アラブ産油国同士の対立は中東地域の地政学リスクを上昇させる。特に、日本にとってはサウジアラビアとUAEの確執が深まることは大きなリスクだ。
 日本の原油輸入に占めるUAEのシェアは39%(今年9月時点)で、サウジアラビアは37%と極めて高い。サウジアラビアとUAEの対立が深刻化することで、日本の原油輸入に支障が生じないことを祈るばかりだ。>(以上「JB press」より引用)



OPECプラス会合延期、減産合意できなければ原油1バレル=70ドル割れも」と藤和彦(経済産業研究所コンサルティング・フェロー)氏が予測している。引用論評でその根拠を示しているが、副題で「サウジアラビアやUAEなど中東産油国に深い溝、イスラエル・ハマス紛争も影」と指摘している。
 しかし中東諸国にとって原油の減産は困難だろう。これまでウクライナ戦争を機にエネルギー問題が欧州諸国で深刻化した折に、値上げして儲けに儲けたが、それによって欧米のエネルギー需要に変化が起きた。

 しかも世界一の原油ガブ呑み国の中国が戦費調達のために原油の投げ売りに走ったロシア原油を爆買いし、中東原油への依存度が落ちたのも大きい。さらに米国バイデン氏が米国内のインフレを抑えるために自国産の原油供給を拡大したのが響いている。つまり米ロが原油増産に動いたため、中東原油の価格が低下した。
 それなら中東も減産すれば原油価格低下を止められるではないかと考えがちだが、中東諸国はオイルマネーに全面的に依存した国家財政になっている。国家収入を減らせば拡大した社会インフラを維持できなくなる。巨大モールを巨大なエアコンで冷やさなければ、それは巨大な温室になってしまう。また林立するマンション群も巨大なエアコンでビル全体を冷やさなければ住めたものではない。しかも、彼らは長年のエアコン装置の中で暮している内に、もはや砂漠で暮すことなど出来ない体質になってしまっている。

 いうまでもなく中東の産油国が将来を見通して、原油サプライヤーとして先進自由主義諸国と協調的な関係を築くことが何よりも大切だ。グローバル化した国際社会の中で、世界のハブとして経済発展した中国が、コロナ禍で医療物資がひっ迫する状況で、そのハブ機能を逆手に取って先進自由主義諸国を支配しようとした。そのことにより中国は一気に国際社会で信用を失った。それまで高騰する中国の労働賃金という経営的な見地から中国から東南アジアへ移転する企業があったが、コロナ禍以降は信頼喪失による徹底が相次いでいる。
 中東諸国を中心とする産油国が原油を梃子にして国際政治に参画しようとすれば、e-fuel開発を急いでいる先進自由主義諸国から手痛いしっぺ返しを受けるのは間違いないだろう。これまでも産油国の原油値上げの我儘に散々振り回されてきた。エネルギー供給の殺生与奪権を握った原油輸出国機構の云いたい放題には先進自由主義諸国はウンザリしている。

 サウジアラビアは減産により原油価格の持ち直しを図ろうとしているが、原産の限度を越えれば高コスト体質になっているサウジアラビアの国家財政を支えきれなくなる。既にこの段階で国家財政は赤字だという。
 それに対して経済の多角化を急ぐUAEは増産の意向を崩していない。サウジアラビアや他の本願諸国から遅れて社会インフラ整備に乗り出したUAEはオイルマネーに頼らない経済体制に移行したいと願っているようだが、それはなかなか容易なことではない。エアコンの効いた部屋の中でなければ暮らせないアラビア半島の国で、原油以外に地下資源もなく名だたる観光地もなく人々の暮らしを守る豊かな自然環境もない国土で、オイルマネー漬けになった国家をオイルマネーなしで維持することなど出来ない。

 産出国は国際的な「CO2地球温暖化」という原油エネルギーを狙い撃ちにしたかのようなデマゴーグに敢然として立ち向かうべきだ。そして先進自由主義諸国と新しい協調関係を築くべきだ。産油国だけのOPECプラスだけでオイルマネーは成り立たない、という根本原理に立ち返る時ではないだろうか。消費する国があればこそ、産出国は原油を売ることが出来る。原油を売らなくては、産油国の経済は一日として持たない。それこそ砂漠とラクダの暮らしに戻るより他なくなる。それはエアコンの暮らしになれた体は耐えられなくなっているだろう。エネルギー供給諸国が先進自由主義諸国という顧客から「安定供給」という信頼を得ることこそが最も望ましいのではないだろうか。中国が「戦狼外交」に転じて、経済崩壊の坂道を転がり落ちている現状を見れば明らかだ。信なくば立たず、は政治の世界だけでなく、経済の世界でも通用する格言だ。

このブログの人気の投稿

それでも「レジ袋追放」は必要か。

麻生財務相のバカさ加減。

無能・無策の安倍氏よ、退陣すべきではないか。

経団連の親中派は日本を滅ぼす売国奴だ。

福一原発をスーツで訪れた安倍氏の非常識。

全国知事会を欠席した知事は

安倍氏は新型コロナウィルスの何を「隠蔽」しているのか。

自殺した担当者の遺言(破棄したはずの改竄前の公文書)が出て来たゾ。

安倍ヨイショの亡国評論家たち。