ベトナムの後を追う中国経済。

<ベトナムはミニ中国と言ってよい。社会主義国であり共産党独裁が続いている。歴史の中で何度も中国の侵略を受けたから、中国は大嫌いだが国家機構は中国にそっくりである。共産党が政府を指導する。国会は存在するが権限は弱い。司法も共産党の指導下にある。
 そんなベトナムで昨年(2023年)秋から不動産バブルの崩壊が始まった。ハノイに滞在していると、バブルが崩壊し始めたことが手に取るように分かる。そこから同じく社会主義国である中国で起きていることを類推することができる。

マンションに住めなくなった愛人たち
 不動産バブルが崩壊して約1年が経過した。笑い話のようなものだが、愛人が失業し始めた。政治家や高級官僚の愛人はハノイの高級マンションで暮らしていたが、パトロンである政治家や高級官僚が愛人の手当や部屋代を払うことができなくなったため、愛人は地方の実家に帰った。そんな噂を耳にする。
 ベトナムでバブル経済の恩恵を直接受けたのは、最大でも国民の1割程度と考えられる。経済成長が続いていると言ってもベトナムはまだ貧しい。この10年ほどの間にハノイやホーチミン市に多くのマンションが建てられたが、それを買うことができる人はほんの一握りだけだ。庶民の年収は日本円で数十万円であり、安くても1500万円はするマンションは高嶺の花でしかない。 マンションを買い占めたり転売したりしていたのは、政治家や高級官僚に連なる一部の人々だけである。リゾートマンションの建設も盛んであったが、そこを転売目的で買い占めていたのは不動産会社や富裕層に限られる。
 ベトナムでは不動産バブルに関する情報はほとんど開示されていない。銀行は不良債権を抱えていると思われるが、その全貌は不明である。不良債権が増えているとの情報は出ているが、そこに開示されているものは全体のほんの一部であろう。

ベトナムの大学で今も教えられるマルクス経済学
 筆者は共産党政権ではバブル処理はできないと思う。第一に人材が不足している。ベトナムの大学では今でもマルクス経済学が教えられている。そのために経済学部は不人気で、本気で学ぶ人などいないと言われている。
 ベトナム政府や国営企業で出世するには、所属している組織とは別に共産党の中で出世しなければならない。それには月に一度程度開かれる党の学習会に出席してマルクス・レーニン・ホーチミン思想を学習する必要がある。うまく出世コースに乗れた人は、学習会に加えて職場を休職して党の学校で学ぶ。現在、ベトナム政府や中央銀行で不動産バブル処理を担当しているのは、そのような教育を受けてきた人々である。それは中国でも同じである。
 ベトナム共産党は民営である不動産会社は潰れてもよいと考えている。ただ、不良債権によって銀行が破綻する事態は避けたい。主要銀行は国有であり共産党の牙城であるので、そこが傷つくのは困る。
 そしてより重要なことは多くの共産党員、特に幹部が不動産バブルに乗って蓄財してきたことだ。ベトナム共産党員は約500万人とされるが、その中で高い地位に登ったものが政府や国営企業で幹部になっている。彼らの資産の多くは不動産である。
 付言すれば政府や国営企業の職員の給料はそれほど高くない。中国では政府や国営企業の職員は格安の社宅に住めるなど給与外の特典があるが、ベトナムでは給与外の特典はそれほど多くない。その結果として汚職が蔓延してしまったが、昨今の汚職撲滅運動によって露骨な汚職は難しくなっている。そのために政治家や高級官僚は職務権限を用いて、陰で不動産転売ビジネスを行ってきたのだが、そこをバブル崩壊が直撃してしまった。それが愛人の失業につながっている。

バブル処理の方法がわからない中堅官僚
 このような状況の中で経済政策を担当する中堅官僚は、どのような施策を行えば良いのか分からなくなっている。彼らは元々市場経済に関する知識をあまり持っていない。財務省や中央銀行でも国際金融を理解している者は少ないと言われる。それは、出世するために多くの時間をマルクス・レーニン・ホーチミン思想の勉強に割いてきたためだ。
 最近、ベトナムでは「政治家や官僚は外国人との接触をなるべく避けるように」との通達があったとされる。共産党、特に党中央は、バブルが崩壊する中で政治家や官僚が西欧かぶれになることを恐れている。日本が行った不良債権処理を政治家や官僚が知ることを恐れているとも考えられる。
 共産党は日本が行ったような不良債権処理、つまり不良債権を明確化し、その後に税金を投入し銀行システムを守ることは行いたくないようだ。そんなことをすれば、共産党幹部の財産がなくなってしまうからだろう。そして銀行に公的資金を投入することになれば、共産党の無誤謬性に傷がつく。税金投入は巨額になる可能性が高い。そうなれば共産党政権はもたない。
 バブル処理を担当している中堅官僚たちは、どうして良いのか分からなくなっている。それがベトナムの現状であり、中国の状況はこれよりも遥かに深刻と思われる。

習近平が新たな文化大革命を推進したい理由
 そんな中国で習近平は新たな文化大革命を推進しようとしている。その理由はハノイにいるとよく理解できる。その昔、中国もベトナムも経済発展のために社会主義政策を緩和する改革開放(ベトナムでは「ドイモイ政策」)に打って出た。そして豊かになったのだから再びかつての強固な社会主義体制に戻れば良い。共産党の中の一部人々、特に党官僚は今でもマルクス・レーニン主義が正しいと考えている。
 日本にいると、習近平が文化大革命を行いたいと思っていることは正気の沙汰とは思えないが、ハノイにいると習近平がそのように考えることも理解できる。
 だが不良債権を処理することなく、全てを覆い隠して社会主義路線に戻れば、それは社会全体で巨額の借金を踏み倒すことに他ならない。社会秩序が維持できなくなる。習近平も心の中では新たな文革が成功するとは思っていないはずである。
 ベトナムも中国も、先を見通すことができない時代に突入してしまった。>(以上「JB press」より引用)



論評の題を見て中国の事かと一瞬思った。よく読むとベトナムの事だと理解できた。「愛人たちが故郷に出戻り、バブル崩壊の「ミニ中国」ベトナムで起きていること」とあるからだ。それにしても、中国でもベトナムでも政治が経済を正常な状態に戻すためのバブル処理をしないのか、そして事態がトコトン行き詰まるまで不良化した債権処理を先延ばしするのか理解できなかった。
 しかし副題に「日本の自民党もベトナムの共産党も大変なバブル処理」とあることから、ベトナムと中国の病理が理解できた。川島 博之(ベトナム・ビングループ主席経済顧問)がベトナムにいると習近平氏はベトナムが行ったドイモイ(=改革開放)を行って豊かになった社会を「再びかつての強固な社会主義体制に戻れば良い」と考えるのを真似ているのではないかという。なぜなら「共産党の中の一部人々、特に党官僚は今でもマルクス・レーニン主義が正しいと考えている」からだ。

 もちろん現代経済でマルクス経済理論は通用しない。マルクス経済理論とは商品を「使用価値」と「交換価値」にわけることから始め、商品の価値は商品の生産に注ぎ込まれた労働量によって決まる、という。
 資本家は労働者に賃金を支払うが、それは商品に注がれた労働量の一部でしかない。商品価値が上がった価値の一部でしかなければ、資本家は儲からないからだ。つまり労働者は搾取されていることになる、という単純な「理論」だ。だから資本家と労働者は対立する階級として認識すべきだ、というのがマルクスが唱えた階級闘争の基本原理だ。

 習近平氏がジャック・マー氏から企業を取り上げ、財産を取り上げたのもマルクス主義に基づく階級闘争として、正当化されているのではないだろうか。しかし先進自由主義諸国ではそうした懲罰的な措置は許されない。明らかな国家による「財産権の侵害」に当たる。
 一度自由な空気を吸った人たちは習近平氏の富裕層に対する財産権の侵害に拍手したにしても、やがて自分たちに及ぶのではないか、と心穏やかに日々を過ごすことは出来ないだろう。なぜなら一般の中国民ですら「改革開放」によって生活水準は上昇しているからだ。社会主義国では認められない家や車といった「私有財産」を中国民の多くは手にしているからだ。

 日本など先進自由主義諸国ではあり得ないが、中国では金融機関が債務超過に陥って預金引き出しの支払いが出来なくなると「あなたたちは「貯金」という「投資」を行い、その「投資」が失敗して口座残高がゼロになったのだから、支払うことは出来ない」という銀行の説明を受けて帰宅せざるを得ない、という。そうした事態に遭ったとしたら、日本国民は耐えられるだろうか。
 マルクス経済で現代の国家経済を運営することなど出来はしない。それは18世紀の産業革命前夜の英国社会を分析して得た理論に過ぎない。労働生産のすべてを賃金として支払ったなら、企業は存続できない。投資家も企業に投資することを控えるだろう。だから習近平氏はすべての企業を国営にすれば良い、と考えているのかも知れないが、労働による商品付加価値の一部を資本家(=経営者)が手にしなければ企業活動の継続も生産設備の更新もあり得ないし、投資家に対する配当も支払えない。そうした極めて当たり前のことを習近平氏が理解していないとすれば中国経済は崩壊するだけだ。
 川島氏が「共産党、特に党中央は、バブルが崩壊する中で政治家や官僚が西欧かぶれになることを恐れている。日本が行った不良債権処理を政治家や官僚が知ることを恐れているとも考えられる。共産党は日本が行ったような不良債権処理、つまり不良債権を明確化し、その後に税金を投入し銀行システムを守ることは行いたくないようだ。そんなことをすれば、共産党幹部の財産がなくなってしまうからだろう。そして銀行に公的資金を投入することになれば、共産党の無誤謬性に傷がつく。税金投入は巨額になる可能性が高い。そうなれば共産党政権はもたない。」と論理的にベトナムの崩壊する経済の論理を解明しているが、それと同じことが中国で起きている、と推測して間違いないだろう。そうすると、ベイナムも中国も国家経済は大混乱を引き起こし、通貨は価値を失い、国家も国民の支持を失うだろう。つまり社会秩序も失われ、国民は政権打倒に蜂起するしかなくなるだろう。

このブログの人気の投稿

それでも「レジ袋追放」は必要か。

麻生財務相のバカさ加減。

無能・無策の安倍氏よ、退陣すべきではないか。

経団連の親中派は日本を滅ぼす売国奴だ。

福一原発をスーツで訪れた安倍氏の非常識。

全国知事会を欠席した知事は

安倍氏は新型コロナウィルスの何を「隠蔽」しているのか。

自殺した担当者の遺言(破棄したはずの改竄前の公文書)が出て来たゾ。

安倍ヨイショの亡国評論家たち。