岸田自公政権は経済と財政の本質を理解すべきだ。

国民最大の関心事
 10月23日に国会で行われた所信表明演説で、岸田文雄首相は「経済」を連呼した。30分あまりの演説の中に35回以上も「経済」という言葉が使われた。「経済」こそが国民最大の関心事だということを勘の良い岸田首相は肌で感じているのだろう。

 安倍晋三元首相も、事あるたびに「経済」を持ち出した。御本人の関心事は安全保障や憲法改正、教育改革などにあって、「本当は経済にはあまり関心が無かった」(安倍氏に近かった元閣僚)と言うが、「アベノミクス」を掲げて国民のみならず世界の経済界にアピールした。「新しい資本主義」「資産所得倍増」「資産運用立国」と次々に魅力的なキャッチフレーズを放つ岸田首相は、本当に「経済」が最大の関心事なのだろうか。 
 岸田首相の現在の現状に対する認識は「30年ぶりの変革を果たすまたとないチャンスを迎えている」というものだ。これまでの「低物価・低賃金・低成長に象徴される『コストカット型経済』の変化がおこりつつある」というのだが、それは円安による輸入物価の上昇で原材料費が上がる「コストプッシュ型経済」になっているという事に過ぎないのではないか。  「物価上昇を乗り越える構造的な賃上げ」で「消費と投資の力強い循環が本格的に回り始めます」と大見えを切っているが、物価上昇率を差し引いた実質賃金は今年7月まで16カ月のマイナス。岸田内閣成立以降、ほぼ一貫して物価は上昇している。一般的な国民の感覚からすれば、物価が上昇して生活は苦しくなっているのに、岸田首相が景気は良くなっていると言っているように聞こえる。感覚のズレを国民が感じるところだろう。

供給力強化と国民への還元
 そんな国民の不満を薄々感じているのだろうか。総合経済対策の「車の両輪」として、「供給力の強化」とともに「国民への還元」を言い出した。 
 企業収益の好転による法人税の増加や、価格上昇による消費税の増収など、国の税収は過去最高を更新している。この「税収の増収分の一部を公正かつ適正に『還元』し、物価高による国民の御負担を緩和いたします」としたのだ。「近く政府与党政策懇談会を開催し、与党の税制調査会における早急な検討を、指示します」としており、所得税減税が念頭にあることは間違いない。さらに、所得税を支払っていない低所得者に対しては給付金を支給する方針を示した。 
 岸田首相は「デフレ完全脱却のための一時的緩和措置」と言うが、ひとたび減税すれば、元に戻して増税する際の景気へのマイナスインパクトを考える必要が出てくる。つまり、簡単には元に戻せなくなるわけだ。 
 実際、石油元売会社に支給しているガソリン代を抑えるための補助金も「激変緩和措置」だったはずが1年半たっても止められない。すでに6兆円を投じたが、それでは収まらない。「9月には、年内の緊急措置として、リッター175円をガソリン価格の実質的な上限とするため補助を拡大しました」と今回の演説でも胸を張り、電気・ガスへの補助金とともに来年春まで継続することを明言した。 
 イスラエルとパレスチナの間の戦闘激化で、世界経済も大きく動揺している。原油価格が再び上昇を始め、「有事のドル買い」で円安ドル高がジワジワと進んでいる。1ドル=150円の水準が続けば、輸入原油価格はさらに上昇。ガソリン代を抑えるのに、さらに巨額の財政支出が必要になる。 
 物価を抑えるために巨額の財政支出を続ける一方で、減税も行う。そんな大盤振る舞いを続けて大丈夫なのだろうか。

財政悪化⇒円安拍車⇒物価押し上げ

 わが国の借金体質は世界で類を見ない水準に達している。日本銀行が国債を買い入れることで低金利を維持し、すでに国債発行残高の半分以上を日銀が保有する異常事態になった。それでも財政再建よりも、国民への「還元」を優先すれば、財政はさらに悪化していく。短期的にはともかく、中長期的には日本円の相対価値はどんどん劣化していくことになる。つまり、自ら円安に拍車をかけ、それが国内物価を押し上げていくことになるのではないか。 
 本来ならば、財務省の官僚たちが放漫財政に警鐘を鳴らし、財政再建を建言するべきだが、どうも円安でインフレを呼び込むことに抵抗している気配がない。インフレでお金の価値が下がり政府の借金負担が実質的に軽くなる「インフレ税」でしか財政再建はできない、と見切ったのだろうか。そうだとすると、国民にはインフレの中で塗炭の苦しみが待っていることになる。 
 ところが、岸田首相は強気だ。本気なのか、強がりなのか。  
「持続的な賃上げに加えて、人々のやる気、希望、社会の豊かさといったいわゆる『ウェルビーイング』をひろげれば、この令和の時代において再び、日本国民が『明日は今日より良くなる』と信じることができるようになる。日本国民が『明日は今日より良くなる』と信じられる時代を実現します」 
 明日の国民の生活が、今日よりも悪くならない事を祈るばかりだ>(以上「現代ビジネス」より引用)




 昨日に続いて岸田自公政権の経済政策を取り上げる。磯山 友幸(経済ジャーナリスト)氏が現代ビジネスに「「経済、経済」と連呼する岸田首相の「経済政策」への大きな不安」と題する文を掲載した。
 日本経済の現状認識は磯山氏も私と同じく「コストプッシュ型経済」だと断定している。つまり経済成長に伴うインフレではなく、コストが物価を上昇させただけのインフレで、経済成長なきインフレは国民の購買力を奪うだけだ。つまりデフレ経済のまま物価だけが高騰する最悪の経済循環に陥っている、という認識こそが大事なのだ。

 企業は「法人」格を有しているが、「人」ではない。経済活動を行う事業主体でしかない。だから法人税減税したところで、その課税後の富を株主と経営者たちが分け取りするだけだ。
 法人税率が高かったころの方が労働分配率が高かったのが何よりの証拠だ。国に税金として納めるくらいなら、労働者の待遇を改善する方が良い、と経営者たちは判断していたからだ。当時の経営者たちや株主たちは慎ましやかな配分でも満足していた。

 しかし「物言う株主」というヘンな流行り言葉をマスメディアが流布して、企業経営者が社会性よりも利益追求を優先するようになった。もちろん株主にも企業の社会性に対する責任の一端があるのは云うまでもないが、そうした責任は一切問われることもなく、株式配当を増やし企業利益を上げる経営こそが最善とされる風潮が蔓延した。
 法人税率を引き下げて企業活動が大幅に改善されたのなら、この30年間に日本企業が世界的トップ100社から相次いで姿を消したのはなぜだろうか。むしろ法人税率の引き下げは国内企業投資を減退させ、国内企業の研究開発熱を冷ましたのは何故だろうか。それは税金で持っていかれることが少なくなり、研究費や生産設備投資して経費処理する必要が少なくなったからだ。結果として、生産性の向上も停滞した。

 その企業に減税の恩恵を注ぎ込み、国民には来年に夏のボーナス時に4万円の減税すれば良い、というフザケた「減税策」が岸田自公政権の税の還元策だというから国民をバカにするにも程がある。
 経済を最優先するなら消費税を廃止し、暫定揮発油税を廃止すべきだ。そうすれば国民はコストプッシュインフレによる物価高騰が10%ほど改善されることになる。さらにガソリンが安くなれば都市直近の観光地や温泉地へ家族で旅行に行く人が増える。

 さらに交際費の損金不算入を止めれば、料飲業界はたちまち息を吹き返すだろう。もちろん企業経営者も飲食の伝票処理に頭を悩ますこともないし、交際費に関して税務当局の認識の不一致による税務調査や更正決定を受ける心配もなくなる。税制は簡易を以て旨とすべきだ。
 そうすると交際費が爆増するのではないか、という反論が聞こえて来るが、利益の範囲内でしか経費は使えないから、自ずと限界はある。ただ損金不算入という摩訶不思議な経理処理をしなくて良いというプレッシャーからの解放は税務処理以上の解放感をもたらすだろう。

 引用文の最大の誤りは「財政悪化⇒円安拍車⇒物価押し上げ」という見出しだ。円安は各国の金融・金利政策がもたらしたもので、決して財政悪化がもたらしたものではない。現代ビジネス誌ともあろう雑誌が、そうした基本的な綾の理を堂々と掲載するとは驚きだ。それとも財政悪化が円安を招いたとするロジックで国民を「財政再建論」で洗脳しようとする「ザイム真理教」の信徒がかいたものなのか。
 財政悪化とは何か。財政の大部分を国債が担っているから財政が悪化しているのか。それなら世界の先進自由主義諸国は財政が押しなべて悪化していると云わなければならない。

 財政は景気を調節する調整弁でしかない。景気が悪ければ財政出動し、景気が過熱すれば税を増加させて調整する、というのが現代財政論だ。そうした簡単なことすら理解しないで、財政悪化が円安を招く、というトンチンカンな論理を展開してはならない。
 そして肝心な点は国債償還は税金で行うものではなく、経済成長で行うものだ、というロジックを理解すべきだ。経済成長すれば国民所得は増加し、放置していても税収は増加す。しかも適正インフレにより国債残は相対的に減額する。それを国債償還と見なせば良いわけで、国民から借金した政府が、その借金返済のために国民から税で取り立てるとは本末転倒ではないか。ヘンテコな論理を天下の経済ビジネス誌で展開してはならない。

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