中国は「世界の工場」から「世界の工場の廃墟」へと確実に転落している。

「一帯一路」は大丈夫なのか
 先週17日と18日、中国が「今年最大の外交イベント」と位置づけてきた、第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが、北京で開催された。
「一帯一路」とは、2013年秋に習近平主席が提唱した、中国とヨーロッパを陸路(シルクロード経済ベルト)と海路(21世紀海上シルクロード)で結び、インフラ整備などをユーラシア大陸全体に広げていくという広域経済圏構想だ。いまは、アフリカや南米にまで広がったと、中国政府は吹聴している。
 今回の2日間にわたったビッグイベントには、中国側の発表によれば、151ヵ国と41の国際機関の代表が参加。国家首脳23人を始めとする1万人以上が、972億ドルのビジネス契約と、458項目の合意成果を得て閉幕した。このイベントを主催した習近平主席は、2日間、まさに「ユーラシア大陸の皇帝様」のように振舞ったのだった。
 しかしながら、このイベントを報じた日本の主要メディアの論調は、おおむね否定的で、以下にような見出しが躍った。
・“習近平氏の誤算?” 中国「一帯一路」10年 どうなった?(NHK)
・退潮隠せぬ一帯一路 プーチン氏と同席嫌う各国―円卓会議見送り・中国(時事通信)
・途上国を借金漬けにする「債務のわな」に懸念、中国「一帯一路」方針転換か…フォーラム参加国は過去最少(読売新聞)
・中国の外交力強めたが、審査甘く借金漬けも 「一帯一路」四つの疑問(朝日新聞)
・一帯一路、「量から質」転換は誤算の裏返し 中国も「債務のわなに」(毎日新聞)
・岐路に立つ「一帯一路」、10周年首脳会議リポート(日本経済新聞)
・一帯一路、共同声明なし 会合、前回より首脳参加減る(産経新聞)
・中国「一帯一路」提唱から10年…15兆円超が不良債権化との推計も(東京新聞)
 このように日本では「一帯一路」フォーラムについて「マイナス報道一色」とも言える状況だったのである。こうした記事を読むと、「習近平の『一帯一路』は、もう終わりだ」「最近の中国は経済もダメだが、外交もダメになったものだ」――そんな印象を抱いてしまう。
 だが私は、まったく別な視座から、「一帯一路」フォーラムを注視していた。それは、「習近平の『強運』がいまだ続いているか」という視点だ。

「習近平政治」を形成するもの

 習近平が、実質上の中国トップである共産党総書記に上り詰めたのは、2012年11月15日の「1中全会」(中国共産党第18期中央委員会第1回全体会議)で、私はこの大会を、北京の人民大会堂2階の記者席から目撃した。以後、この11年近くというもの、習近平総書記の公の場での言動を、つぶさにフォローしてきた。
 その結果、「習近平政治」というものの輪郭が、おぼろげながら分かってきた。それは大ざっぱなイメージで言うと、「内核」と「外膜」から成っている。
 内核を形成するのは、「毛沢東的権力闘争史観」である。「革命を継続せよ」と唱え続けた毛沢東主席は、1976年に82歳で死去するまで、「中南海」(北京の最高幹部の職住地)で権力闘争を続けた。
 習近平という指導者は、明らかにこうした「毛沢東的遺伝子」を受け継いでいる。そのため、常に「権力闘争史観」に立たないと、いまの中国政治は理解できない。
 一方、外膜を形成すると私が思うのは、比類なき「強運」である。これももしかしたら、「生涯で一度もケガしたことがない」という伝説を持つ毛沢東主席とつながるのかもしれない。
 とにかく、この11年弱というもの、習近平総書記がピンチに立たされると、常に「外部から何かが起きて救ってくれる」のである。それは内政、外交問わずだ。
 いくつか実例を挙げよう。まず内政については、昨年10月の第20回中国共産党大会で、本来なら「2期10年」を務めあげた習近平総書記は、政界を引退しなければならなかった。実際、8月前半に河北省北戴河(ほくたいが)で一年に一度だけ顔を合わせる長老グループは、揃って「引退勧告」を突きつけた。
 だが当人は、辞めたくない。「隣国の友人」ウラジーミル・プーチン大統領のように、半永久政権を築きたい。
 そんな時に、「宿敵」アメリカから、ナンシー・ペロシ下院議長が台湾に降り立ったのだ。すると習近平総書記は、ことさら大仰に人民解放軍の台湾近海での大演習を企図。「いまは有事である」として、政権を替えるべきではないという理由をつけて、「抵抗勢力」を押し切ってしまった。
 
続くピンチは、昨年11月の「白紙運動」である。
 3年に及んだゼロコロナ政策に業を煮やした若者たちが、北京や上海で立ち上がり、「習近平は下野せよ!」「共産党は下野せよ!」と声を挙げた。こんなことは、1989年の天安門事件以降、33年ぶりで、これが中国全土に広がれば、政権崩壊につながる。
 そうかといって、天安門事件の時のように、若者に銃口を向けるわけにはいかない。習近平政権は一体どうやって収めるのかと注視していたら、何と国内で最大の「政敵」だった江沢民元総書記が、11月30日に96歳で死去したのである。
 習政権は渡りに船とばかりに、「全国民が一週間、喪に服す」として、14億中国人が持つスマートフォンの画面を「白黒」にした。これで「白紙運動」は、たちまち萎んでしまったのである。

外交についても、一例を示そう。

 2015年11月15日と16日、トルコのアンタルヤでG20(主要国・地域)サミットが開かれた。この時のG20の主要議題は、「中国叩き」だった。中国は南シナ海で人工島を7つも作り、国際社会は非難轟轟だった。また中国株の大暴落、人民元の突然の切り下げによる「人民元ショック」などで、中国経済に対する疑心暗鬼は、頂点に達していた。
 習近平主席にとっては、大変頭の痛い外遊だったが、逃げるわけにもいかない。すると、G20開催の二日前に、パリで同時多発テロが起こったのである。死者130人、負傷者300人超という大惨事で、G20は一転して、テロへの非難や対策一色となった。中国叩きなど、どこかへ吹き飛んでしまったのだ。
 いま3つ例を挙げたが、事程左様に、「困ると何かが起こって助けてくれる」のが、習近平政権の常なのだ。

習近平主席が行った「二つのスピーチ」

 そこで、話を戻して今回の3回目の「一帯一路」フォーラムである。冒頭の日本メディアの見出しが示すように、確かに「ピンチの一帯一路」だった。
 前回2019年4月の時は、38ヵ国の国家元首クラスの首脳が勢揃いしたのに、今回は23ヵ国。会期も前回は3日間だったのに、今回は2日に短縮。習近平主席がこだわった「円卓での会議」も実現せず、共同声明すら出せなかった。
 しかし、である。私は習近平主席が行った「二つのスピーチ」を、CCTV(中国中央広播電視総台)のインターネット中継で見たが、心にズシリと響いたのだ。
 一つ目は、10月17日晩に人民大会堂で行われた歓迎宴会での祝辞である。習主席は、次のように述べた。
「レディース・アンド・ジェントルメン・アンド・フレンズ! いまの世界は太平とは言えない。世界経済は下降圧力が増大し、全世界の発展は多くの挑戦に直面している。
 しかしわれわれは、堅く信じていこうではないか。平和・発展・協力・共栄という歴史の潮流は、阻むことができないと。人々の麗しい日常生活は、阻むことはできないと。各国が共同で発展・繁栄していく願いを実現することは、阻むことはできないと。
 それには、われわれは協力関係を堅く守るという初心に返り、発展していく使命を銘心しさえすればよいのだ。そうすれば、共に築くハイレベルの『一帯一路』に、時代の光彩を放つことができるのだ。われわれが共同で努力し、人類のさらに美しい未来を切り拓いていこうではないか!」
 二つ目は、翌18日の午前11時過ぎ(日本時間)から、人民大会堂で行われた基調演説で、こちらは33分にわたって、落ち着いた口調で述べた。その要旨は、以下の通りだ。
 「今年は私が『一帯一路』を提唱してから10周年だ。その心は、古代のシルクロードにちなんで、互いの連通を主線とし、各国と政策の疎通、設備の連通、貿易の流通、資金の融通、民心の互通を強化していくものだ。それによって、世界経済の成長に新たなエンジンを注入し、全世界の発展に新たな余地を切り拓き、国際経済の協力に新たなプラットフォームを作り上げていくのだ。
 『一帯一路』の提携は、ユーラシア大陸からアフリカ、ラテンアメリカにまで伸びていき、150ヵ国以上の国と、30以上の国際機関が『一帯一路』を共に築き上げる協力文書に署名した。『一帯一路』の提携は『大きな構図意図』から、『筆入れ』の段階に入ったのだ。企画図は実際の景色へと転化したのだ。
 開放的でグリーンで清廉な、ハイレベルで民生に持続可能な『一帯一路』を、共に商い、共に建て、共に享(う)けるというのが、重要な指導原則だ。
 10年来、われわれは力を尽くして、鉄路・道路・空港・港湾・パイプライン網などを作り、陸・海・空・ネットの全世界の相互通信網をカバーしてきた。各国の商品・資金・技術・人員の大流通を有効に促進し、千年にわたって続いたシルクロードに、新時代の新たな活力を与えてきた。
 中国は各国に向けて、100億枚以上のマスクと23億回分のワクチンを提供し、20ヵ国以上でワクチン生産の協力を行ってきた。われわれが深く知ったのは、人類は相互依存する運命共同体だということだ。世界がよくなってこそ、中国もよくなれる。中国がよくなれば、世界はもっとよくなれる(世界好,中国才会好;中国好,世界会更好)。
 中国はすでに、140以上の国と地域にとって主要な貿易パートナーであり、ますます多くの国にとって投資を受ける主要国となっている。皆が互いに友でありパートナーとして、相互尊重・相互支持・相互成就となれば、バラを贈ればその手に香りが余るように、他者を成就させることも自己を助けることなのだ。
 イデオロギーの対立を起こさず、地政学の無茶な衝突を起こさず、グループ政治による対抗を起こさず、単独制裁に反対し、経済的な威圧に反対し、デカップリングやサプライチェーンの断絶に反対していく。10年の歴史過程が証明しているのは、『一帯一路』を共に作ることは、歴史の正しい道のりの一つであり、時代が進歩していくロジックに合致しているということだ。この道を歩んでいくことは、人間の正道なのだ。
 私は、8項目の行動を提唱したい。(中略)近未来の5年(2024年~2028年)で、中国の貨物とサービス貿易の累計は、おそらく32兆ドルを超える。中国国家開発銀行と中国輸出入銀行はおのおの、3500億元の融資窓口を開設する。(中国人民銀行は)800億元のシルクロード資金を増設する。今回のサミットフォーラムの期間中、企業家大会で計972億ドルの項目の提携協定を達成した。
『一帯一路』建設は中国に始まり、その成果とチャンスは世界に属する。『一帯一路』のさらに高品質で、さらに高水準の新たな発展を迎えようではないか。開放包容・互連互通・共同発展の世界を作り、共同で人類運命共同体作りを推進していこうではないか!」
 以上である。習近平主席はスピーチの他にも、26回もの首脳会談をこなした。
 具体的には、17日がカザフスタン、エチオピア、チリ、ハンガリー、パプアニューギニア、インドネシア、セルビア、ウズベキスタン。18日がロシア(プーチン大統領と3時間)、ナイジェリア、アルゼンチン、国連(アントニオ・グテーレス事務総長)、ケニア。
 19日がカンボジア、モンゴル、エジプト、トルクメニスタン、コンゴ、タイ、モザンビーク、パキスタン、新開発銀行(ディルマ・ルセフメット総裁)。20日がスリランカ、ベトナム、ラオス、ブラジルである。

またしても「神風」が吹いた

 この二つの演説を聴いていて、私が心にズシリと来たというのは、他でもない。イスラエル・パレスチナ紛争が勃発したことと関係している。昨年2月に始まったロシア・ウクライナ戦争に続き、いまや人類は二つ目の大型戦争に入ろうとしている。
 世界の「米中ロ3大国」のうち、アメリカはウクライナに武器と軍事情報を提供し、今回またイスラエルに同様のものを与えようとしている。ロシアはウクライナに侵攻した当事者であり、パレスチナのハマス側が軍事的に頼るのも、結局はロシアということになるのだろう。
 そのようなアメリカとロシアに比して、中国だけは、この二つの悲しむべき戦争に、軍事的な関わりを持っていない。中国のロシアとの今年の貿易額(1月~9月)は、前年比で29.5%も増えているが、殺傷能力のある武器は提供していない。
 今回、プーチン大統領が北京へ来て、習近平主席と「42回目の首脳会談」に臨んだが、そこでもおそらく、殺傷能力のある武器を提供するとは約束していない。
 本来なら、冒頭の日本メディアがこぞって指摘しているように、「一帯一路」は10年前に習近平政権が思い描いていた理想とは程遠いし、すでにヒビ割れてもいる。「カネの切れ目が縁の切れ目」とばかりに、中国から離れていった国もある。
 特に、中国が「一帯一路の終着点」と位置づけるヨーロッパで国家元首級の首脳を派遣したのは、ハンガリーとセルビアくらいのものだった。G7(主要先進国)で唯一、「一帯一路」の協定に署名していたイタリアも、今回は参加を見送った。ジョルジャ・メローニ政権は、今年中に「一帯一路」から離脱するとも言われている。
 だが、世界情勢は、対象国を個別に見る「絶対的分析」も必要だが、現実には広く俯瞰した「相対的分析」によって判断されるものだ。現在の「戦争まみれ」の世界の中で、改めて習近平主席の愚直なスピーチを聴くと、「この10年で『一帯一路』はインフラ整備を積み上げてきた」「共に手を携えて『人類運命共同体』を作ろうではないか」といったセリフが、妙に説得力を持ってくるのである。
 確かに中国は、この10年というもの、戦争を起こしていない。人民解放軍がどこかの戦争に積極的に加担したということもない。習近平政権が行ってきたのは、「一帯一路」の名のもとに、発展途上国にカネを貸し、中国企業が進出してインフラ建設を進めたことだ。「壊す」のではなく、「建てる」側だったのである。
 前述の「習近平の強運」という論点から見れば、本来なら今回の3回目の「一帯一路」フォーラムは、「ボロボロの大会」になるリスクを孕んでいた。何せ開幕の一週間前まで、日程さえ正式発表できなかったくらいだ。
 それがやはり今回も、「習近平にとっての神風」が吹いたのだ。すなわち、10月7日に突如として起こったハマスによるイスラエル攻撃と、それに対するイスラエルのガザ地区への報復攻撃である。

つくづく「持ってる男」

 この降って湧いたような中東危機に、「米中ロ3大国」の中で最も慌てたのは、アメリカである。アントニー・ブリンケン国務長官が急遽、11日~16日に中東を訪問し、18日にはジョー・バイデン大統領が自ら、イスラエルを緊急訪問した。
 だが、アメリカがイスラエルに加勢すればするほど、世界のアメリカを見る目は冷ややかになっていくようにも映る。イスラエルは、発生当初こそ「被害者」だったが、現在は「加害者」の側だからだ。
 そのことを象徴したのが、18日に国連安全保障理事会で行われた、ブラジルが提出した即時停戦決議案に対する採決だった。何とアメリカが反対し、拒否権を行使して葬り去ったのだ。「イスラエルによる自衛権の行使を妨げる」というのが、その理由だった。
 これに対して、国連パレスチナ常任オブザーバーのリヤド・マンスール氏は、怒りをぶちまけた。
「この理事会が2日前に停戦を呼びかけていれば、何百人もの命を救うことができただろう。とにかく、いますぐ流血の事態を止めてくれ!」
 17日にガザ地区のアル・アハリ病院が砲撃を受け、500人近い無辜の人々が犠牲となったばかりだけに、マンスール氏の言葉には重みがあった。
 ともあれ、繰り返しになるが、「米中ロ3大国」のうち、ロシアは現在、戦争中である。アメリカは、ウクライナに武器などを提供しているばかりか、中東で今後起こりうる戦争に、加担しようとしている。
 そうなると相対的に、「一帯一路」や「人類運命共同体」の提唱者である中国の世界における存在感が、高まっていくのである。特に、グローバルサウスと呼ばれる発展途上国においては、そうである。いや、先進国においても「中国の方がマシではないか」と共感する人が出てくるだろう。
 加えて、過去5年間、「中国封じ込め」を実行してきたアメリカも、微妙に態度を変えざるを得なくなる。ロシア・ウクライナ、イスラエル・パレスチナという「2つの戦争」に加担しながら、「中国封じ込め」も同時に行う「3正面作戦」は、いまのアメリカの国力では無理である。
 そもそも中東問題を解決するには、中東の多くの国にとって最大の貿易相手国である中国を敵に回すわけにはいかない。2001年の「9・11事件」後のアメリカの二つの戦争――アフガニスタン戦争とイラク戦争も、「後背地」の中国を説き伏せたことで勝利に導けた。
 というわけで、今回も習近平主席に「強運」がもたらされた。つくづく「持ってる男」だと思う>(以上「現代ビジネス」より引用)。




 近藤大介(『現代ビジネス』編集次長)氏が「中国「一帯一路」フォーラムのスピーチに感じた習近平主席の「強運」…この男の“ツキ”はいつまで続くのか」と習近平氏への礼賛記事を自身が編集次長を務める雑誌に掲載した。
 「持ってる」という言葉が流行ったが、それは実力以上にチャンスや危機に強い、という「強運」という意味だ。しかし習近平氏は強運と云えるのだろうか。

 今回の一帯一路会議は主要国の首脳はほとんど姿を見せなかった。唯一「大国」ロシアのプーチンが訪れたが、彼の訪中目的は対ウ戦争の支援要請だろうことは想像に難くない。果たしてそうだったようで、習近平氏から確たる支援約束を取り付けられなかったプーチンは肩を落としてロシアへ帰って行った。
 前回の一帯一路会議が世界各国から中国に経済支援要請のオンパレードで、それに対して習近平氏は気前よく大枚をばら撒いた。しかし、後になって、それが投資の罠だったと気付いて、一帯一路参加国の熱は一気に冷めてしまった。

 プーチンが三日で片づけるから、お前も台湾へ軍事侵攻しろよ、と持ち掛けて「オウ、任せとけ」と習近平氏も元気に応じたであろうが、しかしプーチンがウクライナ戦争で躓くと、習近平氏も「戦狼外交」で躓いてしまった。
 プーチンが地下資源売却による外貨流入を「国力」と勘違いしたように、習近平氏も「世界の工場」を経済大国だと勘違いしていた。国際協調あっての資源輸出であり、「世界の工場」だと認識すらしてなかった二人のバカさ加減に世界中が呆れ返っている。

 なぜ私が中国は「世界の工場」から「世界の工場の廃墟」になると断言しているのか。それは富士康(フォックスコン、中国での商号は「鴻海」)の実例があるからだ。現在、富士康は当局から不正を追及されているが、それは財政難に喘ぐ地方政府の常套手段で、罰金を取り立てるのが主な目的だ。しかし富士康の場合は少し事情が違っているようだ。
 富士康の創業者は台湾人の郭台銘氏で、来年の台湾総統選に個人で出馬するのではないかと噂がある。そうすると民進党に対立する親中派の国民党にとって不利になるという。だから当局は郭台銘氏に国民党の総統候補を支持するように圧力をかけているという。

 もちろん富士康は深圳に巨大な企業グループを形成し、総従業員100万人以上を雇用する。富士康が製造しているのはAppleのiPhoneだが、現在米国の半導体規制もあってベトナムやインドへ企業を移転中だ。それもあってか、郭台銘氏は当局が富士康を接収するのなら「どうぞ」と意に介してないという。
 しかし本質は「世界の工場」の中身にあるようだ。つまり富士康が製品に組み立てている部品の内、米国製が33%で韓国製が29%で日本製が10%を占めていて、電池やカメラ液晶などは韓国や日本からの輸入で、半導体は台湾からの輸入だという。従って中国内から調達しているのはネジやシールやゴムやノリといったもので。価格構成の2.5%を占めているに過ぎない。だから、たとえ深圳の富士康を接収して中国当局で工場を稼働したところで、必要な部品は2.5%しか手に入らず、完成品としてのiPhoneを製造することは出来ない。つまり製造ラインは「廃墟」になるだけだ。

 富士康だけではない。日本の主力企業も相次いで中国から撤退している。工場と製造ラインは中国に置いてきたが、その製造ラインを使って中国が製造できるか、というと大なり小なり事情は富士康と同じだ。肝心要の部品供給がなければ、日本企業が製造していた製品が製造できるわけはない。
 近藤大介は「中国「一帯一路」フォーラムのスピーチに感じた習近平主席の「強運」…この男の“ツキ”はいつまで続くのか」と習近平氏がツイているかのように思っているが、それは飛んだ勘違いだ。不動産バブル崩壊は極限にまで達して誤魔化しが利かなくなっているし、不良債権処理しないまま巨額債務を抱え込んだまま金融崩壊にまでドミノ倒しが波及しようとしている。

 中央政府から見放された各地の地方政府は事実上のデフォルトに陥って、公務員給与の遅配や未配が全国的に起きている。いや財政難に陥っているのは中央政府も変わりない。だから官僚たちの給与を30%カットした。もちろんボーナスはナシだ。
 そして習近平氏にとって不幸なのは、彼に最大のツキを呼んでいたバイデン氏が来年限りでホワイトハウスから去る情勢にあることだろう。既に中国市場で散々儲けたウォールストリートのDSたちが投機資金を中国から引き揚げつつある。用済みの使い古した歯磨きチューブのように、DSたちは中国をアッサリと見捨てた。だからウォールストリートジャーナルやニューヨークタイムズなどが今年に入って中国の凋落ぶりを報じ始めた。碁で云えば、習近平氏はダメが詰んでいる。彼に残された道は一日も早く退陣して、「改革開放」派に政権を明け渡すことだけだ。

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