インドのIT大国への道を阻むもの。

「世界最大の民主主義国家」は本当か
 聖なるガンガー(ガンジス河)で沐浴する人々で有名な北インド東部ウッタル・プラデーシュ州のバラナシに来た。気温35度とうだるような暑さだが、大通りはひとであふれ、インド的な喧噪はすさまじい。
 ナレンドラ・モディ首相のポスターをあちこちに見かける。街ゆく人は「モディさんはよくやっている。来年の総選挙は彼のインド人民党(BJP)に入れるよ」と語る。それもそのはず、バラナシは国会議員でもあるモディ首相(出身は西部のグジャラート州)の選挙区だ。
「(インドは)世界最大の民主主義国家」とインドの指導者はことあるごとにいう。もちろん中国とは違うと言いたいがためだ。だが、選挙で政権交代がありえる民主主義国家ではあっても未熟な面は否めない。
 北東インドでミャンマー国境と接するナガランド州。昨年の地方選では、直前に道路が舗装され、与党のインド人民党が勝利した。民主主義と言っても票をモノで釣る姿勢は露骨だ。
 インドの最貧地域といえる同州に1年住んだ日本人は、「ミャンマーに接しているせい
か、顔つきは日本人そっくり。キリスト教地域でカーストの階級差別はなく、教育水準も高い。ヒンディーなまりのデリーのインド人よりよほどきれいな英語を話す」という。

形骸化する政教分離の原則

 モディ首相の選挙区バラナシでも80億ルピー(約360億円)をかけて、ヒンディー教寺院が建設された。その竣工式にモディ首相は出席し、繰り返し寺院建設がいかに大切かを説き続けた。宗教的な対立からパキスタンと別々に分離独立せざる得なかったインドはその反省から1947年の独立以来「政教分離(世俗主義)」が国是だ。
 だが、与党インド人民党の政治家は宗教行事への出席になんの抵抗感もない。なにしろヒンディー教徒は10億人の大票田だ。対抗するように野党の国民会議派の幹部たちもヒンディー寺院を訪問するようになっている。「政教分離」の伝統は崩れ去ろうとしている。
 ヒンズー教徒におもねるように、最大の宗教的ライバルといえるイスラム教徒への「弾圧」が加速している。インド人民党が政権を取っているウッタルプラデーシュ州では、2021年11月に「違法改宗禁止条例」が施行された。イスラム教徒男性と結婚するヒンズー教徒女性がイスラム教に改宗することができなくなってしまった。強まるばかりの「ヒンディ・ナショナリズム」が政治を動かしている。
 世界に名高い階級制度カーストは、その影響下でヒンズー教が育ってきたという学者もいるほど。3000年以上もインドに根を張ってきたカースト制度が労使の対立を激化させる例も少なくない。
 たとえば、インド最大の自動車メーカーで日本のスズキ自動車の子会社、マルチ・スズキ。1981年に当時のインディラ・ガンジー首相の招きに応じ、インドの自動車会社に大型出資し、その後規制緩和のなか出資比率を58%にまで引き上げた。
 マルチ・スズキのデリー郊外マーネーサルにある第二工場では、2012年7月にインド人の人事部長が亡くなる暴動が起こっている。班長とある正規労働者がもめ、班長がカースト名(ダリット=不可触民)を使って差別的な発言をした。これに正規労働者がキレ、暴力をふるった。
 正規労働者は停職処分となったが、班長はおとがめなしだった。怒った労働者100人が
事務所に押し入って乱闘となり、放火した。人事部長は乱闘で骨折していたため、逃げられずに焼死した。

再来するインドブーム

 社内では収集がつかず、警官隊が導入されていたため、149人が逮捕された。操業は一
カ月も止まり、50億ルピー(85億円)の損失がでた。148人が起訴され、2017年の判決では13人が殺人罪、18人が暴動罪で有罪となった。
 暴動直後から「マルチの暴動は、モディの『Make in India』に水を差す」(印エコノミック・タイムズ)と国外からの投資減退の懸念が出た。実際、外資は労働運動が強い地域を避け始めているようにみえる。
 スズキ自動車はこれまで首都ニューデリーの郊外に工場を立地していたが、ついにモディ首相の出身地、グジャラート州に最新工場を新設すると発表した。強力な権力を握っているモディ首相への配慮とともに、紛争が起こりやすいヒンディー色の強いデリー周辺を避けたとみられている。
 判決以降、日本企業のインド進出件数は頭打ち傾向がでたが、いまは再びインドブーム。米中対立の結果、中国への国外からの直接投資が急減しているが、反比例するようにインドへの投資、工場進出は増えている。日本企業の取締役会で、「うちのインド戦略はどうなっているのか」と聞くのがはやりだ。
 いまの高成長が維持できれば、2029年にはGDPで日本を抜く。米中に続く世界3位の「大国」になる。隣国パキスタンとの緊張関係が続いていたこともあって、インド軍は正規兵力が100万人を超え、約200万人の中国人民解放軍についで世界2位。すでに軍事大国でもある。もし欧米亜からの工場進出が滞れば、中国を上回る成長率7%台という高成長にたちまちブレーキがかかる。
 GDPでは大国でも、世界最大の14億人の人口ゆえに、一人当たりGDPは2022年で2300ドルとアジアで最貧国のレベルだ。街を歩いていても日本の昭和30年代、映画『3丁目の夕日』並みの物的貧しさが否応なく目に入る。
 インドの飲食店はいま、ストローはほぼ紙になっている。環境保護のため先進的な取り組みが始まったが、道路にはプラスチックごみがそこらじゅうにあふれている。コンビニ店のおばさんが店内に落ちているスナック菓子のプラスチック包装袋を道に投げ捨てるような光景には、しょっちゅう出くわす。先進施策の一方で、ごみを放置する途上国ぽい文化は少しも変わらない。

激化するイスラム教徒との対立

 ヒンディ・ナショナリズム勃興の裏には、インド人民党の後ろ盾、ヒンズー教至上主義の「民族奉仕団(RSS)」の存在がある。モディ氏もRSSの活動家として認められ、政界に進出できた。
 ちょうど公明党に対する創価学会のようなもので、人民党はRSSの政治部門としてスタートしている。公明党が創価学会を国教にするため政界進出したように、ヒンズー教の国家宗教化をめざしている。
 選挙に強い。組織力を票集めに集中させ、人民党候補を次々と当選させ、人民党政権を実現した。
 そんな風だから、モディ政権下では、ヒンズー教に次ぐ2番目の勢力であるイスラム教
徒への「弾圧」は収まることを知らない。2019年に総選挙でモディ氏が勝った直後の8月、イスラム教徒が多い北部のジャンムー・カシミール州に対する優遇措置は廃止され、連邦直轄地にして、自治権を取り上げた。
 抗議デモが頻発、警官隊と衝突し、2020年3月までに65人が死亡し、3000人以上が拘束された。予定していた安倍晋三首相(当時)の訪印はキャンセルされた。カシミールは事実上インドが占領しているとはいえ、パキスタンが領有の主張を取り下げてはいない。一方的な「直轄地」化は、日本が尖閣諸島を「国有化」して日中関係が大荒れとなったときと似ていなくもない。

高い支持率を維持

 2024年3-5月ごろには5年ぶりの国政総選挙がある。コロナによるロックダウンで経済はずたずたになったが、モディ首相の人気は高く、3選が濃厚だ。モディ首相は独立記念日の8月15日、「(モディ政権が発足した)2014年に10位だったインド経済規模は5位に浮上した」と実績を強調しつつ、3期目をめざすと表明した。
 とはいえ、選挙はみずもの。前回の2019年総選挙では、モディ氏敗北との見方が優勢
だった。しかし、直前になってテロが発生、モディ政権はパキスタン内のテロ組織訓練地を空爆し、一気に人気が沸騰して大勝利となった。
 選挙での勝利を確実にするため、ヒンズー教徒に訴求力のある、イスラムたたきの政策がさらに増えるだろう。目先の政治的利益のため、それが続けば国内の対立は深まる。ひいては外資が進出を躊躇して、7%成長が鈍りかねない>(以上「現代ビジネス」より引用)




 「インド・モディ首相の「ヒンディ・ナショナリズム」が止まらない!」と題する土屋直也氏(ジャーナリスト)の論評を取り上げる。経済評論家たちは30年以上も前から「インドはIT大国」になる、と予測している。しかし一向にIT大国になる気配はない。それどころか人口では中国を抜いたといわれるが、GDPは約3兆ドルで中国(約14兆ドル)の足元にすら及ばない。
 しかも土屋氏は題の通り「ヒンディ・ナショナリズム」がインドを席巻している現状に「本当の民主主義国家」かと疑問を呈している。それは恰も「政教分離」を謳っている日本で創価学会を母体とする公明党が政権与党に入っている日本の現状と重ね合わせているようだ。

 なぜインドが長らく経済発展で足踏みしていたのか。それはインド社会に問題があるからではないか。経済発展するのに必要な条件は民主主義国家であることだ。そして自由と人権が尊重される社会でなければ経済活動が阻害され、経済発展は望めない。
 その例が中国だ。「改革開放」で外国資本と外国企業を呼び込んで「見せかけの経済」発展を遂げたが、「改革開放」策を排すと、たちまち外国資本と外国企業が中国から撤退して、中国は「蛻の殻」になってしまった。

 本論評の本筋から外れるが、断っておきたいのは土屋氏の「日本が尖閣諸島を「国有化」して日中関係が大荒れとなった」という下りに関しては異議を唱えておきたい。尖閣諸島を国有化しようが民間名義のままであろうが、日本の領土であることに変わりない。国有化したことに反発した中共政府の領有権と土地の所有権は別物だという理解がなされていない、無知蒙昧さを世界に知らしめただけだ。
 日本の土地を中国人が買えはそこが中国領土になるのか。そうならないことくらいは理解できるだろう。しかし中国は尖閣諸島を日本政府が買い上げたことで怒り狂った。そんな中共政府の中国が世界から尊敬されないのは当たり前ではないだろうか。

 インドでは未だにヒンディ教に基づく階級制度が存在している。身分制度「カースト」の上位から「バ ラモン」(司祭者)、「クシャトリヤ」(王族)、「バイシャ」(庶民)、「シュ ードラ」(隷民)の 4 つを基礎に、現在では 2000 以上のカーストが存在す ると言われる。その階級を飛び越える手段は選挙で当選して政治家として活躍することが最も手っ取り早い。モディ首相はヒンディ教徒から支持されて首相となっているが、彼は最下層とされるシュードラの出自だ。
 当然ながらモディ首相はイスラム教徒たちと激しく対立するしかない。つまりパキスタンと仲良くなることは極めて困難だ。またインド国内でもヒンディ教以外の宗教弾圧を禁止するのもモディ首相の在任中は困難だ。

 さらにインド社会に暗い影を落としているものに女性差別がある。インドの男女比はごく一部の地域を除き全域で男性の人口が女性の人口を上回っている。インドのある村では、ある年の3か月間で216人の赤ちゃんが生まれているが、全てが男の子で女の子は一人もいなかったという出来事も起こっているという。
 またインドでは、カースト制度の影響から、結婚時に新婦側の家族から新郎側の家族へダウリーと呼ばれる贈答をする風習がある。ダウリーの具体的な金額はインド人の大卒男性の初任給が約6250円なのに対し、25万円から500万円にも上ると言われている。このため、インドでは女の子が生まれるとその家の経済的負担が非常に大きいため、多くの貧困家庭では女の子を妊娠していることが分かれば中絶し、誕生した場合は間引くという。

 ヒンドゥー教の古い慣習の一つであるサティは、夫に従順な妻が夫の死後殉死することが美徳という考え方で「貞節な妻」を意味します。ヒンドゥー教では、女性の人格は認められておらず、夫が亡くなり火葬する際、自分も同じ火により焼死することを厭わないとされています。この残酷な慣習は1829年まで続いたが、現在では禁止令が出されている。
 またインドの深刻な問題として児童婚がある。ヒンドゥー教では処女性を重んじるため、かつて未婚の娘は家の中で大事に保護されている。経済的に生産性のない家族を一人抱えることは家族にとって経済的な重荷となるため、早く結婚してくれた方が家族の負担が少なくて済むということが、児童婚の始まりだと言われている。さらに、結婚時には上記で述べたようなダウリーという多額の贈答が発生します。ダウリーは、娘の年齢が低ければ安くなるため、なるべく早く娘を結婚させたほうが家庭の経済的なダメージを軽減することができるのです。このような理由から、地方や貧困家庭での児童婚が後を絶たず、女性の社会進出を阻む大きな原因になっている。

 インドの国際社会化やIT先進国への道を阻むのは、こうしたヒンディ教に基づく様々な社会慣習だ。なぜ世界的に数学教育が進んでいるインドで先端産業が盛んにならないのか。IT先進国にならないのか。それはインド社会に根付いている宿痾のようなヒンディ教に原因がある。
 インドは民主主義国家か否かを問う前に、インドでは全ての人々の人権が尊重され、思想信条の自由と表現の自由が保障されなければならない。インド社会がヒンディ教を乗り越えなければ、インド経済発展や国力の躍進などあり得ない。モディ首相は自らの選挙基盤を崩しかねない社会改革を断行しなければ、明日のインドの発展はないだろう。

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