中国は「世界の工場」から転落したのではない。「世界の工場」が中国から移転しただけだ。

“世界の工場”の地位から陥落した
 最近、世界の主要企業が中国から脱出し始めている。1990年代以降、中国はグローバル化の加速などを追い風に“世界の工場”としての地位を高めた。しかし、ここへきて人件費の高騰などもあり、明らかに中国はその地位から滑り落ちている。
 8月3日、花王は中国でのベビー用紙おむつの生産終了に伴いリストラ費用として80億円を計上すると発表した。海外企業では、米フォードやインテルがリストラを実施した。フォードは追加のリストラ観測もある。韓国サムスン電子やLG電子も中国での生産体制を縮小した。軽工業から重工業、IT先端分野まで幅広い分野で、世界の主要企業の“脱中国”は鮮明だ。
 中国が世界の工場としての地位から脱落したことは、わが国の経済にプラス・マイナス両方の効果をもたらすだろう。半導体分野では台湾や米国などの企業が地政学リスクへの対応や、高純度の半導体部材メーカーとの関係強化などを狙い、わが国への直接投資を実施した。それは、わが国経済にとってプラスだろう。一方、中国向けの輸出減少は、マイナスに作用する。
 ただ、わが国はそうした変化を、わが国自身の経済成長率の向上につなげることを考えるべきだ。政府を中心として、リスクテイクをしっかりと支える産業政策を立案し、対内直接投資の誘致等に真剣に取り組むチャンスが来たといえる。

アパレル企業は中国→バングラデシュに

 このところ、中国での事業体制を見直す世界の主要企業は増えている。2月、わが国ではグンゼが中国ストッキング生産子会社での生産終了を発表した。会社発表によると、ゼロコロナ政策の長期化などによってストッキングの需要は大きく減少した。グンゼはストッキングの生産を九州グンゼに移管した。
 世界のアパレル業界でも中国から他の国や地域に生産拠点を移す企業は増えた。スペインのインディテックス(ザラの運営会社)や米ギャップなどはバングラデシュなどより人件費の低い国で生産体制を強化した。
 自動車分野では、7月にマツダが一汽乗用車(第一汽車集団の子会社)への生産委託を終了したと報じられた。2003年3月からマツダは一汽乗用車に多目的スポーツ車(SUV)などの生産を委託した。しかし、ゼロコロナ政策が長引いたことや不動産市況の悪化などを背景に、中国市場の需要減少は想定を上回った。韓国の現代自動車も同様の理由により中国の一部工場を閉鎖した。

米キャタピラーは「想定した以上に深刻」

 建設機械の分野でも中国事業の見直しが急ピッチで進みつつあるようだ。リーマンショック後、米キャタピラーは中国で油圧ショベルなどの生産能力を増強した。道路や鉄道などのインフラやマンションの建設などは増え、建機の需要が拡大するとの期待は急上昇した。
 しかし、今年8月上旬、同社は中国の需要減少は想定した以上に深刻との見方を示した。キャタピラーがコストの圧縮を目指して中国の生産能力の削減に取り組む可能性は高まっている。わが国では、コベルコが中国の生産能力を引き下げ、固定比を圧縮した。
 軽・重工業分野に加え、半導体などの先端分野でも中国から他の国や地域に生産拠点を移す企業は増えている。アップルの“iPhone”などの生産を受託する台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業は、インドへの直接投資を積み増した。
 半導体製造装置を手掛ける米アプライドマテリアルズもインドの事業運営体制を強化する。チップを製造する台湾積体電路製造(TSMC)、サムスン電子、インテルなどは、個社ごとに勢いの差はあるものの、日米欧などに対する直接投資を強化している。

“一人っ子政策”の代償は大きい

 世界の主要企業の脱中国が加速する背景には、中国でより効率的に付加価値を獲得することが難しくなったことがある。中国でモノを生産し、販売することによって得られる粗利を引き上げることは容易ではなくなっている。
 粗利を増やす方策は大きく2つある。コストを引き下げるか、販売価格を引き上げるかだ。前者に関して、世界の企業が中国での事業運営コストを引き下げることは難しい。2013年、中国の生産年齢人口(15~64歳)はピークに達した。2022年、人口も減少に転じた。
 “一人っ子政策”の負の影響は大きい。労働力の供給は減り、人件費は増加するだろう。中国にとって人口は経済成長を高めるプラスの要素から、成長を下押しする要因と化し始めた。
 人口以外の影響も大きい。2018年春、先端分野を中心に米中の対立が激化した。半導体、人工知能(AI)などのIT先端分野で米国は中国向けの輸出規制や技術供与をより強く制限した。コロナ禍の発生と強引なゼロコロナ政策によって、世界の企業は中国の政策リスクの高さを改めて認識した。それも世界の工場としての地位低下に拍車をかけた。
 ウクライナ紛争の勃発、異常気象などをきっかけとするコスト増加の影響も大きい。より安定した場所で、事業運営の効率性を高めようとする企業は増えている。

価格を引き上げても稼げない

 一方、中国市場で企業が価格を引き上げる困難さは増している。富裕層向けの高級ブランドなどを除くと、多くの分野で需要減少は鮮明だ。経済成長率の低下に加え、ゼロコロナ政策によって人々の防衛本能は高止まりした。
 2020年8月の“3つのレッドライン”実施以降、不動産市況の悪化に歯止めがかかる兆しも見出だしづらい。土地の譲渡益の減少によって、地方政府が景気対策を発動することも難しい。
 中国の家計は債務の返済を優先し、節約志向が高まった。企業がコスト増加に合わせて販売価格を引き上げ、一定の粗利を確保することは難しい。むしろ、より高付加価値の製品を生産して粗利を拡大するために、中国から脱出せざるを得ない企業は増えた。

中国の需要は飽和状態にある

 今後、中国向けの直接投資は減少基調をたどるだろう。コストの増加と需要減少に加え、共産党政権が海外の企業に製造技術などの移転を強要するとの警戒感も高まった。海外企業だけでなく、中国の民間企業も効率性の向上やより自由な事業環境の獲得を目指し海外進出を強化するだろう。
 価格競争の激化から逃れるためにも、主要企業にとって脱中国の重要性は高まる。4~6月期、中国のスマホ市場ではトップスリーの“OPPO(オッポ)”、“vivo(ビボ)”、“HONOR(オナー)”の出荷台数が前年同期の実績を下回った。4位のアップルは、もともと価格帯が高い中で値下げを実施したことが奏功し出荷台数が増えた。中国の需要は飽和し、民生と企業向けの両分野で値下げ競争の激化は避けられそうにない。
 主要先進国が産業政策を修正したことも大きい。わが国や米国、欧州委員会は経済安全保障体制の強化に欠かせない半導体の生産能力を引き上げるために、補助金政策を強化した。人口規模が小さい韓国や台湾の企業は、政策面からの支援を取り込みつつより多くの需要にアクセスするために、日米欧での事業運営体制を強化せざるを得ない。

これは日本にとってチャンスだ

 楽観はできないが、そうした変化はわが国経済の実力である“潜在成長率”にプラスの影響をもたらすだろう。熊本県ではTSMCによる直接投資をきっかけに産業が集積し、地方経済が急速に拡大し始めた。ラピダスが5兆円を投じて半導体工場を建設する北海道千歳市にもヒト、モノ、カネが急速に集まり始めた。
 米国の大手半導体メーカーも対日直接投資を増やした。マイクロンテクノロジーは次世代メモリ半導体の生産に向けて5000億円を投じる。インテルも対日投資の強化を検討していると報じられた。
 中国の世界の工場としての地位低下と対照的に、世界の企業はわが国の微細、高純度な“モノづくりの力”をこれまで以上に必要とし始めた。そうした変化を経済成長につなげるために、政府は米欧に引けを取らない規模、スピードで民間企業や個人のリスクテイクをサポートすることが必要だ>(以上「PRESIDENT」より引用)




 真壁 昭夫氏(多摩大学特別招聘教授)の「「世界の工場」のポジションは失われた…世界の主要企業が「中国脱出」を急いで進めているワケ 中国の「政治リスク」はあまりに高すぎる」と題する論評を引用した。今更ながら中国の「世界の工場」が幻影でしかなかったことを改めて強調したい。
 真鍋氏は中国が「世界の工場」から転落したワケとして「中国の「政治リスク」はあまりに高すぎる」と、その理由を掲げている。その点では全面的に同意する。しかし彼が掲げる「“一人っ子政策”の代償は大きい」の章で論述している内容には賛同できかねる。

 確かにGDPはすべての所得の合計でもあるから、人口減はGDPのマイナス要素であることに変わりない。しかし中国のGDPに占める個人消費割合は三十数%でしかなく、GDPの過半数は貿易が占めていた。真鍋氏が次々章の中国の需要は飽和状態にある」で指摘しているが、元々中国の消費市場は人口に比して余りに小さすぎた。
 それは中共政府の経済政策に関係している、というよりも、私有財産を否定する社会主義に根差している部分が大きいといわざるを得ない。確かに中国民の多くは過大なローンを組んでまで不動産を購入しているが、それらも50年~70年の地上権を購入しているに過ぎない。つまり本来なら政府が国民に保障しなければならない住宅を個々人に地上権を購入させて、期限が来れば強制的に政府が取り上げられる、いわば賃貸住宅の長期間一括払いのような仕組みで国民から富を巻き上げているに過ぎない。

 経済成長は生産性の向上で実現される。中国が経済発展したのは外国企業が中国へ移転して雇用を提供した以上に生産性が向上した工場を建設したからだ。それも自国ないし先進自由主義諸国への販売ルートがセットになった生産工場を進出させたからだ。
 中共政府はまさに「濡れ手に粟」状態で、たとえ無能な独裁者であっても「改革開放」政策を持続させれば、中国経済は躍進を続けられる状態だった。しかし習近平氏は愚かの上を行ってしまった。突如として「改革開放」政策を転換して、「戦狼外交」へと舵を切ってしまった。中国の強大な経済力があれば世界制覇も夢ではない、と白昼夢を夢見てしまった。

 習近平氏が鄧小平氏が提唱した「韜光養晦(とうこうようかい)」(爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦術)を廃して、「中華思想」(世界覇権を握る)の実現を宣言した。先進自由主義諸国は廉価な労働力を目当てに企業進出させたが、そのために中国に注いだ投資や生産設備はもとより、生産技術などが中国に奪われることを警戒しなければならなくなった。安全な生産ラインの移設地ではなくなった。
 中国の経済力は先進自由主義諸国の生産工場の移転によってもたらされたものだ。中国企業が自ら産業革命を起こして、新規製造技術を開発したわけではない。いわば「鉢植え」の生産工場でしかないから、鉢ごと移転させれば何も残らない。そのことに習近平氏は気付かなかった。だから半導体規制を受けるや、自国内で9nmや7nm半導体製造せよ、と数兆円もの開発補助金を用意して全国に呼び掛けた。しかし一年と経たずして2万社近い補助金を受けた企業の殆どが脱落して、残った数社の企業すら満足な半導体を製造できていない。現在では14nm半導体を製造できる、と豪語しているが、ロシアに輸出した半導体の不良率が余りに多く困っているという。

 中国の没落は日本のチャンスかといえば、必ずしもそうではない。確かにTSMCなどの半導体企業が日本へ生産工場を移転しているが、それは開発部門を伴ってでの移転ではない。生産ラインだけの移転なら、日本にとってそれほどの旨味はない。むしろ日本政府が本腰を入れて半導体分野の再開発を断行しなければならない。
 日本には半導体製造に必要な基礎素材や精密加工機械を供給する企業がある。だから政府が主導して半導体産業の復興を行えば、必ず投資に見合った成果が得られるだろう。マイナカードに数兆円投入する愚策が可能で、半導体産業復興投資が出来ない、ということはないはずだ。たとえマイナカードが政府の目論見通りに普及したところで、それから得られる経済的効果はタカが知れている。しかし半導体産業が復興したなら、雇用のみならずその経済的効果は計り知れない。

 真鍋氏が「中国の世界の工場としての地位低下と対照的に、世界の企業はわが国の微細、高純度な“モノづくりの力”をこれまで以上に必要とし始めた。」と指摘しているが、"モノ造りの力"を世界に提供するだけでなく、日本国内で活用して半導体産業を甦らせることが肝要だ。しかし経済界に「棚ボタ」は決してあり得ない、まずは政府が旗振り役と銀主を買って出なければ話は進まない。鉢植えで甘んじていたら、中国と同じ轍を踏むことになる。

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