プーチンはいつまで戦争の名を借りた大虐殺を続けるつもりだろうか。

<NATO首脳会議が終わった。ウクライナについて目新しい合意があったわけではない。「交戦中の国はNATOに加盟できない」、「NATOはこの戦争に直接介入しない」という基本線は、バイデン大統領が先頭に立って堅持された。ウクライナ軍がロシア領内を攻撃できる長距離兵器の供給も、これまで通り極力抑制される。
 目新しいことと言ったら、G7がウクライナ支援で前面に出たことだろう。ウクライナをなだめるための一時しのぎのことだとは思うが、今後G7が、麻痺している国連安保理の役割を代行することとなれば、国際政治、そして日本外交にとって非常に大きな意味を持つ。

NATOの立ち位置は不変

 ロシアや、その他世界の多くの理解と異なり、米国のバイデン政権はウクライナ戦争に直接加わることを拒否し続けている。ロシアと直接対決するのは、核攻撃を受ける可能性があるので、避けているのである。そしてウクライナ軍に長距離射程の兵器を供与して、彼らにロシア領内への攻撃を可能とすることも、極力控えている。NATOの欧州諸国の中ではポーランドなど、ウクライナ戦争への直接介入に前向きな国もある一方、ドイツ、フランスなど大多数はそれには後ろ向きである。
 この基本的な制約の中で、NATOの信用をどう守るか、そしてウクライナが過度の不満、失望感を持つのをどう防ぐか。これが今回、首脳会議の課題だったが、これはうまく「しのぐ」ことができた。「NATO・ウクライナ評議会」なるフォーラムを立ち上げて、ウクライナは加盟国と同等であることを示したし、加盟国はこれまでと同様、各国ができる支援をウクライナに対して続けることを共同声明でうたった。これは、停戦が成立した後も有効で、停戦後のウクライナの安全を保証することとなるだろう。
 これは今回NATO首脳会議の前から、「イスラエル方式」、つまり集団安全保障の枠組み外で、二国間の協力をベースに手厚い安保協力を続けるやり方として、諸方で議論されていたものだ。こうして今回のNATO首脳会議は、「ウクライナに加盟国の地位を安易に与えるのを避けつつ、同国の安全を保証していく」ラインをあらためて確立した。但しそれは、ウクライナに「更に戦え」と言うよりも、「停戦しても大丈夫」――ロシア軍による占領は認めたままだが――だと言っているように、筆者には聞こえる。

G7の変身・国連安保理に代わるものへ

 NATO首脳会議での大きな成果は、G7を前面に打ち出したことだろう。最近はインド、中国などが新たな経済大国としてはやされるが、技術・企業経営力など経済の実力でG7にかなうものはない。
 G7はもともと経済面での協力を念頭に立ち上げられたものだ。政治面では国連やNATOのような機構は持っていない。しかし政策協力、共同イニシャチブは敏速に打ち出すことができる。そしてそれは、G7の経済力、軍事力に鑑みて、非常に大きな力を持つ。
 日本は1933年、国際連盟から脱退して(日本は常任理事国だった)90年目にして初めて、国際安全保障取り決めの幹事役に返り咲いたと言える。これからG7が多国籍軍組成、あるいはPKOの核ともなれば、その重みは益々増す。G7は、機能不全を越えて死に体となった国連安保理に代わる「世界の警察官」の役割を担うこととなる。日本は年末までG7の議長国なので、できること、やるべきことは多い。
 もっとも、今回のG7合意が発表された場面をテレビで見ると、演壇中央でこれを発表する岸田総理の両脇に、他のG7諸国首脳、そしてゼレンスキー大統領が「?」という表情で立っている。岸田総理が日本語でスピーチしたためだろうが、この場面は、日本が西側の国際政治の場に加わろうとすると、彼らの共感を得ることは簡単ではなく、一方迎合して英語でスピーチをすると、今度は日本国内で浮き上がるジレンマがあることを示している。

ウクライナ軍、やはり苦戦

 今回のNATO首脳会議で、戦局は変わらない。ウクライナは当面、領土奪還戦を続ける。
 ロシア軍が縦深10キロ以上もの防御線を築いていることで、ウクライナ軍は苦戦している。まずカーペットのように地雷が敷設された地雷原を突破できたとしても、今度はジグザグに掘られた塹壕が待ち構える。ジグザグのポケットに入り込むと、左右両側から射撃される。これを越えると、ロシア軍の堡塁が待ち構え、これを突破しても、次の地雷原・塹壕・堡塁の3点セットがさらに二つもあるのだそうだ。
 しかし運よく、どこかで防御線を突破できると、士気と訓練を欠くロシア兵が蜘蛛の子を散らすように逃散する可能性がある。アゾフ海北西岸にクリミア半島に至る回廊を確保しているロシア軍に、そうやってくさびを打ち込むことができれば、ロシアにとってクリミア半島の防御は難しくなり、ロシアの方から停戦を申し出ることになろう。
 しかし、ウクライナ軍は苦戦している。ロシア側は、6月4日以来、ウクライナの戦車を246台破壊したが、うち13台は、西側がウクライナにこれまで納入した81台の一部だとしている。これを、6月22日のロシア国家安全保障会議で明かしたショイグ国防相は同時に、ロシア、ウクライナ双方とも、ソ連時代に蓄えた兵器は既にほぼ使い切ったと述べている。ということは、ウクライナ軍の装備はこれから西側から新規供給されるものに大きく依存、ロシア側は古い機械設備で大増産中の兵器に依存する、ということを意味する。
「工業力に優れた」西側の方が優位を持っていると思うかもしれないが、西側の兵器の多くは民間企業が製造しており、彼らは冷戦終了で設備の多くを廃棄している。政府からウクライナのために増産しろと言われても、明日には停戦するかもしれない戦争のために自分の資金を設備投資に向ける気はない。だから、「西側の兵器供給能力は限定的だ」ということは、方程式の定数なのである。

「ロシア軍は兵員も装備も十分」

 一方、ロシアの方も、軍需企業はソ連崩壊後の大混乱時代にエンジニア、労働者が大量に流出し、特に現代の兵器に必須の半導体、そして電子技術に習熟したエンジニアの決定的な不足に悩まされている。それでも、ロシアの軍需企業は民営化が進まなかったことを幸い、今、政府から手厚い支援を得ている。軍需生産増強は、辣腕を誇るミシュースチン首相を筆頭とする「調整委員会」(昨年10月創設)が強引に各省庁間の調整をしている。
 平時の戦車製造能力は年間数百台だが、プーチンは2025年までに1600台を生産すると豪語している。もっともこれは、旧型の戦車を近代化する分も含めているし、一年にならしてみると、これまでの生産量とあまり変わらないが、ウクライナ軍をしのぐことは確実である。国産半導体がほとんどない、という問題はあるが、これは中国から供給を受けることができるだろう。別に3ナノの先端半導体がなくとも、兵器は作れる。
 更に兵員も、ウクライナ軍の諜報担当ブダーノフは、ウクライナ領内のロシア軍兵力を35万人以上と見積もっており、これだけでウクライナ軍全軍と同等以上となる。またドイツの諜報庁BND長官Bruno Kahlは5月23日、「ロシア軍は兵員も装備も十分」と発言している。
 となると、ウクライナ軍が消耗した頃を見計らって、ロシア軍が占領地域を拡大して、ドネツク州、ルガンスク州、ザポリージャ州、ヘルソン州4州の占領(昨年10月には4州の「併合」を法制化している。しかしルガンスク州を除いては完全制圧していない)を完遂しようとする可能性が出てくる。首都キーウ占領、あるいは破壊の可能性もあるが、それよりは4州の占領を固め、それを政権の成果として来年3月の大統領選挙でプーチンが国民の信を問う、このような筋書きになる可能性の方が高い。

武力侵攻をする国は国際社会から村八分に

 ロシア軍が攻勢に出てウクライナが劣勢になった場合、バイデン大統領は難しい選択に迫られるが、大統領選挙戦が事実上始まることもあり、停戦実現の方向を選好するだろう。その場合、停戦ラインをどこに引くか、その両側のどこらへんまでを非武装地帯とするか、あるいは国際平和維持部隊を展開するかが、主な交渉事項となる。
 ロシアにとってのワイルド・カードは、プリゴージン事件を契機に上層部が割れることだ。プーチン大統領は6月29日にはプリゴージン、そして「ワグネル」幹部たちと「団交」するなど、この件をうやむやにして、「ワグネル」勢力を便利に使い続けようとしているようだ。
 しかしそれは、軍の反発を招く。「ワグネル」を諜報機関の一部が支援しているとすれば、その諜報機関と軍は対立するだろう。またその諜報機関は他の諜報機関とも対立し、チェチェンのカディロフ首長などもからんでの内紛に発展するかもしれない。それぞれが核兵器の管理権を手に入れて対立すれば、それは世界にとっても危険なことになろう。
 ウクライナ軍攻勢の停滞で、ウクライナはロシア軍の撤退をはかることなしに停戦せざるを得ない事態になる可能性がでてきた。もともと西側は、そのようなやり方を2015年の「ミンスク議定書」で認めているのである。
 しかし、ロシアの武力侵攻を放置しておいてはいけない。武力で押し返すことができずとも、撤退しない限り、諸方の国際的枠組みでは資格を停止するなどの制裁を恒常化するべきだ。
「グローバル・サウス」が乗ってこない措置もあるだろう。しかし金融決済のメカニズムSWIFTからの追放など、「グローバル・サウス」の同意がなくてもできるもの、しかも効果の大きい措置は数多い。21世紀の世界で、他国への武力侵攻というアナクロニズムを放置しておいてはならない>(以上「現代ビジネス」より引用)



 河東哲夫氏(外交評論家・元在ロシア大使館公使)が現代ビジネスに「苦戦のウクライナは大不満でも、NATO首脳会議が向かったのは停戦への地ならし」と題する論評を掲載した。副題には「そして機能不全の安保理に代わってG7前面に」とある。その内容はぜひご一読して、各自で確認して頂きたい。
 これが日本の外務官僚として在ロ大使館で公使を務めた人物のプーチンの戦争に対する見識だ。締め括りで「21世紀の世界で、他国への武力侵攻というアナクロニズムを放置しておいてはならない」と記して、ロシア推しの修正をしているが、中身は実に酷いものだ。

 ウンライな戦況に関して河東氏は「首都キーウ占領、あるいは破壊の可能性もあるが、それよりは4州の占領を固め、それを政権の成果として来年3月の大統領選挙でプーチンが国民の信を問う、このような筋書きになる可能性の方が高い」との見通しを披歴している。
 来年三月にプーチンが大統領選挙を実施するとみている時点で「お花畑」に棲む人だと断定できる。河東氏の戦況分析ではウクライナ軍が苦戦し、兵員や装備で勝るロシア軍が再攻勢をかける、と見ているのだ。

 そもそもG7はニクソン・ショック(1971年)や第1次石油危機(1973年)などの諸問題に直面した先進国の間で、マクロ経済、通貨、貿易、エネルギーなどに対する政策協調について、首脳レベルで総合的に議論する場が必要であるとの認識から出来たものだ。第1回先進国首脳会議は1975年にイタリアが参加してG6(ジーシックス)で出発した。その後1976年にカナダが加わり第2回先進国首脳会議が開催されG7となった。 現在では首脳や各閣僚による会合は全てG7の枠組みとなっている。
 だからG7は経済関係の協議会として始まったわけではなく、マクロ経済、通貨、貿易、エネルギーなどに対する政策の協調を目指して開催されたものだ。もちろんソ連に対抗する西側諸国の結束を固める、という側面があったことを忘れてはならない。

 もっとも国連がウクライナ戦争の停戦等で無力なのは拒否権を持つ常任理事国のロシアが当事者なのだから初めから分かったことだ。だが国連の代役にG7が務まるだろうか。G7の斡旋をロシアが呑むだろうか。それか条件次第だと河東氏は云いたいようだが、国際刑事裁判所から逮捕状が出ている犯罪人相手に、G7がいかなる条件が示せるというのだろうか。
 できることはロシア内を混乱させ、プーチンを失脚させて次の代表が決まれば停戦交渉が可能になるだろう。だから停戦への地均しはNATO側がするのではなく、ロシアがしなければならない。さもなくば、ウクライナとNATOにとって不利な条件での交渉にならざるを得ない。それは新たな戦争を招く「チェンバレンの交渉」でしかない。

 ただ河東氏が「最近はインド、中国などが新たな経済大国としてはやされるが、技術・企業経営力など経済の実力でG7にかなうものはない」という見識を示している点は評価する。昨今の評論家諸氏は投資家に操られたマスメディアの過度な「投資対象」国を煽り立てる報道に引きずられて、彼らの判断が往々にしてインド・中国を過大に評価する傾向がある。
 しかしインド・中国は先進自由主義諸国あっての成長であり、期待値でしかない。それが証拠に先進自由主義諸国の企業群が撤退し投資を引き上げ始めた途端、中国経済は崩壊の坂道を転がり落ちているではないか。もはや中国経済の破綻は誰にも止められない。そしてマスメディアが危惧するほど、中国経済の崩壊が世界経済に与える影響は多くないだろう。なぜなら日本を含め先進自由主義諸国は中国に投資し企業進出していただけであり、撤退した企業に労働力を提供していたのは中国民だからだ。中国経済が崩壊したところで、先進自由主義諸国への影響が限定的でしかないという論拠は、中国に建設した生産施設の「特別廃棄」と、投資の「損切り」が先進自由主義諸国に及ぶだけだからだ。

 BRICSとはブラジル(Brazil)、ロシア(Russia)、インド(India)、中国(China)、南アフリカ(South Africa)の頭文字を合わせた造語で、広い国土と多くの人口、豊かな天然資源をもとに今後大きく成長することが見込まれるというものだ。2000年以降にBRICSという言葉が登場して先進自由主義諸国はBRICSへ投資したし、確かにそれらの国は経済成長したが、20年経過した現在も国際社会で先進自由主義諸国に取って代わることはない。
 BRICSという言葉も投資家たちがマスメディアを介して大宣伝したものだった。軍需産業と官僚と大学などの研究機関が組んだトライアングルを軍産学などと称するが、投資家と金融機関とマスメディアが組んだトランアングルを何と呼べば良いのだろうか。彼らが国際社会を操っているのではないかと、私は疑っている。

 権威主義と強権で異民族を支配し版図を広げる「帝国主義」は前世紀以前の歴史の遺物だ。ロシア帝国を目指したプーチンの戦争はアナクロニズムそのもので、失敗に帰すべきものだ。同様に、中共政府によるウィグル人の暮らす地域を支配し、チベットを侵攻し、モンゴルを蚕食した行為も、やがて清算すべき時が必ず来る。それが繰り返されてきた歴史だからだ。
 プーチンは生まれて来た時代を誤った。彼がピョートル大帝の時代に生まれた宰相ならば、英雄として歴史に名を刻んだであろう。しかし現代社会では時代錯誤の虐殺者との誹りを受けるだけだ。彼の蛮行を現代国際社会は許してはならない。それは人類の恥でしかないからだ。

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