ワグネル反乱の衝撃波が前線のロシア軍兵士を襲う。

<ロシアの民間軍事会社ワグネルが同国内での武装蜂起を宣言した。創設者のエフゲニー・プリゴジン氏は24日、ワグネルの部隊が南西部ロストフ州に入ったと明らかにした。すでにロシア軍と交戦しているもようだ。プーチン大統領は同日の緊急のテレビ演説で「この反乱に参加したものは全員処罰する」と述べた。

 ウクライナへの侵攻以降、ロシアでは正規軍とワグネルとの対立が表面化していた。ワグネルによる武装蜂起で、ウクライナでの戦況に影響が出る可能性が出てきた。
 ロシア連邦保安局(FSB)は23日に「武装蜂起を呼びかけた」として刑事訴追に向けた捜査を始めたと発表していた。タス通信によると、訴追されれば最大20年の懲役刑を受ける可能性があるという。




 プリゴジン氏は24日朝、ワグネルの部隊がロストフ州の州都ロストフナドヌーに入ったと表明。州都にあるロシア軍施設などを制圧したとし、ロストフの市街地に武装したワグネルの戦闘員が展開する動画なども投稿した。プリゴジン氏はロシアのショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長への面会を要求している。
 ワグネルはロストフから北上し、南西部のリペツク州に到達した。同州の知事は24日、ワグネルの部隊が州内を移動していると明らかにした。同州とモスクワの距離は約400キロメートルある。
 リペツク州に隣接するボロネジ州では、ロシア軍との衝突が起きたようだ。ロイター通信は同州の高速道路で、ロシア軍のヘリコプターがワグネルの部隊を攻撃したと報じた。米紙ニューヨーク・タイムズは同州でワグネルとロシア軍が戦闘している映像を確認したと伝えた。英BBCの報道によると、ロシア軍事筋の話として、ワグネルがボロネジの全ての軍事施設を制圧したとしている。
 英国防省はロストフから北上し「ほぼ間違いなくモスクワに向けて進軍している」と分析した。
 プリゴジン氏はロシア軍にミサイルなどで攻撃され、ワグネルの多数の戦闘員が死亡したと主張していた。抗議の意思を示す「正義の行進」を始めることで「この悪行に対抗する」と話していた。
 これに対し、プーチン氏はテレビ演説で「我々は反逆と裏切りに直面している」とワグネルの対応を批判した。ロシア国防省はワグネルの戦闘員に武装蜂起に参加しないよう呼びかけた。
 モスクワの緊張感は高まりつつある。ソビャーニン市長は24日に対テロ作戦態勢を宣言し、26日を休日にすると表明した。今後はモスクワを含め、ロシア各地での本格的な交戦に発展するとの懸念が広がる。
 主要7カ国(G7)の外相は24日、ワグネルが武装蜂起を宣言したことを受けて緊急の電話協議をし、情勢認識で意見交換した。
 ワグネルはウクライナ東部ドネツク州の要衝バフムトでの戦闘で前線に立って戦い、ロシアの進軍につなげてきた。今後、ワグネルが戦線から完全に離脱すれば、ロシアの一定程度の戦力低下は避けられない。

笹川平和財団主任研究員の畔蒜泰助氏
 ロシアの民間軍事会社ワグネル創始者のプリゴジン氏とロシア軍との対立は以前から表面化していた。ワグネルを傘下に収めようとするロシア軍に対し、プリゴジン氏は反発した。今回の行動はプリゴジン氏の軍に対する抵抗といえる。対立が大きくなった一番の原因はプーチン大統領にある。ロシア軍がワグネルへの圧力を強めることを事実上認める一方で、プリゴジン氏がショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長を激しい言葉で非難しても何も行動をとってこなかった。プリゴジン氏が自身の発言がプーチン氏に容認されていると受け取っても不思議ではない。
 プリゴジン氏の行動が軍への示威行動なのか、プーチン政権そのものに向けたものなのかは不明だ。ただ少なくともプーチン氏は国家や国民への反逆行為だと捉えた。
 ウクライナの軍事作戦を指揮する副司令官で、プリゴジン氏と関係が近いとされるスロビキン氏は「元の場所に戻れ」と呼びかけ、プリゴジン氏から距離を置いた。ロシア軍の幹部の間で対立が起きている雰囲気はない。一方で、末端の兵士の反応は読めない。
プーチン政権は今回の事態をどう収拾するのかは見通せないが、最悪のシナリオはロシア各地に今回のような蜂起が波及することだ。
(聞き手は川上宗馬)

英国際戦略研究所のナイジェル・ゴールド・デービス上級研究員
 ショイグ国防相がワグネルに国防省との契約を命じ、プーチン大統領がこれを支持した。プリゴジン氏は国防省の傘下に入れば権力を失うため、反乱せざるを得なくなった。彼は大きなリスクを負った。政治勢力として壊滅するか、クレムリン(大統領府)に根本的な変化をもたらすか、オール・オア・ナッシングのような状態だ。もしプーチン氏が権力の座に居続けるならプリゴジン氏は逮捕され、何年も刑務所に入ることになるだろう。プーチン氏を排除する以外、生き残る道はない。
 クレムリンの望みは、ワグネルのメンバーがプリゴジン氏を拒否し、正規のロシア軍への従属を受け入れる側に立つよう説得することだ。それでもプリゴジン氏が求心力を保てばロシア軍と衝突し、暴力が行使される可能性が高い。
 ロシア軍はワグネルより圧倒的に強く、圧倒的に大きい。治安部隊もいる。ただ、結果は人々の忠誠心がどこにあるか、どちらが団結を維持できるかにかかる。プリゴジン氏はソーシャルメディアの発信に非常に積極的で、支持基盤をつくるために懸命に取り組んできた。
 ウクライナの戦況にまだ実質的な影響はないと思うが、ロシア国内の危機がウクライナに有利に働くのは間違いない。ワグネルの兵がロシア軍から離脱したことで、ウクライナ国内のロシア側の兵力は減っている。ロシア人がロシア人と戦っている状況を目の当たりにすると、ロシア軍に疑念と分裂が生まれ、士気が下がる。
(聞き手はロンドン=江渕智弘)

滝田洋一 日本経済新聞社 特任編集委員
ーひとこと解説ー
①演説では、今の事態を「1917年の出来事」つまりロシア革命になぞらえた。体制の根幹が揺らいでいる、と危機感を募らせています。「自信の喪失」が隠しおおせない、とチャタムハウスのロシア専門家は分析します。
 ②1917年の例えは主客が転倒しています。当時、蜂起したのはボルシェビキ。打倒されたのはロマノフ王朝。今回の問題の根はプーチン氏のウクライナ侵攻にあり、酷使されたワグネルが蜂起したのです。知事が戦闘を認めたヴォロネジ地方は、モスクワへの中間地点です。 ③10月革命ではボルシェビキに寝返りの波が起きました。カリスマであるプリゴジン氏が迫るなか、プーチン氏が何より恐れるのは正規軍の離反でしょう。
2023年6月24日 18:47 (2023年6月24日 22:41更新)>(以上「日経新聞」より引用)




 プレゴジン氏の反乱は簡単には治まらないだろう。報道によるとワグネル部隊はモスクワまで400㎞の地点に既に達しているようだ。英国際戦略研究所のナイジェル・ゴールド・デービス上級研究員は「ロシア軍はワグネルより圧倒的に強く、圧倒的に大きい」と発言しているが、ロシア軍の士気がどの程度かを心配している。笹川平和財団主任研究員の畔蒜泰助氏は「ロシア軍の幹部の間で対立が起きている雰囲気はない。一方で、末端の兵士の反応は読めない」と断定を避けている。
 私たちが気を付けなければならないのは、私たちの常識で「軍」を見てはならないということだ。たとえば中国は陸軍・人民解放軍200万人を擁しているから強大だ、と想像するのは間違いだ。確かに日本の自衛隊は20万人余りしかいないが、彼らの練度と日本国家に対する忠誠心は紛うことない。しかし人民解放軍は腐敗の極みにあり、しかも彼らが守っているのは中国共産党で、誰から守っているかといえば中国民から守っている。

 前線に展開するロシア軍には「督戦隊」がある。それは前線から逃亡する自軍の兵士を背後から狙い撃つ軍隊だ。私たちの「軍」に対する常識では考えられないことだが、ロシアではそれが常識になっている。
 プレゴジン氏の反乱に対して、ロシア軍幹部に動揺はない、と引用記事では報じているが、軍幹部などどうでも良い。ロシア軍兵士が国家に忠誠を尽くしてウクライナ軍と何処までも戦う気概に満ちているのか、ということが問題だ。そうでなければロシア軍兵士が逃亡するために向きを変えて督戦隊を銃撃しないとも限らない。

 ロシア国内に残っているロシア軍は国防のため、というよりも軍隊とクレムリンを「国民から」守るために配置されている必要最小の軍隊だ。なぜなら軍隊も巨大な利益集団だからだ。軍隊も、と書いたのは軍隊と同様に石油などの地下資源も「オリガルヒ」と呼ばれる特定の人たちの利益の源泉だからだ。
 独裁国家は腐敗の社会構造といっても良いだろう。国民は腐敗集団によって搾取される奴隷と化している。社会主義体制国家で失業や飢餓などがあってはならない。ソ連崩壊後にロシアは自由化したとはいえ、依然として独裁者が国民に君臨してソ連当時の腐敗構造はそのまま温存されている。

 だから常識的な先進国家では傭兵軍隊など存在は決して許されないが、軍隊が腐敗利権構造そのものだから、利権集団としての傭兵部隊が存在して何が悪いのか、という感覚に政権幹部のみならず国民全体がそうなっている。いわば中国人民解放軍がかつての「軍閥」の残滓を色濃く残しているのと余り変わらない。彼らもまた世襲で職業軍人を受け継いでいる。
 そうしたことを嫌ってプーチンは軍歴とは全く無縁なショイグ氏を国防大臣に就けた。しかし、それが正解かどうか今から試される。ロシア軍が一丸となってショイグ氏の命に従うか、それとも一部の軍であっても利益を分かち合う仲間としてプレゴジン氏を受け容れるか。

 さらにバルチザンとしてロシア国内で破壊活動をしている勢力がプレゴジン氏に協力しないまでも、ロシアの各地の主要施設の破壊活動を活発化させるのか。
 前線のロシア兵には厭戦気分が蔓延しているという。彼らは隙さえあればウクライナ軍に進んで降伏しているようだ。ワグネルが反乱したニュースは前線には緘口令が敷かれて秘密にされているだろうが、現代の情報社会では早晩兵士たちも知ることになる。ロシア軍の一層の士気低下は免れないだろう。ロシア軍の前線が各地で崩壊し、総崩れになるのも時間の問題かと思われる。

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