今後ロシアで起こること。

<アメリカの政府関係者は1年以上前から、公に問うわけにはいかない問いを密かに自問してきた。それは、ロシアによるウクライナ侵攻の失敗は最終的にウラジミール・プーチン大統領の失脚につながるだろうか、というものだ。
 この考えは、週末の混沌とした不可解な数時間の間はそれほど突飛なものとは思われなかった。しかし、エフゲニー・プリゴジン氏の傭兵軍団の反乱による差し迫った脅威が終息したように見えるとはいっても、この短時間に終わった反乱は、プーチンの権力掌握力が20年以上前の就任以来のどの時期よりも弱くなっていることを示唆している。

無防備なプーチンが何をしでかすか予測不能

 おそらくウクライナ侵攻の初期以来最も不安定な瞬間であったこの反乱の余波は、アメリカのジョー・バイデン大統領と政策立案者らにチャンスと危機の両方を与えた。折しもウクライナ軍が待望の反転攻勢に出ている中で、ロシア国内の混乱は同国の戦争活動の崩壊につながる可能性があった。
 一方でワシントンの政府関係者は、予測不可能なうえ核を持っているプーチンが、自身が無防備だと感じて何かしでかす可能性に戦々恐々としていた。
「アメリカにとって、ロシアの注意が分散するという意味で好都合だ。それにより、ロシアのウクライナにおける軍事活動は弱体化し、シリアなどにおいて新たな問題を扇動し続ける可能性は低下するだろう」。そう指摘するのは、マケイン国際リーダーシップ研究所のエグゼクティブディレクターで元アメリカ国防総省幹部のイブリン・ファーカスだ。
「我々が主に気にしているのは、正規軍がすべての核関連施設を依然として掌握していることが確認されるかどうかだ」
 モスクワに向かう途上での部隊間のにらみ合いは、短時間ではあったものの、ロシアにおける権力闘争としては、1991年の強硬派によるミハイル・ゴルバチョフ元大統領に対するクーデター未遂、および1993年のボリス・エリツィン元大統領と議会の間の抗争以来最も劇的なものとなった。ただ、それら過去の事件の時とは異なり、今回の抗争に関してアメリカはどちら側にも肩入れしていなかった。プリゴジンもプーチンもアメリカの味方ではない。
 バイデンはこの危機に対応しないという対応をし、発言ではなく用心を選んだ。もし何か言えば、プーチンが「これはすべて外国の陰謀だ」と主張するための材料を与えてしまう恐れがある。これは、国内で問題が起きた際にロシア政府がよく最初に発するフレーズである。

機敏に情報収集に動いたバイデン政権
 バイデンはキャンプ・デービッドに向かう予定を遅らせ、ホワイトハウスのウォードルーム(本物が改装されている間の臨時のシチュエーションルーム)の最高顧問らとの安全保障ブリーフィングをリモートで招集するとともに、イギリス、フランス、ドイツの首脳らとも電話会談を行った。
 ジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官はバイデンに同伴してキャンプ・デービッドに行くために、ウクライナ支援を呼びかけるためのデンマーク訪問をキャンセルし、出席を予定していた会議にはリモートで参加した。
 統合参謀本部議長のマーク・ミリー陸軍大将も同様に、イスラエルとヨルダンへの訪問を延期した。しかし、バイデン政権はウクライナに対するアメリカの支援を改めて表明する以外には沈黙を保ち、事態の展開を静観しつつ、現在起こっていることについての知見を得るためにインテリジェンスの情報を精査した。
 バイデン政権はかなり前から、このようなシナリオが発生した際の緊急時対応計画を立てていたが、24日には他の誰もと同じように、ロシアから確実な情報を入手してその意味を解釈しようと奔走した。従来のインテリジェンス情報源だけでなくソーシャルメディアなどのオンラインソースにも頼ってである。
 アメリカ政府関係者はロシアが保有する核兵器に特に注意を払っていた。地球の大部分を壊滅させる力を持った国が不安定になっている状況に戦々恐々としていたのだ。しかし、ある政府高官によると、アメリカ政府はロシアの兵器の配置の変化を検知しておらず、自国の核態勢の変更も行わなかった。
「事態がかなり速く進行しているため、最終的にどこに行き着くかは測りがたいが、アメリカにとっての2つの大きな問題は、核兵器に対する指揮統制、そしてさらなる領土奪還に向けたウクライナの努力への影響だ」。そう指摘するのは、ロシア専門家であるアメリカン大学のジェームズ・ゴールドガイアー教授(国際関係論)だ。
 ロシアインテリジェンスのアナリストを長年務め、現在は新アメリカ安全保障センターに所属するアンドレア・ケンドール=テイラー氏は、ロシアの出来事に影響を与えるアメリカの能力は限られているため、暴力や混乱の波及を防ぐことに集中すべきだと指摘する。
「アメリカ政府は、アメリカやNATOはこの混乱につけ込もうとするだろうというロシア国内に深く根付いた被害妄想を刺激することを避けなければならない」と同氏は言う。「ロシアの過剰反応を防ぐためにも、将来的にロシアとの関係を安定化させる時が来るかもしれないという長期的な視点でも、それが重要だ」。

プーチンの地位が揺らいでいる証拠

 アメリカの政府関係者の見方がどのようなものであれ、彼らはロシアの出来事をプーチンの地位が揺らいでいる証拠だと見なした。
 アメリカ政府関係者は数カ月前から、ウクライナ戦争の管理をめぐるプリゴジンと国防省指導部の間のエスカレートする確執を監視してきた。そして、なぜプーチンはこのような公然の異議申し立てを容認しているのかという誰もが共有する疑問を抱きつつ、同大統領は自身の政治目的のためにそれを密かに促しているのではないかと推測していた。
 しかし6月24日までに、ホワイトハウスや国家安全保障機関においては、プリゴジンがプーチンに大きな損害を与えたことについて疑いの余地はほとんどなくなっていた。かつてプーチン大統領の側近として2016年の大統領選挙への介入を指揮したプリゴジンは、プーチン大統領が掲げるウクライナ戦争の大義は偽りであると公然と主張した。この侵攻はウクライナとNATOがロシアに与えている脅威への正当な反応であるとの見解に異議を唱えたのだ。
 さらに、プーチンは24日の危機が展開する中で行った国民向け演説の中で、その状況を1917年になぞらえた。第一次世界大戦の戦況が悪化する中、最後の皇帝の政権が崩壊した年だ。
 この比較は、同大統領が国に対する掌握力を失いつつあるというイメージを強めただけだった。そして、プリゴジンを潰すと脅迫したわずか数時間後に同氏と取引したことで、自身がもはやロシア領内での武力行使に対する独占的な支配権を持っていないという現実を強化してしまった。

プーチン体制の崩壊は危機をもたらす

 ワシントンのヨーロッパ政策分析センターの代表であるアリナ・ポリャコワは、「1つはっきりしているのは、プーチン大統領が非常に弱く見えることだ」としながらも、プーチン政権の崩壊は危機をもたらすだろうと指摘する。
 アメリカとその同盟国は「ウクライナ支援に集中しつつも、起こりうるすべてのシナリオに対する計画を立てるべきだ。それには、プーチン体制の崩壊、そしてウクライナ戦争に関してより残酷で自制の効かない強硬右派による政権奪取の可能性が含まれる」。
 政策立案者らは、プーチン大統領が権力の座を維持すると仮定しても、追い詰められたと感じればより常軌を逸した行動に出る可能性があると懸念している。
「プーチン大統領の弱さはより危険な行動につながる」。そう指摘するのは、かつてドナルド・トランプ前大統領のもとで駐ロシア大使を務めたジョン・ハンツマン・ジュニアだ。「プーチン大統領の『無敵状態』に新たなさざ波が生じており、それはあらゆる角度からつけ込まれるだろう」。
 ロシア内部の対立は、アメリカの武器提供者や情報機関当局者と連携して侵略者を領内から追い出そうと努めているウクライナにとっては、待望の反転攻勢が遅いスタートを切る中、一息つく間を与える歓迎すべきものとなった。
 カリスマ的指導者のプリゴジン率いる傭兵組織ワグネルグループは、戦場において最も実働力のあるロシアの軍隊と見なされていたが、同氏がおそらく亡命のためにベラルーシに向かう一方、ワグネルはロシア国防省に吸収されることになったため、もはやこれまでのような残忍な軍隊ではなくなるかもしれない。

プリゴジンの反乱が意味すること

 アメリカの情報によると、ウクライナにとっては不運なことに、プリゴジンの反乱はロシアの主要部隊がモスクワ防衛のために前線から撤退する前に終わった。しかしアメリカ政府関係者は、この抗争をきっかけに、戦争の大義や指導部の能力についてすでにロシア軍の間に広がっている疑念が高まるだろうと見込んでいる。
 そして、プリゴジンは力を失っており、若い頃のホットドッグ屋に戻るだろうなどと考えている者はほとんどいない。同氏はまだ切り札を持っているとアメリカ政府関係者は見ている。
 実際、元NATO大使で元ウクライナ特別代表のカート・フォルカーは、モスクワへの進軍は取引によって頓挫したとはいえ、プリゴジンの反乱は戦争とプーチンの地位の終わりの始まりを告げるものだと指摘する。
「逆転を信じてはならない」と同氏は言う。「これはポジショニングだ。プリゴジンはさらなる支援を集めたり要求をしたりしながら、ロシア国民の英雄として見られたがっている。国は彼を追うだろうが、それは『仕方なく』自衛するという同氏の口実に利用される可能性がある」。
 フォルカー氏が言うように、事態は「まだまだ予断を許さない」だろう>(以上「The New York Times(執筆:Peter Baker記者)」より引用)




 引用記事でThe New York Timesは何を言いたいのだろうか。米国はプーチンの弱体化を望んでない、だとか、無防備なプーチンが何を仕出かすか予測不能だとか意味不明だ。もはや政府のみならず情報収集の面でも、米国は世界のリーダーから降りたのだろうか。
 バイデン氏は「プーチン体制の崩壊は危機をもたらす」と引用記事では指摘しているが、米国政府も本気でそう考えているのだろうか。そうだとしたら、ウクライナに軍事侵攻したプーチンが世界に危機をもたらしてないとでも云うのだろうか。

 記事にある「アメリカの政府関係者は1年以上前から、公に問うわけにはいかない問いを密かに自問してきた。それは、ロシアによるウクライナ侵攻の失敗は最終的にウラジミール・プーチン大統領の失脚につながるだろうか、というものだ」というのが本当だとしたら、米国政府関係者」たちは碌なモノではない。
 プーチンの失脚を現実のものにするために、米国や英国政府はCIAやMI6が秘かに謀略を張り巡らしているのではないのか。いやそうでなく、対岸の火事と決め込んでCIAやMI6部員がウクライナ戦争を観戦しているとしたら、それこそ絶望的ではないか。表向きは内政干渉しないとしつつ、米国が情報機関などを駆使して敵対する国の政権に関与して来たのは明白な事実ではないか。

 少しづつ分かってきたことだが、ブリゴジン氏は反乱を起こす前に家族をトルコへ秘かに脱出させていたという。しかしロシア当局は速やかにその事実を知り、トルコ政府に働きかけてブリゴジンの家族を拘束して、ベラルーシへ移送したという。だからプレゴジン氏は急に大人しくなってベラルーシへ「亡命」する道を選択したのだという。
 プレゴジン氏の命脈はベラルーシで尽きるだろう。独裁者プーチンが離反した者の生存を許すことなどあり得ない。ただプレゴジン氏が「保険」としてロストフにある核兵器の倉庫をワグネルの部隊約800人が依然として制圧させているという。それくらいのことは軍事の専門家ならずとも考えることだろうが、核兵器倉庫を制圧している部隊の責任者がプーチンの取引に応じないことなどあり得ない。ワグネルは元々傭兵部隊だ。忠誠心よりも経済原理で動くのが傭兵だ。現場を離れた指揮官・ブリゴジン氏の命令を死守することなどない。

 ポスト・プーチンとして強硬右派が政権を掌握して無謀な戦争を指揮するのではないかと引用記事氏は危惧しているが、誰がポスト・プーチンに就いても、そんなことはあり得ない。ウクライナの各地の戦況がロシアにとって不利なのと、ロシア国内の戦争遂行能力が払底しているのは誰の目にも明らかだ。ことに政治的野心がある者なら、まずは身の安全を図りながら政治権力者として最大利益を求めるだろう。だから無謀な戦争命令など出さないで、停戦協議を模索するだろうし、プーチンの戦争を完全終結するために、1991年当時のウクライナ国境線までロシア兵を撤退させることもありうるだろう。
 独裁体制の国家は腐敗している。政権中枢に近づくほど、強く腐敗している。ポスト・プーチンの座を争う者も、一人残らず腐敗した体制内で利益を貪った人たちだ。彼らはロシアの現独裁体制維持を最優先するだろう。だから欧米諸国が真に相手とすべき者でないことは明らかだ。真に相手とすべき者たちはポスト・プーチン後に現れる。それはロシアの民主勢力を代表する者たちだ。それらの多くは現在ロシア国内の政治犯収容所に投獄されている。

 さらにソ連崩壊後もロシア国内に止まっている少数民族の各地域が独立を宣言するだろう。彼らはプーチン政権時にも独立を叫んでロシア戦車によって踏み潰されてきた。しかしロシアの軛が消えた瞬間を逃さず、独立を宣言し新ロシア派と戦争を始めるだろう。チェチェンなどが最も早く宣言しそうだ。
 プーチン政権崩壊時に欧米諸国が最優先すべきはロシアの核兵器の所在場所の把握と、ロシア国内の混乱に乗じて死の商人が傭兵を使って核兵器の略奪を行わないか監視すべきだ。特殊部隊を各地の核兵器保管倉庫へ派遣して、欧米連合軍でロシアの核兵器を制圧する必要があるだろう。さもなくば中東や中南米などへ核兵器が拡散する恐れがある。そうした緊急作戦について、欧米軍中枢はシュミレーションしておくべきだ。
 プーチン体制は長くない。カリスマ性を失った独裁者は崩壊の坂道を転がり落ちるだろう。クレムリン内部の権力の変化を注視すべきだ。

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