マスメディアに登場する評論家たちが揃いも揃って中国経済を「高評価」していたのはなぜか。

<ー「1990年以来」というのはすごいですね。90年は、天安門事件の翌年で、中国経済は深刻な苦境に陥りました。
瀬口氏:中国政府は同事件の直後、80年代にスタートさせた市場経済化にブレーキをかけ、統制経済に回帰しました。これに、西側諸国からの経済制裁が加わったのです。
 コロナ禍に襲われた2020年の実質GDP(国内総生産)成長率が前年比2.2%で1976年(同-1.6%)以来の最低値です。ただし、これは自然災害による影響と同様に、短期的な落ち込みであり、コロナ禍が過ぎ去れば元に戻ると信じられていました。中国の人々は1990年の状況に対し、より強い悲壮感を感じていた。そのときより今は厳しいと認識しているのです。

2023年春には景気回復、5%成長へ

ー23年の展望はいかがですか。
瀬口氏:23年の成長率は5%に達すると予測します。22年の反動が出るからです。22年4~6月期の実質GDPは前年同期比0.4%増にとどまりました。同10~12月期も、先ほど挙げた数字から考えて相当悪い値になります。これらの影響で“発射台”が低くなるため23年の成長率は高めの値が出ると考えます。
 実質GDP成長率を四半期別に見ると、23年1~3月期の値は「低」、4~6月期は「高」、7~9月期は「低」、10~12月期は「高」となります。22年の裏返しです。22年の各四半期の成長率はそれぞれ4.8%、0.4%、3.9%でした。
 23年は、4月以降に高い成長が見込まれます。飲食、交通、宿泊という「人流3業種」の急回復が期待されるからです。中国のエコノミストたちは、ゼロコロナ政策の解除がもたらした現在の感染拡大が3月までには収束し、4月から、経済活動がコロナ禍前の正常な状態に近づくとみています。
 もちろん、この見方には「期待」が含まれていると思います。それでも、ゼロコロナ政策解除後の感染急拡大を経て、中国は集団免疫を獲得するとみられます。22年12月には、国民の約18%に当たる2億4800万人が感染したと報じられました。今後、社会不安さえ起きなければ、経済は順調に回復するでしょう。

社会不安が起こらなければ、世界経済のアンカー再び

ー社会不安とはどんな事態ですか。
瀬口氏:医療崩壊が起こり、感染して発熱した人が診察を受けられない事態が生じ、重症化患者数や死者数が急増した場合に、国民の不安が高じる恐れがあります。
 1月21日から始まる春節の7連休で帰省客を媒介として都市から農村に感染が拡大することが予想されます。その際の重症化・死者の増加をいかに抑制できるかが社会の安定を確保するカギとなります。
 北京や上海などの主要都市は春節休み前に感染のピークを迎え、乗り切ることができるとみられます。しかし、春節の休暇には、都市で新型コロナウイルスに感染した人が帰省するでしょう。そうすると、地方で暮らす老人の感染リスクが高まります。地方都市や農村部の老人はワクチン接種率が低く、基礎疾患があれば重篤化しがち。地方の中小都市や農村部の医療水準は主要都市に比べてかなり見劣りするのが実情です。
 ゼロコロナ政策を取っている間は、各地の役所は機能していました。なので、突然の感染拡大に対してもある程度の対策を実施することができました。今は、役所でも感染者が続出し、通常業務すらままならない状況です。
 病院内が患者でいっぱいになっているため、多くの患者が建物の外で点滴を打っている光景を中国のテレビが報じていました。コロナに感染した看護師が自ら点滴を打ちながら、患者に点滴を打っている――。コロナに感染した医師が、患者を診察している途中に倒れる――。こうした映像も流れています。
 こうした事態に直面したときに社会不安が高じる事態が懸念されるのです。
 他方、中国経済が4月以降、順調に回復すれば、世界経済のアンカーの役割を果たすことが考えられます。
 欧州経済は、ロシア産エネルギーの供給減を受けて後退する方向にあります。米国経済も高インフレを抑制するための利上げの影響で今後ダメージを受けることが予想されています。どちらも短期間での回復を期待することはできません。

劉鶴路線を継続

ー中国経済が4月から回復するとして、23年の経済運営はどのようなものになるでしょうか。中国経済が抱える3大リスクが解消するわけではありません。(1)債務危機などの経済リスク、(2)貧富の格差、(3)環境問題――。22年12月に開かれた中央経済工作会議の報告をどう評価しますか。
瀬口氏:習近平(シー・ジンピン)政権においてこれまで10年間、経済政策の司令塔の役割を担ってきた劉鶴(リュウ・ハァ)副首相が掲げてきた基本方針を継続するとみられます。これは改革開放路線を踏襲するもので、その方向性は正しいと考えます。同氏は退任が決まっていますが、退任後も同氏の基本方針が維持されるのは安心材料と言えるでしょう。
 同会議の報告は基本方針として6項目を示しました。第1は経済の安定を図ること。「安定」は、次の3点を重視します。その1は「穏中求進」。「安定の中に前進を求める」という意味です。「現在の経済のファンダメンタルズならば景気を無理に押し上げる必要はない」「経済ファンダメンタルズは安定しており簡単には崩れない」との考えが表れています。
 その2は質の重視。その3は、新型コロナ感染の予防と経済成長の両立です。
 基本方針の第2は改革開放の全面深化。第3は市場の自信回復。先ほど、PMIの値が50を割り込んでいるとお話しました。こうした状況を打開し、企業経営者をはじめ、消費者や投資家が前向きな展望を持てるようにする。基本方針の第1と第2を推し進めることで実現を図ります。

実効を伴う内需の拡大目指す

 第4は内需拡大とサプライサイド改革の有機的結合。内需拡大だけを重視すれば、かつてのように実効を伴わない非効率な公共事業に資金をばらまくことになりかねません。よって、民間企業と外資企業の市場参入、事業拡大を促し、実効を伴う事業に力を入れる。同時に国有企業を改革し、非効率からの脱却を目指す考えです。
 サプライチェーン(供給網)の強じん化も第4の柱の一環として推進します。技術をめぐる米国との競争が激しくなっています。米国は22年10月、中国向け半導体をめぐる規制を大幅に強化しました。このような環境にあっても経済が回る体制を整える。
 第5は雇用の確保。特に若年層の雇用を重視します。22年6月に大学を卒業した新卒を含む16~24歳の失業率は7月に19.9%に達しました。11月には17.1%まで低下していますが、それでも依然として非常に高いレベルです。
 そして第6が重大リスクの防止です。その元凶は不動産市場。3級・4級都市の大部分で、不動産価格が下がり続けています。消費者の不動産購入意欲が高まる見込みがないため、不動産開発投資も減退が止まりません。この状況が、地方の不動産業者に融資する中小金融機関の破綻リスクを高めるとともに、不動産開発を収入源としてきた地方政府の財政を悪化させているのが現状です。
 以上の基本方針は、劉鶴氏がこの10年間に推し進めてきたことを継承しています。10年代半ばの景気悪化、米中摩擦、新型コロナ感染拡大などによって遅れが生じたものの、改革開放の方向はぶれていません。この改革開放の基本路線を妨げるものがあるとすれば、それは習政権が抱く「迷い」でしょう。劉鶴氏が退任します。経済政策の運営方針をめぐって、習近平氏に直言できる人材がいなくなる。そうした状況の下で基本方針に迷いが生じると、政策が迷走する恐れがあります。

国有企業改革の夢と限界

ー23年の経済政策においてこの基本方針に基づく重点施策にはどのようなものがありますか。
瀬口氏:大きく5つあります。その1は内需拡大。積極的な財政政策と穏健な金融政策の組み合わせによって消費を押し上げる考えです。個別の策を見ると、まず住宅販売の促進があります。住宅ローン借り入れに際しての頭金の最低額の引き下げなどを念頭に置いているでしょう。次に、電気自動車(EV)をはじめとする新エネルギー車の購入を促す補助金の支給。老齢年金と介護サービスの充実も挙げています。将来をめぐる国民の不安を解消することで現在の消費を促す意図です。
 そして注目されるのは、政府が取り組む重大事業に民間企業の参入を認め、促進することです。中国資本の民間企業のみならず外資企業にも門戸を開放することが予想されます。重大事業とは、インフラ建設や、これまで国有企業にしか参加を認めてこなかった鉄鋼、石油化学などの分野の大型事業です。
 重点施策のその2は産業システムの高度化。新エネルギー、人工知能(AI)、バイオ、グリーン化と二酸化炭素(CO2)排出量削減、量子コンピューティングなどの分野において科学技術の進歩を図り、経済の自律性とサプライチェーンの安定性を高める。具体的には、企業に補助金を支給する、研究開発分野の人材を育成する、もしくは海外から招いたり呼び戻したりする。ここでも外資企業の誘致を進めます。
ー日本が力を入れ始めた経済安全保障と同じコンセプトですね。
瀬口氏:中国も経済安全保障を明らかに意識しています。
 ただし、重点目標は国内でイノベーションを起こし、質の高い内需を拡大することにあります。これがまさに、劉鶴氏が強調してきた経済政策の中核です。中央経済工作会議の報告が基本方針の第2として言及した「質」とは、この点を指します。従来のばらまきによる規模重視の内需拡大とは異なるものです。そして、その先に、先端技術を使った製品を外国に頼ることなく国内で調達できるようにすることがある。
 その3は、サプライサイド改革を実現するため、民間企業および国有企業の発展を促進する、です。習氏は民間と国有の「両方」を対象とすることを強調しています。
ー国有企業をどのようにして改革するのでしょう。
瀬口氏:民間企業から資本を入れる、民間企業が使用している効率的な生産システムを導入する、など民間のノウハウを適用する考えです。
 ただし、これはうまくいかないでしょう。そのやり方が民間企業に「金を出せ。口は出すな」を求めるかたちだからです。民間企業に出資を求めるものの、民間企業を国有企業の経営権を支配するような大株主にすることはありません。民間企業の優秀な人材を経営トップに据えることもないでしょう。国家の政策方針と企業経営の収益拡大方針が対立する場合は、政策方針の遂行を優先します。
 将来、中国の潜在成長率が3%程度になる頃には、主たる国有企業が軒並み赤字に陥るでしょう。これは政府の財政を悪化させます。中国政府はこうした事態を避けるべく、経営に問題のある国有企業の統廃合を進めています。これまでは「統合」フェーズ。国有企業の合併を進めてきました。23年以降は「廃止」フェーズに入ると考えられます。これまで合併統合させた企業から非効率部門を切り捨てる施策を始めるでしょう>(以上「日経ビジネス」より引用)





 引用文中の瀬口氏とは瀬口 清之氏(キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹)のことで、中国経済を主として研究されている。その瀬口氏の今年2023.1.12に発行された日経ビジネス誌に掲載されたインタビュー記事から引用させて頂いた。
 引用記事の題は「中国経済は春から回復、再び世界経済のアンカーに」というものだったが、それがいかに的外れだったか、半年後に明らかになっている。中国経済はまさに崩壊の坂道を転げ落ちていて、決して回復基調にあるとは云えない状態だ。

 ただ瀬口氏の名誉のために言葉を添えるとすれば、米国の投資ジャーナリストや主要マスメディア、さらには日本の主要マスメディアも総じて中国はゼロ・コロナ政策を廃止すれば「リベンジ消費」が起きて、個人消費が牽引車となって5%前後の経済成長するだろうと予測していた。
 その数字は日米エコノミストが考え出した数字ではなく、中共政府が昨年10月の全人代で発表した数字でもあった。ただし、全人代で発表される中共政府の経済見通しは経済当局の統計から弾き出された数字ではなく、中共当局の「願望」でしかない。

 米国主要マスメディアが全人代で発表された数字を米国エコノミストの「経済見通し」として報道していたのも、中国経済を分析して導き出された数字ではなく、投資家たちを元気づけ新規に投資させようとする勧誘広告でしかない。
 なぜそうするのか。それは勧誘数広告に釣られて投資して失敗しようが、その責任は投資家本人が負うのであって、投資会社は手数料を稼げれば良いからだ。投資に失敗は付き物で、その責任は投資家本人が負うものだからだ。

 多くの機関投資家たちが中国を投資先として見限ったの責任は中共政府にある。なぜなら中共政府がコロナ禍の当初に医療品の需要が急激に高まり、先進自由主義諸国が中国に移転させた医療品製造企業から医療品を本国へ輸入させようとした。しかし中共政府は医療品の工場からの出荷を禁じた。そのため、先進自由主義諸国は深刻な医療品不足に見舞われた。その結果として、先進自由主義諸国は必要物資のサプライ体制の見直しに迫られたからだ。
 さらに、習近平氏は繰り返し世界の覇権を米国から奪うと宣言した。米国敵視政策を行うと同時に、EU諸国に対しては友好的な態度を取り続けた。つまり欧米分断政策を実施して、米国を孤立させようとした。だが、その企てを根本から破壊したのがプーチンだった。

 独裁専制主義国家は本質的に戦争国家だ。なぜなら独裁者は常に「敵」が必要だからだ。国民を独裁者に引き付けるためには国外の強大な敵が必要だからだ。その敵に立ち向かい屈服させることが独裁者のカリスマ性を高め、独裁体制を強固なものにする。
 習近平氏が「戦狼外交」に踏み切ったのは彼の必然性からだ。プーチンがウクライナ戦争を始めたのも独裁者としての運命だ。戦争を始めても死ぬのは国民であって、独裁者ではない。ただ戦争に負ければ独裁者の命運が尽きるのは歴史が教えている。それなら戦争に負けなければ良い。ウクライナは簡単に一週間程度で蹂躙できる、とプーチンは考えて戦争をはじめた。ただ彼にロシアに対する愛国心が希薄なのと同様に、ウクライナ国民が祖国のために死力を尽くすとは考えもしなかった。それが彼の計画を狂わせた。

 今月18日に突然、米国務長官アントニー・ブリンケンが五年ぶりに北京を訪れた。その動機として「習近平氏が台湾軍事侵攻に踏み切ったからだ」という未確認情報が出回っている。プーチンだって「まさか」と思っていたウクライナへの侵略戦争に踏み切った。だから習近平氏が台湾への軍事侵略を決断することもあり得る、とホワイトハウスは考えたのだろうか。
 しかし、そうだとすれば日本国民は米国政府を「味方」だと考えない方が良い。日本は米国民主党の「遠交近攻策」によって強制的に先の大戦へと導かれた。バイデン氏も民主党の大統領だ。ブリンケン氏が如何なる譲歩を習近平氏と約束したのか、日本政府はあらゆるチャンネルを通して情報収集すべきだ。

 ホワイトハウスが冷静なら中共政府の呼びかけなど構わずに、対中包囲網の構築を推進すべきだ。中共政府の中国に手出しをしなくても、習近平体制は内部から崩壊する。なぜなら中共政府は12億人の国民を養うことが出来なくなったからだ。
「戦狼外交」で米国に喧嘩を売ったため、もはや習近平氏は「改革開放」政策に戻れない。だが「改革開放」以前の中国では生活水準が上がった中国民の生活を保障することなど出来ない。大学新卒者の20%が失業していると中共政府当局が発表しているが、もちろん当局の統計数字は水増ししている。実際は50%以上が失業状態だという。博士号を持った人ですら職がなく、日銭稼ぎのデリバリーをしている。

 習近平氏の傲慢な態度の源泉は中国の経済力だった。カネの力でアフリカ諸国や中南米諸国を仲間に引き込んだ。国連で中国が隠然たる力を持っているのもカネの力だ。その頼みの綱のカネが尽きれば、中国の覇権幻想も「砂上の楼閣」と消え去る。
 中国経済は崩壊段階にある。独裁体制の強権でバブルが弾けるのを防止しているが、その措置が深刻なバブルを更に膨らませている。その動きと同時に、先進自由主義諸国が「国際分業」を見直し、生活必需品のサプライ体制の再編を行っている。中国経済の牽引力は外国からの投資と外国企業の進出だった。「世界の工場」というが、それだけのことだ。中国に経済力があるのではなく、経済力のある外国企業が中国に進出して、中国を儲けさせていただけだ。そうした経済原理を忘れて習近平氏は自分の実力だと勘違いした。

 引用論評で瀬口氏は「(中共政府は)経営に問題のある国有企業の統廃合を進めています。これまでは「統合」フェーズ。国有企業の合併を進めてきました。23年以降は「廃止」フェーズに入ると考えられます。これまで合併統合させた企業から非効率部門を切り捨てる施策を始めるでしょう」と予測している。
 その予測はまさにその通りだが、中国の国有企業で非効率でない企業など存在しない。先進諸国などの外国に輸出することで成り立っていた中国経済で、先進自由主義諸国が必需品のサプライ再編を行えば、中国の生産力が過剰となり中国経済がデフレ化する。しかも「元」の下落により中国では物価高騰が起きる。それは深刻なスタグフレーションとなって中国民に襲い掛かるだろう。そうした経済を中共当局は正しく分析し予測しているだろうか。そうとは思えないが。

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