安倍氏の亡霊ではなく、世襲議員の弊害だ。

<「安倍晋三回顧録」(中央公論新社)が売れている。20万部を超えたらしい。本人による“自慢話”も結構だが、本当に安倍晋三という政治家を公平に評価したいのであれば、その罪の部分にスポットを当てた古賀茂明氏の新著も併せて読んでほしい。現在、公開中で話題の映画「妖怪の孫」の原案となった「分断と凋落の日本」(日刊現代発行、講談社発売)である。

 この本は単純に安倍政治を振り返るものではない。政権は代わり、安倍元首相は凶弾に倒れたが、その後も得体のしれない安倍的なものがこの国を覆っている。古賀氏はそれを今なお続く「妖怪の支配」と書いている。妖怪とは安倍氏の祖父、岸信介のことで、その孫が安倍晋三。つまり、いま、日本を覆っているのは「妖怪の孫の支配」である。それが政界にも官僚機構にもメディアにも暗い影を落としている。そして、「妖怪の孫の支配」が日本社会の分断を深刻化させ、止まらない日本経済の凋落を招いている。つまり、日本は「妖怪の孫の支配」から覚醒しなければ、再生はないのだが、それを外交、安全保障、経済政策、エネルギー政策などから多角的に分析、問題点を抉り出し、再生へのヒントを提示しているのが、この本なのだ。
 古賀氏はまえがきで、今なお、政界が妖怪の支配下にある例として、先の日韓首脳会談をあげている。徴用工問題に一応の決着をつけた尹錫悦大統領と岸田首相の会談である。これにより、対韓輸出規制強化や日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)破棄問題が解決し、シャトル外交も復活することになった。めでたしめでたしなのだが、これをおぜん立てしたのは尹大統領のイニシアティブだ。岸田首相は自民党保守派からの反発を恐れて、自ら動こうとはしなかった。恐れたのは党内からの反発だけでなく、自民党の岩盤支持層である保守派からの支持が得られなくなることもあっただろう。
 安倍元首相が固めた極右的な支持層だが、いまや、これがないと自民党議員は当選がおぼつかない。だから、外交が柔軟性を欠き、中韓にはとにかくこぶしを振り上げるだけの硬直状態に陥ってしまっている。それを古賀氏は「妖怪の支配」の一例だとする。同じく、メディアもいまだに「妖怪支配」が続いている。安倍批判でパージされたTVコメンテーターたちはいまだに戻れていないし、安倍派の重鎮、萩生田光一政調会長に忖度し、旧統一教会問題の追及に腰が引けていたのは間違いない。

一度支配されると、他の意見には拒絶反応しか示さなくなる

 古賀氏はもうひとつ、私たち国民の心にも「妖怪の支配」が及んでいるのではないか、と指摘するのだ。その部分を引用してみよう。
《10年前には議論されることさえなかった敵基地攻撃能力、防衛費倍増、憲法9条改正、原発新増設などの問題に賛成する層が拡大している。安倍氏よりさらに過激な政策を岸田氏が異様な勢いで進めているのに、それを国民が本気で止めようという動きが見えない。それは国民の一定数が、安倍的なものに支配されるようになってしまったからなのではないか。一度支配されると、他の意見には拒絶反応しか示さなくなる。議論の余地がなくなってしまうのだ。議論の余地がなくなってしまうのだ。(中略)一方、安倍的なものに支配されず、これに抵抗する人々もたくさんいる。このような思考を保っている人々が微かな望みではある。しかし、実はその人たちの心の中にも、「どんなに頑張ってもどうせ止まらない」というあきらめの気持ちが広がっているのではないか》
 かくほど左様に「妖怪の孫」の支配は強烈なのである。それが日本社会と経済、政治にどんな悪影響を及ぼしてきたのか。古賀氏の本にはそれが詳細に書かれている>(以上「日刊ゲンダイ」より引用)




 果たして古賀氏が云う「妖怪の孫」の支配が依然として日本全体に及んでいるのだろうか。確かにマスメディアは委縮して活発な政権構想を日本中で喚起しようとはしない。あるのは自民党政権内の「政権のたらいまわし」を楽しむポンコツ政治評論家たちの世迷い発言ばかりだ。
 しかし「妖怪の孫」の支配が続いているとは思えない。ただ衰亡する日本を横目に見て、政治家諸氏が永田町界隈の話題に忙殺されているかのように装っているだけではないのか。彼らは未来に対する明確な指針を見失い、自信喪失したまま時だけが経過している。いわば政治理念の不在がある一方で、日本を衰亡させる仕組みだけが加速している現状すら見えていないようだ。

 日本の政治は未来に対する明確な指針(或いは理念)を見失っている。そして台湾有事論者たちに惑わされて、米国製のポンコツ・トマホークを400発も爆買いして、「敵基地攻撃能力」を確保する、という。日本国内の基地から「敵基地」まで届かないトマホークで、どのようにして「敵基地攻撃能力」を持つというのか。バカげた議論が先行して、そのためには「増税」が必要だと岸田氏がホザク。
 もちろん日本の防衛能力を高めるのに異論はない。しかし、それは日本の防衛産業の育成をも含めた防衛能力の高度化でなければならない。なぜなら米国が永遠に味方であることなどあり得ないからだ。日本の全国各地を空襲し爆撃したのは中国ではなく、米国だ。米国はプラグマティズムの国で、自国と自国民にとって役に立たないものには見向きもしない、極めてドライな判断を行って来た歴史がある。

 翻って、日本政治の「妖怪の孫」支配と勘違いされる「閉塞感」は何だろうか。それは「世襲国会議員」の多さではないだろうか。党派別に見てみると自民党が29.5%(99人)て、次いで立憲民主党の10.4%(25人)。そして公明党、日本維新の会、国民民主党の世襲候補はいずれも1人となっている。
 ここで敢えていうなら、自民党の幹部には世襲国会議員が多い、ということだ。それならなぜ世襲国会議員の多い自民党が政権を担っていると政治が閉塞するのか。それは東京生まれ、東京育ちの政治家の子弟が政権の中枢を担っているからだ。

 つまり「東京的な政治」が日本を支配しているため、日本全国的な政治に不向きな政策が実施され、地方の活力をさらに削いでいるからではないか。
 たとえば岸田氏は総裁選に登場した当初は「所得倍増」を主張していたが、総理大臣に就任すると彼の政策は「資産倍増」論に変節した。岸田氏は「資産倍増」するためには投資をしなさい、と「投資の勧め」を説いている。

 だが投資といえば株式投資も投資行動の一角を占めるが、地方在住で株式投資を行っている人は極めて少数だ。そして上場企業経営や配当所得に関係する人はもっと少数だ。しかし東京なら経済団体のエライさんたちの多くが暮らしているし、土地などの資産価値も高いため投資活動に勤しんでいる人の割合は地方よりも格段に高いだろう。
 そして少子化対策として重要なのは「資産倍増」ではなく、「所得倍増」こそが最も必要とされる政策だ。ことに若者たちの所得倍増こそが喫緊の課題ではないのか。婚姻率の低下こそが少子化の根本原因ではないのか。

 労働者所得の低下と雇用環境の悪化を招いたのは自公政権下の「構造改革」政治だ。グローバル化と非正規・派遣労働の拡大が労働者賃金の低下を招いた。日本国民を貧困化させ、正規と非正規とで所得格差拡大を招いた。
 もはや地方は「構造感覚」政治に耐えられなくなっている。限界集落が消滅集落になり地方に廃屋が目立ち始めた。もちろん中山間地の田畑は耕作放棄地となり山麓の入会地は荒れ果てている。しかし東京生まれ東京育ちの人たちには解らない。地方を選挙区としていた安倍晋三氏も、東京生まれ東京育ちの世襲議員で、選挙の時だけ地方にやって来て「故郷の皆様~」と叫んでいた。そして今、岸某氏も「故郷の皆様~」と叫んでいる。

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