習近平氏は何をしにロシアへ行ったのだろうか。

中国による「和平調停」はただの幻
 3月20日午後から22日夜にかけ、中国の習近平国家主席は「主席3選後」の初外遊としてロシアを訪問し、プーチン大統領と長い時間をかけて会談した。それは、ロシアのウクライナ侵攻以来の初めての主席訪露である。
 ウクライナ戦争の最中、ロシア最大の友好国である中国の国家主席の訪露であるから、習氏のロシア訪問が平和への「仲介の旅」となるのではないかと国際社会の一部から期待されていた。2月24日、中国外務省は12項目からなる「和平案」を発表し、習主席自身は訪露直前にロシア紙に寄稿して自らの訪問を「和平の旅」だと称することから、中国は戦争の膠着状態に乗じて本格的な「和平調停」に乗り出すのではないかとの観測が上がっていた。
 しかし結果は全くの期待外れとなった。21日に発表された中露共同声明は1から9までの9つの項目からなっているが、ウクライナ戦争の「和平調停」について言及した箇所は第9項目の中の5分の1程度の分量、声明文全体の5%程度に過ぎない。中露首脳会談において「和平調停」が主要な議題として取り上げられたとはとても思えない。
 そして首脳会談後、まずはロシア側が和平交渉に向けて動き出すことは一切なく、むしろ習近平訪露の直後からウクライナに対する軍事攻撃を強化した。一方のゼレンスキー大統領は22日、23日にかけて最前線の激戦地を視察して徹底抗戦を訴えた。そして23日、ゼレンスキー大統領は対欧米のビデオ演説を行い、「長期戦の恐れがある」とした上でさらなる武器供与を呼びかけた。
 つまり交戦国の両方ともは中国による「和平調停」を全く気にかけることはなく、むしろ戦争の継続的遂行に専念するのみである。習近平訪露の前から取り沙汰されていた習近平vs.ゼレンスキーのオンライン首脳会談はこの原稿を書いている3月25日現在でもいっこうに実現されていない。
 いわゆる「中国による和平調停」は最初からただの幻であって、中国は自らの調停で戦争を終結させるつもりはその力もない。習主席が標榜する「和平の旅」は単に、戦争中の侵略国家・ロシアを一方的に訪問する自らの外交行動に対する国際社会の批判を躱すためのポースに過ぎないのである。
 しかしそれでは、習主席は一体何の目的で戦時中のロシア訪問を断行したのか、中国は国際社会から批判も覚悟の上で侵略国家・ロシアとの関係強化に乗り出した背景に一体何かあるのか。

ロシアに背を向け、米国接近を図ったが

 昨年2月にロシアがウクライナ侵攻に踏み切る前とその直後、習近平政権は自らの企む台湾侵攻への追い風だと捉えてプーチンの戦争を全面的に後押しした経緯がある。その時点で中国側は、ロシアとの関係性については「無上限、無禁区、無止境」の「三無政策」を打ち出して、ロシアとの軍事同盟の形成までを視野に入れていた。
 しかしロシアの侵攻は上手くいかず戦争が膠着化・長期化し、特に欧米が一致団結してウクライナを支援する中で、習政権は徐々にロシアとの距離を置き始めていた。
 そして中国が、ロシアに背を向け始めるのではないかと思われるような外交行動に出たのは昨年の年末である。
 昨年12月30日、習主席は今年3月の全人代開催を待たずにして前倒しの外相人事異動を行い、当時の駐米大使だった秦剛氏を新外相に任命した。そして秦外相は就任して2日目の今年1月1日に、早速ブリンケン米国務長官と電話会談を行い、「米中関係の改善」を訴えた。その一方、彼が中国の新外相としてロシアのラブロフ外相と電話会談したのは8日間遅れての1月9日。中国はこれを持って露骨な対米関係重視、ロシア軽視の姿勢を示した。
 秦外相はラブロフ外相との会談ではさらに、以前の対露外交「三無政策」にとって代わって、「3つのしない」という中国側の対露外交の新方針を打ち出した。「同盟しない、対抗しない、第三者をターゲットとしない」の3つであるが、それは実質上の対露外交方針の大転換を意味する。昨年の党大会で3期目のスタートを切った習政権は、ロシアと距離を置きながら対米関係の改善に乗り出したのである。
 対米改善の重要なる一環として、中国側はブリンケン米国務長官の訪中を受け入れた。長官が2月5日、6日の日程で北京を訪問することが決められ、習主席は自ら長官との会談に臨む予定であった。そして人民日報は2月1日から3日連続、米中関係改善を訴える論評を掲載、「改善ムード」を作り出そうとした。 
 しかしその矢先に「中国スパイ気球事件」が発生し、ブリンケン長官の訪中は延期された。2月5日、中国気球は米軍によって撃墜される重大事態となった。
 おそらく中国軍の意図的な妨害工作の結果であろうが、習政権による対米関係改善の動きはこれで中断され、米中対立はよりいっそう深まった。

しょうがなくロシアと組んで米に対抗へ

 こうした中で2月21日、中国外交統括トップの王毅政治局員は訪露してプーチン大統領と会談した。前述の気球事件で対米改善を諦めた習政権はこれで再び対露接近へと傾斜した。その会談の席上、プーチン大統領から「春の習主席訪露」の話を持ち出されて、習近平訪露は概ね決まった。
 2月28日、米連邦議会下院金融委員会は台湾に関する3つの法案を圧倒的な多数で可決した。「台湾紛争抑制法案」、「台湾保護法案」、「台湾差別禁止法案」である。前回掲載の本欄が詳しく考察したように、それらは習政権が企む対台湾軍事侵攻を徹底的に封じ込めるための法案であって、法律として成立すれば習政権の台湾併合は大変難しくなろう。
 これに危機感を募らせた習主席と習政権は直ちに、米国との対決姿勢を強めた。3月6日、習主席は全人代の会議で「米国を頭とする西側諸国はわが国に対して全方位的な封じ込めや包囲、抑圧を行い、わが国の発展に未曾有の厳しい試練を与えている」と異例の米国批判を展開。7日には、秦外相は記者会見で「米国側が誤った道に従って暴走すれば、必然的に衝突と対抗に陥るだろう」と激しい言葉で米国を批判し、「最後通告」とも捉えられる強い警告を発した。
 おそらくこの時点で習主席は、以前の対米改善方針を完全に放棄して、再びロシアと手を組んで米国と対抗する道に走ることを決めた。

迷走の末の野合では

 こうした流れの中で実現されたのは習主席のロシア訪問である。プーチン大統領との長時間の首脳会談の結果として発表された共同声明では、両国は「全面的戦略的協力関係の深化」を目指して経済・エネルギ・一帯一路・人的交流などの多方面における関係強化に合意した。
 それと同時に、両国は団結して米国中心の国際秩序に対抗して新秩序構築の意欲を示した。習政権はこれで、軍事同盟以外のあらゆる面での「中露一体化」への道を選び、ロシアと共闘して米国と対抗する道に走ることになった。
 しかし、ウクライナ戦争が始まってからの1年間あまりの習政権の対米外交・対露外交の動きを丹念に見ていれば、習主席は最初から深謀遠慮の一貫とした成熟戦略の下で対米・対露外交を進めたわけでは決してないことはよく分かる。
 習政権はその都度の状況変化に流されて対露傾斜したり対米傾斜したりして右往左往してきているが、習近平訪露における対米共闘の「中露連盟」の結成は結局、2月初旬の「気球撃墜事件」以来の一連の流れの中で生まれた結果であって、「中露連盟」は決して、深い信頼によって結びつかれて強固とした基盤の上で成り立つような安定性のある関係ではない。
 実際、プーチンが喉から手が出るほど欲しがる本格的な軍事支援に関し、習主席は結局、欧米を完全に敵に回すことを恐れて踏み切っていない。
 いわゆる「中露連盟」は単に、習近平が右往左往の末にたどり着いた一時的な「野合」にすぎない。

メリットなし、単なる「4月馬鹿」

 しかしその一方、中国がこの程度の「野合」のために払わなければならない代償は決して小さくはない。
 習近平訪露直前の3月18日、国際刑事裁判所は、国際法上の戦争犯罪にあたるとしてプーチン大統領に逮捕状を出した。それは中国にとっての予想外の大誤算であろう。その直後にロシアへ行ってプーチンとの親密関係を晒し出してロシアとの「全面的戦略関係の深化」に乗り出した中国と習近平は結局、「戦争犯罪容疑者」と手を組む「悪の仲間」だと国際社会に再認知されて、中国の国際的イメージのより一層の悪化に繋がるはずだ。
 もう一つ中国にとっての予想外の誤算は、習近平訪露に合わせたかのような日本の岸田文雄首相のウクライナ訪問である。岸田首相と日本が正義の味方を演じて見せたことは、習近平と中国が「悪の仲間」であることをより一層強く国際社会に印象付けることとなった。ゼレンスキー大統領は来訪中の岸田首相に対し発した、「日本は国際秩序の真の守り手」というセリフには、同じ日にプーチンと拍手している習近平と中国に対する風刺と批判が含まれているとも捉えられよう。
 一時的「野合」であるとはいえ、中国が侵略国家のロシアと手を組む方向に走ったことは当然、米国のより一層の中国叩きと中国封じ込めを招き、一致団結してロシアの侵略戦争に立ち向かっている欧州との亀裂をさらに拡大しかねない。中国の国際的孤立化は今後より一層進むこととなろう。
 その一方、経済規模が韓国以下、ウクライナ戦争で軍事大国の神話も崩れた落ち目のロシアとの「野合」は中国にもたらす戦略的メリットはそれほど大きなものではない。
 そしてもし今後、ロシアが敗戦してプーチン政権が崩壊するようなシナリオとなれば、プーチンとの個人関係をよりどころにロシアとの「野合」に走った習近平と中国にとってそれこそは元も子もない。ロシアを失うと同時に欧米を失い、プーチンにとって代わっての「世界の孤児」になりかねない。
 結局、一貫として戦略的定見もなく、右往左往の末に最悪のタイミングで世界の悪者であり負け犬デアもあるプーチンとロシアを助けに行った習主席のことはもはや、「4月馬鹿」にならぬ「3月馬鹿」というしかないのである>(以上「現代ビジネス」より引用)




 中国評論家・石平氏による「中国・習近平訪露、「和平の旅」はただの嘘、実は米国接近を拒否されてやむなくロシアと野合、ますます世界から孤立へ」と題する論評が掲載された。国際刑事裁判所から「犯罪人」として逮捕状が出ているプーチンと握手をして、ウクライナへは訪問しない習近平氏は世界の「調停人」ではない、とバレてしまった。
 習近平氏は「ロシアの負け」が明らかになった段階でロシアを訪問した思惑は何なのか判然としない。ロシアを勝利へ導くべく積極的な武器弾薬の支援をするでもなく、かといって全く取り合わない、というのでもない。

 もちろんプーチンは「話が違う」と不満タラタラではないか。「無限の攻守共同」約束を果たせ、と習近平氏に迫っただろう。しかし習近平氏はある程度の「支援」を約束するだけで、表立っての武器・弾薬の支援は断った。
 そうした戦略なき訪ロを「三月バカ」だと、石平氏は習近平氏を批判した。訪ロの結果。共同宣言で謳われたのは「両国は「全面的戦略的協力関係の深化」を目指して経済・エネルギ・一帯一路・人的交流などの多方面における関係強化に合意した」という平時での話だけだった。

 習近平氏は経済対策に関して全くの素人のようだ。中国経済に米国と覇権を争い「陣地取りゴッコ」で遊んでいる余裕などない。強権力で金融市場の崩壊を止め、債券市場取引に介入し、不動産不良債権処理を強権で先延ばししている、という八方塞の状況にある中国経済の危機的状況がお解りでないようだ。
 習近平氏が国家主席である限り、中国は確実に経済ガバナンスを失い社会が崩壊する。中共政府首脳が目指すべきは先進自由主義諸国と良好な関係を取り戻すことだ。そのためには「世界の覇を奪う」などという、国家にとって何の役にも立たない妄想を捨てることだ。

 国民にとって自国が世界に君臨しようと、何の関係もない。それよりも安定した仕事があって落ち着いた暮らしを送れる方が望ましい。台湾を統一したとして、中国民がどれほどの暮らしに安らぎが得られるというのか。ロシアがウクライナを占領したとして、ロシア国民にとって何が得られるというのか。
 独裁者たちの妄想によって振り回される国民は堪ったものではない。戦争により命まで差し出さなければならないのは悲劇でしかない。

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