ウクライナ戦争の平和の使者に習近平氏は不適格だ。

<中国の全人代(全国人民代表大会、国会に相当)が3月13日に閉幕した。
 先に、一点訂正をしておく必要がある。全人代開幕前、中国共産党の2中全会(第20期中央委員会第2回全体会議)開催後に香港紙明報などが特ダネを報じた。この全人代の最大のホットイシューの「党と国家の機構改革方案」では、公安・国家安全部の治安維持・諜報機能を国務院から党中央に組み入れ、中央内務委員会を創設して“中国版KGB”のようなものをつくるのではないか、という情報だった。3月2日に公開した本コラム(「大粛清を始める習近平、中国版KGBの発足で『スターリン化』の気配」)でその情報を紹介した。

 だが、全人代で審議された国務院機構改革方案では、公安・国家安全部には全く言及がなかった。結果的に中国版KGBは「ガセネタ」だったということになる。
 これが香港メディアを通じた一種の観測気球や世論誘導の情報戦であったのか、それとも、予定はあったが世論の抵抗を考えて保留されたのか、今のところ不明だ。

習近平の「大国和平外交」に大きな進展
 だが、全人代を通じて、習近平が経済、ハイテク、外交、民生、軍事の全方位的政策を自ら差配する方向で人事や機構を調整していることは間違いなかろう。個人的には、習近平独裁に誰かに歯止めをかけてほしいところだが、今、国際社会の風向きが習近平の権力掌握に有利になっているのは事実だ。
 というのも、習近平の「大国和平外交」にこのところ大きな進展があった。
 全人代最中の3月10日、北京でサウジアラビア、イラン、中国による3国共同声明が発表され、サウジアラビアとイランが7年ぶりに外交関係を正常化させることを含む協議に調印した。これは「習近平の大国外交の勝利である」と中国国内メディアのみならず国際メディアもポジティブに報じている。
 さらに、習近平は早ければ来週にもロシアを訪問し、プーチンと会談し、その足でヨーロッパを訪問するらしい。ウクライナとのゼレンスキーと会談する計画も一部で報じられている。
 2月に中国は12項目から成る「ウクライナ危機の政治解決に関する中国の立場」という文書を発表し、両国の和平交渉に建設的な役割を発揮したいとしていた。
 サウジアラビア・イランの国交回復の仲介ができたのなら、ロシア・ウクライナ両者から何等かの妥協や譲歩が引き出せるのではないか、という期待も高まりつつある。

中国の仲介が開いたサウジ・イラン関係修復への道

 中国の呼びかけに応じ、3月6~10日、サウジアラビア国務大臣で国家安全顧問のムサード・ビン・モハメド・アル・アイバンと、イラン最高国家安全委員会秘書のアリ・シャムハニがそれぞれ率いる両国代表団が、北京で会談を行った。
 中国、サウジ、イランの3カ国による共同声明では、サウジとイランの間で、外交関係の回復に同意し、2カ月以内に双方が大使館と代表機構を開設し、相互に大使を派遣し、2国関係強化のために模索するという内容を含む協議が調印された。両国が2001年に調印した安全協力協定、1998年に調印した経済、文化領域での協力全体協定も再始動する。
 サウジとイランは2016年に断交した。緊張緩和のために、両国は長期的な対話を続けていたが、イランは昨年(2022年)12月、サウジがイランの国内抗議活動を支持していると非難し、対話は一度暗礁に乗り上げた。
 だが昨年12月、習近平がサウジアラビアを7年ぶりに国事訪問。中国・アラブ諸国サミットなどにも出席して、中東地域の「火種」問題解決に取り組む姿勢を見せていた。
 このとき、イランは中国とサウジの接近に反発を示したものの、習近平はすぐさま当時副首相の胡春華をイランに派遣し、ライシ大統領との会談で早急に手当を行った。イラン側の怒りは収まり、ライシ大統領は2月に訪中。中国の仲介によるサウジ・イランの関係修復の道が開かれた。
ちなみに、サウジはウクライナに4億ドルの支援を表明し、イランはロシアにドローンなどを供与して急接近している。サウジとイランの関係修復は、ロシア・ウクライナ戦争が中東問題に波及するリスクも、緩和、予防できたことになる。

世界のメディアが中国の「和平斡旋外交」を評価

 環球時報は、専門家(蘭州大学一帯一路研究センターの執行主任、朱永彪)のコメントを引用する形で両国の関係修復を次のように高く評価した。
「サウジとイランはそれぞれイスラム・スンニ派とシーア派を代表し、双方は長期間に矛盾が存在、さらに西側国家(米国)の挑発が加わり、両国関係は一度破綻に追い込まれた。今回の双方の協議の合意は、イスラム国家内部の矛盾を緩和したという重要な意義があるだけでなく、中東情勢の改善にポジティブな影響力を発揮するものだ」
 中央政治局委員で党の外交最高責任者である王毅は、北京でのサウジとイランの対話閉幕式の時、「サウジとイランの関係完全は中東地域の平和安定の道を切り開き、対話交渉を通じた国家矛盾対立を解決するモデルとなった」と胸を張っていた。
 上海外語大学中東研究所助理研究員の文少彪は、この中国の和平斡旋外交がパレスチナ、イスラエル、イエメン、シリア、リビアの内戦の緩和と解決に向けてポジティブな波及作用がある、とまで語っていた。
 中国メディアだけでなく米AP通信も「この協議合意は中国外交の重大な勝利だ」と評価し、米CNBCサイトも「中東地域情勢全体の緩和に大きな助けとなり、内戦が続くイエメンもおそらく両国関係の改善で停戦を迎えるのではないか」「このことは、中国がこの地域で新たな役割、特に(和平の)仲介者としての役割を持ったことを反映している」との専門家のコメントを報じた。

習近平がプーチン、ゼレンスキーと会談か

 だが、世界の平和の実現という点ではグッドニュースであるが、米国が湾岸地域から撤退せざるを得ない状況の中で、その空白を埋める形で中国のプレゼンスが強化されることの地政学的な意味を考えると、米国やその同盟国である日本にとっては心穏やかでないところも大きいだろう。
 しかも、この流れで、習近平は早ければ来週にもロシアを訪問してプーチンと会談し、その足で欧州のいくつかの国を回る計画もあると一部で報じられている。
 ロシア・タス通信は1月30日に、プーチンが春に習近平をロシア訪問に招待していると報じていた。さらにその後、ウクライナのゼレンスキー大統領と会談する計画だとウォール・ストリート・ジャーナルなどは報じている。
 中国のロシア・ウクライナ和平に向けた立場は、簡単に言えば以下の12項目である。(1)各国主権の尊重、(2)冷戦思考の放棄、(3)停戦、戦闘の終了、(4)和平交渉の再開、(5)人道的危機の解消、(6)民間人や捕虜の保護、(7)原子力発電所の安全確保、(8)核兵器の使用および使用の威嚇への反対、(9)食糧の外国への輸送の保障、(10)一方的制裁の停止、(11)産業・サプライチェーンの安定確保、(12)戦後復興の推進。
 ロシア側はこれに歓迎の意を示しているが、ウクライナ側は領土主権尊重や原子力発電所の安全確保などには注視するものの、ウクライナが停戦の条件としている占領地域のロシア軍撤退に関しては言及されていないことに、警戒心を示している。
 西側諸国は、この12項目発表が発表された段階では、中国はロシア側の味方をしすぎており、停戦に向けた影響力には限界があろうと軽く見ていた。中国の仲介能力に対する国際社会の評価は、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の失敗から、もともとあまり高くなかったからだ。
 だが、イラン・サウジの電撃的な外交関係回復が中国の仲介で実現した今、中国の影響力を過少評価しない方がいいかもしれない、という空気が一気に高まった。

「中国式現代化」を武器に目指す国際社会の新秩序

 ここで全人代における秦剛(しんごう)外交部長(外相)の記者会見を思い出してほしい。
 この会見で、秦剛は「『中国式現代化』は国際社会のホットワードだ。・・・これは人類社会の多くの難問を解き、現代化=西洋化の迷信を打破し、人類文明の新たなスタイルを創造し、世界各国、とくに多くの途上国に、主に5つの点で重要な啓示を与えることだろう」と語った。
 わかりやすく言うと、こういうことだ。西側の現代化は民主主義の押し付けであるが、中国式ならば、たとえ西側から見て人権や差別問題があっても、それを独自の文化・文明・国情という理由で包容できるし、共同富裕だから富裕層や先進国だけをのさばらせることもなく、異なる意見を排除するから常に団結奮闘でき、争うこともない。中国式現代化ならば、中東や中央アジア、東南アジアやアフリカの部族社会から発展した権威主義的な国家も、西側の価値観の押し付けに反感を抱くイスラム社会も、受け入れやすかろう──。
 習近平の大国外交の最終目標は、途上国、新興国が西洋化ではなく中国式現代化を選択し、そうした国々が中国朋友圏を形成し、それによって米国およびその同盟国陣営とわたり合い、最終的には中国式の国際社会の新秩序、フレームワークを再構築することだ。
 秦剛の表現を借りれば、「人類運命共同体構築、一帯一路建設、全人類共同価値観、グローバル発展イニシアチブ、グローバル安全保障イニシアチブなどの理念の核心は世界各国の相互依存であり、人類の運命を共にし、国際社会が団結せねばならない」「習近平主席は世界、歴史、人類の高みからグローバル統治の正しい道を指し示している」ということだ。
 中国の外交は、これまでは内政のための外交、つまり国内の団結や党の求心力を高めるための外交パフォーマンス、と言われてきたが、習近平は本気で「世界領袖」の高みを目指しているのかもしれない。

「平和外交」を進める中国がこれまで行ってきたこと

 ちなみに、秦剛はロシア・ウクライナ戦争については「残念なことに、平和に向けて対話を促進する努力は繰り返し破壊され、まるでウクライナ危機をある種の地政学的陰謀に利用しようと、紛争をエスカレートさせようとする『見えざる手』があるようだ」と語った。言うまでもなく米国に対する揶揄だ。
 習近平3期が全人代を経て全面的に始動し、私は習近平のスターリン化を恐れていたのだが、習近平は今や、ノーベル平和賞にノミネートされてもおかしくないぐらいのピースメーカーの役割が期待され始めている。
 実際、米国こそ他国をひっかきまわして戦争を起こすウォーメーカーではないか、と言われて、そう思う人も少なくなかろうし、そういう人が中国に期待を寄せることもあるだろう。
 だが、ウイグル・ジェノサイドを行い、香港の自由を弾圧し、民主化活動家や宗教家、人権弁護士らを“失踪”させてきた習近平体制が行う「平和外交」が、本当に私たちの考える「平和」をもたらせるものなのか。それとも、警察が仕切ろうがヤクザが仕切ろうが、治安を維持でき金儲けができるのであれば同じ、というのか。
 早く戦争が終わってほしいと思いつつ、微妙な気分にとらわれている>(以上「JB press」より引用)



 福島香織氏(ジャーナリスト)が「習近平に「平和の使者」が務まるのか?中国が振り返るべきこれまでの行状」と題する論評を発表した。もちろん彼女の念頭にはサウジ・イラン国交正常化を仲介した中国があるのだろう。犬猿の仲だったサウジ・イランの国交を正常化したのだから、もしかしたらウクライナ戦争和平斡旋も中国が果たすのではないか、と評価する人たちがいるのも確かだ。
 しかし考えて欲しい。サウジアラビアとイランは実は近しい国だった。同じ中東に位置し同じ産油国であり、そして何よりも同じ独裁専制主義国家だ。ただサウジアラビアが王政なのに対して、イランは宗教指導者による専制主義的な統治をしている、という相違はあるが。

 歴史的に見ればイランも王政だった。パーレビ国王が統治していたが1979年2月11日に革命が起きて独裁者の地位を追放され、国外へ亡命した。その後に樹立されたのが宗教指導者による専制国家・イランだった。
 いわば宗教指導者によるクーデター政権・イランの存在は王制を敷くサウジアラビアにとって脅威でしかない。イランが「王政の打倒」をするのではないか、と非情な警戒感を抱くのは当然のことだろう。

 しかし宗教指導者の衣を着ているが、ホメネイ師たちの統治が王政と何処が異なるというのだろうか。むしろ厳格なイスラム主義への回帰は女性蔑視でしかなく、イラン国内では女性の人権開放を求めるデモがイラン全土で起きている。その点ではサウジアラビアの王政と殆ど何も変わらない。
 翻って中共政府の中国を見るとどうだろうか。社会主義の衣を着ているが、実態は習近平氏による独裁専制主義国家だ。ほんの一握りの中共幹部が国家の総資産の36%も独占する様は莫大な石油利権を一手に掌握するサウジアラビア王やイランの宗教指導者が手にしている膨大な富とは比べようもないが、それでも明日の暮らしに困窮している下位9億人の国民の総資産に相当する富を独占している様はサウジアラビアの王政と何処が異なるというのだろうか。

 サウジアラビア、イラン、そして中国は国家体制こそ異なるが、実態は独裁専制主義国家であって、一握りの者が暖衣飽食するための国家的な搾取行政システムを構築している国々でしかない。習近平氏が最も親しくしているプーチンも独裁者だ。国家体制は民主的な衣を着ているが、実態は帝政ロシアと大して変わらない。
 彼らが米国と対峙しているのは、米国が民主主義諸国の盟主として民主主義国家の価値観を強要するからだ。その最たるものが「人権の尊重」だ。

 サウジアラビアやイランやロシアや中国が先進自由主義諸国と異なるのは人権の尊重だ。独裁国家と民主主義国家とが決定的に異なるのは「国民の人権」だ。国民の人権を抑圧することにより、独裁者たちは国家の富を恣に搾取する。結果としてプーチンは国外に22兆円を超える金融資産を蓄財している。
 「習近平は今や、ノーベル平和賞にノミネートされてもおかしくないぐらいのピースメーカーの役割が期待され始めている。」というが、これが悪夢でなくて何だろうか。

「秦剛の表現を借りれば、「人類運命共同体構築、一帯一路建設、全人類共同価値観、グローバル発展イニシアチブ、グローバル安全保障イニシアチブなどの理念の核心は世界各国の相互依存であり、人類の運命を共にし、国際社会が団結せねばならない」「習近平主席は世界、歴史、人類の高みからグローバル統治の正しい道を指し示している」ということだ」と認識しているとしたら、それこそ由々しき問題だ。
 一人の独裁者の理念によって国際社会が平和になった歴史はない。そこにあるのは世界覇権を求める戦争と独裁者の最終的な敗北だけだ。ナポレオンがそうだったし、ヒトラーがそうだったし、ソ連がそうだった。そしてプーチンが彼らの系譜に連なろうとしているし、習近平氏も彼らの仲間入りを強く願っているようだ。

 論評中で福島氏も「ウイグル・ジェノサイドを行い、香港の自由を弾圧し、民主化活動家や宗教家、人権弁護士らを“失踪”させてきた習近平体制が行う「平和外交」が、本当に私たちの考える「平和」をもたらせるものなのか」と疑問を呈しているが、習近平氏がウクライナ戦争の仲介など出来るワケがない。
 なぜなら習近平氏が見ている未来はプーチンの見ている未来と同じかも知れないが、ゼレンスキー氏が見ている未来とは明らかに異なる。もちろん米国がウクライナ戦争の仲介役を買って出ることも不可能だ。なぜなら米国が見ている未来はプーチンが見ている未来とは全く別物だからだ。つまりプーチンがロシアの大統領でいる限り、ウクライナ戦争は終わらない。たとえ停戦したとしても、それは「チェンバレンの平和」でしかない。

 ただ、ここに来て一つの情報が流れている。それはロシアの「特使」が秘かにキーウを訪れてウクライナ外相と「戦争終結」に関して密談したというのだ。ロシアの「特使」が提示した「終戦条件」は1991年当時の国境線まですべてのロシア軍を撤退させる、というから俄かには信じがたい。少なくともプーチンの見ている未来ではない。
 しかしロシア軍は兵隊の損耗が激しく、砲弾も払底して継戦能力を喪失しているという。ロシア国内の金融崩壊も時間の問題に達していて、ハイパーインフレの到来を制御できない段階に達している。ロシア国内が大混乱に陥る前に戦争を終結したい、と考える人たちが秘かに動き出した、と考えられなくもない。彼らの動きがロシア国内で力を持ち、プーチンをクレムリンから追放すれば、ウクライナ戦争の終結が現実のものになるのは間違いない、が。

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