改革を迫られる習近平氏。

何でこのタイミングで
 2月5日、アメリカの領空で中国の偵察気球が米軍によって撃墜される大事件が起きた。アメリカにとってそれは、領空が外国の飛行体によって侵犯されるという第2次世界大戦以来の重大危機であり、中国にとってそれは自国の飛行体が外国軍によって撃墜されたという朝鮮戦争以来の重大事件である。
 事件が起きたことの結果、その直後に予定されていたブリンケン米国務長官の訪中が延期されて、アメリカ議会では中国非難が高まり、米中関係がより一層悪化した。そして今後、バイデン政権による対中国技術封鎖はさらに厳しくなることも予測され、米中対立は深まっていく見通しである。
 問題は、気球を放った中国側は一体どうしてこのタイミングで、米中関係を壊すような挙動に出たのか、であるが、実は、昨年秋から今年2月にかけ、中国の習近平政権はむしろ、米中関係改善を積極的に進めてきている。

 習近平主席は昨年10月下旬の党大会で個人独裁体制を固めて政権の3期目をスタートさせてからは、国内経済の立て直しと国際的孤立からの脱出のため、悪化している対米関係の改善に乗り出した。
 まずは昨年11月14日、習主席はバリ島で国際会議参加の機会を利用してバイデン大統領と3時間にわたる首脳会談を行った。会談の中で習主席は「共に両国関係を健全で安定した発展軌道に戻す努力をしたい」と語り、関係改善と対話継続の意欲を示した。そして昨年12月30日、習主席は今年3月開催予定の全人代を待たずにして異例の「閣僚人事」を行い、前駐米大使の秦剛氏を外務大臣に任命した。
 外相に就任した2日後の今年元旦、秦剛氏はさっそく米国のブリンケン国務長官と電話会談を行い、新年の挨拶を交わしたと同時に、「米中関係の改善・発展させていきたい」と語った。米国務長官との電話会談の9日後、秦外相は本来一番の友好国であるはずのロシア外相との電話会談を行ったが、その中でロシア側に対し、今後の中露関係の「原則」として「同盟しない、対抗しない、第三国をターゲットとしない」という「三つのしない」方針を提示した。それは明らかに、米国を中心とした西側に配慮してロシアと関係見直しに出た挙動であって、習政権の対米改善外交の一環であろうとも思われる。

どう見ても疑わしい中国軍

 こうした中で、ブリンケン米国務長官の2月訪中が双方の間で決定され、長官は2月5日、6日の日程で北京を訪問する予定となった。さらに英紙フィナンシャル・タイムズは、長官は北京訪問中に、習近平主席と会談する予定であるとも伝えた。中国側はプリンケン訪中を極めて重要視し、それを対米改善の重要なる一歩だと位置付けていることがこれで分かる。
 実際、「ブリンケン訪中」直前の2月1日、2日、3日の連続3日間、人民日報は第3面において米中関係に関する「鐘声」というペンネームの論評を掲載した。3通の論評は米中間の「経済協力関係の深化」や「Win-Win関係の構築」を訴えた、「米中関係を健全・安定の軌道に戻そう」と米国側に呼びかけた。実は、中国語では「鐘声」の「鐘」という字が「中央」の「中」と同じ発音であるから、「鐘声」というペンネームの意味は「中央の声」であることは中国国内の常識だ。
 このようにして習近平政権は多大な期待を抱きながら世論上の準備も整えて「ブリンケン訪中」を迎えようとしていた。しかし、「ブリンケン訪中」の直前になって、中国の放った偵察気球一つでそれが延期されることとなった。偵察気球が米国側によって撃墜されたことによって、米国朝野の対米姿勢はさらに厳しくなる一方、習近平主席のメンツが丸潰れとなって、米中関係はより一層悪化する方向へ転じた。
 結果的には習近平政権は、自らが起こした気球事件によって、自らの推進する対米改善を「タイミング良く」潰してしまい、習主席自身の面子をも潰したことになっているが、このような信じられないほどの自己矛盾と支離滅裂の背後に一体何かあるのか。
 そこで出てくる可能性の一つはすなわち、気球事件は習主席あるいは最高指導部の意思によって引き起こされたのではなく、政権内のなにがしの勢力が良いタイミングを図って習近平の対米改善外交の潰しに取りかかったのではないか、とのことである。その一方、偵察気球を放ったのは中国軍である可能性が高いから、習主席の対米改善の潰しに暗躍したのは軍の方ではないかとの推測も成り立つのである。

外交部の動揺、政権内の不統一

 ここでは、気球事件に対する中国軍の反応を見てみる必要があるが、その前にはまず一度、対米関係改善の先頭に立つ中国外務省の一連の反応を吟味して、軍の態度を見るための参照にしておきたい。
 中国外務省の事件への対応は最初時点ではかなり混乱していた。偵察気球が米国で発見された翌日の2月3日午後、中国外務省毛寧報道官は定例の記者会見で記者の質問に答えて、「私は関連の報道に留意した。中国側は事実関係の確認中」と答えた。つまり毛氏の話からすれば、外務省の方は事前に気球のことを知らされずにして「報道で見た」という。だから彼女は「事実確認中」と言う以外に何も答えられなかった。
 そして当日の晩の21時すぎ、中国外務省は公式サイトで急遽、記者会見には実際になかったはずの「報道官の答え」を単独で掲載し、気球が中国のものであると認めた。同時には「それは民用の気象探査気球であって不可抗力で間違った軌道に入った」と嘘の発表を行なった。
 しかし本来、偵察気球が米国で発見された時点で、中国政府内で事前に「嘘の打ち合わせ」が行われたのであれば、毛寧報道官は3日午後の記者会見でこの通りの答えを行ったはずである。
 その時点で「事実関係確認中」云々とは、要するにこの時には外務省は本当に何か起こったのかを知らされずに答えに困ったわけであって、記者会見の後になって初めて「嘘の打ち合わせ」が行われた、ということであろう。つまり中国外務省は最初段階では「蚊帳の外」におかれていたので、どう対応すべきかを分からずにしてかなり混乱していた。
 そしてその意味するところはすなわち、この一件に関して、習近平政権全体は最初から統一した指揮下で各部門が歩調を合わせて行動していない、ということである。

関係改善の余地を残したい外交部

 こうした中でもう一つ注目すべきなのは、気球事件が発生してから、中国外務省がアメリカへの批判・抗議を繰り返しながらも一貫して反発のトーンを弱めて対米改善の余地をできるだけ残しておいていることだ。
 例えば2月3日夜の外務省発表では、中国側は気球が「間違って米国に入った」ことに対し「遺憾」を表明したと同時に、「米国側との意思疎通を保ちたい」と表明した。そして2月4日、王毅外相はブリンケン米国務長官との電話会談ではこの一件に関しては、アメリカとの間で「随時の意思疎通を通して対立をコントロールしよう」との姿勢を示した。
 2月5日、米国による気球撃墜に対して、中国外務省の謝峰副部長(副大臣)は米国大使館に「厳正なる抗議」を申し入れたが、まず注目すべきなのは米国大使などを中国外務省に呼び出しての「抗議」ではない点だ。
「抗議」において謝氏は、「必要な反応する権利を保留する」と語る一方、逆に米国側に対して「緊張をそれ以上拡大させてならない」と求めた。自国の気球が撃墜されたにもかかわらず、中国外務省としてはむしろ事態を早期に収束し、それ以上の緊張拡大を避けたい本音を滲ませている。
 2月6日、毛寧報道官は記者会見で、「米中関係を安定させ・改善させるための米国側の誠意が試される」と語ったが、それは明らかに、米国側が「誠意」さえを示してくれれば、中国側としては関係の改善を推進したい、という遠回しのメーセッジの発信である。
 そしてバイデン米大統領が2月7日に連邦議会の一般教書演説で対中問題に言及したことを受け、毛報道官は8日の記者会見で「米国は中国側と共に米中関係を健全・安定の軌道に戻すべき」と語り、依然として関係改善への意欲を示している。
 その一方、習主席が対米改善の切り札として任命した秦剛新外相は、今回の「偵察気球事件」に対して現在のところ一切の沈黙を守り、一言も発していない。それはやはり、新外相による対米批判を避け、改善へとつなげるための工夫であろうと思われる。

対米報復主張の国防部

 このようにして「気球事件」への対応において習主席―秦外相ラインの外交部門は一貫としてできるだけの「柔軟姿勢」を保ち、対米改善路線を継続させたい思惑であるが、それに対して、異様な対応ぶりをしているのは国防省の方である。
 2月5日、米国による気球撃墜の事態を受け、中国国防省報道官は「談話」を発表して「厳重なる抗議」を行った。と同時に、「類似する事態に対して必要な手段で処置する権利を保留する」とも発言したが、この発言の意味は明らかに、もし米国側の気球などが中国に飛んでくるという「類似する事態」が発生した場合、中国軍はそれを撃墜するような「必要な手段による処置」をとる用意があるという意味合いである。
 つまり中国の国防省はここで、軍事手段による対米報復を強く示唆したものであるが、それは、中国外務省の「反応する権利の保留」よりは一歩進んだ強い表現だ。しかも、この発言は理解するようによっては、「誤って入った気球の撃墜は不当である」という中国外務省の主張を事実上否定したものでもある。同じ習近平政権の下で、外務省と国防省の姿勢の違いが明確になっていて、「政権内不一致」が目立っているのである。
 2月7日、米国国防総省報道官は、気球撃墜の直後に米国側が中国国防相との電話会談を申し込んだが断られたと発表した。今の時点では、習近平指導部の意思としてそれを断ったのか、国防相(あるいは軍)自らの判断で断ったのかは依然としては不明であるが、この態度は、中国外務省が一貫として主張している「意思疎通」とは明らかに矛盾している。またもや、政権内での乱れを露呈している。

そして、もし電話会談の拒否は軍の意思であるならば、ブリンケン米国務長官訪中直前のタイミングで偵察気球を放って米中対立を作り出して、習主席の対米改善潰しに取りかかったのはまさに中国軍である可能性はさらに高まってくるのである。

中国軍の不満と反発

 2月8日、外務省毛寧報道官は定例の記者会見で、「どうして中国国防相は米国側との電話会談を拒否したのか」と問われると、「それは国防省に聞いてください」と即答で突き放した。「国防相のやることは私たちの知ったもんじゃない」と言わんばかりの異様な反応だが、国防省と外務省との間に齟齬のあることは明々白々である。
 そして9日、国防省報道官は「談話」を発表し、「対話の雰囲気にない」との理由で電話会談拒否の姿勢を説明した。と同時に「類似する事態に対して必要な手段で処置する権利を保留する」と対米報復を再び示唆した。
 しかし、国防省=軍が「対話の雰囲気にない」と明言した以上、外務省としても当面は米国側との対話を模索し難くなる。捉えようによっては国防省=軍はこの「談話発表」を持って、外交ラインが依然として希望している対米改善の道を封じ込めようとしているのである。
 このようにして、「偵察気球事件」への対応において、中国外務省と国防省は互いに歩調を合わせることなく別々で行動し、それぞれの姿勢に明らかな違いも生じてきていることはよくわかる。
 こうした政権内不一致と国防省の強行姿勢の背後にはやはり、習近平主席が秦剛新外相を使って進めている対米改善に対し、不満と反発を持った中国軍の暗躍があると考えられよう。したがって例の「気球事件」は、対米改善を妨害しようとする中国軍によって引き起こされた可能性は否めない。もしそうであれば、軍を含めた習近平政権全体は今後、ますます危険な方向へと走っていくのではないか>(以上「現代ビジネス」より引用)




 気球を巡って米中がギクシャクしている。「スワッ戦争か」と戦争大好き評論家たちは色めき立っているが、そんなことはあり得ない。米中は戦争するどころではないからだ。
 中国評論家石平氏が「中国軍が偵察気球で「米中関係改善潰し」に暗躍…習近平政権、実は内部分裂?」と題する論評を掲載した。その副題に「報復撃墜まで言明する軍の不満と反発」との見出しを掲げて、中国内で習近平氏と軍部とが齟齬を来しているのではないか、と分析している。

 確かに中共政府が待ち望んだブリンケン訪中の直前に起きた気球撃墜騒動だ。米国内でも日本政府と同様に気球問題を有耶無耶にしようとしたホワイトハウスと、撃墜を煽り立てたマスメディアの扇動姿勢が際立っている。米中とも両国政府が歩み寄るのを歓迎しない勢力があって、両国内でブリンケン訪中を潰し、その後に予定されていたバイデン氏の訪中と習近平氏との会談を阻止した、と考えるのが順当だろう。
 では、気球騒動を起こしたのは誰なのか、という犯人探しをするのが自然な流れだ。しかし少なくとも日本の主要マスメディアにそうした論調は皆無だ。彼らは毎日何を国民に伝えているのだろうか。ことに「皆様のNHK」もそうした姿勢なのは言語道断ではないか。

 まったく日本のマスメディアでは取り上げられていないが、中国内の武漢肺炎大感染爆発が人民解放軍内で起きていないわけがない、と考えるのが常識的ではないだろうか。おそらく中国民が大量死したのと同様に、集団生活している人民解放軍部内でも多くの兵士たちが病死したはずだ。
 有効なワクチンもなく碌な治療薬もない中国で、軍人が貧弱な医療体制の中で大量死しては軍幹部たちは兵士たちから突き上げを喰らっても仕方ないだろう。おそらく全国の軍管区内でそうした動きがあると想像して間違いないだろう。そうすると軍幹部たちは兵士の憤懣を抑えるために、戦争の危機を演出するしかない。「幹部を批判する暇があったら戦争準備に掛かれ」と憤懣を逸らすしか解決方法を彼らは持たないだろう。そうだとすれば石平氏が副題に記した「報復撃墜まで言明する軍の不満と反発」が信憑性を持つのではないか。

 だが「経済崩壊」に見舞われている中共政府に戦争の意思はないし、米国政府にもロシアと中国の二面作戦は考えられないだろう。つまり米中が戦端を切る動機はない。針小棒大に偵察気球を撃墜すれば宣戦布告に等しい、と騒ぐ愚かな軍事評論家がいるが、かつてソ連上空を偵察していたU-2が撃墜されたが、米ソが戦争を始めた事実はない。今回はU-2という有人偵察機が撃墜されたわけではなく、成層圏をフワフワ漂う中国の偵察気球が撃墜されただけだ。
 中国では中央政府も地方政府も深刻な金欠病に見舞われ、公務員給与の40%カットが実施されているという。その公務員に軍も含まれるとしたら、軍部が中共政府に反発するのは避けられない。しかし戦争を起こせ、とは決して言わないだろう。なぜなら彼らは「職業軍人」だからだ。軍人であり続けるのは当然だが、彼らが保有する装備は彼らの飯の種でしかない。元々が強盗盗賊集団でしかなかった匪賊が政府になり軍隊になっただけだ。中国は決して日本と同様な「国家」ではない。いわば荘園時代の「武士」集団が国家を簒奪したと想像する方が中国の実態を理解するには近いだろう。

 日本政府は曲がりなりにも年金基金を勝手に食い潰すようなことはしない(と、願っている)。しかし中国では全国各地の地方政府が国民に支払うべき医療保険を勝手に食い潰して、支払額を1/4~1/5に引き下げたから、全国各地で高齢者たちがデモを行い抗議している。
 それが軍部に広がれば、中共政府は瓦解するしかない。習近平氏は正念場に立たされている。カラッケツの国家財政を目の前にして、国民総監視社会体制とデジタル化した経済を使って、国民の稼ぎを搾り取るしかない、と厳格な徴税と富裕層の貯めた財産没収に動いている。しかし4人に1人という公務員過多の社会構造を改革しない限り、中国政府の財政立て直しは不可能だ。習近平氏にそれが出来るのか。そもそも中国共産党一党支配体制を支えて来た官僚体制を破壊しかねない改革が習近平氏に出来るのか。崩壊する経済を目の前にして、習近平氏も変わらざるを得ないところに追い込まれている。もしも彼が変わらないとすれば、軍部によってか国民によってか、彼が独裁者の地位を追われるのは時間の問題だ。

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