私たちが必要としているのは「八卦見」ではない。

有地浩の「思い切った」予測
 私が執行パートナーを務める人間経済科学研究所代表パートナー有地浩(プロフィール)は「確率50%」と謙遜するが、下記の5大予想は興味深い(念のため、有地浩の個人的見解であり研究所の公式のものではない)。
1. FRBは金融を引き締めすぎて景気崖落ち
2. ユーロ崩壊、EU分裂
3. ウクライナ降伏、停戦交渉開始
4. バイデン大統領2024年の大統領選に不出馬を宣言
5. 中国経済崩壊、習近平暴発、台湾有事

 私も細部では見解が異なるが、概ね一致した意見だ。以下、ひとつずつ検証していきたい。

スタグフレーション

 まず、1の「FRBは金融を引き締めすぎて景気崖落ち」については十分あり得る。ただ、金融引き締めに少々手心を加えても米国の景気は浮上せず、インフレを加速するだけであろう。
 パウエルFRB議長 by Gettyimages
 むしろ、インフレ抑止のために金利はセオリー通りインフレ率を上回る水準まで引き上げるべきだが、「政治的」にそれは難しいと考える。金利引き上げは財政赤字の利払いを増やしたり、住宅ローンや企業の借り入れなどに影響を与えたりするからだ。
 結局、中途半端な金融引き締めは、「前門の虎=景気後退(金融危機)、後門の狼=インフレ」によって、スタグフレーションを引き起こすと考えている。
 つまり、「超金融緩和」などと言う馬鹿げたことでもしない限り、景気の悪化とインフレの到来と言う「二重苦」は避けられないであろう。
 むしろ、インフレ率を上回る金利水準に誘導して「景気を崖落ち」させるのが、インフレ対策として有効だが、パウエルFRB議長がそれを実行できるとは思えない。
 つまり、昨年6月14日公開「迫る『複合危機』――生き残るための教訓を『客家の教え』に学ぶ」の副題「前門の虎と後門の狼、両方に対応しろ」ということだ。
 インフレやスタグフレーションについては、2021年10月28日公開「インフレ&中国発不況-スーパー・スタグフレーションが襲ってくる!」、同10月30日公開「4半世紀デフレの後の『反動インフレ』は起きてしまったら制御不能か」等を参照いただきたい。

EU崩壊

 2の「ユーロ崩壊、EU分裂」については、ウクライナ侵攻前の1月19日に公開された「インフレと金融危機の挟み撃ち、複合危機で実はEUが危ない」ですでにその危険性を指摘した。この状況にウクライナ侵攻に伴うロシアへの経済制裁に対する「大ブーメラン」が直撃したのである。
 昨年10月8日公開「ノルドストリーム・パイプラインを破壊したのは、本当にロシアなのか?」のような天然ガスなどの資源・エネルギー問題はもちろんだ。
 その他にも、1月9日公開「環境イデオロギーが世界を破壊する、欧州の政治家も『狂っている』!?」4ページ目「いったい食料をどうするのか?」で述べたように、「脱炭素原理主義者」が食料生産の妨害まで始めている。
 そもそも、昨年12月24日公開「世界の分離・独立、『自国民ファースト』の流れは止められない」という状況の中で、EUは「時代遅れの『巨艦』」にしか過ぎない。
 EUが抱える根本的問題については、2019年3月19日公開「ブレグジットで『崩壊する』のは、結局EUのほうである」、2018年10月15日公開「ブレグジッドは大正解 英国よ沈みゆくEUからいち早く脱出せよ!」などを参照いただきたい。
 ブレグジットが成功したかどうかはまだ明らかではないが、EUに残留するよりははるかにマシであったという事だ。

ウクライナ敗戦

 3「 ウクライナ降伏、停戦交渉開始」についても充分ありうると考える。
 1月4日公開「バイデン・ゼレンスキーはもう手詰まりか~交戦中の訪米首脳会談の意味は」で述べたような戦況だからだ。
 プーチン氏は概ね目的を果たしており、「停戦交渉」にいつでも応じるであろう。問題はゼレンスキー=バイデン・コンビである。
 ゼレンスキー氏は、世界中で歯の浮くような「強気一辺倒の演説」を繰り返してきたから「敗戦」を認めるのは難しい。また、バイデン民主党政権も「正義の戦い」と拳を振り上げているから、やはり簡単に敗北は認められない。
 結局、昨年4月21日公開「ウクライナ紛争は米国にとって21世紀の『ベトナム戦争』となるか」という見通しの通り、「泥沼化」する可能性がかなりあると考えている。

2024年大統領選挙

 4「バイデン大統領2024年の大統領選に不出馬を宣言」は微妙だ。
 昨年8月31日公開「外交、軍事、内政、何をやっても『まるでダメ夫』なバイデン米大統領」は極めて不人気なのだが、民主党内に他の目ぼしい候補者がいないのも事実である。
 また、下院議長選出においては15回目の投票で決着するという、南北戦争以来の異例な事態になっている。また、2021年2月25日公開「テキサス州が『大統領選挙不正との戦い』を牽引しているのはなぜ」で述べた、「疑惑まみれの2020年大統領選挙」も南北戦争以来の出来事と言えるかもしれない。
 だが、兎に角下院の共和党をまとめ上げたマッカーシー氏の手腕に期待したい。本人がいなくてもややマイルドな形で「トランプ流」は受け継がれる可能性がある。
 「大原浩の逆説チャンネル第7回「台湾侵攻は2023年!?、イーロン・マスクは大統領選挙に出馬するか?」(果たして2023年はどうなるその2)」でイーロン・マスク氏に対する期待を述べた。
 確かに、憲法第2章第1条第5項において、「出生により合衆国市民である者、または、この憲法の成立時に合衆国市民である者でなければ、大統領の職に就くことはできない」と定められている。したがって「南アフリカ生まれとされる」マスク氏が出馬できない可能性も否定できない。当時の欧州では、他国出身の王族が国を支配する(現在の英国ウィンザー朝もドイツ系のザクセン=コーブルク=ゴータ家。またエリザベス2世の夫であったエディンバラ公は、デンマーク、ノルウェー系のグリュックスブルク家出身)のが普通であったことを意識した規定なのかもしれない。
 だが、米国憲法が制定された時代に、建国の父たちは例えばバラク・オバマ氏が大統領になることを想定していたであろうか。現在副大統領で、大統領が職務執行不能時には大統領となるカマラ・ハリス氏はどうだ? 当時は忌まわしき黒人奴隷制度が公然と認められていたのである。米国で生まれた黒人が「合衆国市民」として扱われていただろうか?
 したがって、憲法第2章第1条第5項が現在の米国にとってふさわしいかは議論の余地がある。米国では憲法の修正は日常茶飯事だ。
 「南北戦争以来」の事態が続く米国(の大統領選挙)の行方は、これまでの常識ではとらえきれないと考える。

ローマ帝国と「米帝国」

 バラク・オバマ氏の出生地論争については、日本経済新聞2016年9月17日「トランプ氏『オバマ氏は米生まれ』 出生地巡る発言修正」で一応の決着を見た。
 だが、2016年1月6日ロイター「トランプ氏、カナダ出生のクルーズ議員の大統領資格問題視=米紙」や、2020年8月14日BBC「トランプ氏、ハリス議員についても『アメリカ人ではない』論に言及」などの発言も飛び交っている。
 WASPとは、ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタント (White Anglo-Saxon Protestants)の略称で、白人のアメリカ人プロテスタント、かつ英国(主にイングランド)系の上流階級を指す。彼らが歴史的に米国の支配層として君臨してきたと言われる。
 したがって、ジョン・F・ケネディが1960年の大統領選挙でカトリック系として初めて当選したことは話題を呼んだ。ちなみにバイデン氏は、ケネディ氏と同じく「アイルランド系」であり、2人目のカトリック系大統領である。
 このように、「合衆国市民」という概念は、島国である「日本国民」とはかなり違ったものである。
 また、トランプ氏は、2018年10月31日BBC「トランプ氏に権限はあるのか、米国籍の出生地主義を廃止方針 歴史的経緯は」との主張も行っている。なお、日本などの国々は血統主義であり、国によって制度が違うことが「二重国籍」の原因でもある。
 世界史の窓「ローマ市民権」を見てもわかるように「市民権」の扱いは、「帝国」の栄枯盛衰と関係がある。ローマ帝国では時代と共に「市民権」が与えられる範囲が拡大していったのだ。
 つまり「合衆国市民」の今後の定義が、ローマ帝国の後継国家とされる米国の長期的未来を占う試金石になるということである。
 1月4日公開「バイデン・ゼレンスキーはもう手詰まりか~交戦中の訪米首脳会談の意味は」4ページ目「ベトナム戦争当時よりも弱っている米国」、昨年10月14日公開「米国は1971年にすでに死んでいた!?インフレで見えた本当の姿」で述べたように、米国の国力は下り坂だ。
 「腐っても鯛」なのか、「腐った鯛」なのか、その分水嶺が2024年大統領選挙であろう。

台湾有事

 5「中国経済崩壊、習近平暴発、台湾有事」については、台湾有事は目の前に迫っていると考える。前記「大原浩の逆説チャンネル第7回『台湾侵攻は2023年!?、イーロン・マスクは大統領選挙に出馬するか?』(果たして2023年はどうなるその2)」でも触れた。
 昨年11月11日公開「デフレの追い風はもう終わった、習近平3選で中国は『北朝鮮』になる」で述べたように、中国は巨大な北朝鮮への道を歩んでいるように思える。ゼロコロナ対策の急激な緩和は「感染の急増」による経済活動の停滞という藪蛇になった。また民間企業への締め付けも緩和しつつあるが、一度「不安」をいだいた企業家が元のように活発な活動を再開するとは思えない。
 また、昨年12月26日公開「実は似通った中国と米国の内部対立、2023年の地政学リスクは高まる」で述べたように反習近平派=上海派の力も侮れない。
 そして、昨年12月12日公開「与しやすいバイデンがいる間に~習近平の台湾侵攻が2023年の理由」と言う状況だ。台湾有事がすぐそこに迫っているような気がする。
 そして、5大予想の中で「台湾有事」が国民生活に与える影響が最も大きいと考えられる。
 結局今年も、昨年同様あるいはそれ以上に、気が抜けない日々が続くであろう>(以上「現代ビジネス」より引用)



 大原 浩氏(国際投資アナリスト)の「2023年、「確率50%」の5大予測-米景気崖落ち、EU分裂、ウクライナ敗戦、バイデン不出馬、習近平暴発で台湾有事」と題する論評は手相占いと同じように興味深い。しかし真偽のほどは「当たるも八卦、当たらぬも八卦」と云われる程度のものでしかない。
 一読してみて、その感を深くした。だが極めて片寄った情報に基づく「国際投資アナリスト」だと思う。なぜなら米国は国力が「ベイナム戦争当時より下り坂だ」という一文からだけでも明らかだからだ。1971年の米国のGDPは1.165兆ドルでしかなかったが、一昨年のGDPは23.32兆ドルだった。何処が凋落しているというのだろうか。

 思い込みや期待が入り込んだ「未来予測」は往々にして外れる。ウクライナに攻め込んだロシアは同盟国からの厚い支持はない。その一方、ウクライナにはNATO諸国や米国など先進自由主義諸国から厚い支援が続いている。ロシア一国のGDPは韓国程度の代物でしかない。到底米国の相手ではない。
 たとえ旧・ソ連当時の武器蓄積があったとしても、破綻した国家の武器備蓄など先進自由主義諸国とは比較対象にはならない。だからプーチンは人海戦術に切り替えた。大量の兵隊の山を築いてでも、ウクライナの戦況打開策に打って出た。しかしロシアの「(兵士の)母の会」がいつまでも黙っているだろうか。

 ロシア軍の戦死した兵士たちの多くは少数民族だという。つまり中央アジアやシベリア周辺部の「共和国」から出征した兵士たちが犠牲になっているという。それにより少数民族からなる「共和国」が独立の動きを強めているという。ロシアはウクライナ戦線の撤退から崩壊するのではなく、ロシア内部から崩壊しそうだ。
 台湾有事に関しても、引用論評ではいかにも差し迫ったかのように記述しているが、果たしてそうだろうか。確かに中共政府は近年狂ったかのように軍備を拡張し、軍事演習を繰り返し実施しているが、それが台湾有事といかなる関係があるというのだろうか。

 軍事専門家なら中国軍がいかに時代遅れの軍拡をしているか、お解りのはずだ。ナンチャラ・イージス艦を建造しているが、その能力はイージス艦とは言い難い。空母にしても、艦から戦闘機が発着しているから空母には違いないが、その程度の空母なら日本は80年以上も前に保有していた。当時の日本海軍は時代の最先端にあったが、現在の中国海軍は前時代的な艦艇を数だけ揃えて悦に入っているだけだ。到底台湾有事に使える代物ではない。
 しかも中国のGDPは底上げの「張子の虎」でしかない。マトモな経済統計数字もなく、捏造されたGDP数字を世界に垂れ流しているが、反証できる貿易実績や中国の発電総量などから観測すれば、中国GDPは明らかにマイナス成長に陥っている。断っておくがGDPとは国民の総所得=国民の総支出だ。全国的に主要都市を繰り返しロックダウンしていた一昨年や昨年に中国民の総所得が2020年当時よりも伸びた、と誰が証明できるのか。しかし貿易実態を見れば貿易額ダントツ一位の対米貿易額ですら30%以上も落ち込んでいるではないか。

 昔から「腹が減っては戦が出来ぬ」というではないか。中国民は腹が減っている。しかも習近平氏は中国民に等しく腹一杯に食べさせるための福祉政策を実施しようとはしない。社会主義国であるなら、中国にこそフードスタンプがなければならない。
 今年度の中国経済は絶望的だ。習近平氏は集団免疫を形成するために感染大爆発しても構わない、とゼロコロナ策を放棄し、今年3月には感染爆発は落ち着くだろう、と予測しているという。彼は武漢肺炎の感染爆発がオミクロン株だけで過ぎ去ると思っているようだ。日本や欧米諸国は数次にわたる感染爆発を経験した。それをワクチン接種や懸命の医療態勢で乗り切って来た。しかし中共政府は国民の健康と命を守る政府の役割を放棄した。その政府を中国民はいつまで支持するだろうか。

 中国経済崩壊は異論ないが、習近平の暴発は賛成できない。なぜなら暴発するよりも、習近平氏は国外逃亡を選択すると思うからだ。習近平氏や中共幹部たちは国外に(スイス銀行だけで35兆円を超えると云われている)潤沢な隠匿資産を有している。
 中共幹部がいかに無能であろうとも、ウクライナに侵攻したロシア軍が苦戦しているのは知っているだろう。そのロシア軍が装備している兵器の劣化コピー版が中国軍の兵器だ。それらで台湾に軍事侵攻したらどうなるか、よほどのポンコツでもない限り結論は誰の目にも明らかではないか。今後数年中の台湾有事はあり得ないが、防衛費の分配に与る連中は台湾有事を煽り続けなければならないのだろう。

 国際投資アナリストなら、大原氏は日本の経済成長を占うべきではないか。世界と緊密に繋がっている日本経済を占ってこそ、日本人アナリストの面目躍如ではないだろうか。BloombergやWSジャーナルなどの尻馬に乗って騒ぐのがアナリストの仕事ではない。それは講演ギャラ頼みのドサ回り似非・評論家の仕事だ。あるいは無責任なダイオキシン騒動を起こして後々の環境利権を構築したマスメディアの仕事だ。東西冷戦崩壊後の論点探しに血眼になっていた似非・評論家たちに「環境評論家」という美名を与えた。大原氏はそうした類の評論家を目指しているのか。あるいは占い師の真似事を生涯の仕事にしようとしているのか。彼こそが正念場に到っているのではないだろうか。

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