効果的な少子対策を真剣に検討し、実行せよ。

<岸田文雄首相は「異次元の少子化対策に挑戦する」と表明した。柱となるのは、①児童手当を中心とする経済的支援強化、②幼児教育や保育サービスなどの支援拡充、③働き方改革で、6月の「骨太方針」の策定までに、将来的な予算倍増の大枠を提示するとしている。
 出生率を高める政策で成果を上げているのがフランスだ。とくに2010年に合計特殊出生率が2.03人に達したことから、日本のみならず、少子化に苦しむ多くの先進国がフランスで実施されている家族政策に注目した。
 では、フランスの政策は何が成功しているのだろうか。

家族政策に多くの予算を投じる

 フランスも1993年から1994年にかけて出生率が1.65まで落ち込んだ。筆者が5人の子どもの子育てをフランスで開始した時期と重なる。ミッテラン政権末期で手厚い社会保障が実りを迎えておらず、移民家庭は子どもを増やした一方、白人カップルの少子化に歯止めがかからなかった時期だ。
 1995年に中道右派のシラク政権に転じ、さらに1997年にはジョスパン左派内閣が発足し、週労働35時間制や同性婚カップルを含む事実婚も法律婚同様の社会保障を受けられるパートナーシップ協定の民事連帯協約(PACS)が1999年に施行された。その結果、2006年には出生率は2.0に達した。
 その後、2014年を境に下がっており、2020年は1.83となったが、それでもEUの中では最も高い。出生率低下の理由は15歳から49歳の女性の数がベビーブームのときに比べて減少に転じたこと、出生率を押し上げていた移民1世の女性の数が減少し、フランス生まれの移民2世、3世の女性の出産する子どもの数が減ったことが影響しているといわれる。
 また、フランスは国力と人口減に敏感で、家族政策に多くの予算を投じ続けた。経済協力開発機構(OECD)の調査によると、子ども・子育て支援に対する公的支出(2017年)は、フランスが国内総生産(GDP)比で3.6%に上る。
 ちなみに日本は1.79%で、OECD平均の2.34%も下回っている。ただし、3.23%のイギリスや3.17%のドイツの出生率は高くないので、フランスの出生率の高さには、予算の多さ以外の要因もあることを指摘しておく必要がある。
 実はフランスの子育て支援政策は他の欧州諸国より非常にきめ細かい。毎年、家族政策に関係する公的機関や私的組織関係者らからの丁寧な聞き取りを行い、費用対効果を検証している。子ども・子育て支援に対する公的支出に3.6%も投じているのだから、当然とも言えるが、地道に課題解決に取り組んでいる。簡単に紹介すると、
 
①第3子から支給され、所得制限はあるものの大半の世帯が受給する家族手当
②子育て世代、とくに3人以上の子育て世帯に対して、大幅な所得税減税を適用するN分N乗方式
③子育てのために仕事を全面的に休むのか、週4日や3日勤務、半日勤務などの時短労働を選択できる就労自由選択補足制度
④育児で保育ママに子どもを預ける選択をした場合に支給される保育方法自由選択補足手当
⑤妊娠後の産科の受診料、検診費、出生前診断、出産費用など妊娠出産から産後のリハビリテーションを含む費用の全面無料化
⑥母親同様の有給扱いで育休を取る父親も賃金の80%を保障
⑦不妊治療を公費で実施(43歳まで)
⑧高校までの授業料無料、大学も少額の登録料のみ(私立は例外)、返済不要の奨学金制度
⑨3歳まで育児を引き受ける認定保育ママから学童保育まで無料
⑩PACSで事実婚の社会保障への組み込み、非摘出子という言葉の民法からの削除
⑪子どもを3人養育すると年金が10%加算される年金加算

 などだ。筆者もその恩恵を受けている。30年以上、フランスの家族政策を取材してきた筆者から見ると、フランスの家族政策に学ぶべき最重要事項の1つは、政策立案段階から実施後にかけて、正確な現状把握を継続的に徹底して行っていることだ。

効果を上げるために粘り強く試行錯誤

 1982年に家族全国会議(現家族児童高齢者協議会=HCFEA)が設置され、首相以下、関連省庁の大臣、自治体議会の議長、労使団体、家族協会全国連合、専門家などで構成されるメンバーが、現状の正確な把握に努めており、問題点の洗い出し、施行された政策の進捗状況や成果の検証、課題の抽出を毎年行っている。
 結果として政権の人気取りと官僚の一方的な政策策定による予算のばらまきは回避されている。実質的成果を上げるための試行錯誤が粘り強く、長期にわたって積み重ねられ、結果として非常にきめの細かな家族政策が実施されてきたことは大いに評価すべき点だ。さらに政権交代に左右されないよう継続的に超党派で取り組んでいることも重要だ。
 例えば、0歳から2歳までの子どもの約17%が国家資格を持つ保育士がいる保育園に預けられている一方、33%が日本でいう保育ママに相当する母親アシスタントに預けられている。政府はオランド政権時代から、母親アシスタントのスキルの平準化のため、専門性重視の研修制度を実施しており、マクロン現政権も踏襲している。
 この例でも権威ある児童心理学者、シルヴィアーヌ・ジャンピノ氏が中心となり、保育士や保育園運営者、地方自治体の長や保育担当官、代議士、親など保育に関与するありとあらゆる人々への徹底したヒアリングを実施している。同氏は「何を改善するかを判断するには、現場をできるだけ近くで見て、全体像を把握する必要がある」と述べている。
 現在、フランスの家族政策の政策立案、実施、運営を行っているのは、家族・児童・女性の権利省(通称、家族省)だ。それまで特命担当大臣の管轄だったのを2016年2月から省に格上げし、少子化、高齢化、女性問題に本腰を入れた。
 
 ただその後、少子化と女性問題を結びつけたことが批判され、マクロン政権では首相府が主導する首相府付男女平等・多様性・機会均等担当大臣と、子どもの保護に特化した首相付子ども当副大臣が任命された。家族と女性人権分野の大臣は基本的に女性が任命されている。
 マクロン大統領は、関係者との討論会を繰り返し、浮上した幼児を取り巻く環境格差拡大を抑制するため、5歳から7歳の幼児教育では、1クラス24人以下という少人数制導入と教師のスキル向上を方針として打ち出した。

コロナ禍で田舎に移住する若い夫婦が増加

 フランスでは近年、育休事情も変化してきている。コロナ禍でテレワークが浸透したことから、都会を抜け出して田舎に移住する若い夫婦が増えた。狭い都会のアパートから庭の広い自然環境に恵まれた田舎暮らしを選択する主な理由の1つが子育てだ。
 ここで注目されるのが、都会にはなかった住民たちで構成されるコミュニティーの存在だ。地域コミュニティーこそ、子育てにおいてきめ細かな支援サービスができるという考えで、6歳未満の子ども向けの保育サービスを開発するための複数年計画を自治体は採用することができると家族法に定められている。このコミュニティーで子育てを行う有効性が、今注目されている。
 託児所や学童保育など集団保育施設では、保護者が就労中、研修中、求職中の6歳未満の子どもを日中受け入れることができる。最近は就労だけでなく、親が気晴らしをするための食事会やリクレーションも受け入れ理由に含む場合が多い。フランスでは集団保育施設に営利目的の民間企業が入り込むことはほとんどない。
 テレワーク中心の働き方の世帯が都会から引っ越してきた場合、これらの施設は欠かせない。コミュニティー全員が子育てに参加する意識が醸成され、その安心感は子どもを産むモチベーションを後押ししている。これらの施設およびサービスは、母子保護の部門サービスを担当する医師の管理および監督の対象となっている。さらに子どもが身体的、心理的脅威にさらされた場合、自治体は施設の閉鎖命令も出せる。
 人口減に苦しんできた過疎化が進む小規模の町や村では、移住してきた家族のコミュニティーによる子育て支援の充実が不可欠な要素と考えられている。政府も少子化対策の一環として地方分散とともにコミュニティーの育児施設やサービスへの支援を積極的に行っている。

「子育ては女性が中心」という概念がなくなった

 フランスの特筆すべき点は、「子育ては女性が中心」という概念が長年の女性の権利、男女平等政策の積み重ねにより、完全になくなっていることだ。結果、子育てに関心のない男性はいない。同時に子どもを産むのは女性であり、その女性が何を必要とし、何を望んでいるのかという女性の要求や幸福感を尊重する段階に入っている。
 家族政策は、国の成り立ち、歴史と文化、宗教を含む価値観などが複雑に絡み合っているので、どの国の少子化対策が優れているとは簡単に言えない。実際、似たような家族支援策を講じている国でも効果を上げている国もあれば、そうでない国もある。
 フランスのまねをすればうまくいくわけではないが、ストレスなく出産し、仕事と子育てを両立できる環境整備は急務であり、社会全体で子育てに取り組む点でフランスの政策は参考にはなる。
「異次元の少子化対策」に挑む日本でも幸せを追求する持続可能な発展につながる政策が期待される>(以上「東洋経済」より引用)




 引用記事は安部雅延氏(国際ジャーナリスト・フランス在住)の「日本人が知らないフランス「少子化対策」真の凄さ・岸田首相「異次元の少子化対策」に必要なこと」とだいするものだ。一読して岸田氏が「異次元」と冠した彼の少子化対策はフランス版よりも遥かに縮小版だ。
 たとえば少子化対策に現場の保育士たちとトコトン話し合ったことなどないだろうし、父親が保育休暇を取った場合に所得の80%を保障する制度など日本にはない。たとえば「高校までの授業料無料、大学も少額の登録料のみ(私立は例外)、返済不要の奨学金制度」という制度もないし、「子どもを3人養育すると年金が10%加算される年金加算」という制度もない。

 しかしそうした各種少子化対策をフランスが実行できるのも経済成長しているからだ。最近ではGDP 成長率は6.8% (2021年の前年比)と、OECD諸国の平均成長率2.34%よりも高い成長率を示している。
 つまり高い成長率は財源論をとやかく論議する必要がないからだ。経済成長は税収の自然増をもたらすし、政府発行の国債をインフレにより事実上償還したことになる。経済成長は福祉政策を可能にし、その支出が消費支出を底上げするという好循環をもたらすことを先ず理解しなければならない。

 かつて国民全員に10万円支給し、その約70%が貯蓄に回ったことを麻生氏は「消費拡大にならなかった」と批判したが、老人は2,000万円貯蓄していなければ老後は悲惨だ、とアナウンスされていて、誰が支給された10万円を浮かれて消費するのだろうか。麻生氏の国民給付金の大半が貯蓄に回ったという批判は政府が生活保護費以下の国民年金を放置している裏返しだということを理解すべきだ。
 日本の福祉行政も農業政策も総じて貧困だ。フランスでは政治は国民のためにある、という概念が浸透している。いかに戦車を配備しようと、戦争以前に食糧が不足していては国民生活は成り立たない。いかに大量の戦闘機を米国から購入しようと、人口が半減しては南北に長い国土の防衛は成り立たなくなる。

 安部氏の「フランスのまねをすればうまくいくわけではないが、ストレスなく出産し、仕事と子育てを両立できる環境整備は急務であり、社会全体で子育てに取り組む点でフランスの政策は参考にはなる」との指摘には賛成だ。先進的な政策を実行して成果を上げている国は大いに参考にすべきだ。

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