3月にロシア軍はキーウ、ドネツクに向け総攻撃をかけるのか。

ロシア軍、3つの大敗北
 まず、これまでの大きな流れを振り返ってみよう。
 2022年2月24日にウクライナ侵攻を開始してから、ロシア軍には大きな敗北が3回あった。
 1回目は、首都キーウ攻略に失敗したこと。プーチンは当初、「ウクライナ侵攻は、2~3日で終わる」と見ていた。「ゼレンスキーは逃亡し、キーウは速やかに陥落するだろう」と。しかし、ロシア軍はキーウを落とすことができなかった。
 2回目は9月11日、ハルキウ州での戦いに大敗した。プーチンは、この敗北に衝撃を受け、二つの重要な決断を下している。9月21日に「動員令」を出したこと、そして9月30日にルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州をロシアに併合したことだ。
 3回目の敗北は、11月11日にヘルソン州の首都ヘルソン市を失ったこと。ロシアは、9月末に「併合」した州の州都を、40日後に奪われてしまった。この事実は、これまでプーチンを支持してきたロシア国内の極右勢力をも激怒させている。

 これらに加え、「象徴的な大敗北」もいくつかあった。
 2022年4月、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が撃沈されたこと。
 7月、ウクライナ軍に黒海の要衝「ズメイヌイ島」を奪還されたこと。
 10月、ロシア本土とクリミア半島を結ぶ「クリミア大橋」を爆破されたことなどだ。
 ロシア軍にも勝利がなかったわけではない。
 5月には、ドネツク州マリウポリを陥落させた。ロシア軍はこの地で、「ロシア系住民に残虐行為を行っていた」とされるアゾフ連隊に勝利した。また7月には、ルガンスク州の制圧に成功している。
 とはいえ、大きな流れでは、ウクライナ軍が優勢だ。「自国領を侵略から守っている」ウクライナ軍の士気は、「他国の領土で戦う侵略者」ロシア軍より高い。さらに、ウクライナは、欧米から資金、武器、情報の支援を大量に受けている。
 一方、ロシアは、北朝鮮から武器、弾薬を買い戻し、イランからドローンを購入している。中国は、ロシアから原油、天然ガスを安く輸入しているが、武器支援は行っていない。
 国際社会を味方につけたウクライナが、孤立しているロシアを、徐々に押し戻しているのが現状なのだ。

ロシア軍の「ラスボス」登場

 ロシア軍が劣勢であることは、プーチンも知っている。そこで彼は昨年10月頃から、「停戦交渉する準備がある」と、発言するようになった。ただ、「ウクライナがロシアの新たな領土を認めるという前提で、話し合う用意がある」という条件がついている。
 要するにプーチンは、9月に併合したルガンスク州、ドネツク州、ザポリージャ州、ヘルソン州を、「ロシア領と認めれば、停戦交渉に応じてやる」と主張しているのだ。これをウクライナが受け入れるはずはなく、戦闘はつづいていく。
 だが、既述のように、ロシア軍は戦闘で劣勢だ。では、どうするか?
 プーチンは1月11日、ゲラシモフ参謀総長を、ウクライナ軍事作戦の総司令官に任命した。つまり、「ロシア軍のトップ」、いわば「ラスボス」が、直接指揮にあたることになった。
 日本人でゲラシモフのことを知っている人は、多くないだろう。日本ではむしろ、ショイグ国防相の方が知られている。しかし、実をいうとショイグは、「軍事の素人」だ。
 彼は、1991年から2012年まで、21年間も「非常事態省」のトップだった。非常事態省は、自然災害や大事故の際に、国民を救出、支援する役割を担っている。つまりショイグは、「災害のとき助けにきてくれる頼りになるおじさん」ということで人気者になり、2012年国防相に抜擢された。だが、軍事の知識はない。
 一方、ゲラシモフは、カザン・スヴォーロフ軍事学校、カザン高等戦車指揮学校、マリノフスキー機甲部隊軍事アカデミー、ロシア連邦軍参謀本部軍事アカデミーで学んだ生粋の軍人だ。実戦経験もある。
 彼は、第2次チェチェン戦争で、チェチェン独立派鎮圧の指揮をとった。2012年にはロシア軍参謀総長に任命され、2014年にはウクライナ内戦で、「親ロシア派」を支援した。
 ゲラシモフは、日本や欧米の軍人の間では、「戦略家」として知られている。彼は、ロシアのハイブリッド戦争理論「ゲラシモフ・ドクトリン」の提唱者だ。
 2014年3月、ロシアは無血で、ウクライナからクリミアを奪った。これを、「ロシアハイブリッド戦略の大成功例」と見なす人は多い。別の表現を使えば、「ロシアは、ゲラシモフ・ドクトリンによって、クリミアを無血で奪った」ともいえる。
 2016年5月、ゲラシモフはプーチンから、「ロシア連邦英雄」の称号を授与された。
 劣勢のロシア軍では、総司令官が頻繁に代わっている。
 一人目の総司令官は、2022年4月に任命されたドヴォルニコフ上級大将だった。彼は2015年、ロシアによるシリア内戦介入の指揮をとり、名を挙げた。西側メディアは、ドヴォルニコフを「シリアの虐殺者」と呼んでいる。
 二人目は、ゲンナジー・ジドコ軍政治総局長。アメリカの「戦争研究所」が6月26日、ドヴォルニコフと交代したとの分析を明らかにした。
 三人目。2022年10月、「アルマゲドン将軍」と呼ばれるスロヴィキン上級大将が、総司令官に任命された。クレムリンもロシア国民もスロヴィキンに期待したが、大きな戦果を挙げることができないまま、3ヵ月で交代になった。
 そしてついに、「ロシア軍のラスボス」ゲラシモフが総司令官になった。彼の後ろには、プーチン以外、誰もいない。ゲラシモフの敗北は、すなわち「ロシア軍の敗北」なのだ。
 当然彼は、ロシア軍の威信をかけて戦いを挑んでくるだろう。事実上の「最終決戦」の日が近づいている。

ルカシェンコは、プーチンの脅しに屈するか

 もう一つ注目したいのは、ロシアの西、ウクライナの北の隣国ベラルーシの動きだ。
 ウクライナ侵攻後、旧ソ連諸国におけるロシアの求心力は、急速に低下している。
 ウクライナ、モルドバ、ジョージアは、EUに加盟申請した。アゼルバイジャンは、ロシアから離れ、トルコに接近している。アルメニアは、ロシアを中心とする軍事同盟CSTOから脱退する意向を示している。そして中央アジア諸国は、ロシアと距離を置き、中国に接近している。
 そんな中でも、ベラルーシだけは、ロシアと良好な関係を維持してきた。同国の大統領は、ルカシェンコ。彼は、1994年から現在まで29年間大統領の座にある。欧米は、ルカシェンコを「欧州最後の独裁者」と呼び、嫌悪している。
 要するに、彼には「ロシアに引っ付く以外の選択肢」がないのだ。
 昨年2月24日にロシア侵攻が開始された時、ロシア軍は、ベラルーシ領からウクライ北部に侵入し、キーウを目指した。だが、ベラルーシ軍自体はこれまで参戦していない。
 ルカシェンコは、「国民の大部分は反戦で、ベラルーシが参戦すれば、政権は維持できない」とプーチンに言い訳している。
 だが、ルカシェンコがプーチンに抵抗するのが困難な状況が生まれてきている。理由は、11月26日に、マケイ外相が急死したことだ。死因は、心臓発作といわれている。
 2012年から亡くなった2022年まで外相を務めたマケイは、ルカシェンコの「側近中の側近」だった。しかもマケイは、ベラルーシでは珍しく、「欧米とパイプのある大物政治家」として知られていた。
 ロシアや旧ソ連諸国で政治家、富豪、ジャーナリストなどが亡くなると、ほとんどすべての人が、こう尋ねる。
クトーザカザール?
 直訳すると、「誰が注文した?」、あるいは「誰が予約した?」となる。だが、本当の意味は、「誰が殺しを注文したのか?」「誰が殺しを予約したのか?」だ。
 ルカシェンコも、当然そう自問自答するだろう。
「親欧米派の大物政治家が急死した。殺しを注文したのは誰だ?」
 答えはすぐ出る。もっとも怪しいのは、プーチンだ。
 これは、「トンデモ陰謀論」に聞こえるが、そうではない。ニューズウィーク2022年12月1日を見てみよう。
〈 11月末に急死したベラルーシの外相は、西側との接触がばれて「ロシアに毒殺された」ともっぱらの噂だ 〉
〈 「ヨーロッパ最後の独裁者」と呼ばれるベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領といえば、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の忠実な盟友として知られる。それが最近は、ロシア政府に暗殺されるのではないかと疑心暗鬼に陥っているという。11月末にベラルーシ政府No.2の外相が急死したからだ 〉
 暗殺を恐れるルカシェンコは、プーチンの圧力に屈し、ベラルーシ軍をウクライナに送るかもしれない。そして1月16日、ロシア軍とベラルーシ軍は、合同軍事演習を開始した。
 思い出されるのは、ウクライナ侵攻開始直前の2022年2月10日から20日まで、ロシアとベラルーシが合同軍事演習を行っていたことだ。軍事演習終了後もロシア軍はベラルーシ領内にとどまり、2月24日、キーウに向けて進軍を開始した。今回も同じことが繰り返されるのだろうか。

プーチンの目標は何なのか

 ゲラシモフとベラルーシ、最終決戦の予兆を二つ挙げたが、大きな戦いが起こるとして、それはどこで起こるのか? どのような形になるのだろうか?
 中央日報1月17日には、こうある。
〈 「3月までドンバス(ドネツク・ルハンシク)を完全に占領してほしい」。
ロシアのプーチン大統領がウクライナ戦争の総司令官に新たに任命されたワレリー・ゲラシモフ露参謀総長に対し、このように命じた 〉
 既述のように、ロシア軍は昨年7月時点で、ルガンスク州を制圧している。しかし、ドネツク州は50%程度しか支配できていない。プーチンはゲラシモフに、「3月までにドネツク州を制圧しろ」と命じたのだ。
 ベラルーシ領からロシア軍(とベラルーシ軍?)がキーウに南進し、東の軍はドネツク州制圧を目指す。ウクライナ軍は、北と東で「二正面作戦」を強いられるので、ロシア軍はドネツク州を完全制圧しやすくなるということなのだろう。
 思えばこの戦争は、「ルガンスク、ドネツクでジェノサイドされているロシア系住民を救済する」という大義名分で開始された。ロシア軍がルガンスク、ドネツク州を完全制圧できれば、プーチンの面目が立つということなのだろう。
 将来、歴史の教科書に載るであろう、「大きな戦い」が近づいている>(以上「現代ビジネス」より引用)



 ウクライナに侵攻したロシア軍の苦戦は度々伝えられている。問題なのは、この残虐な侵略戦争をロシアはいつ諦めるのか、ということだ。
 北野幸伯氏(ロシア・モスクワ在住の国際関係アナリスト)は「「ロシア・ウクライナ最終決戦」の予兆…! 歴史の教科書に載るであろう「大きな戦い」が近づいている」と題する論評で「間もなく」最終決着がつくだろうと予測した。

 「大きな戦いが近づいている」という大きな戦いとはロシア軍の大攻勢があるということなのだろうが、果たしていかなる布陣による戦いなのだろうか。引用論評で北野氏はベラルーシを巻き込んで、再びウクライナの北からキーウを目指して進軍するのではないかと見ている。
 しかしルカシェンコ大統領がプーチンに脅されて、ベラルーシ軍をウクライナ進軍に動員するとは思えない。なぜならベラルーシにロシアと一緒になってウクライナへ攻め込む国力などないからだ。

 確かにベラルーシには45,350人の軍隊がある。しかし人口926万人の国にしては過大な軍備だ。ちなみにベラルーシのGDPは682億ドルでしかない。しかも国民一人当たりGDPは7,300ドルの貧困国だ。ベラルーシがプーチンの誘いにより参戦して、ロシアが勝てれば良い。しかしプーチンが負けた場合は目も当てられない事態になる。
 さらにルカシェンコ氏は国内政権基盤は必ずしも盤石とは言い難い。反政権デモにより独裁政権が困難に陥った際に、ルカシェンコ氏はプーチンに助けを求めて、2万人ものロシア軍を派遣してもらって反政府デモを鎮圧した。29年間も独裁者としてベラルーシに君臨して来たルカシェンコ氏は、果たしてウクライナへベラルーシ軍を派遣するだろうか。

 いや、そもそも三月かといわれるロシア軍の大攻勢があるか、という点からして疑問だ。なぜならロシアに大攻勢をかける余力などありそうにないからだ。兵員からして、徴兵した30万人も既に大半を前線へ送り込んでいる。プーチンは再び50万人規模の徴兵を行っているのではないか、という噂もあるが、それが本当だとするとロシア国内の反戦運動や少数民族の独立運動に火が付くだろう。
 ロシア軍総司令官に任命されたゲラシモフ氏がプーチンから託されたルガンスク、ドネツク州を完全制圧を目指すとすれば、現状の劣勢を跳ね返すためにも兵站の再構築と充分に訓練された士気の高い軍隊が不可欠だ。しかしロシアにそれほどの余力と、予備の軍隊が存在するだろうか。さらにロシア軍の総攻撃が3月にあるとすれば、ウクライナ軍もロシアの総攻撃に向けた迎撃態勢を準備するだろう。いよいよドイツの戦車がウクライナ軍に必要となる。

このブログの人気の投稿

それでも「レジ袋追放」は必要か。

麻生財務相のバカさ加減。

無能・無策の安倍氏よ、退陣すべきではないか。

経団連の親中派は日本を滅ぼす売国奴だ。

福一原発をスーツで訪れた安倍氏の非常識。

全国知事会を欠席した知事は

安倍氏は新型コロナウィルスの何を「隠蔽」しているのか。

自殺した担当者の遺言(破棄したはずの改竄前の公文書)が出て来たゾ。

安倍ヨイショの亡国評論家たち。