安易な停戦交渉など未来に禍根を残すだけだ。

<アメリカの中間選挙は、予想されたような共和党の大勝(「赤い波」)とはならなかったが、最終結果の確定には時間がかかりそうである。とくに上院は大接戦で、ジョージア州では州の選挙法の規定で、過半数を制する候補がいなかったので、上位2者の間で12月6日決選投票となる。上院の帰趨は、ネバダ州、アリゾナ州、アラスカ州の結果にもよるが、決まるのは12月になりそうだ。

 今のところ、(1)民主党が両院の多数派を維持するケース、(2)共和党が下院のみで多数派となるケース、(3)共和党が両院とも過半数を制するケースの3つが考えられる。バイデン政権の運営が難しくなるのは、(2)と(3)の場合である。

米国民はウクライナに関心なし
 中間選挙の最大の争点は経済、とりわけインフレであった。そのため、経済政策の失敗を問われたバイデン政権が苦境に立ったのである。しかし、人工妊娠中絶問題も、女性や若者の大きな関心の的であった。トランプ前大統領に任命された保守的な最高裁による違憲判決は大きなショックであり、それが多くの有権者に民主党候補を選択させたのである。この問題が「赤い波」の勢いをそいだと言ってよい。

 その他の争点に関しては、様々なメディアの調査を総合すると、犯罪、銃規制、移民、医療などが上位にランキングされた。ベスト10の下位には、投票規則、教育、エネルギー問題、外交政策、気候変動、新型コロナウイルスなどがリストアップされている。

 注目すべきは、「ウクライナ戦争」が全く争点にあがっておらず、国民が関心を持っていないことが明白になったことだろう。ロシアやウクライナに関するアメリカ国民の知識も極めて限定されたものである。遠い東ヨーロッパの戦争であり、英独仏などの西ヨーロッパ諸国が面倒をみればよいというくらいの認識しかない。
 争点にすらならないウクライナ問題に、中間選挙後のアメリカはどう対応するのか。共和党が勝てば、下院議長になると見られているマッカーシー院内総務は、「アメリカ国民がウクライナに白紙の小切手を切ることはない」と強調している。

 バイデン政権は、昨年1月の発足以来、189億ドル(約2兆7500億円)超の軍事支援をウクライナに供与してきた。このことに対する共和党下院の不満を表明したものである。

バイデン息子の「ウクライナ疑惑」が蒸し返される可能性
 さらには、オバマ政権のときに副大統領のバイデンが息子とともにウクライナ利権に深く関わっていたという疑惑がある。息子のハンターが、2014年にウクライナのガス企業ブリマスの幹部に就任したが、この企業は検察の捜査を回避するために裏金を使ったという不正疑惑がある。2020年10月、米議会上院は、この件について「利益相反の疑いがある」という報告書をまとめている。
 下院や上院で共和党が多数を制すれば、この件が蒸し返され、バイデンとウクライナの「闇の関係」が議会で追及される可能性がある。そうなれば、バイデン政権のウクライナ支援にもブレーキがかかるかもしれない。

 民主党は、ロシアがトランプを支援するために背後でサイバー攻撃など様々な手を使ってきたと批判した。その報復として、今度は共和党がバイデンのウクライナ利権を追及するということである。
 ロシアもウクライナもアメリカの内政の泥仕合の中でしかクローズアップされないのである。

複眼的視点でウクライナ戦争を捉える必要

 バイデンは、「民主主義vs権威主義」という図式でウクライナ戦争を捉えているが、共和党保守派は、歴史を踏まえて、もっと複眼的な観察をしている。私は若い頃、アメリカのバプテスト系の幾つかの大学で授業をする機会を得たが、信仰心の篤いスタッフや学生に囲まれて快適であった。今でも、それらの大学とは様々な関係を保っているが、そこを拠点とする保守を代表するような論客の言論は私の予想に反していた。

 今回のウクライナ戦争については、彼らは、プーチンを悪魔と見なしたり、ウクライナ戦争を「民主主義のための戦い」とは見なしたりはしていない。そういうイデオロギー的な対立軸ではなく、ウクライナの名の下にアメリカが戦争を行っているのだという冷めた現実的な認識である。
 彼らの議論の大筋は、私がこのJBpressの連載「舛添直言」で指摘してきた視点と同じである。
 具体的には、まずはNATO東方不拡大の約束とそれを守らなかったアメリカに問題の根源があることを指摘する。ロシアにとって、ウクライナは、たとえばハンガリーやルーマニアとは全く違う意味を持つ兄弟国である。言葉も文化も近い。その国が敵の軍事同盟であるNATOに加盟することは看過しがたいとプーチンが考えるのは当然で また、アメリカがブダペスト覚書を履行する熱意を欠いており、それが2014年のロシアによるクリミア併合につながったことにも注意を払う。また、ソ連邦崩壊後のウクライナでは、ロシアと同じようにオリガルヒが跋扈し、政治腐敗が拡大したことなど、ウクライナの問題点の指摘も忘れない。さらには、ミンスク合意の不履行はロシアのみならずウクライナ側にもあることにも公平に言及する。

 ウクライナやバイデン政権の主張のみを鵜呑みにして伝える日本のマスコミに、私は辟易としている。かつての仲間たちは、人工妊娠中絶に反対するようなキリスト教原理主義を貫いている。その彼らが、バランスのとれたウクライナ戦争論を展開しているのを見て、意を強くしたものである。

バイデンでは描けないウクライナ戦争終結に向けた地図

 ロシアのショイグ国防相は、11月9日、ヘルソン州のドニプロ川西岸からロシア軍を撤退させることを決めた。3月以降ロシアが占領していた地であり、そこを失うことはロシアの威信に関わるし、大きな敗北である。
 しかし、軍事的には東岸に兵力を集中させて、防衛体制を強固なものにするというのは合理的である。これから寒くなり、大地が凍てつくと、戦車などの兵器を移動させるのが容易になる。また、マイナス20℃以下になると、西側の兵器は凍り付いて使い物にならないが、ロシアの兵器は使用可能である。冬将軍はロシアに有利になる。

 中間選挙後のアメリカ議会で共和党の力が強まれば、ウクライナへの軍事支援の見直しが始まるだろう。それは、今のバイデン政権には戦争の展望を描くシナリオがないからである。ウクライナが求める完全な勝利にまでアメリカが付き合えば、さらなる税金をつぎ込まねばならない。そして、東南部4州やクリミアまで奪還した場合、治安を維持するためには、膨大な支援が必要になる。また、ウクライナがNATOに加盟するとなると、対露安全保障上の「城壁」の構築が必要となる。
 こうなると、「ウクライナ疲れ」どころではなく、朝鮮戦争やベトナム戦争の二の舞になってしまう。
 皮肉にも、ウクライナ勝利のシナリオのほうが、ウクライナ敗北のシナリオよりも、アメリカにとってははるかに高くつく可能性があるのである。
 経済制裁についても、必ずしもバイデン政権が期待した効果は上がっていない。エネルギー資源の価格が3倍になれば、制裁で輸出が阻害されても、ロシアの収入はむしろ増えるのである。制裁に参加する国も世界200カ国のうち40カ国程度である。中国やインドは、ロシアの制裁逃れを支援している。
 このような状況下で、早期停戦の可能性はあるのだろうか。

停戦交渉再開は難しい

 11月5日、ワシントンポスト紙は、バイデン政権が、ウクライナに対して「対露交渉を拒否する姿勢を改めるべきだ」と非公式に求めたと報道した。これに対して、ゼレンスキー大統領は、停戦交渉再開の条件として、「領土の回復、戦争犯罪者の処罰、ロシアによる損害賠償」を上げ、現時点では交渉には応じないと断言している。

 アメリカやNATOは、ウクライナがヘルソン州を奪還した後には交渉を再開すべきだという考えのようである。しかし、ウクライナが挙げた条件をロシアが飲むはずはない。先に進む見通しは立たない。
 アメリカをはじめとする西側諸国の武器在庫が無尽蔵にあるわけではなく、戦争が長引けば最新兵器の調達が継続できない事態も起こりうる。そうなれば、ウクライナ軍の戦闘能力は一気に低下する。
 事情はロシア軍も同じであるが、核武装していることを忘れてはならない。追い込まれたときには、小型の戦術核を使用する可能性は常にある。ロシアが核大国であることを無視して、ロシア軍の訓練や装備の不足などが西側のメディアで過剰に宣伝されているが、容易に降伏する相手ではない。
 プーチンが、ロシア国民のナショナリズムを動員することに成功している間は、戦争は容易には終わらない>(以上「JB press」より引用)




 米国も気づき始めた「ウクライナが戦争に勝つと米国に高くつく」と題する舛添要一氏の論評がJB pressに掲載された。副題に「ウクライナ勝利なら対ロ国境地帯の安全保障に莫大なコスト、誰が負担するのか」とある。舛添氏はウクライナ停戦交渉がロシア軍がウクライナ領内に進軍している状態で行われる、との前提で考えているようだ。
 しかし舛添氏は日本のことすら観念にないようだ。日本はロシア(ソ連)に北方領土を終戦直後のドサクサに紛れて「火事場泥棒」を働いた現状を正常化(つまり無条件「日本返還」)するまでは日ロ平和条約を締結しないことを決めている。しかしウクライナにはロシア軍がウクライナ領内に駐留したまま「停戦交渉」を行うと考えているのだろうか。

 それは余りにウクライナ国民をバカにしてはいないだろうか。ウクライナ国民には領土を保全する権利も正義もある。ロシア側にこそウクライナ領内から全軍撤退する必要がある。武力による侵略や併合が21世紀になっても堂々と行われているロシアの蛮行を断じて認めてはならない。それが先進自由主義諸国の統一された対ロ制裁の原点ではないか。
 それを「コストがかかる」とは何事だろうか。舛添氏はウクライナ国民の災難に対して、コスト意識で計算せよ、ということなのだろうか。独裁者の軍隊が沖縄を寄こせ、と乗り込んで来たら、コスト計算から大人しく明け渡した方が「安くつく」と判断したなら日本政府は沖縄を見放すべきだ、とでも云うのだろうか。

 大儀も正義もないロシアのウクライナ軍事侵攻に対して、先進自由主義諸国は一致団結してウクライナを支援する「義務」がある。なぜならロシアがウクライナに勝利したなら、ロシアはされだけでは決して満足しないで、次はバルト三国に対し、さらにポーランドに対して侵略の牙を剥くだろう。
 いかなる核であろうと、プーチンが使えば米国をはじめ国連常任理事国が責任を持ってロシアを殲滅すべきだ。それが核保有より世界を軍事的にリードして来た「国連」常任理事国の責任だ。国連こそが世界平和を守る、と彼らは戦後世界を恣に操って来たではないか。その責任を果たすべき時が近づいているだけだ。

 世界に君臨する、とはそういうことだ。コストが高くつくなどとは関係なく、果たすべき役割がある。舛添氏の論理でいけば、ウクライナ人一人の命コストは幾らか、というバカな計算をしなければならなくなる。
 そうした屁理屈よりも、21世紀にもなって、ヒトは巨大仕掛けの兵器を使って殺し合っている、という事実に驚愕すべきだ。それもプーチンという独裁者が決めた戦争だ。彼の愚かな決断により十数万人もの人々が命を落とし傷ついた。彼は自身の死で罪を購うべきだろう。

 ゼレンスキー氏は「プーチンと停戦交渉をしない」と明言している。極めて当たり前の判断だ。戦争を始めた独裁者と何を話し合うというのだろうか。
 日本のことを引き合いに出すまでもなく、ウクライナはソ連から独立した当時の国境線で停戦交渉する権利がある。日本もロシアと平和交渉を始めるには、まずロシアが北方領土を日本へ返還してからだ。もちろん全ての日本国民を追放した後に、北方領土に入植したロシア人はすべて本国へ引き上げるのは当たり前のことだ。北方領土に暮らしているロシア人に日本国籍を与えてはどうか、という折衷案があるようだが、ロシア人を信用してはならない。彼らはいつロシア国民だ、と主張して帰属住民投票を実施するか分からない。それはウクライナで証明されたではないか。

 ウクライナに軍事侵攻したロシアを注視している独裁者が極東に二人いる。彼らはプーチンと義兄弟の交わりを交わしたヤクザだ。その二人の野望を挫くためにも、プーチンには彼の命で戦争の決着をつけてもらわなければならない。断じてプーチンと停戦協議など開始してはならない。
 舛添氏は中間選挙でウクライナ支援が論争の的にならなかった、と指摘しているが、論争するまでもなく米国民の多数はウクライナ支援を行うことで暗黙の了解を形成している。誰一人として軍事力で国境線を変更して良いとは考えていない。停戦交渉再開は難しい、と舛添氏は説いているが、安易な停戦交渉などしてはならない。それは次の紛争の火種を作るだけだからだ。ソ連崩壊時のウクライナ領からロシア軍の全面撤退と、プーチンの退陣が最低条件ではないか。

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