円安インフレは消費増税と同じだ。

物価高騰で、働く者の生活が苦しくなっている
 物価が上がって賃金が上がらなければ、働く者、消費者の生活は苦しくなる。食料品などが値上がりしているので、食費などの生活費を切り詰める。ガソリンも本当は高くて買えなくなっているのだが、それは補助金でごまかされている。
 ただ、ガソリンを使うのは、どちらかと言えば豊かな人々だ。高齢者施設では、入居料を値上げしている。ギリギリの生活なので、大きな負担だ。
 以上のことは、実質賃金が低下していることによって、統計的にも確かめられる。
 物価高騰が収まる見通しは、当面ない。これから先、さらに物価は上がるだろう。

物価高騰の約半分は、円安による
 物価が高騰しているのは、まず第1には、資源価格や農産物価格が世界的に高騰しているからだ。
 ただ、日本の場合には、急速な円安がそれに拍車をかけている。
 2022年8月のデータで見ると、契約通貨ベースの輸入価格の対前年比は 21.7%だが、円ベースでは42.5%だ。この差は、円安による。つまり、現在の日本で、物価高騰の約半分は、円安のためなのである。
 資源価格の上昇は、日本政府の経済政策ではいかんともなしがたい。しかし、円安は日本の経済政策によって変えることができる。それを怠っているのは、税をかけているのと同じことだ。

大企業は補助金を受けている
 こうした問題が起きているのに、日本銀行は断固として金融緩和を続けるとしている。金利を上げると、景気に悪影響があるからというのが、その理由だ。
 景気に対する悪影響とは、株価に対する悪影響、つまり、企業収益に対する悪影響のことだ。
 実際、今回の円安によって、大企業を中心として、企業の利益は増えている。とりわけ、エネルギー、資源関連の上場大企業はそうだ。
 法人企業統計調査のデータ(金融機関を除く)で2022年4-6月期の計数を21年同期と比較すると、営業利益と経常利益は、それぞれ13.1%と17.6%という非常に高い伸びになっている。
 ただし、いくつかの留意点がある。
 第1に、零細企業は惨憺たる有様だ。資本金2000万円以上ー5000万円未満では、営業利益や経常利益が減少している。また、従業員数も減少している。資本金1000万円以上ー2000万円未満では、売上も原価も、そして粗利益も営業利益も減少している。従業員数の減少率は4.6%に上る。
 第2に、日本の株価の下落率はアメリカより穏やかに見える。しかし、ドル建ての日経平均を見ると、2021年1月以降、ほぼ傾向的に下落を続けており、現在の水準はコロナ前の2018、19年のレベルになっている。つまり、円安によって、日本の経済力は低下している。
 第3に、こうした過程が続けば、日本経済は崩壊してしまう。上で見たのは、それに至る過程での一時的な企業利益の増加に過ぎない。

消費税率を上げたのと同じこと
 いま起きているのは、消費税の税率を2%だけ臨時的に上げたのと同じことだ。そして、その税収を大企業に補助金として配っているのと同じことだ。
 このような政策を行えば大反対が起きるだろう。ただ、円安でそれが行われると、それが消費税率引き上げと同じものであることが、なかなか認識されないのだ。
 そして、欧米に比べれば物価上昇率がまだ低いこと、またおそらくは一過性のもので将来永続するわけではないことから、これが許容されているのだろう。
 物価が上がることによる悪影響は、これからますます進む可能性が強い。
 数年前、金融庁の金融審議会の報告書は、老後生活のために2000万円の貯蓄が必要だとした。この忠告にしたがって2000万円ためた人は、2%のインフレが収まらなければ、つまり、将来、物価が元に戻らなければ、40万円の税金をかけられたのと同じことになる。そして、その税収を大企業に配っているのと同じことが起こっている。
 これに対して何の反対も起こっていないのは、実に不思議な現象だ。
 もし、同じことを消費税の税率引き上げで行なうと言えば、大反対が起こるだろう。しかし、効果は同じなのに、円安に対してはそうした反対が起こらない。
 喩えはあまりよくないが、「朝三暮四」の故事を思い出してしまう(結局は同じことなのだが、やり方を変えられると、騙されてしまう)。私は、日本の国民や政治家が、この喩えにでてくる猿のように愚かだとは思いたくない。しかし、実際に起こっているのは、まさにそれなのだ。

欧米では金利引き上げ
 アメリカFRB(連邦準備制度理事会)が急速な金利引き上げを行なっているのは、インフレに対処するためだ。
 それに追随して、世界各国の中央銀行が金利を引き上げている。ECB(ヨーロッパ中央銀行)も、2回の利上げを行なって、マイナス金利から決別した。
 インフレ率が10%近いという高率だからだが、日本でインフレ率が低いからといって、問題がないわけではない。
 日本の野党は、先般の参議院選挙で、消費税の税率を下げるという提案をした。それにもかかわらず、インフレ税という形で消費税率引き上げと同じことが進行中である事態を、重大な問題だとはしていない。驚くべきことだ。
 日本には、政府・日銀の経済政策をチェックする政治勢力が存在しない。日本以外の主要国で政治が機能しているのに対して、日本では機能していないと考えざるをえない。

インフレ税は最も過酷な税
 インフレ税は、最も過酷な税だとされている。それは、所得の低い人々に対してより重い負担を課すからだ。
 インフレ税は、人類の歴史で、数え切れないほど何度もあった。貨幣の改鋳という形でローマ帝国時代にもあったし、フランス革命前後のフランスでもあった(アッシニア貨幣)。
 現代で有名なのは、第1次大戦期後のドイツのインフレだ。また、革命後のソ連のインフレだ。
 これらは、その後の国の運命に大きな影響を与えた。
 日本でも第2次大戦後に、インフレが起きた。そして、戦時国債は紙切れになった。
 いま日本で、インフレ税が課され始めている。もちろん、歴史上のハイパーインフレの場合に比べれば、インフレ率はずっと低い。しかし、問題の本質は同じである>(以上「現代ビジネス」より引用)



 「円安はインフレ税だ」とは野口 悠紀雄氏(一橋大学名誉教授)の名言だ。野口氏は「食い止めよ!円安は「インフレ税」だ〜今は消費税2%引き上げと同じ」と題する論評を現代ビジネスに掲載して「日本の働く者は見捨てられている」と国民の実態を警告している。
 「日本の働く者は見捨てられている」と副題を付けているが、誰から見捨てられているのかというと、日本の働く者は「政府」と「野党」から見捨てられている。働く者にとって救いようのない状況が日本では展開されている。

 なぜなのか、それは日本の政治家が与野党を問わず財務省に取り込まれているからだ。その証拠がガソリン価格が高騰しても、岸田政権はトリガー条項を発動しないで、石油元売り各社に1リッターに付き25円の引き下げに相当する補助金を支出して「トリガー条項発動と同じことではないか」とやっている。
 いや、全く違うのだが、そのことを野党政治家は誰も指摘しない。トリガー条項を発動して暫定税率をゼロにすればガソリン揮発油税の25.1円分が減額される。ただ、そうすれば国庫収入が減少して、財務省の権限が弱くなる。(財務官僚たちは税収が減少すれば財務官僚の権限が弱くなる、と思い込んでいる)。しかも政府が石油元売り各社に補助金を出すと、岸田自公政権の業界支配力が強まる、と政権政党はほくそ笑む。

 だからトリガー条項を発動しないで、元売り各社への補助金を出して「トリガー条項発動と同じことだ」と岸田氏は強弁している。
 「円安はインフレ税だ」という野口氏の言葉も現実を的確に表現している。さらに付け加えるとするなら「経済成長なきインフレ税だ」と呼ぶべきだろう。インフレ税は消費税と同様なもので、徴収形態が「税」か「円安」かの相違だけだ。そして私たちは消費税がデフレ化(=不況)をもたらすことを知っている。

 円安インフレによる景気後退に対処する、と岸田氏は言明しているが効果的な経済政策は未だ発表されていない。しかし岸田自公政権はガソリン高騰に対して石油元売り各社に補助金支出しても、トリガー条項を発令しようとはしなかった。一度手にした「税」の削減や廃止などは決してしない政権だ。
 英国などでは消費税の減税を発表してウクライナ危機に端を発した物価上昇に対処している。新登場したトラス首相はさらに減税を実施しようとしている。日本でも経済成長のために消費税の減税もしくは廃止を実施すべきだ。現在の経済成長なき円安インフレは消費増税と同様にGDPマイナス効果をもたらす。決して放置してはならない状況にあるのだが、岸田自公政権は深刻には受け止めていないようだ。

 先の参議院選挙で野党は消費税減税5%を打ち出した(「れいわ」は廃止だった)。その主張を引き続き国民に訴えなければならない。確かに税は国庫収入の源だが、その前に経済政策の一つとして捉えるべきだ。
 経済を回す、と叫んで岸田自公政権は「旅行クーポン」や「消費ポイント」制度などといった一部余裕のある人たちにだけ恩恵のある政策を実施している。なぜ全国民が等しく恩恵に浴する消費減税を実施しないのだろうか。それはガソリン高騰時に対処した手法と全く同じだ。特定の業界にプラスする政策を実施することで支持を獲得しようとしている。こんな利権構造を打破して、等しくすべての国民が利益を手にする政治を目指すべきではないだろうか。

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