習近平氏は「夢」を諦める。

中国からの「ゼロ回答」

 中国がロシアから距離を置き始めている。一方、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は予備役の動員と核の使用も辞さない考えを表明した。ロシアが敗北すれば、台湾奪取を目論んでいる中国も戦略の見直しを迫られるのは、必至だ。中国は、どう動くのか。 
 私は先週のコラムで、9月15日に開かれた中ロ首脳会談について、結果が判明していなかった段階だったが、中国の習近平総書記(国家主席)はロシアが求める軍事支援や核使用容認の「要請に応じないだろう」と書いた。 
 結果は、その通りどころか、中国はもっと冷淡だった。プーチン氏を、ほとんど「見捨てた」と言ってもいいほどである。会談冒頭のやりとりが、実態を物語っている。 
 プーチン氏は、まず「ウクライナ危機に関して、中国のバランスのとれた立場を高く評価する」と述べた。問題はこの次だ。「我々は、中国が疑問や懸念を抱いていることを理解している。本日の会合で詳細に説明する」と語ったのだ。 
 これは、驚くべき発言である。プーチン氏が戦況の悪化を自ら認めたも同然だ。ようするに「我々は追い込まれた。だが、心配するな」と言ったのである。 
 習氏の返答は、そっけなかった。「世界が歴史と時代の挑戦を受けているなか、中国は主要国としての責任と主導的役割を果たすために、ロシアとともに仕事をする。そして、荒れ狂う世界に安定と積極的なエネルギーを注入する」と応じただけだ。 
 習氏は「ウクライナ」という言葉さえ口にしなかった。中国側は、後で「互いの核心的利益に関する問題について、双方が強力な支援を拡大する準備が整っている」という声明を出したが、これも、ただの一般論にとどまっている。 
 戦場で守勢に立たされたプーチン氏とすれば、喉から手が出るほど、中国からの軍事支援が欲しかったはずだ。それだけでなく、いざとなれば「核の使用」についても、可能ならば、事前に「暗黙の了解」を取り付けたかっただろう。 
 それは「米国の暴露」で明白である。9月5日付のニューヨーク・タイムズによれば、米諜報機関はロシアが北朝鮮に数百万発のロケット弾や砲弾を調達していた。イランからは、ドローンを購入していた。ロシアは武器弾薬を使い果たしつつある。 
 だが、願いは叶わなかった。 
 中国の「ゼロ回答」は、事前にロシアに伝わっていたに違いない。だからこそ、プーチン氏は冒頭から「あなたの疑問と懸念は理解している」と言わざるをえなかったのだ。とても、軍事支援や核使用の了解取り付けどころではなかった。

日本のメディアの大失態

 私は、以上のような見立てを、9月16日発売の「夕刊フジ」のコラムに書いたが、こうした見方は、私だけではない。 
 9月15日付のニューヨーク・タイムズは「プーチンの戦争に対する中国の支持は、首脳会談の後、一段と揺らいでいる」と報じた。CNNも同じく「ロシアの後退は『新たな世界秩序』作りを目指す彼らの計画を台無しにしている」と報じている。 
 日本のメディアはどうかと言えば、まったくピンぼけだ。 
 たとえば、共同通信は15日に「中ロ首脳、協力深化表明 侵攻後初の首脳会談」という記事を配信した。NHKの報道も「中ロ首脳 軍事侵攻後 初の対面会談 対米姿勢で結束強化を強調」という具合である。 
 中ロに隙間風が吹くどころか、逆に「結束を固めた」とみていたのである。記者も担当デスクも「中ロの連携は盤石」と思い込んでいたのか、プーチン氏の冒頭発言の異様さに気づかないほど鈍感だったか、あるいは、その両方だったとしか思えない。 
 私は9月16日朝の「虎ノ門ニュース」で、ピンぼけぶりを指摘したが、こんな調子では、日本でマスコミ不信に拍車がかかっているのも無理はない。

プーチンを切り捨てる習近平

 それはともかく、ロシアは首脳会談後の19日になって、ニコライ・パトルシェフ安全保障理事会書記が訪中し、中国共産党の楊潔篪政治局員と会談した。ロシア側の発表によれば、合同軍事演習の実施や軍事部門の協力強化、参謀本部の連絡強化で合意した、という。 
 プーチン大統領は21日、国民向けの演説で、部分的な予備役動員を表明した。セルゲイ・ショイグ国防相によれば「30万人を動員する」という。同時に、核の使用についても、大統領は「はったりではない」と述べ、あらためて、核を使う可能性を示唆した。矢継ぎ早の動きに、ロシアの焦りがにじみ出ている。 
 中国は、どうするのか。 
 私は「ウクライナ戦争の結末と、プーチン氏の運命を見極めるまでは動かない」とみる。その間は「台湾侵攻は当面、棚上げする」だろう。これまで国内の反対論を抑え込んで、プーチン氏に入れ込んできただけに、もしも、ロシアが敗北すれば、その衝撃波は習氏の政治基盤を根底から直撃するからだ。
  戦争に敗れた後も、プーチン氏が権力を維持できるかどうかは分からない。最悪の場合、プーチン政権が倒れ、後継政権はウクライナに全面謝罪し、親米路線に大きく舵を切り替える可能性もある。そうしなければ、経済制裁を解除できず、国が立ち行かないからだ。そうなったら、習氏にとっては「悪夢のシナリオ」である。 
 歴史の前例もある。 
 米国のリチャード・ニクソン政権は1971年7月に突如、訪中を発表し、劇的な米中和解を成し遂げた(第1次ニクソン・ショック)。これによって、中国は激しく対立していた旧ソ連に対する「米中包囲網」を形成しただけでなく、米国の支援を得て、経済発展の足がかりを築くことができた。 
 もしも、敗北した後の新生ロシアが米国と手を組むようなことになれば、攻守所を変えて、今度は「米ロによる対中包囲網」が完成してしまうかもしれないのだ。 
 これは、けっして夢物語ではない。私が夏にインタビューしたハーバード大学のステファン・M・ウォルト教授は3月21日に米外交誌「フォーリン・ポリシー」に寄稿した論文で、次のように指摘している。 ---------- 〈欧州の防衛能力は一夜にして、回復しない。長期的には、米国とNATO(北大西洋条約機構)、欧州連合は欧州の安定性を高め、ロシアを中国への依存から引き離すために、ロシアを除外しない形で、欧州安全保障秩序の構築に務めるべきだ。こうした展開は、モスクワに新しい指導者が誕生するのを待たねばならないが、長期的な目標であるべきだ〉 ---------- 
 いま、ロシアの劣勢が深まるにつれて、そんな事態が現実になる可能性が出ている。先のCNN記事も、その可能性を指摘していた。もっとも真剣に考慮しているのは、習近平氏に違いない。一歩間違えれば、プーチン氏と共倒れになる可能性があるからだ。 
 もちろん、別の展開もありうるが、成り行きをしっかり見極めずに、台湾に突撃するほど、習氏が愚かとは思えない。古今東西、独裁者にとって最重要課題は、自分自身の生き残りと権力維持だ。台湾奪取のような夢の実現ではない。 
 はっきり言えば、習氏にとって「台湾奪取=中国の夢」は、単なる理想にすぎない。独裁者に、理想は2の次、3の次だ。肝心なのは、何はさておき、自分自身の権力維持である。権力を失ってしまったら、理想の実現もへったくれもないからだ。 
 ロシアが敗北すれば、プーチン氏と手を組んだのは、習氏の戦略的失敗になる。それは当然、国内で批判を招く。そのうえ、台湾奪取のようなリスクのある博打を打てるか。そうではなく、習氏はまず自分自身の足元を固め直すことを優先するだろう。

バイデン政権はどう動くか?


 逆に言えば、米国にとって、習氏の台湾奪取計画を抑止する最良の手段は、ウクライナでプーチンを打ち負かし、できれば失脚させることだ。今回の中ロ首脳会談は、ウクライナ戦争だけでなく、台湾問題でも重大な岐路にさしかかった事実を示している。
  米国の戦略目標が「ロシアの弱体化」であるのは、4月のロイド・オースチン国防長官発言で明らかになっていた。ウクライナの反転攻勢の成功で、米国は目標を達成できそうな見通しが出てきた。 
 米国のジョー・バイデン政権で、ウクライナ支援の指揮をとっているのは、ジェイク・サリバン大統領補佐官とマーク・ミリー統合参謀本部議長である。この2人は、反転攻勢の立案も担っていた。作戦成功に自信を深めているに違いない。 
 バイデン大統領は9月18日、米CBSのテレビ番組「60ミニッツ」で「米軍が台湾を防衛するかどうか」と問われ「もし実際に前例のない攻撃があれば、イエスだ」と述べた。大統領が同じ質問を受けたのは、これで4回目だ。 
 9月17日付のニューヨーク・タイムズによれば、大統領は「プーチン氏が核で反撃する事態を恐れて、ウクライナが求めている『ATACMS』と呼ばれる長距離射程ミサイルの提供を躊躇している」という。米議会では、そんなバイデン政権の弱腰姿勢に批判が強まっている。  バイデン氏は、どう対応するのか。大統領の決断は、プーチン氏だけでなく、台湾と習近平氏の運命も握っている>(以上「現代ビジネス」より引用)




 引用記事は長谷川 幸洋(ジャーナリスト)が現代ビジネスに掲載したものだ。長谷川氏が推測するまでもなく、プーチンの敗北はもはや動かない。その場合、習近平氏はどうするのか。そしてバイデン氏はどうするのか、が当面の関心事だ。
 米国にとって中国は戦うべき敵だろうか。バイデン氏は「競争相手」だと常々表明している。しかし決して負けてはならない競争相手であることには間違いない。その場合、プーチン後のロシアと、米国は手を組むだろうか。

 米国の戦略には伝統的に「遠交近攻策」がある。先の大戦前も、そして戦後もトランプ氏が登場するまで「遠交近攻策」で中国と手を組んで日本を攻撃していた。愚かとしか云いようのない間違った政策だった、と習近平氏の「戦狼外交」や「超限戦」により明らかになったが、歴史の浅い米国史において「成功体験」として残る外交政策は「遠交近攻策」だけだ。
 しかしロシアと中国を接近させたままで放置するのは危険だ。両国は歴史的には反目し合い侵略し合う仲だが、独裁者が専制主義統治を行う国、としては極めて類似している。ロシアにも中国にも民主的な政権など一瞬たりとも存在したことはない。その代わり陰謀と殺戮の独裁政権が治めてきた。

 今年二月の北京オリンピック開幕直前にプーチンと習近平氏は会談したが、恐らく北京オリンピック終了直後にロシアはウクライナへ侵攻する、そして北京パラリンピック閉幕直後に中国は台湾を侵攻し、先進自由諸国を東西の戦場に二分する作戦を約束していたはずだ。
 しかしプーチンはウクライナを速攻で占領する軍事戦略を失敗した。たった19万の軍勢でウクライナを平定できると予測したロシアの作戦本部が無能だった。そして軍事戦略としては最悪の「逐次投入」をしている。それでは決して勝てない。ロシアは勝てない戦争を戦っている。

 プーチンを余り追い詰めると核兵器使用に踏み切るのではないか、と危惧する人々がいる。9月15日に開かれた中ロ首脳会談後にプーチンは「脅しではない」とウクライナと先進自由主義諸国を脅した。その段階でプーチンは終わっている。
 なぜならロシア国内で確実にプーチン後の動きが出ているからだ。ロシア人全てがプーチンと同様の愚かな人物ばかりではないし、プーチンの配下に甘んじて満足している人々ばかりではないからだ。ソ連崩壊のロシアを回想してみるが良い。戦車がモスクワを走り回って、党本部ビルを砲撃したではないか。ロシアとは伝統的にそうした国だ。権力が崩壊するのは一瞬だ。じわじわと起きるのではない。昨日は30万人の反戦デモを鎮圧した警察隊が武装してクレムリンに突入しないとも限らない。

 ウクライナ後にNATO諸国はロシアの弱体化を進めるだろう。或いは分割統治を行うかも知れない。ウクライナの戦後賠償を賄うために、シベリア油田地帯を国際的な機関の管理下に置くかもしれない。そして二度とロシアが「大ロシア帝国」の夢を抱かないように「民主化」の楔を打ち込むだろう。
 プーチンがウクライナ軍事侵攻を失敗すれば、習近平氏は台湾統一の愚かな夢を捨てるだろう。陸続きのウクライナをロシアが攻め取れなかったのに、中国が幅200㎞もの天然の堀「台湾海峡」を乗り越えて台湾を攻め取るのは不可能だと気付くだろう。

 先進自由主義諸国は改めて「戦争とは経済力」だと気付いたはずだ。ロシアも中国も経済力をつけた段階から世界に覇を唱え始めた。独裁国家に経済支援するのは間違いだと学習したはずだ。
 対中策はデカップリングこそが正しい。デカップリングすれば中国経済は何もしなくても半分以下に萎む。もしかすると日本以下のGDPに後退するかも知れない。先進自由主義諸国への輸出を失えば、中国経済は空気の抜けた張子の虎になる。徹底したデカップリング策を実行して、国際協調のない「一国主義」などあり得ないことを中国共産党に教える必要がある。世界の国々とどちらが優劣か、上下かを求めるのではなく、協調し合うことの必要性を理解するまで中国を突き放す必要がある。

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