本当にバスの方が鉄道よりも経費が安いのか。

<「ローカル鉄道を取り巻く危機的状況が解消されるものではなく、これ以上の問題先送りは許されない」
 JR各社が抱える赤字ローカル線の存続についてにわかにスポットライトが当たり始めた。鉄道会社と地域が共同で公共交通のあり方を考える国の検討会が7月25日に公表した提言には、厳しい言葉がいくつも並んだ。
 利用客が年々減少する中、コスト削減で収支悪化をしのごうとしたが、運行本数減による利便性低下が利用者の減少傾向に拍車をかける――。これは全国の不採算ローカル線の多くが陥っている負のスパイラルだ。今や、ローカル線は地方における最適な交通手段とはいえない状況にある。
 苦境に陥った理由はいくつもある。沿線人口の減少や少子化による通学需要の減少、さらに、道路整備が進んだことによる高速バスとの競合とマイカー化の進展だ。地方に行くほど1世帯当たりの自動車保有台数は多いのは統計上からも明らかだ。

中小私鉄とJRの大きな違い
 地方の中小私鉄には各種補助金など路線維持のための国の支援策があるが、JRには基本的にはない。国鉄分割民営化のスキームにおいて赤字路線を維持する仕組みが整えられたからだ。
 JR本州3社(東海、東日本、西日本)は都市部の通勤路線などの黒字で地方路線の赤字を埋めるという「内部補助方式」が採用された。一方、経営基盤の弱いJR北海道、JR四国、JR九州の三島会社は国から付与された経営安定基金の運用益で赤字をカバーすることになった。
 本州3社は会社発足後、不動産など非鉄道事業を拡充して地方路線の赤字を補うどころか、連結ベースでの利益を大きく増やした。しかし、JR三島会社は低金利で基金運用益は激減。JR北海道は経営難に陥った。
 先行して路線別収支を公表してきたJR三島会社に続き、2022年4月11日にJR西日本、7月28日にはJR東日本が1日の利用者が2000人未満の線区について収支の公表に踏み切った。いずれもすべての線区が赤字に陥っている。
 リリースの中で「線区によっては地域のお役に立てておらず、厳しいご利用状況」(JR西日本)、「地方交通を取り巻く問題は重要な経営課題」(JR東日本)としている。盤石な経営を続けてきたJR東日本やJR西日本も、コロナ禍で収入が激減し、赤字路線を維持する余裕がなくなったということだろう。
 国鉄時代、利用者2000人未満の線区は大量輸送という鉄道の特性を発揮できないとして、その多くの路線がバス転換ないし第三セクター鉄道に移管された。JR各社が公表した「2000人未満」とはそうしたレベルの数字であり、どの線区も赤字だ。なお、JR東海は「開示の必要性を感じない」として収支を公表していない。東海道新幹線の収益で地方路線は維持できるということだろう。
 提言では、関係者がローカル線の利用状況や経営状況の変化について、「自分ごと」として強い危機感を抱いてこなかったのではないかと指摘している。ただ、これまで無策だったわけではない。2007年には、地方自治体が主体となって地域の公共交通を維持する役割を果たすことを目的とした地域公共交通活性化再生法が制定された。
 この法律では、地域の主体的取り組みや創意工夫によって公共交通を活性化することが求められている。だが、JRと地域の間で地域の公共交通に関する話し合いが継続的にもたれている線区は決して多くはない。

話し合いを提案しても自治体に応じてもらえない
 あるJRの担当者は、「自治体に話し合いをしたいと提案した時点で、線区の廃止を前提としていると受け止められ、応じてもらえない」と打ち明ける。たとえ、1度は協議会が立ち上がったとしても2回目が開催されないままというケースは少なくないという。
 むろん、自治体側にも言い分はある。現行のルールでは鉄道会社は路線の廃止は1年前までに国に届け出ればよい。ただし、届け出に際しては事前に沿線自治体など地元の関係者の理解を得るというのが前提だ。これは、地域の合意なく路線を廃止してはいけないと国が鉄道会社に釘を刺したものだが、自治体側は、「協議開始は廃止の第一歩」と受け止め、協議入りそのものを拒む。
 協議を始めるとどうなるか。経営悪化により赤字線区を次々と廃止しているJR北海道の例を見ると、地元自治体が最初は廃線に反対しても、利用者を増やす、運営の一部を肩代わりするなどの収支改善策を示すことができなければ、廃線で押し切られてしまうのが実情だ。
 これでは地元自治体にとって「協議しないほうがまし」となってしまう。だが、それは現実に目を背けた問題の先送りにすぎない。放置しておけば将来の事態はさらに悪化するからだ。
 今回、国の検討会が出した提言は、そうした状況の打開を図ることを狙ったものだといえる。

 原則として平常時の1人当たり利用者数が「1000人未満」の線区において、鉄道事業者や沿線自治体が要請すれば、国が主導して新たな協議会を設置するというもの。これは、JR各社が公表している2000人未満よりもさらに収支が深刻な路線だ。鉄道の存続策、あるいは廃止する場合の代替交通など検討する。
 運行ダイヤの見直しや駅近くに集客施設を設置して鉄道利用を促すといった活性化策、現状のままの存続が難しい場合は、自治体が線路などのインフラを保有・管理し、鉄道会社は運行に特化する上下分離方式の採用やBRT(高速バス輸送システム)などへの転換について検討する。「協議開始後、最長でも3年以内に沿線自治体と鉄道会社は対策で合意してほしい」と国土交通省の田口芳郎・鉄道事業課長は話す。

個別の理由があれば「協議会」の設置は不要
 仮に2019年度の「1000人未満の線区」が対象だとすると、全国におよそ100線区ある。ただ、「(1000人未満の線区において)協議会の設置は強制ではなく、通学需要が多いなど個別の理由があれば、協議会を設置しなくてもよい」(田口課長)という。国は危機感をあおる一方で、1000人が“足切りの数字”だと受け止められないよう、細心の注意を払っている様子がうかがえる。
 この協議では、地域の現状にふさわしい公共交通のあり方が議論されるが、過去には公共交通の改善にとどまらず街づくりにまで発展した例もある。モデルとなるのは富山市だ。
 富山市は住まいと生活機能を近接させたコンパクトシティを目指しており、マイカー化から公共交通へのシフトを進めていた。そこで、2006年に廃止されたJR富山港線を市が設立した第三セクターの富山ライトレールが引き継ぎ、経路変更や駅の増設、運行本数増など利便性を高めたうえで、鉄道よりも低コストのLRT(軽量路面電車)で復活させた。今では市中心部への移動はLRTが便利だ。
 ほかにも茨城県の日立市は市内の5小中学校を統合し、第三セクターのひたちなか海浜鉄道の線路の近くに新たな学校を造るとともに学校の前に新駅を設置した。これによって、通学の利便性が高まるとともに鉄道利用者も大きく増えた。

 むろん、自治体とJRの協議は明るい事例ばかりではない。
 リニア中央新幹線の南アルプストンネルの工事では、大井川の水資源問題や南アルプス周辺の環境に与える影響を理由に静岡県が着工を認めない。2020年4月に立ち上げられた国の有識者会議による1年半もの議論を経て、大井川の水資源への影響は「極めて小さい」という結論を得た。しかし、県は納得していない。
 現在は環境問題についての議論が有識者会議で行われているが、これも県が納得する結論が出るかどうかは未知数だ。このようにJRと自治体の間で考え方に隔たりがある場合は、新たな協議会ができたとしても事態が改善する保証はない。
 近年は自然災害により鉄道が被災する例が相次いでいる。2022年8月3日の記録的な豪雨で磐越西線や米坂線が大きな被害を受けた。現時点での被害の詳細は発表されていないが、復旧には巨額の費用がかかることは間違いない。
 復旧費用がネックとなり鉄路が維持できなくなった例は数多い。2010年の土砂崩れで運休した岩泉線や2015年の高波で線路が被災した日高線・鵡川―様似間は復旧されることなく廃止となった。

平時のコミュニケーションがより重要になる
 2011年の東日本大震災で被災した大船渡線・気仙沼―盛間と気仙沼線・柳津―気仙沼間はBRTで復旧された。2017年の豪雨で被災した日田彦山線・添田―夜明間も2023年夏にBRTで復旧する予定だ。
 一方で、鉄路にこだわった路線もある。東日本大震災で被災した山田線・宮古―釜石間はJR東日本に代わって第三セクターの三陸鉄道が運営することになった。2011年の豪雨で被災した只見線・会津川口―只見間は、福島県が線路を保有し、JR東日本が列車を運行する上下分離方式で2022年10月に復活する見通しだ。
 ひとたび自然災害で鉄道が被災すれば、地元自治体は鉄道を存続させるのか、廃止するのかという選択をいや応なしに迫られる。しかし、公共交通をよりよいものにしたいと考えるのであれば、普段から地域の公共交通のあり方について鉄道会社と自治体が密なコミュニケーションを図っておくべきだ。
 今回、国が出した提言をきっかけに、各地方自治体はローカル線のあり方をこれまで以上に真剣に考えざるをえなくなるだろう>(以上「東洋経済」より引用)



 国鉄を分割民営化した段階でローカル線の問題は予見されていた。ことにJR北海道やJR四国は経営破綻は分割民営化の島嶼から見込まれていた。こんな愚かな「分割民営化」に踏み切った国の責任は重大だ。
 そもそも先人が税を投じて国土開発の重要な社会インフラとして建設した「網の目のような」鉄道網を、分割民営化したことにどれほどの合理性と先見性があったというのだろうか。ただ赤字ローカル線を「経営原則」から廃線することを目論んだ「分割民営化」だったというのだろうか。

 国交省が招聘した「有識者会議」が「赤字ローカル線は原則廃線」なる案を答申したという。なんという「バカな有識者」だろうか。赤字ローカル線は廃線、という答申なら誰にだって出来る。
 そして平気で「バス代替」案などと云った愚にも付かない案を答申している。鉄道運営よりもバス化する方が経費が安いからだという。しかしエネルギー効率からいえば、鉄道の方がバスよりも遥かに良い。なぜバスの方が運営経費が安くて、鉄道の方が高いのか。それは判り切ったことだ。なぜならバスはタダの道路を運行しているのに対して、鉄道は線路の維持・管理費まですべて運賃に反映させているからだ。

 つまり比較すべき前提条件の異なるものを比較して、バスの方が安いなどといった愚かな答申をしているに過ぎない。ここで理屈をいえば道路と同じく鉄道も線路の維持管理は「揮発油税」で賄うべきだ。
 国は揮発油税を一般財源化しているが、それは間違いだ。道路財源だけに投じるのではなく、交通社会インフラにこそ使うべきだ。電気でも発電と送電を分けて考える「発送分離」なる議論があった。鉄道も同じように「上下分離」を行うべきだ。そして「下」に相当する線路の維持管理は揮発油税を投じるべきだ。何に使っても良い、と一般財源化した国こそが誤りだ。国会議員は交通インフラの総合的な在り方を国会でもう一度議論し直すべきではないか。

 もちろんバス会社が鉄道をレール・バスで走っても構わない。道路と同様に鉄道も交通社会インフラとして揮発油税で維持すべきだ、という根本的な議論を一から始めるべきだ。先人が建設した鉄道を廃線にして今を生きる私たちは恥ずかしくないのか。ローカル線は決して役目を終えたわけではない。不当な競争にさらされているだけだ。
 道路はタダでバスや自家用車で通行できるが、鉄道は線路の建設から維持管理まですべて鉄道運賃で賄え、という方式が破綻している。それによりエネルギー効率の良い鉄道が廃され、バスやトラック運送が幅を利かせる、という環境に逆行する事態が進行している。いや環境だけではない、均衡ある国土の発展という観点からしても、ローカル線の廃止は避けなければならない。交通インフラの抜本的な議論こそ、有識者会議に相応しいのではないだろうか。

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