大軍事演習に動じない台湾国民。

<ナンシー・ペロシ米下院議長の訪台をきっかけに、台湾海峡周辺で行われた中国の軍事演習。「台湾有事」「台湾海峡危機」などと日本ではささやかれたが、台湾では市民の日常生活に大きな変化は見られないという。ジャーナリストで、大東文化大教授の野嶋剛氏が台湾人の心理と現地事情を読み解いた。
*   *  *
 北京(習近平政府)はきっと誤算だったはずだ。本当ならば台湾社会はパニックを起こし、株価は下落し、人々は海外に逃れ、フェイクニュースが乱れ飛んで……。実際に、1996年の「台湾海峡危機」では4発のミサイルで、株価は暴落、海外逃亡や移民申請が急増し、台湾社会はパニックに陥りかけた。
 ミサイルの数は、4発から今回は11発に増えた。規模もはるかに今回のほうが大きかった。ところが、台湾社会はいたって平穏に、8月4日から7日まで中国が行った軍事演習を受け止めた。これは不思議なことに思われ、台湾にいる私が日本のテレビなどにオンラインで登場するときも、きまってこの点を質問された。
 確かに、台湾社会は冷静であった。しかし、「冷静」という言葉でひとくくりにして表現することにはいささか躊躇してしまう。冷静というだけではなく、ある種のイベントとして楽しんだフシすらあったからだ。
「無人機を見よう」と海岸に集まる若者たち。ミサイル演習の行われた朝、漁港でメディアに「漁に出るのか」と聞かれた漁師は「今日は潮がいいので、海に出ないわけにゃいかない。大漁間違いなしだから」と笑って漁に出ていった。株価はいたって正常。

 実は台湾ドルは数年来ずっと高値傾向が続いている。中国からの強硬な圧力にさらされていながら、台湾には虎の子の産業――半導体――があり、コロナのおうち需要もあって半導体需要に沸き、台湾の2021年の経済成長率はアジア最高レベルの6%超を記録した。これは中国の8・1%と比べて遜色ない数字である。
 このところの円安に加えて、台湾は物価も上がっているので、コロナ前と比べて3~4割はものが高く感じられる。かつては「安い!」と思ったマッサージも日本の1時間2980円のほうがお得になった。ランチも1食2000円ぐらいが普通である。日本人はどんどん相対的に貧しくなっている。
 
 話を戻すと、それにしても台湾の人々は楽観すぎないかとも感じた。1996年のミサイルは台湾の近海に落とされたが、今回は台湾の中心都市・台北の真上を飛び越えていったのに。
 私は8月3日から台北に滞在している。夏休みを生かした大学の長期調査研究で1カ月の予定を組んでいた。もともとは決めていたテーマでじっくり調査に専心し、久々の台湾滞在をエンジョイしようと思っていたのだが、そうもいかなくなった。
 3日に台北の松山空港に到着すると、同じ空港でタラップを駆け上がるペロシ米下院議長の姿が遠くに見えた。台湾のメディアは競って彼女のハイヒールの高さを報じ、その日の女性ニュースキャスターたちは、ピンクのジャケットに白のインナーというペロシ・ファッションに身を包んでいた。ペロシ・フィーバーの翌日からこの軍事演習だ。もしかすると、ペロシ氏の訪問ですっかり台湾の人たちは安心してしまったのかもしれないとも思った。

 確かにそれはあるだろう。ペロシ氏は「台湾を米国は見捨てない」と断言した。議会のパワーが強い米国の議長がそこまで言うのである。力強く台湾を励ます言葉だった。
 ただ、それだけではないようだ。台湾では1949年から今日までずっと、大陸の中国共産党から「いつか統一するぞ」とにらまれながら生きてきている。基本的には「内戦状態」ということである。防空演習も毎年きっちりやっているし、軍は志願制とはいえ、全男性に4ヶ月の軍事訓練が義務付けられている。BTSの兵役問題が世論を騒がしている韓国と似たところもあるが、基本的には、日本でとうの昔に歴史になっている「冷戦」がまだここでは終わっていないのである。だから、台湾の人たちは軍事的緊張に慣れているところが確かにある。
 いろいろ聞いているうちに、あるサラリーマンの友人がキーワードを口にした。
 「あれは紙老虎だから」
 紙老虎は、ペーパータイガー、つまり張り子の虎。見掛け倒し、ということだ。
 実は、そんな話を、国防部の関係者から聞いていたので、ピンとくるところがあった。
「初日は確かに緊張しましたが、海軍と空軍、ミサイルの動きだけだとわかったので、今回はそれほど慌てる必要はないと思ったのです」
 注目していたのは、地上軍の動きだという。つまり地上軍が動かなければ、台湾侵攻は実際には起きない、台湾の監視からその動きはないとわかっていたということだ。

 もちろん、サラリーマンのコメントはもうちょっと直感的だ。
「中国には、まだ台湾を攻撃する自信も余裕もない。半導体も台湾の生産に頼りきっている。台湾企業も中国にたくさん進出して中国の経済を支えている。米国もいるし、今回は台湾を攻撃はできない。だから見せかけの脅しだってわかっていた」
 中国の軍事演習はなお断続的に続くようだ。習近平氏が、最高指導者を規定の2期10年で終えないで在任を続ける「3選」が、秋の共産党大会で確定するといわれている。そのときまで軍事演習は緩まないと、台湾の人々は見ている。逆にそれは、中国の演習は国内向けの習近平氏の威信確立のためにやっていることで、台湾を攻め落とすためではない、という解釈が成り立つのである。
 そのあたりの読みは、長年の中台関係の緊張に慣れた台湾人の玄人ぶりが一枚上手だったということかもしれない。
 しかし、今回の演習では、中国軍が本気で台湾侵攻の準備を進めていることはしっかりと伝わった。楽観的に演習を受け止めたことと、これからもずっと枕を高くして寝てていられるかは別問題である。
 26日、米国の上院議員を台湾に迎えた蔡英文総統は「最近中国は台湾周辺で軍事演習を行い、地域の安全に深刻な脅威をもたらしています」と述べた。この週は日本の国会議員団や研究者の訪問も受け入れ、「中国の脅威」を強くアピールし続けている。
 純粋な軍事力の対決では圧倒されてしまう。台湾は今後も日米や世界各国に対し、「台湾は被害者で、中国は民主主義の社会を攻撃するトラブルメーカー」という印象を広げる情報戦を展開する方針だ>(以上「AERA」より引用)




 中国軍は「紙老虎」だと台湾の友人が野嶋剛氏(ジャーナリスト)に云ったという。つまり「張子のトラ」だというのだ。私はこのブログで一貫して中国は張子の虎だと主張してきた。
 それは大軍事演習だけではない。軍拡された膨大な兵器も「紙老虎」だし、中国経済も「紙老虎」だ。ただ周辺少数民族に行っている「漢族化」政策だけは「紙老虎」ではなく、ジェノサイドを目的とした苛烈さだ。

 台湾人は大軍事演習で陸軍が参加してないから「今回は大丈夫だ」と判断していたという。ロシアのように国境付近で大軍事演習をした直後に、自国の兵隊をも騙すようにしてウクライナへ雪崩れ込んだように、台湾近海で大軍事演習をしてそのまま台湾に上陸するのなら、数十万人の陸軍が参加していなければならない。
 しかし今の中国に数十万人の陸軍を参加させる余裕はない。中国内の各港から千隻以上もの軍艦を大演習に投入するほどの統率力もないだろう。全土五軍管区の人民解放軍にそれぞれ○十万人ずつ兵を出せ、と命じることが出来るだろうか。それらの軍を台湾と向き合う福建省に移動させ、軍事侵攻させるには福建省を兵站とする基地に兵器や砲弾やミサイル、更には糧秣などを集積しなければならない。実に膨大な経費を必要とする。戦争とは経済戦争でもあることを忘れてはならない。

 中国はウクライナへ軍事侵攻したロシアに対して行われた先進自由主義諸国の対ロ経済制裁を見て分析している。結果としてロシア経済は破綻寸前で、国民生活は極端な物資不足に陥っている。そして何よりもロシアに進出していた先進自由主義諸国の企業が相次いで撤退し、投資家たちが投資していた巨額資金を引き上げた。
 中国の「紙老虎」経済を支えているのは中国に進出している先進自由主義諸国の企業だ。進出して来た外国企業が諸外国から部品や素材を輸入して、中国人を雇用して加工・組み立てを行って主として自国や先進自由主義諸国へ輸出している。ロシアは撤退した先進自由主義諸国の企業の工場を接収して、ロシア人で生産しようとしたが生産するための部材や素材の手配が出来ないことに気付き接収したまま操業停止になっている。中国が外国企業を接収しても、たとえ部材や素材を手配できたとしても、中国内消費者に売ることは出来ない。なぜなら製品価格が中国内向けでないからだ。

 中共政府が叫んでいる「一つの中国」は台湾を軍事侵略して統一することを意味しているが、そんなことは出来はしないし、たとえ出来たとしてもその結果中国は何を手に入れるというのだろうか。喉から手が出るほど欲しいTMSCは戦乱によって生産ラインが破壊されるだろう。たとえ無傷で残ったとしても、TMSCは素材や各種部品から生産設備まで、すべてを一貫して生産しているわけではない。
 TMSCは製造機械をオランダ企業から購入し、素材や各種部材を日本などから輸入し、製造設計図をインテルなどから提示された半導体を製造しているに過ぎない。つまり国際協調の賜物としてTMSCは存在し半導体製造を営んでいる。TMSCの工場を中国軍が占拠して接収したとしても、精密な半導体が製造できるわけではない。

 「一つの中国」は国内向けの「軍事大国」を演出する勇ましいスローガンでしかない。それを承認するように諸外国に強要すること自体が間違っている。ただ中国と国交を結ぶ諸国は中国で一儲けしたい経済団体に後押しされているため、中共政府が国交締結に「一つの中国」の容認を条件付けすれば、言葉の問題でしかないと思って安易に容認して来ただけだ。
 しかし「一つの中国」が自縄自縛となって自らに跳ね返っている。習近平氏は三期目が全人代で承認されるまで対台強硬姿勢で乗り切るとしても、三期目の五年間を「一つの中言」を言葉だけで乗り切るのは困難だろう。いかに中国民が騙されやすい国民だとしても中国軍が「紙老虎」状態の現実に気付くだろう。

 今後10年以内にも米国経済を超えて世界の経済超大国になり、軍事力でも世界随一の最強国になる、と中共政府は大声で叫んでいるが、現実はどうやら違うようだと中国民が気付いた時、中国内にいかなる変化が訪れるだろうか。
 その時は、それほど遠くない。既に中国経済は崩壊過程に入って凋落の坂道を転がり落ちている。凋落する中国経済を最後まで支えていた「投資」も資金が枯渇し、全国の地方政府も破綻の瀬戸際にある。国庫の枯渇から中央政府はすべての税は中央政府に歳入し、その後で地方政府の需要額に応じて支出する、という方式に切り替えた。だから地方政府は唯一独自財源に残された各種「罰金」の取り立てに忙しいという。些細な瑕疵にイチャモンをつけて金をせびる、まさにチンピラ政府と呼ぶにふさわしい。しかし官僚たちもボーナス支給を廃止され、毎月の報酬まで削減されている。チンピラにならざるを得ない。

 中国経済の行き詰まりは、すべて習近平氏の経済政策の破綻から始まった。その極地が「戦狼外交」に転じた外交の失敗だ。先進自由主義諸国は吠え立てる中国を信用しなくなった。一度失った信用を中共政府は二度と取り戻せないだろう。ハニトラ狂いの政治家や儲け第一主義の経済界が「ニカッ」と微笑む中国要人を歓迎したとしても、多くの日本国民は習近平氏の中国を信用しない。

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