ウクライナ戦争考

連携成功なら短期間でウクライナ征服
  ロシアとウクライナの戦いでは、「ハイブリッド戦*1が機能しなかったのではないか」「最終的には、ミサイルや砲弾が飛び交う正規戦が勝負を決める」という印象を持ってしまいがちだ。
 それでは、ロシアはハイブリッド戦を大々的に仕掛けなかったのだろうか。
 それとも、ウクライナに作戦を見破られて機能しなかったからなのだろうか。
*1=「正面切った戦いに訴えない多次元のアプローチ」によって各種能力が運用される恐れを「ハイブリッド脅威」と定義し、「ハイブリッド戦争」という場合には、軍事と非軍事の両方の手段を活用した戦争である(松村五郎元陸上自衛隊東北方面総監)。

 ロシア軍の侵攻開始から約半年が過ぎ、ロシアが仕掛けていた見えない戦争(非正規戦)が少しずつ見えてきた。
 7月になって、ロシア軍による非正規戦の情報やサイバー戦に関する情報が、ウクライナ参謀部から報告されるようになってきたのだ。
 ロシアの非正規戦が実施されたことは、JBpress『ウクライナ侵略でロシアが行った非正規戦、その卑劣な実態』(2022.8.11、https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71338)で解説したとおりだ。
 今回は、その非正規戦について、さらに一歩踏み込んだ。
 非正規戦の内容は地上戦とつながっている。それが成功していた場合は、ウクライナ全域が占領された可能性があると思えるのだ。
 このため、非正規戦とロシア軍地上侵攻とつなげて、作戦の狙いを再検討してみる必要があると考えた。
 非正規戦と正規戦を重ね合わせて分析する。

1.侵攻当初の計算違い
 ロシアは侵攻当初、不可解と思えるほどの全正面同時攻撃と無謀とも思えるような果敢な攻撃になぜ踏み切ったのか。
 ロシアの非正規戦と軍の正規戦(軍事侵攻)とを重ね合わせて分析すると、非正規戦がウクライナ国内で準備され、それが完了したと判断したところで、ロシア軍は国境を越えて侵攻したと考えられる。
 非正規戦等の効果に乗じた全正面侵攻作戦だ。
 ロシア軍は侵攻当初、ウクライナの北部・東部・南部から同時に攻め込んだ。各正面とも侵攻速度は速かった。
 しかし、約1か月後には、キーウ正面の北部侵攻部隊は撤退し、その他の正面もその後の戦果拡張はできなかった。
 後日判明した損害を読み取ると、侵攻の2週間から5週間に、大きな損害を受けていた。
 ということは、全正面を全戦力で攻撃すれば、当初の2~5週間で作戦が上手くいく、北部ではキーウ占拠、東部・南部ではドニエプル川まで、あるいは、さらにうまくいけば、ポーランドとの国境まで攻め込めると想定していたからだろう。
 ロシア軍は、軍事作戦を実施する場合に、軍全体の図上研究(兵棋演習)を実施し、成功することを概ね確信し、その結果をウラジーミル・プーチン大統領に報告して承認を得ていたはずだ。

 このようなことは、米軍でも自衛隊でも行っている。
 ロシア軍は、図上研究から想定通りにいき、結果、成功すると読んでいたのだろう。2~5週間で、ウクライナの大部分を占領できると判断したと考えられる。
 ところが、その作戦は「無謀な戦いを仕掛けた」「ロシア軍は弱い」と判断されることになった。
 ロシア軍にとってみれば、作戦計画のどこかに「狂い」が生じたことになる。その「狂い」は何だったのか。
 侵攻当初には、ウクライナ軍が米国から得た情報を適時に使って戦えたこと、米欧から得た兵器などが効果的であったこと、ロシア軍の兵器が時代遅れで脆かったことが挙げられた。
 私は、これらのほかに非正規戦の失敗があったとみている。
 実際、非正規戦が思うようにいかなかったことが最近になって報告され始めている。
 ロシアには、2014年の侵攻の際に、非正規戦と正規戦(ハイブリッド戦)の成果によって、短期間にクリミア半島が占拠できた経験があった。
 したがって、航空作戦の支援を受けた地上戦が圧倒的に有利であり、侵攻前に仕込んだ非正規戦の成果が得られるという考えがあったのだ。

2.非正規戦と地上戦の連携失敗
 非正規戦の実施は、侵攻開始直後あるいは侵攻初期に実施されたものがほとんどだ。
 ということは、ロシアは、ウクライナ国内に事前に潜入、あるいはウクライナ国内のロシア人を利用して準備させ、その後、地上戦と連携したと考えられる。
 キーウに侵攻した地上軍部隊の最前線は、侵攻から約1か月の間に、キーウの北部や北東部から挟み撃ちの形で攻撃し、キーウから25キロ圏に接近した。
 キーウが陥落するのも時間の問題かとウクライナや支援する欧米各国は不安視した。
 だが、実際にはロシア軍の数々の作戦は失敗し、急速な撤退となった。
 最近のウクライナからの報告によれば、侵攻開始前からロシアの非正規戦は準備されていたという。
 そして、以下のロシアの非正規戦と地上戦の連携は失敗したことが明らかになった。
 もし、以下の作戦が成功していれば、戦況は大きく変わったものになったであろう。
①ロシア特殊部隊によるウォロディミル・ゼレンスキー大統領の暗殺が、2週間で12回も阻止された。もし成功していれば、ウクライナ政権内部は大混乱していた。
②秘密工作員の誘導によるキーウ近郊の空挺・ヘリボーン作戦部隊が一時的に成功したものの、増援空挺部隊が空中機動中に撃墜されて、空挺・ヘリボーン部隊は全滅、攻撃は失敗した。
(次の③のことがなく、空挺部隊等と北からの地上部隊とが合流できていれば、空挺部隊は全滅せず、キーウ市内では市街戦となっただろう)
③キーウ北部の水門を事前に確保できなかったために、ウクライナに水門が破壊され、地域は水没した。
 そのため北からキーウを攻撃する部隊の行動が制限され、侵入経路を変更するなどの混乱が生じた。行動地域の機動が妨害されなければ、混乱せずにキーウに突入できていた。
④ウクライナ軍を装った兵士が、高射機関砲を搭載したトラックで、キーウ市内を銃撃したが、ウクライナ軍に殺害された。
 ロシア地上軍がキーウに突入できていれば、市内の襲撃と合わせ、市内は大混乱になっていたはずだ。
⑤ロシア軍の軍事作戦に協力する情報提供者(親ロシア住民)が逮捕された。
 逮捕されていなければ、ウクライナ軍の作戦司令部、情報機関、サイバーセンターなどは、効果的に破壊され、指揮機能は混乱していただろう。
 上記の①②③の非正規戦は、戦争の帰趨を大きく変える作戦の一つだ。
 もしも、一つでも正規の軍事作戦と連携して成功していたら、あるいは、いくつかがまとまって成功していたら、首都キーウは占拠されていたかもしれない。

3.非正規戦に乗じた作戦の効果
 ロシア軍が侵攻当初の1か月間に、ほぼ全力を投入し、無謀とも考えられる全正面から、果敢に攻撃を実施した。
 これは前述したとおり、ウクライナの政府中枢と都市を混乱させる非正規戦に連携して、大々的な地上戦を実施すれば、ウクライナの完全制圧が可能であると考えていたと考えられる。
 もし、その通りにロシアが非正規戦によりウクライナの政府機能や軍事の指揮機能を喪失させ地上侵攻作戦と連携して戦果が拡大していったら、ウクライナは完全に占領されていた可能性がある。
 プーチン大統領が決めた大統領が現れ、独立国家としてのウクライナは消滅していたかもしれない。
 南部のへルソン州では、へルソン州付近を流れるドニエプル川にかかる橋梁を早期に爆破しなかったため、ロシア軍のへルソン州早期占領に貢献してしまった。
 大河川にかかる橋梁の爆破は、タイミングが重要だ。
 例えば、爆破が早ければ敵の進行を止められるが、反面、自国軍の撤収ができず、孤立して捕虜になってしまう危険性がある。
 逆に爆破が遅れれば、自国軍の撤収は十分に達成可能であるが、反面、敵の侵攻を速めてしまう。
 へルソン市にかかる橋梁の爆破が遅れたのは、親露派による非正規戦の成果だったのか、ウクライナ軍が早期に防御を放棄したのか不明である。
 親露派によるロシア軍への協力が功を奏した可能性も考えられる。現在のところ明らかにはなっていない。

4.マイクロソフトチームの貢献
 マイクロソフトのリポート「サイバー戦争の初期の教訓」(2022年7月4日)によれば、マイクロソフトのチームは、ロシアの侵攻以前から、ウクライナの政府機関や重要インフラに対するサイバー攻撃から守れるように、24時間体制で支援したという。
 このチームは、ウクライナ政府やあらゆる種類の組織と密接に協力していた。
 ウクライナは、ロシアのサイバー攻撃の約70%以上を防ぐことができたのだ。

 ロシアのサイバー攻撃は以下のとおりだ。
 2月24日、ロシア軍が実際に侵攻し、ミサイル攻撃を始める数時間前、「Foxblade(狐の刃)」と呼ばれるサイバー兵器がウクライナのコンピューターに対して送られていた。
 システムファイルを消し去る破壊的な攻撃であった。
 ロシアは、ウクライナ政府のデータセンターを狙って、巡航ミサイル攻撃を行った。サイバー攻撃と連携した巡航ミサイル攻撃だった。
 これに対して、ウクライナは事前に、デジタルインフラを避難させていた。
 マイクロソフトは、ロシア軍がウクライナの48か所の機関や企業に対して、また、ウクライナ以外の42か国の128組織に破壊的サイバー攻撃を何度も実施していることを確認している。
 現在でも、ロシアのサイバー攻撃は終わることなく、執拗に継続して実施されている。
 ウクライナが前述のことを詳細に把握していたということは、マイクロソフトチームの協力によるところが大きい。

5.ロシアを出し抜いたウクライナの防諜活動
 侵攻開始1か月後にキーウ占拠作戦が失敗し撤退を余儀なくされたことは、ロシアにとって大誤算であり失望であったに違いない。
 これは、ロシア軍から見れば、正規戦では全正面同時攻撃の失策、兵站問題、機甲戦力の機動制限の理由を挙げられる。
 ウクライナ軍から見れば、国民全員が何らかの形で戦ったこと、米欧から供与された兵器がロシア軍の攻撃を阻止できたことが挙げられる。
 だが、キーウでの見えない戦争である非正規戦やサイバー攻撃が早期に潰され、軍事作戦と連携できなかったことも、重要だったと私は見ている。
 戦闘の様相とその推移を見ると、成功した正面もあったが、不成功の正面もあった。
 不成功だったのは、キーウ正面だった。 首都キーウの早期占拠を企図して、キーウに隣接する空港に空挺・ヘリボーン作戦を行った。
 だが、キーウ占拠まであと一歩というところで撤退した。
 成功したのは、ウクライナ南部のへルソン州やザポリージャ州への侵攻だった。大きな抵抗を受けることなく占拠した。
 ロシアの北部への侵攻作戦は撤退することになり、南部は上手くいったことについて、私は、不可解なこととして心に残っていた。
 そして、時間の経過とともに、ロシア軍の見えない仕掛けがウクライナ軍に解明され、潰されてきたことを知った。
 ゼレンスキー大統領の暗殺について、大統領府のミハイル・ポドリャク長官は侵攻から2週間で12回以上の暗殺未遂があったと発表した。
 また、「我々は非常に強力なインテリジェンスと防諜ネットワークを持っている」「ロシアの情報機関の連邦保安局内にも内通者がいて、その情報で未然に防ぐことができた」と語っていた。
 ウクライナは、ロシア軍の非正規戦を見破っていたのだ。

6.侵攻作戦前の非正規戦は常態化
 非正規戦は、戦車・火砲・ミサイルを撃ち合うこととは異なり、表舞台には現れない。
 だが、ウクライナでの戦いを見ると、侵攻前に非正規戦を行い、軍の作戦を支援することが、侵攻を成功させる大きな要因であることが判明した。
 もしも、中国が我が国に侵攻するとしたら、そのときには非正規戦は必ず行われる。
 しかも侵攻する前に実施される。つまり、防衛出動や防衛出動待機命令の前に、密かに着々と準備され、実施されるということだ。
 我が国には、70万人以上の中国人が住んでいる。
 彼らは、有事には、「国防動員法」により、中国の指示に従わなければならないことになっている。
 また、中国人に協力する日本人もいるかもしれない。
 彼らが、ウクライナで行われているような非正規戦を、有事には行うと考えるべきだ。
 防衛出動等が発令される前に、非正規戦が準備され、密かに進められている時に、この行為を発見し、実施者を拘束・逮捕できるのだろうか。
 非正規戦そのものは、小さなことかもしれないが、これらと侵攻作戦が連携すれば、重大な影響を及ぼす。
 日本は、対応する準備ができているのだろうか>(以上「JB press」より引用)



 西村 金一氏(軍事評論家)のウクライナ戦争に関する論評がJB press紙に掲載された。題して「ついに見えてきたロシアのウクライナ侵略失敗、本当の理由」というものだ。その理由というのが副題で「非正規戦への過信で当初作戦に失敗、正規戦との連携が不発に」と分析されている。
 正規戦とは正規軍による戦いだが、非正規戦とは何だろうか。それに関して西村氏はサイバー戦争や組織化されていない軍人によるゲリラ戦である、と規定している。さらには正規軍が戦う以前に後方の市民を混乱させ戦線に影響を与えることだと規定している。

 かつて米軍が大挙してベトナムに進軍したことがあった。ケネディー大統領の下でトンキン湾事件を機に本格的な軍事介入を行い、10万人を超える軍隊を送ってホーチ・ミン氏が指揮する「北ベイナム」を殲滅しようとした。
 それに対してベトコンと称するゲリラを縦横無尽に駆使して、ついには米軍をダナン基地に追い詰め、ベトナムから撤退させて勝利した。それこそが正規軍対非正規軍の戦いの典型例だ。

 同じ例がアフガニスタンでも演じられた。同じく米軍の正規軍がタリバンのゲリラ戦術に手を焼いて、アフガニスタンから撤退したのはまだ記憶に新しい。大仕掛けで戦争を挑み侵略した者が必ずしも勝者とならない例は幾らでもある。
 米国と肩を並べる軍事超大国と畏れられていたロシアが20万人近い大軍で侵略すれば、ウクライナは数十時間で陥落すると思われた。それはプーチン氏だけがそう思ったのではなく、西側諸国もそう考えた。だから英国などはロシア侵攻の緒戦の段階でゼレンスキー氏に「亡命」を勧めた。

 ロシアがウクライナに軍事侵攻して半年が経とうとしている。相変わらずロシアは正規軍で戦線で戦っている。ウクライナは防衛戦争で戦線を維持しているが、それだけではなくパルチザンと呼ばれるゲリラも展開している。しかしパルチザンは必ずしも武器を手に戦うゲリラだけではない。むしろ多くはロシア軍司令部や防空レーダーサイトや兵站基地などの位置情報をウクライナ砲兵隊に伝える役目を担っている。
 正確な位置情報さえ判れば精密誘導兵器は遺憾なく威力を発揮する。GPSと連動した機器に座標を入力して、砲弾を発射すればピンポイントで標的を破壊する。クリミア半島奪還に向けて、クリミア半島内のロシア軍兵站基地やロシア空軍基地がピンポイントで破壊された。ウクライナ戦争はターニングポイントを迎えているようだ。間もなくロシア軍の配色は鮮明になるだろう。

 もちろんロシア軍もドローンを大量に投入し始めた。前線でウクライナ軍の偵察にドローンを用いているようだ。主として中国製の民需用ドローンが活躍しているようだが、軍事用ドローンとしてイランが供与し始めたものまで戦線で使われ出したようだ。
 しかし攻撃型ドローンとしてはトルコ製のバイラクタルに一日の長があるようだ。最長17時間という滞空能力を有し、搭載した八発のミサイルで遠隔地から無線操縦で攻撃できる。ロシア軍の苦戦はこうした近代兵器を大量に供与されたウクライナ軍の柔軟な戦術に原因がある。戦車と戦車を前線で向き合わせて砲撃戦を行う戦争なら物量に勝るロシアが圧倒的な強さを発揮しただろう。しかしウクライナ軍はロシアの機動部隊に対してジャベリンで応戦した。米国が供与した短距離対戦車自動誘導ミサイルだ。バズーカ砲を撃つようにして、標的に向けて発射すれば確実に当たる、という優れモノだ。

 引用論評で西村氏が警告しているが、中国が日本領に侵攻した場合、日本国内にいる70万人の中国人が中共政府の「国防動員法」によって社会インフラや後方支援に対して破壊活動をするのではないかと警鐘を鳴らしている。
 彼の危惧は決して杞憂ではない。なぜなら長野オリンピックの聖火リレーが善光寺前で行われた際、デモを計画していたネパール人たちを大挙して集まった千人を超える中国人留学生たちが襲い掛かった例がある。その襲撃団の動員に中国領事館が関与していたと判明している。ただ訂正すべきは日本にいる中国人は70万人ではなく、120万人で在日外国人で最大になっていることだ。安倍自公政権が拡大した技能実習生制度や過度に優遇している留学制度によって、大量の中国人が日本に入ってきている。実習期間が経過した実習生や留学生は確実に帰国させるべきだ。人手不足だ、と云って外国人を不法残留させている企業経営者などには厳罰を以て対処すべきだろう。そして中国との協力関係は全面的に見直すべきではないだろうか。

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