そして彼の周囲から誰もいなくなる。

1.侵攻から半年間、両軍の戦い方の変化
 ロシア軍がウクライナに侵攻して、約6か月が過ぎた。
 この間の両軍の戦いを概観すると、侵攻当初は主に戦車・装甲車と対戦車兵器の戦い、これらを支援する砲・戦闘機などによる攻撃が行われた。
 その後、次第に戦車・装甲車・戦闘機の損失が大きくなり、これらに代わって対砲兵戦と無人機による攻撃が増してきた。
 つまり、侵攻当初は敵を目視で確認しつつ射撃する最前線での戦い(近接戦闘)、次に、最前線から10キロ以上も離れたところから射撃する砲兵戦の戦い、さらに現段階では、その砲を攻撃する対砲兵戦が増加しているということである。
 対砲兵戦には、長射程で精密誘導の砲弾や多連装ロケット、自爆型無人機が多用されている。
 対砲兵戦に優れるウクライナが勝ち目を見出しているようだ。とはいえ、その数は少なく、大きな戦果を得るまでは至っていない。
 戦闘機や攻撃ヘリコプターは、侵攻当初では活躍が目覚ましかった。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は当時、欧米に「戦闘機が必要だ」と要求していた。
 だが、現在、戦闘機などが防空兵器により撃墜されたためか、その出撃は頻繁には行われていない。

2.半年の損耗率から見えるロシア軍の実態
 次に、侵攻から6か月間の損耗率を分析し、現在の両軍の戦力の実態(戦える力)や近い将来の戦い方はどうなるのかについて考察する。
 具体的には、ロシア軍が保有する戦車など各種装甲車、火砲、多連装ロケット砲、戦闘機等、ヘリコプター、無人機、兵員について、1か月ごとの損耗率を算定して、この結果に基づいて、ロシア軍の実態について考察する。
 ロシア軍が保有する戦力の侵攻開始から1か月ごとの損耗率を算定すると、どの時期に大きな損耗を出しているのか、損耗の推移から残存戦力の推移を予測し、今後使える戦力はどの兵器になるのかなどが解明できる。
 以下、兵器の種類ごとの損耗率を算定し、各戦闘部隊(近接戦闘部隊・砲兵戦部隊・航空戦闘部隊・防空戦部隊・無人機)がどのような状態なのかを考察する。

(1)近接戦闘部隊兵器(戦車・装甲歩兵戦闘車・装甲車)の損耗率と今後の戦闘能力
 開始から1か月間の損耗率7~19%が最も大きく、開始から3か月間の累積損耗率も16~38%と比較的大きい。
 つまり、3か月間の損失で、大攻勢に出られる能力は失われたとみてよい。
 6か月間では、24~50%の損耗率である。装甲車は戦車等の2倍の損耗率であり、装甲車が撃破されやすいことを物語っている。
 戦車等や装甲車の損害が大きいのは、ウクライナ軍の対戦車兵器「ジャベリン」や自爆型無人機の「スイッチブレード」が有効であることを証明している。
 これからは、小規模の攻撃はまだ可能だが、成果はあまり期待できない。近接戦闘部隊の主力は、壕に入り防御に転移しつつある。
 装甲車が50%の損耗率が出ていることから、装甲車は「走る棺桶」と呼ばれるだけあって、各種対戦車兵器に極めて脆弱であることが分かる。
 戦車と装甲車が協同して果敢に攻撃に出ることは難しい。
 特に、装甲車に乗る兵は精神的に相当なダメージを受けていると思われる。彼らが、果敢に攻勢に出ることはなく、壕に入り身を守る防御を行うだろう。
 緊急に募集された志願兵がまともに訓練を受けることなく、前線に出されて、連携した攻撃行動ができるはずがないからだ。

(2)砲兵部隊(火砲・多連装ロケット砲)の損耗率と今後の戦闘能力
 侵攻開始後、火砲と多連装ロケット砲の損耗率は、開始後1か月間が11~15%であり、最も大きい。さらに、その後も、高い損耗率で多くの被害を受けている。
 火砲の場合は、2か月から6か月までの各月で6~11%の損耗率が継続し、6か月後の損耗率は56%に達していて、他の兵器と比べて損害が最も大きい。
 ウクライナ軍には、ロシア軍の砲兵部隊からの射撃で市民が大きな損害を受けていることから、できる限り多くのロシア軍火砲を破壊したい思惑があった。
 多連装ロケット砲の場合は、開始2か月から4か月の各月で、6~9%の損耗率であった。その後は、1~2%に減少した。
 多連装ロケット砲の射撃を受けると、短時間に大きな損害を出す可能性があったので、ウクライナ軍は、ロシア軍の多連装ロケット砲を最も優先して、破壊したい思惑があった。
 しかし、多連装ロケット砲部隊は、ロケット砲の発射が敵から発見されやすいために、射撃したならば、直ちに陣地を変換するという行動をとり、火砲よりも被害を少なくできたのかもしれない。
 これらの兵器は、その他の兵器と比較して、最も高い損耗率である。
 通常であれば、火砲の射撃は前線から離れているところから射撃するので、通常、戦車や装甲車などよりも比較的損耗が少なくなる。
 しかし、この戦争では多くの火砲が損害を受けている。
 これは、ウクライナが、米欧から供与された誘導可能弾が発射できる「ハイマース(HIMARS)」や155mm榴弾砲「M777」の射撃で、ロシア軍の火砲や多連装砲を狙って破壊しているからだ。
 ウクライナ軍地上軍兵士が、「ロシア軍の砲撃は少なくなったと感じている」と言っていたが、その通りであろう。
 しかしながら、現在も、約800門の火砲が残っている。ウクライナ軍を狙って、火砲の射撃は続くだろう。
 ロシア軍火砲の損害が、引き続き8~9%の損耗率で推移すれば、1か月に145~165門、2か月で290~330門の損失となる。
 ウクライナ軍のHIMARSなどがさらに増加すれば、1か月に200門以上、2か月で400門以上の損失が予想される。
 そうなると、ロシア軍が保有する火砲は約400門までに減少する。
 現在、ロシア軍の弾薬庫や弾薬集積所が、ウクライナ軍の長射程誘導弾や無人機により爆破されている。
 火砲の門数が減少し、弾薬が不足すれば、ロシア地上軍は戦えなくなる。
 ウクライナ軍は、旧ソ連軍の兵器から米欧の兵器に逐次換装されている。その数は、徐々にではあるが増加している。
 ロシア軍は、グリスアップされた旧式の兵器を倉庫から戦場に運び出している。
 火砲や多連装ロケット砲の場合、直接照準射撃と異なり、観測班・射撃諸元を算定する射撃指揮班・実際に射撃を行う戦砲隊が連携しなければならない。
 したがって、熟練した射撃技術が必要である。そのため、火砲を倉庫から出してきても、砲兵を訓練しなければ射撃はできない。
 火砲部隊が損失を出すと、短期間での補充は不可能である。つまり、ロシア軍の火砲等の損失は、今後、戦えなくなることを意味している。
 その時期は、10月末から11月の初めだろうと考える。

(3)戦闘機部隊および防空戦闘部隊の損耗率と今後の戦闘能力
 戦闘機・攻撃機は、開始から3か月間で、31%の損耗率であった。その後は、各月に1%の増加であった。
 ここから、戦闘機等は、3か月間は地上攻撃への対地支援、重要目標の攻撃を行い、30%の損耗率になってからは、急速に活動が低下して、損耗率も極端に減少したことが分かる。
 ヘリコプターは、特に開始の1か月に21%の損耗率であった。ヘリボーン作戦失敗の結果だろう。その後の活動は低調であった。
 戦闘機等やヘリを撃墜させる防空ミサイルは、6か月間で12%の損耗率であった。他の兵器に比べて、損耗率は著しく低い。
 前線から遠く離れた位置で活動しているからである。
 各月には1~4%の損耗率で平均2%だが、6か月目の3%の損耗率は、平均の2%よりもわずかに多くなっている。
 自爆型無人機やHIMARSなど遠距離誘導弾の射撃効果がわずかだが出てきている。
 戦闘機等の活動は、3~4か月目に著しく低調になっている。一方で、無人機が2か月目以降、多数撃墜されている。
 戦闘機の代わりに、自爆用・偵察用の無人機が活発に攻撃に参加しているからだ。
 5か月目頃から損耗率がやや少なくなっているのは、運用できる無人機の数が減少していることが原因だろう。
 ロシア兵は、イランの無人機の操縦訓練を受けているという情報があるが、ロシアが自国で生産ができなくなっているために、イランの無人機を導入するというのは、事実のようだ。

3.攻勢に出る戦力がなくなったロシア軍
 この6か月のロシア軍の損耗からみれば、戦車・装甲車は攻勢に出られず、戦闘機等は防空兵器から撃墜されることを恐れて、積極的に対地攻撃できない。
 今後の戦いは、砲兵同士の戦い(対砲兵戦)が地上戦の主体になるであろう。
 現在、ロシア軍の火砲の損害が大きく56%の損耗率に達している。
 ウクライナ軍がHIMARSを増やし、ロシア軍の火砲に正確に射撃をすれば、あと2か月もすれば、ロシア軍の火砲も戦えなくなる。
 そうなれば、ロシア軍は完全に陣地防御に移行して、どれだけ守り切るかといった戦いをせざるを得なくなる。
 ロシア軍は東部では守り切れるだろうが、クリミア半島を含む南部では、今の抵抗線が破られたときには、クリミア半島まで攻め込まれる可能性が高い。
 11月までには、両軍にとって、大きな戦況の変化が生じているだろう>(以上「JB press」より引用)



 ロシア軍の戦車機動部隊を主力部隊とする先の大戦当時の戦術をそのまま踏襲した「正規軍」方式と、ウクライナの前線を構築しない「非正規軍」方式で対等以上の戦果を挙げて来た。
 これは前近代的な物量戦に対して、現代的なIT製品やIT技術を多用した戦略との戦いでもあった。当初はドローンは玩具の類だとバカにしていたロシアも今では偵察などでドローンを採用するなどウクライナ化を急いでいる。

 しかし引用した論評にある通り、非対称戦に徹しているウクライナにロシアは今もなお手を焼いている。戦車隊を前面に押し出して、ウクライナ軍を撃破して前進する、という基本的な戦法は現在も健在で、それがロシア軍の損耗を激しくしている。
 11月にはロシア軍は前進する兵力を持たなくなるという。それに対して、ウクライナ軍は欧米から供与された自動誘導砲弾等により、確実に前線のロシア軍および後方のロシア軍兵站基地を叩いて前進するだろう。プーチン氏が始めた戦争は確実に敗北の結末へと向かい始めるだろう。

 プーチン氏は兵員の定数を15万人増大する大統領連にサインしたという。結果としてロシアは軍人150万人態勢となる。しかし、それがどうした、といわざるを得ない。兵隊の数を増やしても、彼らが戦地へ赴いて戦う兵器が払底していては話にならない。
 既にソ連時代の博物館級の大砲などを引っ張り出して前線へ送っているが、デジタル照準を持たない大砲の運用を行うには訓練されたチームが必要だ。だから新兵をいかに大量に前線へ送っても、モノの役には立たない。確実に、ロシア軍の戦力は低下している。その劣勢を覆すことは出来ない。

 そうするとプーチン氏が核兵器の使用に踏み切るのではないか、という推測が出て来る。使用するとすれば相手の戦意を削ぐための戦術核、と称する広島級原爆の威力の数十倍程度の小型爆弾だという。しかし一発でも使用すると、国際世論はロシアから完全に離反するだろう。いかに日和見主義の蝙蝠・中共政府でも核兵器を使用したロシアを支持することは出来ない。
 敗色濃厚になればプーチン氏は核使用で先進自由主義諸国を脅すしかなくなるが、たとえプーチン氏が核ボタンを押したとしても、ロシアの核ミサイルが発射されることはないだろう。なぜならプーチン氏が勝手に始めた戦争だからだ。軍部が暴走して始めた戦争なら、敗色濃厚な段階に追い詰められたなら軍部が勝手に核弾頭の使用に到るもしれない。責任が軍部にあるからだが、プーチン氏が始めた戦争なら、戦争責任はプーチン氏にある。プーチン氏が始めた戦争で軍部まで連帯責任を取らされては堪らないだろう。

 専制独裁主義者たちが辿る運命は自爆しかない。連戦連勝であるのは戦う相手が弱小の時に限られる。やがて弱小な相手を平定し、ついには弱小でない相手と戦いを始めなければならなくなる。そうしなければ、国民の拍手を浴び続けることは出来ないからだ。
 専制独裁主義者たちは常時国民の拍手に包まれてなければ不安でならない。自分を負い落とす殺戮者が国民の支持を獲得しているのではないか、という悪夢に苛まされる。それが独裁者の辿る運命だ。人は自分の目で観るしかないからだ。独裁者は独裁者の目で観ている。そうすると彼の目には現実世界のすべてが謀略と殺戮の世界として映っている。

 激しいインフレと国際社会からの孤立、さらには愛する者たちの「戦死」により、ロシア国民の拍手が聞こえなくなった時、プーチン氏はパニックに陥る。暗殺者が登場するまでもなく、プーチン氏は自ら錯乱してクレムリンから逃亡するだろう。
 ウクライナ侵攻を進言した「軍師」の娘がテロリストにより爆死した。ロシア当局はウクライナ人の仕業だと報じたが、ロシア国内の反・プーチン派が仕掛けたテロだと犯行声明が出た。それはプーチン氏にとって最悪だった。彼を亡き者にしようとする謀略はロシア国内で起きている。おそらくプーチン氏は発狂寸前の恐怖心に包まれているだろう。それが独裁者の辿る運命だ。そして彼の周囲に誰もいなくなる。

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