「良い子症候群」が婚姻率を下げているのか。

<20代男性の65.8%は妻や恋人がおらず、39.8%はデートした人数0人。20代女性も似た傾向にあり、51.4%に夫や恋人がおらず、25.1%がデート未経験――。6月14日に公表された内閣府の『令和4年版男女共同参画白書』が大きな話題を呼んでいる。

なぜ、今の若者はデートや恋愛に対し、ここまで消極的なのか。
 白書の公表以降、各種メディアでなされてきた議論は、次の4点にまとめられる。①経済力の低迷(特に男性の)、②恋愛や結婚に興味のない人の増加、③ひとり時間の充実、④出会いの減少、だ。
 私は、これらの解釈にはある程度同意しつつも、やや表面的と感じる。むしろその根底に、今の若者における「変なこと言って空気を乱したらどうしよう」「ズレた提案をして後で自分のせいにされたらどうしよう」という、人の感情に対する強い恐怖心が作用しているのではないかと思う。

失敗すると思い込み、最初から「デートしない」
 今の若者の多くは、目立ちたくない、100人のうちの1人でいたい、自分で決めたくない、誰かが決めたことに従っていたい、(自分に対する)人の気持ち・感情が怖い、といった心理的特徴を有していて、私は彼らを「いい子症候群」と称し、その深層心理の可視化に努めてきた。
 なぜ、彼らはそこまで自分に向けられた他人の感情を怖がり、空気に従おうとするのか。
 それは、自分に自信がないからだ。自分に自信がないから、自分に向けられた人の気持ちに過敏になり、それをちょっとでも想像しただけで強い緊張が走る。
 自分に自信がないから、100人の中の1人として埋もれていたいと願い、自分に自信がないから、ひたすらメンタルの安定を求め、微細なリスクすらも取らないゼロリスク志向へと突き進む……。

自分が提案したお店へご飯を食べに行ったとしたら…
 そんな心理状態では、デートどころではない。いい子症候群の若者たちにとって、デートや恋愛は、メンタルを不安定にするリスクの塊そのものだ。たとえば、仮に自分が提案したお店へご飯を食べに行ったとしよう。万が一、そのお店の雰囲気が悪かったら、もう気まずくて息もできない。ご飯の味より申し訳なさで頭がいっぱいだ。さらにそんなとき、相手が「別にいつも行く○○(チェーン店)でいいよ」なんて言ってくれようものなら、そんな神レベルの素敵な人が自分のことを好きになるはずはないので、もうデート失敗確定。今後、100年間は異性と食事には行きません。
 あるいは、レンタカーを借りてドライブでも行ってみようか。でも万が一、行き場所が定まらず、「ここさっきも通ったな……」とか思われたら、もうそんな空気の中じゃ息もできない。何とか窒息死だけは免れたとしても、その心の声がトラウマすぎて、やはりデート失敗確定。今後100年間、自分からドライブには誘いません。
 と、たしかにこんな心理状態では、デートどころではない。もはやその場の空気に対処することに精いっぱいで、相手のことは目に入っていない。デート後も疲労感でいっぱいだ。そして何より、そんな自分を容易に想像できるから、最初からデートしようとは思わない。
 実際、どのくらい今の日本の若者が自分に自信がないかを示すデータは枚挙に暇がない。例えば、2019年の日本財団の若者に対する調査によると、「自分で国や社会を変えられると思う」にYesと回答した割合は18.3%(アメリカ65.7%、中国65.6%)だ。
 また2019年の国立青少年教育振興機構の調査によると、「自分はダメな人間だと思うことがある」に「よくあてはまる」「まあまああてはまる」と答えた割合はなんと80.8%(アメリカ61.2%、中国40.0%)だ。この値は2015年には72.5%だったから、日本の若者のダメ人間思考はさらに強まっていることになる。
 もっと身近で、かつ本稿の主題に沿うところで見てみよう。私の研究室が2020年に行った大学生・大学院生281名に対するアンケート調査では、自分の見た目に自信があるかという問いに対して「ある」「少しある」が17.4%、「ない」「あまりない」が45.6%であった。同時に、自分のセンスに自信があるかという問いに対し「ある」「少しある」と回答した割合は26.7%、逆に「ない」「あまりない」とした割合は40.0%となる。

 このような自己肯定感の低さが積み重なった結果、今の若者は次のような傾向を示す。
・「有名な大学や学校に通ったほうが有利になる」→そう思う:70%(過去最高)
・「ものごとを判断するときに世間体を気にしてしまう」→そう思う:69%(過去最高)
・「人生をよりよくするためには実力よりもコネが大事」「対外的に自分の立場を説明するためには役職や肩書が重要」「資格が生きる仕事に就きたい」と考える(いずれも国際比較調査で日本は高い数値を計上)
・就職する際、「働きがいのある会社」より「安定している会社」を選択する若者がおよそ3.3倍

分岐点は2010~2012年頃か
 あきれを通り越して、恐ろしい状況になりつつあるが、そもそもいつからこのような心理的特徴が強まってきたのか。
 私は、2010~2012年頃だと思っている。根拠となるデータはやはり枚挙に暇がない。たとえば、大学生が就職先を選ぶ理由として「自分のやりたい仕事ができる会社」が低下し始め、その代わり「安定している会社」が上昇し始めたのも(マイナビ 2022年卒大学生就職意識調査)、新入社員にとって「仕事が面白い」かどうかは重要ではなくなったのも(日本生産性本部 平成31年度 新入社員「働くことの意識」調査)この頃からだ。
 2010年代以降に20代を迎えた彼らは、児童・生徒のときに教育環境の変化も経験している。いわゆるゆとり教育の導入だ。このとき改訂された学習指導要領は、1993年から2010年にかけて小学校へ入学した児童に適用されており、この世代がちょうど今、20代を丸ごと形成している。

「いい子症候群」的気質が恋愛や結婚に影響を与えている
 恋愛に関しても、時期が符合するデータがある。たとえば、日本性教育協会が6年ごとに調査している「青少年の性行動調査」によると、2005年調査までは性交経験率は上昇していたが、2011年調査から男女とも低下傾向に転じている。
 むろん、これらのデータを構成する要因は多様で複雑だ。ただ、ここまで多くのデータが歩調を合わせたようにタイミングを同期させていることを鑑みると、「いい子症候群」的気質が恋愛や結婚にも強い影響を与えていると考えざるをえない。
 ここまで読んだ方は、今後この傾向はどうなるのか、も気になるだろう。私が主に研究対象としているのは大学生から20代であるため、現在、10代の性向をよく知る人たち、つまり中学校・高校の教諭や教育関係者との対話を精力的に進めている。
 ただ、今のところ、子供たちの主体性を重んじた教育方針を強めているにもかかわらず、いい子症候群的気質が変わる兆しはなく、むしろ強化されている状況も見られる。今なんとかしなければ、今後しばらくは「いい子」を装った指示待ち人材が大量に産業界へ送り出され、若者の婚姻率は下がり続けることになるかもしれない>(以上「東洋経済」より引用)



 昨今若者の婚姻率の低下が問題になっている。金間 大介氏(金沢大学融合研究域融合科学系教授)が東洋経済誌上に現代日本の最大問題(誇張ではなく、日本の未来にとって由々しき大問題だ)に関する論評を引用した。
 金間氏によると結婚しない症候群の根幹には「失敗したくない」という、強い思いが若者たちにあるようだ。結婚しない症候群を治すには「失敗しても良いではないか、生きてさえいれば」という考えに変える必要があるようだ。

 そのためにはどうすれば良いのか。失敗を恐れない子供に育てることだろ。そのためには失敗した子を辱めない、チャレンジしたことを褒める教育者が必要だ。
 婚姻率が低下しているから青少年に「性的」な関心が薄れているとか、引用記事にある「日本性教育協会が6年ごとに調査している「青少年の性行動調査」によると、2005年調査までは性交経験率は上昇していたが、2011年調査から男女とも低下傾向に転じている」という点を重大視する必要はない。そんな短絡的な発想で「いい子症候群」の治療は出来ない。

 成長段階で、もっと自然な男女関係の形成を図る必要があるのではないだろうか。たとえば林間学校やキャンプなどを経験させて、男女のみんなが協力し合う機会を経験させる必要があるのではないか。
 もちろん男女間で間違いがあってはならないから充分に配慮する必要があるが、その上でお互いに協力し合って薪を作ったり火を熾したり、メスティンや飯盒でご飯を炊いたりカレーを作ったりする。そうした協力し合うことでキャンプが楽しくなることを経験させる必要があるのではないか。自然の中で生きるためには協力し合う必要性を認識させることが必要ではないか。初めての経験では失敗はつきものだが、失敗しても新しいことにチャレンジするのは楽しいことだと経験させる必要がある。

 ゲームはリセットできるが、人生はなかなかリセットできない。婚姻しないまま年を経て、中年となり老年となってから人生を悔いても取り返しは付かない。完成していない、未熟な若者の男女が恋愛して、お互いに補い合いながら家庭を営むのは労苦も多いが、結果として満足のいく人生のあり方だと、子供たちに認識させる必要がある。
 人生は長いようで、実は極めて短い。しかし若い時には恋愛する時間は充分に用意されている。「一日千秋の思い」というではないか。たった一日でも人生の他のすべての時間に匹敵する場合だって、人生にはある。そうした経験を子供たちに私たちはさせているのだろうか。

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