対ロ制裁に抜かりはないか。

<自ら侵攻したウクライナとの間で、先の見えない泥沼の戦争にはまり込んでしまったかのような現在のロシアは、自慢であるはずの国の広大さに悩まされつつあるようだ。それは特に、戦闘中のヨーロッパ方面とは反対正面に位置する極東ロシアにおいて顕著に表れている。
 ロシアは、陸続きのモンゴルと中国と北朝鮮以外、つまり日本と米国に対しては、海を隔てて向き合っている。したがって、極東方面の防衛は海軍力と空軍力に頼ることになるわけだが、この脆弱性がウクライナとの戦争によって馬脚を現し始めているのだ。

4月には「ロシアが北海道の主権を有する」と発言
 当然のことではあるが、ロシア側はこのような実情をおくびにも出さない。それどころか、4月1日には、下院副議長のミロノフが「ロシアは北海道への主権を有するという専門家もいる」と、日本に対して脅迫じみた内容をSNSに投稿したほか、同14日には日本海において、キロ級潜水艦2隻から核弾頭も搭載可能な最新式の巡航ミサイル「カリブル」を発射して、わが国をけん制した。
 また、6月3日から10日まで、太平洋において40隻以上の艦艇と約20機の航空機による大規模な演習を実施すると発表して、北海道南東沖から北方四島南方海上にミサイル発射に関わる航行警報海域を設定し、数隻の艦艇を北海道根室沖で活動させたり、6月7日には日本海でロシア空軍機による威力偵察と見られる活動を実施したりしている。
 しかし、これらは軍事情報に携わる者の目から見ると、今の極東ロシア軍にできる精一杯の虚勢に過ぎず、わが国に脅威を与えるような活動とは程遠い。なぜそのようなことが言えるのか? 最近の極東ロシア軍の活動などからそれを明らかにしていこう。

巡航ミサイル「カリブル」の発射
 ロシア海軍は4月14日、昨年新たに就役し、11月に太平洋艦隊に配備されたキロ級潜水艦「ペトロパブロフスク・カムチャツキー:SS-274」と「ボルコフSS-603」から巡航ミサイル「カリブル」を発射した。これは明らかに、ウクライナを侵略したロシアに対して厳しい経済制裁を科すなどして糾弾している、わが国に対するけん制である。
 このロシア版のトマホーク級巡航ミサイル「カリブル」は、射程距離が2,000km以上あり、今回のウクライナ侵攻でも黒海などに展開する艦船や潜水艦から発射されている主力ミサイルである。しかしこのミサイルも含めて、ロシアは5月末までに、弾道ミサイルや巡航ミサイルなどを航空機や地上発射機や潜水艦を含む艦艇などから1,000発以上発射したと見られるが、米国防情報局(DIA)の関係者は「ロシアのミサイルの命中率は、40%にも達しない」と分析しており、巡航ミサイルについては、約10%がウクライナにより撃墜されているとしている。
 ウクライナより高度な各種防空システムや最新鋭の戦闘機を保有するわが国にとってこの巡航ミサイルは十分に迎撃可能であり、核弾頭を搭載しない限り、大した脅威とはならない。また、ディーゼル型攻撃潜水艦のキロ級については、海上自衛隊の対潜能力からすれば比較的捕捉しやすい目標であり、隠密裏の活動は限定されるであろう。

「艦艇40隻以上が参加する大規模な海軍演習」?
 この40隻というのが実態としてどのような艦艇なのか不明であるが、根室沖に姿を現したのは、駆逐艦「ウダロイI級(DD-543:8,500トン級)」1隻、フリゲート「ステレグシチーI・II」級(FF-333,335,337,339:2,200トン級)」4隻の5隻である。その後、これらの艦艇は千葉県沖まで南下し、新たにウダロイ級の駆逐艦(DD-548)とミサイル観測支援艦「マーシャル・クルイロフ(AGM-331):2万3,700トン級」と合流した。
 おそらく、このクラスの艦艇がこの40隻の主力というところなのであろう。
 ロシア軍東部軍管区報道機関の発表によると、この演習は3月以降実施されている計画的な訓練の最終段階のもので、対空砲の発射訓練や対潜訓練や機雷除去などを行うとしている。駆逐艦を除いては、フリゲートより小型のコルベットやミサイル艇、対潜哨戒艇、並びに各種支援船などが主体となっている。この40隻とは、一時的な参加艦艇なども含めての数値と見られる。
 このウダロイI級は1980年代に建造された旧式艦である。ステレグシチー級フリゲート艦は、2000年以降に建造されたものでウダロイ級よりは新しく、前出の巡航ミサイル「カリブル」が8基のほか、ハープーン級の対艦ミサイルが8発搭載可能であり、小型艦ながらそれなりの対地、対艦攻撃能力がある。
 しかし、ウダロイ級もステレグシチー級も防御能力の観点からすれば、脆弱な艦艇といえる。特に、対空防御能力という点からみると、ウダロイI級は射程12km程度の対空ミサイル(SAM)「キンジャール」を装備しているが、これでは日米両軍が保有するほとんどの空対艦ミサイル(ASM)でスタンド・オフ(SAM射程圏外からの)攻撃が可能であり、ステレグシチー級フリゲートに至ってはSAMを保有しておらず、両艦ともに対空防御能力は極めて脆弱といえる。
 これに対して、航空自衛隊の保有する対艦ミサイルの命中精度は極めて高いことが実射訓練などで実証されており、これによる攻撃を受ければ、ひとたまりもないだろう。即ち、航空優勢を確保しない限り、これらの艦艇は対艦ミサイルの標的となるだけだということだ。
 何よりも、ロシア太平洋艦隊の旗艦であるミサイル巡洋艦「スラバ級(CG-011:11,000トン級)」は、昨年12月29日にウダロイ級駆逐艦と補給艦を伴って対馬海峡を東シナ海方面へ進出して以降、未だに帰港した形跡はない。ウクライナ侵攻に関連して欧ロ方面へ支援に向かった可能性も考えられる。つまり、旧式艦の駆逐艦とフリゲート艦及び通常動力型攻撃潜水艦など、せいぜい20隻程度の戦闘艦艇が現在の太平洋艦隊の戦力に過ぎないというのが実態であろう。

ロシア軍機による威力偵察
 6月7日夜間、ロシア軍機と推定される4機がロシア沿海方面から真っすぐに北海道へ向けて飛来し、うち2機については本邦領空手前で反転して北海道西方で旋回飛行を行い、残りの2機については北上して樺太方面へ消え去った。
 これは、時間帯やヘディング(針路)など、その行動パターンから、ロシア空軍の戦闘機級による航空自衛隊千歳基地に対する威力偵察と推定されるものである。つまり、不意に急襲(高速で領空に接近)して相手の対応を確認するという目的の行動であり、一種の軍事的示威行動である。
 昨2021年3月18日の拙稿【今年の3.11にロシア空軍が日本を「挑発」していた…報じられない「全容」】で触れたように、これと同様の威力偵察をロシアは、東日本大震災直後に同震災による津波で壊滅的な被害を受けた航空自衛隊松島基地に対して行った。この時は、この大震災によって防空部隊にどれほどの影響が出ているのか確認するのが目的だったと考えられた。
 一方、今回の目的は、6月3日に行われた米空軍戦略爆撃機(B-1)2機による日本海などへの飛行(軍事プレゼンス)に、航空自衛隊千歳基地の戦闘機(F-15)2機がエスコート飛行(訓練)したことに対する「かえし(報復)」であろう。つまり、この「かえし」は、この米空軍の戦略爆撃機による飛行をロシアが脅威と感じたことの裏返しと見て取れる。同時に、これが今ロシア空軍にできるわが国への精一杯の「かえし」であったとも考えられる。
 というのも、2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以降、わが国に接近してきたロシア軍機は、今回のものを除き、5月24日に中国の爆撃機(H-6)4機と合同パトロールと称する示威行動を実施した、戦略爆撃機(Tu-95)2機とこの際偵察活動を実施した電子偵察機(IL-20)1機の3機のみという閑散ぶりだからである。
 これは、近年のロシア軍機の活動においては異常に少ない。
 ちなみに、今回と同様にロシアが親露派武装勢力を前面に出してウクライナに対してハイブリッド戦争を仕掛けた2014年の同時期、わが国はG7で取り決めた経済制裁に踏み切った。この際、これに反発したロシアは連日、戦略爆撃機などを本邦周辺に飛行させてわが国を威嚇した。
 今回と同時期の2014年2月24日~6月10日の間、わが国周辺に飛来したロシア軍機は、戦略爆撃機(Tu-95)22機、対潜哨戒機(IL-38,Tu-145)12機、電子偵察機(IL-20)19機、早期警戒管制機(A-50)1機の延べ54機である。単純に比較すれば今回はこの8分の1(戦略爆撃機は10分の1)程度である。
 回数(日)でいえば、今回2回(日)であったのに対して2014年は24回(日)で12分の1であった。しかも、この2回のうちの1回は中国空軍との合同によるものである。2014年よりも今回のロシアに対する「経済制裁は格段に厳しいものであったにもかかわらず」だ。この違いはいったい何を意味しているのであろう。

極東ロシア軍は「ジリ貧」の状態
 考えられる理由として以下のようなものが挙げられる。
(1)空軍や海軍の主力を欧ロにシフトして最低限の拘置戦力で対応している。
(2)作戦機や艦艇などの稼働率が低く、拘置戦力の中でも実動可能な戦力が限られている。
(3)(特に航空)燃料が不足している。または節約している。
(4)日本に対する挑発(敵対)行動を抑制している。
 筆者は、このすべてが該当するのであろうと考えている。即ち、(1)~(3)の理由で(4)に至っているということである。
 ある程度の準備期間を経て、満を持してウクライナに侵攻したロシア軍でさえ、あの体たらくである。ましてや、欧ロに比して貧弱で駆逐艦以上の戦闘艦艇に至っては海上自衛隊の10分の1程度の太平洋艦隊や、日常の活動などを見ても稼働率がおそらく30%に満たず、(一部を除いた)パイロットの操縦訓練も全く航空自衛隊とは比較にならないような低練度の空軍の飛行部隊や海軍航空部隊の現状で、通常戦力ではとても日米の軍事力に太刀打ちできるはずはない。当の軍人たちが、誰よりもそれを熟知しているであろう。
「核兵器搭載可能な巡航ミサイルの発射」とか、「太平洋で40隻以上の艦艇による大演習」などというロシア側の虚勢を張ったプロパガンダなどに惑わされてはいけない。
 わが国は今こそ、強気の姿勢で政治的にも軍事的にもロシアに対して存在感を発揮し、一定のプレッシャーをかけるべきである。なぜなら、それがロシアが誇る「広大な国土を守る」危機意識を目覚めさせ、早期にヨーロッパ方面での戦闘を終結させ「極東方面を含む国土全域の守りを固める」ため、「戦力バランスの再構築を図る行動にロシアを駆り立てる」ことにつながると考えられるからであり、ひいてはそれがウクライナ戦争の早期収束への貢献にもつながり得るからだ。
 具体的には例えば、政治的には、硬軟両面の姿勢でロシアに対して外交的な揺さぶりをかける。また、軍事的な面では、(すでに実施されているかもしれないが)日本海や北方四島方面などにおいて、ロシアに対する自衛隊による(無人機を含む)偵察活動を強化すること。また、これに加えて、南樺太や北方四島方面などにおいては、戦闘機などによる威力偵察を行うこと。そして、これらの地域での海空協同訓練や日米共同訓練を増やすこと、などを提言するものである>(以上「現代ビジネス」より引用)




 元空将補の鈴木衛士氏のロシア軍に対する論考が現代ビジネス誌に掲載されていた。是非一読して頂きたく、このブログら引用した。
 ウクライナ侵略戦争でロシア軍の脆弱性が露わになっているが、それは陸軍のみの話ではないようだ。いやソ連と称していたロシアは元々大陸国家で膨大な陸軍を擁していた。その広大な版図を維持するために全国各地に軍事基地を設置し、それぞれに必要な兵員を配置すれば、それだけでロシア正規軍の定員90万人は過大というほどではない。

 そしてロシア海空軍は日露日本海海戦でも判るように、ロシア海軍は歴史的に決して強大な軍ではない。空軍に関してはロシア空軍最新鋭戦闘機SU35ですら、ソ連が開発したミグ29に撃墜される代物だ。
 ロシア艦艇のお粗末さは引用した鈴木氏の論考で明らかだ。ソ連はなぜ崩壊したのか。それは数千発も保有していた核兵器の維持・管理に膨大な軍事予算を必要とし、それらの負担に国家財政が耐えられなくなったからだ。同じ愚をプーチン氏のロシアは繰り返している。

 ウクライナの戦場でロシア軍はソ連当時に備蓄した膨大な量の砲弾と兵器を注ぎ込んでいるという。全土の軍事基地で保有していた最新兵器は既に払底し、残るは旧ソ連当時のものばかりだそうだ。極東の軍も半分以上はウクライナ戦線へ移動したという。
 だから日本は対ロシフトを敷くべきだ、と私は主張した。北海道に東日本の自衛隊を集結させ、いつでも北方領土を窺える態勢にしてロシアを牽制すべきだ。そして西日本の自衛隊は九州・沖縄に集結して、中国が台湾進攻したならいつでも即応する態勢にしておくべきだ。構えることでロシアや中国を牽制すれば彼らも好き勝手な発言は出来なくなる。

 現代ビジネス誌に掲載された元空将補の鈴木衛士氏の論評も同じ観点から記述されている。「(ロシア)下院副議長のミロノフが「ロシアは北海道への主権を有するという専門家もいる」と、日本に対して脅迫じみた内容をSNSに投稿した」というが、荒唐無稽な発言をして、それを根拠に領有権を主張するのは中国と酷似している。鄧小平氏が尖閣諸島の領有権に触れた時に、日本政府は直ちに否定しておくべきだった。訪日中の彼が腹を立てて帰国しようとも、明確に否定しておくべきだった。曖昧な笑みを浮かべたまま沈黙していた当時の政府要人たちは間抜けでしかない。
 現日本政府もロシア下院副議長の荒唐無稽な発言に対して、正式に反論し否定しておくべきだ。彼らはロシア人を他国に入植させ、その入植者数がある一定以上になったなら、彼らに武器や資金を援助して独立騒動を起こさせ、ロシア人保護の名目でロシア軍を侵攻させる、という手法を繰り返してきた。同じ手法を中国が使わないとも限らない。日本の土地を大量に買い占めている中国人や日本にいる中国人の動向から目を離してはならない。

 日本政府は対ロ政策を転換させるべきだ。ロシアは国際犯罪国家で、これまでの外交関係はすべて終了する、と宣言すべきだ。そしてロシアとの貿易はすべて禁止すべきだ。北方領土の維持には対ロ貿易がロシアの生命線だからだ。
 ロシア制裁のためにカニを食べられなくなっても、何か不都合でもあるのか。タラバガニを食べなければ日本国民は死滅するのか。対ロ制裁に日本は一致団結すべきではないか。それが自由と民主と法治主義を守り、基本的人権をすべての人類のために守るべき第一歩ではないか。ウクライナに決し敗北させてはならない。そのために些かでも役立つなら、すべてのオプションを総動員すべきではないか。

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