変化を採り入れられない業界は淘汰されるだけだ。
<郊外SC(ショッピング・センター)立地アパレルショップの生き残り策
1.最終形態のアパレルショップ
最適なアパレルショップの広さはどの程度だろう。小売店に卸売をするアパレル製造卸は、生産効率を上げるためにアイテムを限定していた。ブラウス専業アパレル、ボトム専業アパレル、ドレス専業アパレル等である。
アパレル製造卸の延長で直営店を構成する場合、アイテムを限定したシングルライナー型か、コーディネートを重視したトータルコーディネート型かを選択する。現在、シングルライナー型ショップは少数派だ。メンズのシャツ専門店は存在しているが、レディースはほとんどがトータルコーディネート型である。
アパレル商品を生産するには、生産可能な数量、生産ロットが問題となる。生地を織る生産ロット、生地を染色する生産ロット、製品を縫製する生産ロット等がある。サンプル帳が用意されている生地問屋から生地を仕入れる場合も基本的に1反(50m)単位だ。
オリジナル商品だけで展開するショップの場合には、生産ロットに見合った店舗数が必要になる。初期のデザイナーブランドは小さい面積のショップを多店舗展開した。価格が高い商品を扱う店は、面積も在庫数量も少なくて良い。しかし、低価格の商品を扱う店は、大量の商品を陳列できる広い面積が必要になる。
アパレルショップは、低価格化と共に面積が拡大し、丁寧な接客からセルフ販売へと移行していった。そして、オリジナル企画の商品だけでなく、仕入れ商品、雑貨小物の比率が増えていった。
店舗の大型化のメリットは、より多くの商品を展開し、売上を上げることだけではない。どんなに小さな店舗でも、ローテーションを考えると最低でも3人の販売員は必要だ。5坪の店を3人で回すより、15坪の店を3人で回した方が効率的だ。店舗の大型化は効率の良い店舗運営の手法でもある。現在の郊外SC立地のアパレルショップは、バブル崩壊以降の安価な商品を扱う専門店の最適化した最終形態と言えよう。
2.サプライチェーンの変化
特定のビジネス環境で最適化した最終形態のショップは、環境が変化すれば最適化できなくなる。まず、コロナ禍と戦争によって商品のサプライチェーンが変化した。日本のアパレル製品の7割程度は中国生産だ。
中国生産はゼロコロナ政策によって大きな痛手を受けている。ロックダウンにより、工場は稼動できないし、物流も止まった。ようやく動き出しても、いつ再びロックダウンが始まるか分からない。外資企業は次々と中国から撤退している。
また、西側諸国はウイグル人の人権弾圧に対抗する手段として、新疆綿の使用制限を行っている。日本では海外展開をしているユニクロ、無印良品だけが批判の矢面に立たされているが、実はほぼ全てのアパレルブランドが新疆綿を使っている。現在のところ、日本国内では新疆綿製品のボイコットは起きていないが、不安材料ではある。
円安の問題も深刻だ。最早、中国生産が安いとは言えない状況である。といって、国内生産ではこれまでの価格を維持できないし、そもそも生産スペースが足りない状況だ。
加えて、原材料の価格も暴騰している。糸、生地、付属だけでなく、ダンボールやビニール袋等も全て値上がりしている。このままいけば、次第に安価な商品を大量販売するというビジネスモデルが崩壊していくだろう。
そもそもアパレル企業がSCに大量出店するのは、薄利多売を目指したからだ。生産数量を増やすことで商品のコストダウンを図り、大量生産大量販売することで市場シェアを確保していく。しかし、サプライチェーンの変化により、商品を確保すること自体が困難になってしまった。勿論、工賃や生地値を値切るのも難しくなる。仕入れ先なんていくらでもある、という常識も変わっていくだろう。今後は、工場が小売店を選ぶようになるかもしれない。
3.ファッションに対する意識の変化
更に、アパレル製品に対する消費者意識も変化している。コロナ禍で自粛していた期間が長かったため、消費者はファッションの熱から冷め、冷静さを取り戻している。そして、家の中の不要な商品が目につき断捨離した人も多かった。無駄なモノを捨てて、シンプルな生活を志向する人が増えたのだ。こうなると、量より質が重要になり、安ければ売れるというセオリーも崩れる。
また、季節の切り替えと共に新しい服を買うという習慣も薄れている。ある意味で、シーズン毎に新しい服を買うという行為は惰性だったのだ。
コロナ以前は主に店頭で購入していた消費者も、自粛期間中はネット購入を試した。アマゾンの売上は市場最高を記録している。
アパレル製品に対する意識、アパレル製品を購入する方法、アパレル製品に求める価値等々の全てが2年間で変化してしまった。最早、コロナ以前のアパレルビジネスに戻ることはあり得ない。コロナ以前と同じ商品と同じ売り方をしている限り、ジリ貧になるだろう。
4.アフターコロナの方向性は?
ビジネス環境は激変した。アパレルビジネスも根本から見直しが必要だ。その方向性について、いくつか示唆したい。まず、薄利多売の安売り商法を見直すことだ。単価を上げて、数量を減らす。これが真の意味でのサスティナブルなビジネスである。安い人件費を求めて、次々と生産拠点を変えるのはサスティナブルではない。
この30年間、アパレル企業はいかに安く生産し、安く販売するかを追求してきた。今後はいかに高い価格の商品を販売するか。高くても顧客が満足するか。商品以外の環境やサービスも含めて高くても納得できる商品とサービスを提供しなければならない。
次に、店舗数を絞り、在庫数を減らし、商品を売り切る体制を組むことが求められる。オーダーメイド、カスタムメイド、刺繍やプリントの後加工、ハンドクラフトのオプション等、工場から納品された商品を店頭にそのまま並べるだけではなく、更なる加工を行うのも良いだろう。
また、アパレル製品を販売するだけでなく、魅力的で映える写真を撮るところまでをサービスとして考えたい。更には、その画像を編集し、共有するメディアの整備も必要になる。
不要になった商品を買い取り、リメイクし、再販するサービスもサスティナブルである。
メタバースが普及すれば、リアルなスタイリングだけでなく、アバターのスタイリングも必要になる。購入したリアルな商品をデータとしても提供できれば面白い。
オーダーメイドやカスタムメイドに取り組むならば、サイズの管理が重要になる。変化する3D体型データの計測をフィッティングルームでできないだろうか。
中国を軸としたグローバリズムが崩壊すると、人々はローカルなコンセプトを求めるだろう。店頭販売からネット販売へと比重が移れば、東京や大阪の大都市発のブランドではなく、地方文化やアイデンティティをコンセプトにした地域発のローカルブランドも面白い。
いずれにしても、規格化された商品を規格化された店舗にマニュアル通りに陳列し、マニュアル通りの接客をしているだけでは、顧客を店頭に呼び戻すことはできない。商品の購入だけなら、ネットで十分なのだから
■編集後記「締めの都々逸」
「変化してたら 変化がおきて 更に変化が見えている」
リクエストにお答えして、郊外SC立地のアパレルショップについて考えました。本文では触れませんでしたが、コロナ以前、米国や中国で廃墟化したSCがいくつもありました。つまり、アパレルがどうなるか、以前にSCモールも危機なのです。
但し、日本では店舗流通が発達しているために、ネット通販に依存しなければ買い物ができないという人は比較的少ないはずです。コロナ以前は、ネット通販の商品と店舗販売の商品は棲み分けていたと言えます。しかし、コロナでその際が崩壊しようとしています。
また、リアルな店舗運営とネットビジネスのノウハウは全く異なります。その意味では、モノ作りが得意なアパレル企業と、ネット通販が得意な企業が連携して販売するという方向もあると思います。
いずれにしても、世界中が変化しているので、想像もしなかった事態が生じる可能性が大です。やはり、国内をメインとした地産地消のビジネスで生きていける方法を考えるべきではないかと考える次第です>(以上「MAG2」より引用)
1.最終形態のアパレルショップ
最適なアパレルショップの広さはどの程度だろう。小売店に卸売をするアパレル製造卸は、生産効率を上げるためにアイテムを限定していた。ブラウス専業アパレル、ボトム専業アパレル、ドレス専業アパレル等である。
アパレル製造卸の延長で直営店を構成する場合、アイテムを限定したシングルライナー型か、コーディネートを重視したトータルコーディネート型かを選択する。現在、シングルライナー型ショップは少数派だ。メンズのシャツ専門店は存在しているが、レディースはほとんどがトータルコーディネート型である。
アパレル商品を生産するには、生産可能な数量、生産ロットが問題となる。生地を織る生産ロット、生地を染色する生産ロット、製品を縫製する生産ロット等がある。サンプル帳が用意されている生地問屋から生地を仕入れる場合も基本的に1反(50m)単位だ。
オリジナル商品だけで展開するショップの場合には、生産ロットに見合った店舗数が必要になる。初期のデザイナーブランドは小さい面積のショップを多店舗展開した。価格が高い商品を扱う店は、面積も在庫数量も少なくて良い。しかし、低価格の商品を扱う店は、大量の商品を陳列できる広い面積が必要になる。
アパレルショップは、低価格化と共に面積が拡大し、丁寧な接客からセルフ販売へと移行していった。そして、オリジナル企画の商品だけでなく、仕入れ商品、雑貨小物の比率が増えていった。
店舗の大型化のメリットは、より多くの商品を展開し、売上を上げることだけではない。どんなに小さな店舗でも、ローテーションを考えると最低でも3人の販売員は必要だ。5坪の店を3人で回すより、15坪の店を3人で回した方が効率的だ。店舗の大型化は効率の良い店舗運営の手法でもある。現在の郊外SC立地のアパレルショップは、バブル崩壊以降の安価な商品を扱う専門店の最適化した最終形態と言えよう。
2.サプライチェーンの変化
特定のビジネス環境で最適化した最終形態のショップは、環境が変化すれば最適化できなくなる。まず、コロナ禍と戦争によって商品のサプライチェーンが変化した。日本のアパレル製品の7割程度は中国生産だ。
中国生産はゼロコロナ政策によって大きな痛手を受けている。ロックダウンにより、工場は稼動できないし、物流も止まった。ようやく動き出しても、いつ再びロックダウンが始まるか分からない。外資企業は次々と中国から撤退している。
また、西側諸国はウイグル人の人権弾圧に対抗する手段として、新疆綿の使用制限を行っている。日本では海外展開をしているユニクロ、無印良品だけが批判の矢面に立たされているが、実はほぼ全てのアパレルブランドが新疆綿を使っている。現在のところ、日本国内では新疆綿製品のボイコットは起きていないが、不安材料ではある。
円安の問題も深刻だ。最早、中国生産が安いとは言えない状況である。といって、国内生産ではこれまでの価格を維持できないし、そもそも生産スペースが足りない状況だ。
加えて、原材料の価格も暴騰している。糸、生地、付属だけでなく、ダンボールやビニール袋等も全て値上がりしている。このままいけば、次第に安価な商品を大量販売するというビジネスモデルが崩壊していくだろう。
そもそもアパレル企業がSCに大量出店するのは、薄利多売を目指したからだ。生産数量を増やすことで商品のコストダウンを図り、大量生産大量販売することで市場シェアを確保していく。しかし、サプライチェーンの変化により、商品を確保すること自体が困難になってしまった。勿論、工賃や生地値を値切るのも難しくなる。仕入れ先なんていくらでもある、という常識も変わっていくだろう。今後は、工場が小売店を選ぶようになるかもしれない。
3.ファッションに対する意識の変化
更に、アパレル製品に対する消費者意識も変化している。コロナ禍で自粛していた期間が長かったため、消費者はファッションの熱から冷め、冷静さを取り戻している。そして、家の中の不要な商品が目につき断捨離した人も多かった。無駄なモノを捨てて、シンプルな生活を志向する人が増えたのだ。こうなると、量より質が重要になり、安ければ売れるというセオリーも崩れる。
また、季節の切り替えと共に新しい服を買うという習慣も薄れている。ある意味で、シーズン毎に新しい服を買うという行為は惰性だったのだ。
コロナ以前は主に店頭で購入していた消費者も、自粛期間中はネット購入を試した。アマゾンの売上は市場最高を記録している。
アパレル製品に対する意識、アパレル製品を購入する方法、アパレル製品に求める価値等々の全てが2年間で変化してしまった。最早、コロナ以前のアパレルビジネスに戻ることはあり得ない。コロナ以前と同じ商品と同じ売り方をしている限り、ジリ貧になるだろう。
4.アフターコロナの方向性は?
ビジネス環境は激変した。アパレルビジネスも根本から見直しが必要だ。その方向性について、いくつか示唆したい。まず、薄利多売の安売り商法を見直すことだ。単価を上げて、数量を減らす。これが真の意味でのサスティナブルなビジネスである。安い人件費を求めて、次々と生産拠点を変えるのはサスティナブルではない。
この30年間、アパレル企業はいかに安く生産し、安く販売するかを追求してきた。今後はいかに高い価格の商品を販売するか。高くても顧客が満足するか。商品以外の環境やサービスも含めて高くても納得できる商品とサービスを提供しなければならない。
次に、店舗数を絞り、在庫数を減らし、商品を売り切る体制を組むことが求められる。オーダーメイド、カスタムメイド、刺繍やプリントの後加工、ハンドクラフトのオプション等、工場から納品された商品を店頭にそのまま並べるだけではなく、更なる加工を行うのも良いだろう。
また、アパレル製品を販売するだけでなく、魅力的で映える写真を撮るところまでをサービスとして考えたい。更には、その画像を編集し、共有するメディアの整備も必要になる。
不要になった商品を買い取り、リメイクし、再販するサービスもサスティナブルである。
メタバースが普及すれば、リアルなスタイリングだけでなく、アバターのスタイリングも必要になる。購入したリアルな商品をデータとしても提供できれば面白い。
オーダーメイドやカスタムメイドに取り組むならば、サイズの管理が重要になる。変化する3D体型データの計測をフィッティングルームでできないだろうか。
中国を軸としたグローバリズムが崩壊すると、人々はローカルなコンセプトを求めるだろう。店頭販売からネット販売へと比重が移れば、東京や大阪の大都市発のブランドではなく、地方文化やアイデンティティをコンセプトにした地域発のローカルブランドも面白い。
いずれにしても、規格化された商品を規格化された店舗にマニュアル通りに陳列し、マニュアル通りの接客をしているだけでは、顧客を店頭に呼び戻すことはできない。商品の購入だけなら、ネットで十分なのだから
■編集後記「締めの都々逸」
「変化してたら 変化がおきて 更に変化が見えている」
リクエストにお答えして、郊外SC立地のアパレルショップについて考えました。本文では触れませんでしたが、コロナ以前、米国や中国で廃墟化したSCがいくつもありました。つまり、アパレルがどうなるか、以前にSCモールも危機なのです。
但し、日本では店舗流通が発達しているために、ネット通販に依存しなければ買い物ができないという人は比較的少ないはずです。コロナ以前は、ネット通販の商品と店舗販売の商品は棲み分けていたと言えます。しかし、コロナでその際が崩壊しようとしています。
また、リアルな店舗運営とネットビジネスのノウハウは全く異なります。その意味では、モノ作りが得意なアパレル企業と、ネット通販が得意な企業が連携して販売するという方向もあると思います。
いずれにしても、世界中が変化しているので、想像もしなかった事態が生じる可能性が大です。やはり、国内をメインとした地産地消のビジネスで生きていける方法を考えるべきではないかと考える次第です>(以上「MAG2」より引用)
こう云うとアパレル業界に失礼だが、流行に踊らされて服を買い込む「熱」が冷めた、というべきだろうか。円高が続いてブランド品が比較的安く手に入って、国内で高級ブランド品に対する「渇望感」が薄れたというべきだろうか。
それかといって着る物のストックはタンスに溢れ、安物買いに走る必要もない。つまりアパレル業界の供給に見合う需要がないデフレ環境にある。だからアパレル業界は不況の真っ只中にある。
それに追い打ちをかけているのが社会の簡略化だ。クールビズが流行り出して以来、サラリーマンがネクタイをしなくなった。「正装」の概念が変化して、何処でも下着のようなTシャツで出掛けるようになった。服装をビシッと決めるのはダサいことだと思うようになった。
さらに冷暖房が普及して、真冬でも重いコートを着ている人を見かけなくなった。昔の夏の電車は熱地獄だった。しかし昨今の電車は冷房が効いている。
そうした需要の減少に対して、メーカー側は生産拠点を労働力の安価な海外へ移して、過剰供給を続けて来た。ただ顧客が求める品物かどうかに関わりなく「流行はメーカーが決める」という姿勢で小売店に商品を押し付けて来た。
たとえば私の趣味はキャンプだが、アウトドアの場に必要なのは焚火に強いコットン製品のアウターだ。しかしアウターと称して店で売っている商品の素材に化繊のものが多く、純然たるコットンのアウターは殆どない。
化繊のアウターの最大の欠点は火の粉が飛んで来ただけで堪え性もなくすぐに穴が空くことだ。焚火を楽しむキャンパーには木がはぜて飛んで来た火の粉を払うまで穴が空かずに頑張るコットンのアウターが必要だ。夏場のキャンパーが過ごすアウトドアは虫の多い文字通りの「ザ・アウトドア」だ。少々小枝に引っ掛けたくらいでは裂けない長袖と、服の上から蚊に刺されないタフな布地が必要なのはいうまでもない。
つまり生産現場と消費現場が海外と国内に分離されたため、消費者の希望が生産現場に到達するまで時間が掛かるようになったのではないだろうか。キャンパー用に列挙したアウターの条件は子供服にも必要なはずだ。
このような実用性に対する要望はアパレル・メーカーだけでなく、繊維メーカーにも届いているはずだ。しかし製品になかなか反映されない。それもアパレル市場と製造が遠く分離してしまったからなのだろう。
編集後記にある「コロナ以前、米国や中国で廃墟化したSCがいくつもありました。つまり、アパレルがどうなるか、以前にSCモールも危機なのです」という個所は日本の必ずしも当てはまらないと後記氏も書いているが、その通りだと思う。通販はショッピングを楽しむ場面が乏しい。日本ほどSCモールが全国各地に点在して利便性の高い国は少ない。競合するSCモールの盛衰はあるものの、SCモールそのものが衰退することはないだろう。
ことに被服は買う前に手に取って見なければ安心できない商品だ。なかなか通販で気軽に買えるものではない。ただアパレル商品が従来の常識を破って特定の目的を持つ商品がワークマンでも販売されるようになった。こうした動きは徐々に広がっていくのではないだろうか。