ロシア地上軍は7月末までに瓦解する

瓦解とは、軍が敗北して、軍組織が総崩れになることである。
 NATO(北大西洋条約機構)加盟各国からウクライナへの軍事支援が増大している。
 ロシア侵攻当初は、供給された対戦車ミサイルがロシア軍戦車の突進を止め、空挺ヘリボーン攻撃を破砕した。
 次に、ロシア軍はキーウ正面の兵力を東部へ転用し攻撃を再開したが、対するウクライナ軍は対戦車ミサイルや自爆型無人機で、ロシア軍の戦車・装甲車・火砲を破壊している。
 その後、戦車・自走高射機関砲、対艦ミサイル、誘導砲弾が撃てる火砲、大型自爆型無人機などが大量に供給されてきている。
 さらに、一見、防御用とみられる対砲兵レーダーや電子妨害装置も、実はロシア軍の砲兵を攻撃、無人機の飛行を妨害して墜落させることができるものだ。

 攻勢の準備が着々と進んでいる。
 ウクライナ軍は、5月6日にハルキウの郊外の5~10の集落を奪還したように、一部の地域で反撃を開始している。
 提供された兵器が第一線に届く6月中旬以降には、本格的に攻勢に乗り出す考えのようだ。
 米欧から供与された兵器を使用して、ウクライナ軍がどのような戦いをするのかについては、「ロシア軍総崩れの可能性も、兵站への無人機攻撃で」(JBpress 2022.5.2、https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/69960)に掲載した。

 5月2日掲載のこれらの兵器が現在、現実に使用され始めているのだろうか。
 効果を上げて多くの損失を与えているのか、またウクライナ軍の反撃が可能になるのかについてロシア軍の兵器の損失を分析して、明らかにしたい。
 分析に当たっては、ウクライナ軍参謀部発表データ(2月24日~5月10日まで)のロシア軍の損失を使用する。
 この損失データを1週間ごとに展開して、ロシア軍の戦闘の推移と照らし合わせる。そして、どの時期に損失が大きい・小さいかなど、損失変化の推移を概観する。
 その結果から、ロシア地上軍の現況と今後の戦況の推移を読み解いていきたい。
 ウクライナ軍の損失について、併せて検討することが必要であるが、ウクライナは今後の戦闘遂行に影響を与えるために公表していない。
 また、ロシアから情報操作された資料を使用すれば、混乱するので使用していない。ロシアの損失だけでも、ロシア軍の実情を読むことはできる。

1.ロシア軍戦車等の損失
 5月10までのロシア軍戦車等(戦車、装甲歩兵戦闘車、空挺戦闘車、海兵戦闘車)の損失は、約1200両である。
 1週間で損失が大きかったのは、侵攻開始の1~2週間で約350両、全域で攻勢をかけた3月17日~23日で約150両。
 さらに、ロシア軍がキーウ正面から撤退し、再編成した後に攻勢をかけた4月21日頃から3週間で350両以上の損失である。
ロシア軍戦車損失の推移
(図出典、ウクライナ参謀部公表資料から、筆者が算定してグラフ化したもの(以下同じ)
は省略)

 一方、キーウ正面からから撤退している間は、損失が比較的少なかった。
 ロシア軍戦車等は侵攻当初、攻勢をかけた時に車体をウクライナ軍に暴露したために、対戦車ミサイルやロケットで破壊されたのだろう。
 侵攻開始から2週間で350両もの戦車が撃破されたのは、ロシア軍戦車が、ウクライナ軍が待ち構えているところに、無謀に突進をしたからだ。兵站支援の問題もある。
 再編成後の攻撃では、ロシア軍戦車は、戦車、装甲車、歩兵、火砲が連携して、慎重に攻撃していると思われる。
 それでも、3週間で350両以上の損失がでている。
 ということは、自爆型無人機(「スイッチブレード600」)および誘導砲弾を使った攻撃の成果が現れていると見てよい。

 今後、ウクライナ軍の自爆型無人機などの攻撃の成果が上がれば、1週間にロシア軍150両以上を破壊することができるだろう。
 5週間後の6月下旬には、これまでの1200両と合わせれば約2000両を、10週間後(2か月と半月)の7月末頃には、1500両破壊し、合計約2700両を撃破できることになる。
 私の計算では、4月中旬以降の増援を含めたロシア軍の投入戦車数は約6700両であり、撃破数2000両の損耗は約30%、2700両の損耗は40%を超えることになる。
 つまり、ロシア軍戦車部隊は6月下旬頃までには大打撃を受け、7月末頃には、戦意が喪失し、戦えなくなる状況になるということだ。

2.ロシア軍装甲車等の損失
 これまでの、ロシア軍装甲車等(装甲人員輸送車・指揮偵察車・空挺装甲車、海兵装甲車)の損失は、約2800両である。
 1週間で損失が大きかったのは、侵攻開始後で約850両、全域で攻勢をかけた3月17日~23日で約350両の損失であった。
 ロシア軍再編成後の攻勢(4月21日以降)以降では、各週に250両前後の損失がある。

ロシア軍装甲車損失の推移(図、省略)

 今後、ウクライナ軍の自爆型無人機などの攻撃の成果があれば、1週間にロシア軍250両以上を、5週間で約1250両、10週間で約2500両を破壊することができることになる。
 5週間後の6月下旬にはこれまでの2800両と合わせれば約4000両を超え、10週間後(2か月と半)、7月末頃には5300両撃破できることになる。
 計算では、4月中旬以降に増援を含めたロシア軍投入の装甲車等数は、約7500両であり、撃破数4000両は損耗が約50%、5300両は損耗が70%を超える。
 つまり、ロシア軍機械化部隊(装甲車化部隊)は、6月下旬頃までには投入戦力の半数、7月末頃には7割の損失になる。

3.ロシア軍火砲・多連装ロケット砲の損失
 これまでのロシア軍火砲等(火砲、多連装ロケット砲)の損失は、約700門である。
 1週間で損失が大きかったのは、全域で攻勢をかけた3月17日~23日で150門を超え、次に、侵攻開始の1~2週間で約170門。
 これ以外は、各週の損失は約40門であった。
 再編成した後に攻勢をかけた4月21日頃からの3週間は、40、50、60門以上と緩やかな増加であった。

ロシア軍火砲等損失の推移(図、省略)

 火砲・ロケット砲の部隊(砲兵)の位置は、前線から10キロ以上遠方にあることが多い。
 これらを撃破するには、対地攻撃機、無人攻撃機、自爆型無人機、長射程砲(射程20キロを超える噴進弾)による攻撃が必要だ。
 第1線部隊が保有する兵器を使用して攻撃することはできない。
 ウクライナ空軍は、被害を受けながらも当初の2週間は、火砲部隊を攻撃したと考えられる。3月中旬以降は、無人攻撃機や自爆型無人機を使用した攻撃であった可能性がある。
 ロシア軍再編成後の攻撃で、火砲の損失が徐々に増加しているのは、無人攻撃機のほかに、米欧から供与された、自爆型無人機(スイッチブレード600)および誘導砲弾を使った攻撃の成果が現れていると見てよい。
 今後、ウクライナ軍の自爆型無人機などの攻撃の成果があれば、1週間にロシア軍火砲60門以上を、5週間で約300門、10週間で約600門を破壊することができることになる。
 5週間後の6月下旬にはこれまでの700門と合わせれば約1000門、10週間後(2か月と半)、7月末頃には1300門を撃破できることになる。
 計算では、4月中旬以降に増援を含めたロシア軍の投入火砲等の数は約2320門であり、撃破数1000門は損耗が40%、1300門は損耗が55%を超えることになる。
 つまり、ロシア軍砲兵部隊は、6月下旬頃までには投入戦力の4割、7月末頃には5.5割の損失になる。

4.ロシア軍車両の損失
 5月10までのロシア軍車両(火砲、多連装ロケット砲)の損失は、約2000両である。
 1週間で損失が大きかったのは、全域で攻勢をかけた3月17日~23日で400両を超え、次に、侵攻開始の1~2週間で350両を超えた。
 これ以外は、各週の損失は平均的に約150両であった。
 車両約2000両の破壊は、主に指揮通信用および兵站用である。つまり、多くの指揮官が殺傷されて指揮が混乱する原因となっている。
 また、兵站用の車両が破壊されたことは、戦車や装甲車に弾薬が運べなくなり、兵士への食糧も運べず、負傷者を後方に輸送できなくなっているということだ。
 再編成した後に攻勢をかけた4月21日頃からの3週間は、平均150両の車両が撃破されている。

ロシア軍車両の損失(図、省略)

 今後は、5週間で750両、10週間で1500両の車両が撃破されることが予想される。今後とも、指揮通信活動や兵站支援活動に支障が起こるだろう。

5.ロシア軍兵の損失
 ウクライナ参謀部が公表している兵の死者数には、純粋に死者だけなのか、負傷者も含まれているのかは、正確には分からない。
 ロシア軍の兵の損失は、5月10日までに2万6000人だという。投入兵力22万人の12%である。発表の数字が本当に死者数だけであるならば、負傷者は、その2倍出ていることになる。つまり、30%以上の損耗が出ているはずだ。

 侵攻1~2週間が最も多かった。
 この2週間で死者数約1万2000人である。これまでの兵員の死者数は、2万6000人である。この2週間の1万2000人は、これまでの死者の50%に近いものである。
 侵攻1~2週間に多くの死者が出たことは、ロシア地上軍が無謀に、かつ強引に突進したことが原因であろう。
 その他は、各週1200~1800人の死者が出ている。今後5週で6000~9000人、10週で1万2000~1万8000人の死者が出ることが予想される。
 つまり、6月末までに3.2万~3.5万人、7月末までに3.8万~4.4万人の損失が出ることが予想される。
 損失は、6月末に15%、7月末に20%に達することが予想される。

ロシア軍兵の損失(図、省略)

6.ロシア地上軍の瓦解
 今後のロシア地上軍の戦車等、装甲車等、火砲等の損失を予測するには、4月21日以降にロシア軍が再編成され攻撃した時の損失と同じ数値と見積もる、あるいは米欧から供与された兵器が威力を発揮することで、損失が徐々に増加することを見積もる。
 そうすると、6月末には戦車等が3割、装甲車等が5割、火砲等が4割の損失となり、ほぼ戦えない状態に近くなる。
 そして、7月末には戦車等が4割、装甲車等が7割、火砲等が5割以上の損失となる。
 これらのことから、ロシア軍は戦意を喪失し、敗北と言ってよい状態(軍事用語としては瓦解)になるのではないかと考える。
 戦争研究所(STUDY OF WAR)の報告によれば、「ロシア軍の士気喪失と戦闘拒否の報告が継続し拡大している」という。

 前述の損失が出ていれば、兵士の心理としては当然のことであろう。
 ウクライナ大統領が、6月中旬には反攻に出ると発言している。この時期は、米欧から供与された兵器のほとんどが前線の部隊に行きわたり、使用が可能な状態になる。
 また、ロシア軍の損耗が30~40%を超える状態であり、ほぼ戦えない状態になりつつあるという戦況分析からの発言であろう。
 つまり、6月下旬には2014年に占領された線まで押し戻し、7月下旬には、ウクライナとロシアの国境まで押し返している可能性も出てきたということだ。

 米国は、ウクライナとロシアの戦争は、長期戦になると主張している。
 しかし、私は6月末から7月末には決着がつくのではないかと考える。ウクライナ軍の反攻と占領された都市を奪還することが現実的になってきているからだ。
 しかし、この状態になれば、ロシアは核兵器を使用する可能性が高くなる。
 核兵器を使用すれば、今後の推移を予想することは難しい。
 ロシアの空軍力や防空兵力、無人機の損失とその影響については、数日後に投稿する予定である>(以上「JB press」より引用)




 引用記事はJBpressに「データが弾き出した、ロシア地上軍は7月末までに瓦解する」と題して掲載された西村金一氏(軍事アナリスト)の論文だ。米国はロシアのウクライナ侵略戦争は長期戦になると予想しているが、西村氏は各種データから「ロシア地上軍は7月末までに瓦解する」と予測している。ただし、核兵器使用に踏み切った場合は『想定外』としている。
 ロシアによる核兵器使用は想定しないで良いのではないかと思う。なぜならプーチン氏が核兵器使用に踏み切る前に、何らかの理由でプーチン氏が失脚するからだ。それはテロかも知れないし、クーデターかも知れないし、ロシア国内世論の反戦・厭戦圧力によるかも知れない。いずれにしても、プーチン氏が核ミサイルのボタンを押すことはないだろう。

 ロシア軍の趨勢は通常戦力での戦いを前提することになる。そうすれば西村氏の2月24日以後の地上戦のデータに基づけばロシア軍の近未来が予測できる。現在、ロシアを支援する国は見当たらないため、大量の兵器や軍隊が前線に補給される見込みもない。
 それに反して、ウクライナは先進自由主義諸国の手厚い支援に支えられている。いわばウクライナ軍は先進自由主義諸国の科学技術力と経済力によって支えられている。だからこそプーチン氏は「短期決戦」を目指したのだろう。ただ短期決戦で勝利を手に入れるための着実な戦略に欠陥があった。

 軍隊の損耗率と戦闘力との関係は閾値のあるITプログラミングなどと似ている。閾値とは、境界となる値のことで、その値を境に、条件や判定などが全く異なってしまう値のことだ。ITの分野では電子回路の高電圧と低電圧の区別や、プログラミングの条件分岐などで用いられる。
 軍が機能するためには前線で戦う「戦闘部隊」だけではダメで、戦闘部隊を支えるための兵站はもちろんのこと戦闘部隊とともに移動する工兵隊や衛生隊なども機能していなければならない。それらの機能が失われると、戦闘部隊も機能しなくなり軍隊としての体をなさなくなる。その閾値が損耗率30~40%とされている。ロシア軍は当初投入した軍の約1/3を損耗したと英国当局は見ているようで、既に閾値に近づいている。

 ロシア軍が強力な兵站と増強態勢に支えられているなら損耗した以上に補充すれば問題はない。しかしロシアの軍需産業全体が先進自由主義諸国の経済制裁により稼働率が低下し、あるいは生産停止しているといわれている。
 ロシア軍は戦車だって生産している、と云わんばかりに大砲を撤去しミサイル連射砲やデジタル兵器で装備した最新鋭戦車を投入したが、それは経済制裁が始まる前に製造していた虎の子の30台足らずのうちの数台ではないかと見られている。偵察衛星で監視している先進自由主義諸国の情報を欺くことは殆ど不可能だ。

 記事によると「戦争研究所(STUDY OF WAR)の報告によれば、「ロシア軍の士気喪失と戦闘拒否の報告が継続し拡大している」という」とある。兵士の士気が低ければ軍全体が弱体化する。さらにロシア国内で微妙な世論の変化が現れているという。
 それは「ロシア兵士の母の会」が息子の行方を問い合わせる母親たちの不満が高まっているという。母の会の会長が「(家族であるロシア兵が)死んだのか、行方不明なのか、捕虜になったのか、大勢の人が2か月近く何も知らないままなのです」と云い、また「第一次チェチェン紛争でもロシア軍からこれほど多くの戦死者は出なかった」などと話しているという。華々しい戦果報告と「偉大なるロシア」プロパガンダを政府広報機関が繰り広げようと、事実を覆い隠すことは出来ない。それも戦争遂行の閾値の重要な要素の一つとしてプーチン氏に重くのしかかって来るだろう。西村氏は7月には継戦能力を喪失すると予想しているが、もっと早い段階でロシア軍は総崩れとなって、停戦を求めるのではないだろうか。

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