先進自由主義諸国にパラサイトしていた中国とロシアの今後の経済。

「中国『デジタル人民元』は、対ロシア経済制裁の『抜け穴』になる」は本当か?

ウクライナ戦争の停戦は遠のいたのか。

 中国メディアの多くは、ロシア軍によるウクライナ侵攻直後から「アメリカ・北大西洋条約機構(NATO)の目的は、戦いの長期化」と予測していた。ゆえに停戦が具体化した3月29日の協議直後から、米・NATOがにわかに攻撃型兵器の支援に踏み切ったのを受け、「やっぱり」と大見出しで報じた。
 アメリカの支援は侵攻後50日間で計25億ドル(3,125億円)に達した。ウクライナ国防予算の約40%に匹敵する莫大な額で、間接的にウクライナの戦いを支えている構図が透けて見えるのだ。
 当然、ロシアは敏感に反応し、兵器供与への正式な抗議として外交文書「デマルシェ」を米国務省に送付した。同時にキーウへの攻勢を再び強めようとしている。
 戦争が泥沼化へと向かうことへの世界の苛立ちは、ロシアへの経済制裁の有効性への疑問や、これに参加しない中国へも向けられている。そして対ロ制裁の要、金融制裁の抜け道として中国が進めるデジタル人民元にもその矛先は向けられ始めた。

デジタル人民元は対ロ金融制裁の「抜け穴」なのだろうか。
 結論を急げば答えは「Yes」であり「No」だ。そう言わざるを得ないのは、短期的には「否」で長期的には「是」だからだ。
 例えば、対ロ制裁の切り札である国際銀行間通信協会(SWIFT=金融機関の国境を跨いだ取引のメッセージ通信を提供する国際的ネットワーク)からの排除は、一時的にルーブルの価値を大幅に損ねた。だが現状、ルーブルの価値は侵攻前の水準に戻っている。つまり制裁の不発を思わせるが、それは世界がロシア産天然ガスなどエネルギーに依存──とくに欧州が──していることが前提であり、対ロ貿易の決済をルーブルで行うとプーチン大統領が宣言したことが影響したと考えられる。エネルギーが不可欠であれば決済方法は多種ある。
 アメリカの金融制裁にはさらに広範で強力な「二次制裁」もあるとされるが、プーチン大統領が「困るのは買い手」と発言したように、かえって買い手が決済方法を模索することになる可能性は排除できない。
 いずれにせよここにデジタル人民元が抜け穴の役割を果たしたという話は寡聞だ。
 一方でデジタル人民元が将来的な制裁の抜け穴となるかもしれないとの指摘はアメリカ国内からも聞かれる。
 例えば、元米国防次官補のアディティ・クマール氏は「デジタル人民元とドル── 脅かされる米ドルの覇権」(『フォーリン・アフェアーズ』2020年7月号)のなかで「デジタル通貨は、現行システムを回避するスケーラブル(計測可能)なクロスボーダーメカニズムを提供できるため、米ドル取引とアメリカによる金融監督を回避するという目標の実現に貢献できる」と記している。
 重要なことはこの抜け穴が実現するのか否かだ。そしてそれはアメリカ次第なのだ。

 SWIFTと国際決済を実行する仲介役を担うコレスポンデント(略称コルレス)銀行のネットワーク(以下、ネットワーク)はアメリカの金融支配の屋台骨である。このネットワークから締め出されることは経済的死刑宣告に等しい。これがアメリカの強みだが、ワシントンが過剰に政治利用すれば、当然、被制裁国は反発し、脱ネットワークの手段としてデジタル通貨への移行を加速する。
 事実、「モスクワは『金融メッセージ伝達システム(SPFS)』と呼ばれるロシア版SWIFTを開発し、中国も『クロスボーダー銀行間決済システム(CIPS)』と呼ばれる独自のシステムを立ち上げている」(同前)という。
 興味深いのは脱ネットワークを模索するのは制裁対象国ばかりではないということだ。欧州連合(EU)3カ国も「主にイランとの取引を念頭において、SWIFTを経由せず、米ドルを利用しない取引を促進しようと「貿易取引支援機関(INSTEX)」を立ち上げ」(同前)た。イギリス中央銀行のマーク・カーニー総裁も2019年に「世界貿易における米ドルの支配的影響力を抑え込む」国際デジタル通貨の考案を提唱しているのだ。
 SWIFTとコルレス銀行を介さずにクロスボーダー取引を完結できるようするという意味では、カナダとシンガポールの中央銀行や香港やタイの金融当局も検討や試行を進めている。
 アメリカの仲間のEUや英、カナダが脱ネットワークを模索するのは不思議だが、それを元米財務長官ヘンリー・M・ポールソン・Jr氏は、『フォーリン・アフェアーズ』(2020年7月号)の記事「準備通貨ドルとデジタル人民元──何がドル覇権を支えているのか」のなかで、「経済制裁でドルを兵器化すれば、同盟国と敵の双方をドルに代わる準備通貨の開発に向かわせ、この試みのために彼らは呉越同舟で協調するかもしれない。実際、EUが国際取引でユーロをさらに促進しようとしてきたのは、まさにこの理由からだった」と記している。
 対ロ金融制裁でも原油依存度わずか8%のアメリカと40%前後もある欧州では制裁のダメージが大きく異なる。やり過ぎれば亀裂が深まるのも当然だ。ゆえにドル支配を揺るがす「リスクを作り出すのは北京ではなく、ワシントン」(同前)という指摘となるのだ。

 今春中国で開催されたグローバル・ガバナンス・フォーラムの報告によれば、過去8年間に米欧が発動した対ロ制裁は8,068件(4月1日まで)に達し、このうち5,314件は今年2月22日以降に発動されたというから凄まじい。ジャック・ルー前財務長官はかつて、「制裁の乱用が、世界経済における指導的立場と制裁自体の有効性を損なう」と警告したというが、このままではいずれ中国のデジタル人民元が「同盟国とならず者国家の双方が求めるソリューションとなる恐れ」(同前)が現実となるかもしれないのだ。
 現状、ドルは相変わらず支配的通貨(準備通貨)だ。人民元は通貨別決済シェアで2.7%(昨年12月)と第4位でしかない。
 だが世界のGDP(国内総生産)に占めるアメリカのシェアは40%から20%台前半へと低下し、貿易額の世界シェアは10年以上前から1位の座を中国に明け渡している。将来という意味では人民元がドルに匹敵する役割を果たすポテンシャルは否定できない。
 直近の国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」を見ても、先進国経済に対する新興国・発展途上国市場の伸びは顕著だ。なかでも高い伸びが予測されているのが中国だ。世界貿易における存在感と同様に決済における役割も高まると考えるのは自然だ。
 中国は経済成長におけるデジタル経済の比率を高める政策を続け一定の成果を残してきた。デジタル人民元のテスト事業のカバー範囲は北京冬季オリンピック開催時に40万ヶ所。取引金額は96億元(約1,751億円)となり2017年から導入したテストエリアを長江デルタ、珠江デルタ、北京・天津・河北、中部、西部、東北、北西をほぼカバーするまでに成長させた。まさに「着々と」という表現が適当な進化だ。
 今後、デジタル人民元の利便性──オフラインでも使用できることなど──を考慮すればアリペイやウィチャットペイを糾合しつつ国境を越えて広がってゆくことは十分に考えられるだろう。
 もしアメリカがデジタル人民元の流れを制裁によって止められると考えるのであれば結果は不都合なものとなるかもしれない。
 アメリカが発動する経済制裁が度を越していれば、世界はそれを警戒し、回避する別の手段を持ちたいと考えるからだ。
 ロシアに対して抜いた強大なアメリカの武器は、ひょっとすると両刃の剣かもしれないのだ>(以上「MAG2」より引用)



 引用した論評は富坂聰氏(拓殖大学海外事情研究所教授)によるものだ。題して「「中国『デジタル人民元』は、対ロシア経済制裁の『抜け穴』になる」は本当か?」というものだが、ロシアと中国でタッグを組んでドル基軸通貨圏に対抗する「デジタル人民元」基軸通貨圏を出現させられるのか、という話だ。
 世間には対ロ制裁が効いてないというマスメディア報道が多いが、飛んでもない誤報だ。対ロ制裁が効いてないのではないかという根拠はルーブルの為替相場がウクライナ侵攻以前の水準に戻ったからだという。彼らはロシアの中央銀行が公定歩合を20%に引き上げたのを忘れているのだろうか。

 公定歩合が20%ということは市中銀行の貸出金利は20%を超えて30%近くなる、ということだ。それほどの金利を支払っても成り立つ商売など存在しない。つまり経済崩壊をロシア中央銀行が仕掛けている、という話だ。
 おそらく中央銀行の公定歩合を20%に引き上げたのはプーチン氏の命令だろう。そうした経緯があってかは知らないが、ナビウリナ総裁は辞意を表明した。しかしプーチン氏がナビウリナ氏の辞任を認めず、彼女は辞意を翻した。

 公定歩合20%とは国家破綻後のハイパーインフレに見舞われた経済を立て直すさいなら理解できる利率だ。しかし対ロ制裁を受けた国の金利政策としては間違っている。
 確かに対ロ制裁でルーブルの為替相場は下落するだろう。SWIFT停止による措置もルーブル下落に拍車をかけるだろう。しかし、それがどうしたというのだろうか。ロシア国内経済だけを見ればルーブルの為替相場など関係ない。なぜロシア政府は国内経済を立て直すために金利引き下げや財投融資拡大策を執らなかったのだろうか。

 いずれにせよ、ロシア経済から外国投資部分や外国企業部分が抜け落ちる。その痛手は大きい。ロシアGDPの数十%が失われることになる。しかも輸入物資が止まれば国内で物価高騰のインフレが起きるのは火を見るよりも明らかだ。
 それでプーチン氏は石油や天然ガスを中国やインドに大量に買ってもらって、国家財政の穴埋めに使おうとしている。だがインドのGDPは2.6兆ドルで世界第六位だから、インドが必要とする石油をすべてロシアから輸入したところで知れている。中国も必要とするすべてのエネルギーをロシアから輸入するわけにはいかない。なぜなら多くの産油国と輸入契約を既に締結しているからだ。

 富坂氏は中国経済の進展と比較対照的に米国の経済規模の縮小に焦点を当てて、「デジタル人民元」は米国のドル基軸通貨経済圏への挑戦権を「長期的」には獲得する、と予測している。果たしてそうだろうか。
 これまで米国は世界のリーダーとして中国やロシア経済の成長に手を貸してきた。積極的にWTOに迎え入れて国際社会の一員として処遇してきた。それは中国やロシアが民主化され自由な社会になると期待していたからだ。しかし現実は米国が期待していたようにはならなかった。結果としてロシアは隣国へ領土的野心を露わにして軍事侵攻を繰り返し、ついにはウクライナへの侵略戦争を踏み切った。

 中国も恩ある欧米に対して「戦狼外交」を展開し、中国経済の成長に手を貸して来た台湾や日本に軍事的脅威を与えている。これから欧米のみならず、台湾や日本は対中政策を転換せざるを得ない。もちろん欧米も自由化しない中共政府に、これ以上の支援はしないだろう。
 「長期的に」デジタル人民元が新しい経済圏を構築するか、というと、その道は閉ざされるだろう。なぜなら中国経済が崩壊するからだ。世界第二位を誇っている中国経済は「世界の工場」としての存在でしかない。世界経済を中国が牽引しているのではなく、世界経済によって中国が「引き立てられてきた」に過ぎないからだ。引き立てて来た欧米や日本などの世界経済が「引き立てて来た」手を離せば、中国経済は沈没するだけだ。

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