妄想狂は米国ではなく、プーチン氏の方だ。

NATOはなぜ今もこの世に存在しているのか?
 本シリーズの第3回(INSIDER No.1145)「歴史の物差しの当て方で視点が変わる」で、プーチンが少なくとも2014年9月のミンスク合意からの8年間を一連なりの政治プロセスと捉え、(この選択がよかったのかどうかは別にして)今それに彼なりの決着をつけようとしているのに対し、西側はせいぜい長くても昨年10月に軍事的緊張が高まり始めた頃からの短い物差しで事態を計測し、「突然」「一方的に」「侵略」と言い続けていて、そこがそもそも噛み合わないことを指摘した。

冷戦後31年間も経ったのに
 しかし本当のところロシア側が本質論的なレベルで問題にしている歴史の物差しはもっと長くて、1989年12月のマルタ島でのゴルバチョフ=ソ連共産党書記長とブッシュ父=米大統領との会談で冷戦の終結が宣言され、それに即して旧ソ連は率先、東側の軍事同盟である「ワルシャワ条約機構(WPO)」を91年7月に解体したにもかかわらず、米国を筆頭とする西側は今なお「北大西洋条約機構(NATO)」を解体していないばかりか、それを旧東欧から旧ソ連諸国にまで拡大し、すでにバルト3国を加盟させたのに続いてジョージアとウクライナも条件が整えば加盟を認めることを決定しているという、「冷戦後31年間」の物差しである。
 これをロシアの側から見れば、冷戦が終わり東西両陣営が総力を挙げてぶつかり合うような大戦争は起こり得ないのだから、そのための戦争機構であるWPOを解体するのは理の当然で、米欧も同じようにすると思い込んでいた。ところがそうしないばかりか、どんどん東方に拡大し、ついにロシアと国境を接する国々までNATOに組み入れてきた。米欧にとってロシアは再び「敵」となり、NATOはそのロシアの喉元に突きつけられた剣となって皮膚に食い込み始めている。

ミアシャイマー教授の見方
 これは決してロシアの被害妄想などではない。たとえばフランスの文明批評家エマニュエル・トッドは『文藝春秋』5月号巻頭論文「日本核武装のすすめ」で要旨こう述べている。
▼米国ではこの戦争が「地政学的・戦略的視点」からも論じられていて、その代表格がシカゴ大学の国際政治学者ジョン・ミアシャイマー。感情に流されず「リアル・ポリティクスの観点から、戦争の原因を考えなければならない」と問題提起をしている。
▼「いま起きている戦争の責任は誰にあるのか?米国とNATOにある」と断言している。私も彼と同じ考えで、欧州を“戦場”にした米国に怒りを覚えている。
▼ミアシャイマーは「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」とロシアが明確な警告を発してきたのにもかかわらず、西側がこれを無視したことが、この戦争の要因だとしている。
▼ロシアの侵攻が始まる前の段階で、ウクライナはNATOの事実上の加盟国になっていた。米英が、高性能の兵器を大量に送り、軍事顧問団を派遣して、ウクライナを「武装化」していた。この「武装化」はクリミアとドンバス地方の奪還を目指すものだった。
▼ウクライナ軍は米英によってつくられ、米国の軍事衛星に支えられた軍隊で、その意味で、ロシアと米国はすでに軍事的に衝突している……。
 これは、米欧の中でも歴史が見えている知識人らの1つの代表的な意見であるけれども、日本を含む西側のメディアがそれを参照して、「ところでNATOは冷戦が終わったのに何のために存続し、その挙句にロシアに向かって攻め上るような行動をとってきたのか?」とバイデンに問いかける者はほぼ皆無である。

ブッシュ父の迷妄の大罪
 冷戦が終わったのにその中心的な機関のNATOはどうして存続したばかりか拡大までしてロシアを脅すまでになったのか。本誌が冷戦終結当時から指摘してきたように、それは一重にブッシュ父子の迷妄のためであり、そのために世界はいまだに冷戦後の世界システムの構築に着手することさえ出来ずに悶え苦しんでいるのである。
 このことを本誌は繰り返し書いてきて、9.11直後の本誌でもそれを要約しているので、次に引用する(高野著『滅びゆくアメリカ帝国』=にんげん出版、2006年刊にも所収)。
▼冷戦の終わりとは、単にそれだけではなくて、冷戦にせよ熱戦にせよ、国家と国家が重武装して武力で利害と領土を奪い合うという、それこそウェストファーレン条約以来の国際関係を支配してきた野蛮な「国民国家」原理の終わりを意味していた。
▼国境に仕切られた「国民経済」を基礎として全国民を統合して国益を追求する近代主権国家=「国民国家」は、19世紀までに全欧州を覆い尽くしてきしみを立て始め、それが20世紀に入って二度にわたる世界規模の大量殺戮戦争となって爆発した。
▼最後はヒロシマ・ナガサキの悲劇にまで行き着いて、そのあまりに悲惨な結末に「もう熱戦はやめよう」ということにはなったものの、荒廃した欧州の西と東の辺境に出現した米国と旧ソ連という「国民国家」のお化けとも言うべき2大超大国は、地球を何十回も破壊してあり余るほどの核兵器を抱え込みながら、なお武力による国益追求という野蛮原理を捨てることが出来ずに冷戦を演じ続け、ついにその重みに耐えかねて「もう冷戦もやめよう」という合意に至ったのであった。
▼だから冷戦に勝ち負けなどあるはずもなく、米ソは共に、国家間戦争の時代は終わったのだという認識に立って、新しい協調的な国際秩序の原理を模索するのでなければならなかった。
▼ところが、当時ブッシュ父が率いる米国は、冷戦終結を「米国の勝利」と錯覚し、旧ソ連が崩壊したことによって米国は“唯一超大国”になったという幻想に取り憑かれた。
▼その独りよがりの幻想を助長したのが湾岸戦争で、「ヒトラー以来最悪の独裁者」に対して「正義の味方」米国が全世界を率いて力で叩き潰すという誇大な図式に填め込んで、軍事力・経済力の圧倒的格差からして勝つに決まっている戦争に勝って自己陶酔することになってしまった。
▼その父親譲りの“唯一超大国”幻想を外交政策全般の基調にまで拡張したのが、ブッシュ子大統領の“単独行動主義”である……。
 こうして、米国がもはや西側の盟主ではないのにそう振る舞おうとしたり、逆にかつて盟主としてその形成に責任がある枠組みから発作的に脱落して後始末をしなかったり、つまりは“唯一超大国”でないとすれば自分は一体何なのかが分からず、自己喪失状態に陥っていることが、世界のあらゆる課題にとっての障害となっているのである。ウクライナもそういう問題の1つにすぎないと言える>(以上「MAG2」より引用)




 ウクライナへの侵略者は米国ではなくプーチン氏のロシアだが、世の中にはどうしてもロシアとプーチン氏を擁護したい人たちがいる。引用した論評を書いた高野孟氏(評論家)などがそうした人たちの一人だ。
 いかなる論理を辿ればそうした結論に到るのか、摩訶不思議な思考回路を読み解く上で、引用した論評を一読して頂きたい。そうすると飛んでもない勘違いから奇想天外な「米国悪者論」が展開されていることに気付くだろう。

 高野氏は今年2月24日に突如としてロシア軍がウクライナ国境を越えて侵略戦争の火ぶたを切った原因を「プーチンが少なくとも2014年9月のミンスク合意からの8年間を一連なりの政治プロセスと捉え、(この選択がよかったのかどうかは別にして)今それに彼なりの決着をつけようとしている」からだとしている。それにに対し「西側はせいぜい長くても昨年10月に軍事的緊張が高まり始めた頃からの短い物差しで事態を計測し、「突然」「一方的に」「侵略」と言い続け」たと決めつけている。
 しかし2014年9月のミンスク合意はクリミア半島を強引に併合したロシアを宥めるためにNATO諸国がウクライナにとって不利な妥協案を突き付けたものでしかない。だからNATO諸国はミンクス合意後もクリミア半島を併合したロシアに経済制裁を形だけでも実施した。

 しかし、それが誤りの元だった。米国をはじめNATOはかつてのチェンバレン役を演じてしまった。当時はヒトラーに対して融和策を「寛大な措置」として自画自賛したが、今回はプーチン氏に対して同様なことを行ってしまった。
 ウクライナはソ連時代はソ連の一角をなしていたが、ウクライナ人(タタール人)はロシア帝政時代からロシア人によって迫害され、先祖伝来の土地を「入植」という形で蚕食されていた。最も大規模に「入植」が行われたのがクリミア半島であり、ドンバスなどのウクライナ東部地域だった。だから高野氏がせいぜい西側諸国は「昨年10月に軍事的緊張が高まり始めた頃からの短い物差しで」対ロ関係を見ているのではない。数世紀に亘って、西洋諸国はロシア人によって蚕食されるウクライナ人たちを見て来たのだ。短い物差しで見ているのは西洋諸国ではなく、高野氏のウクライナの歴史を知らない物差しでしかない。

 果たして米国は世界覇権に執着しているだろうか。米国は世界の警察ではない、と何代か前の大統領が宣言しなかっただろうか。前大統領のトランプ氏に到ってはNATOから抜け出そうとすらしていたではないか。
 むしろ米国大統領ではなくウォールストリートに巣食うDSたちこそが東西冷戦を演出していたのではないだろうか。彼らにとって必要なのは自由なグローバル市場と、世界を破滅に導かない程度の「戦争」だからだ。ブッシュ父子はDSにとって忠実な大統領だった。彼らはDSたちを大いに儲けさせた。

 高野氏はエマニエル・トッド氏の「「いま起きている戦争の責任は誰にあるのか?米国とNATOにある」と断言している。私も彼と同じ考えで、欧州を“戦場”にした米国に怒りを覚えている」という一節を引用しているが、ウクライナに攻め込んだのは米国でもなければNATO諸国でもない。ロシアさえ攻め込まなければ「侵略戦争」は起きていない。何処をどうすれば、善悪が逆転するのか思考回路を解析して頂きたい。
 NATOが拡大したからロシアが脅威に感じた、という論を展開したのだろうが、独立国が何処と軍事同盟を組もうが自由ではないか。ロシアだって中国と仲良く日本海で合同軍事演習を行い、中ロ艦隊が挑発するかのように日本を一周したではないか。その際、日本が中ロ艦隊を攻撃すれば徴発した中ロが悪い、ということになるのだろうか。

 「冷戦終結を「米国の勝利」と錯覚し、旧ソ連が崩壊したことによって米国は“唯一超大国”になったという幻想に取り憑かれた」という一節にも異論を唱えたい。米国は「唯一」かどうかは別として、ソ連崩壊後、世界の超大国になったのは「幻想」ではなく事実だ。むしろ幻想を抱いたのは習近平氏やプーチン氏たち独裁者たちの方ではないか。
 中国は経済規模が拡大したとはいえ、それは外国資本と外国企業と外国の自由市場によってもたらされたウィンウィンの関係でしかない。その際、中国が提供したのは「廉価で豊富な労働力」だけでしかない。たったそれだけのことでしかないにも拘らず、習近平氏は経済発展した中国を「実力」だと幻想を抱いた。プーチン氏に到っては習近平氏よりもお粗末で、韓国の程度のGDPでしかないにも拘らず、世界の超大国だった(経済統計など非公開だっため判然としなかったのが事実だが)ソ連時代への回帰を妄想して、旧ソ連の版図を回復すべく隣国に介入し紛争を起こしてきた。その延長線上に現在のウクライナ侵略戦争がある。

 高野氏よ、「“唯一超大国”でないとすれば自分は一体何なのかが分からず、自己喪失状態に陥っている」と評して、米国を貶めるものではない。米国は世界一位のGDPを有する自由主義諸国のリーダーであることは世界が認める事実だ。独裁専制国家よりも自由で民主的な国家の方が国民の幸福度が高いのは厳然たる事実だろう。それとも高野氏は独裁者プーチン氏のロシアに憧れでも抱いているのだろうか。
 日本は世界平和のために先進自由主義諸国の一国として、すべての人類が自由で民主的な社会制度の中で人権を侵害されず、他人の人権を侵害しないで生きて行けるように努めなければならない。その最良の仲間の一人が米国であり、NATO諸国である。

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