劉鶴氏の苦言。

<劉氏は河北省で6日に開かれたデジタル経済に関するフォーラムで、ビデオ形式で講演した。民間経済は税収の50%超、国内総生産(GDP)の60%超、都市雇用の80%を占めてきたと述べた。
 ウェルス・セキュリティーズのマネジング・ディレクター、Louis Tse氏は、「中国政府は、規制変更にどれだけ厳しい態度で臨んでも、自国経済を支えるためには中国市場への資金流入が必要であることを理解している」と指摘。習近平国家主席が北京証券取引所の設立を表明したことにも触れ、「こうした流れも投資家のセンチメントを高める要因になっている」と述べた。

 中国当局はこのところ、さまざまな業界に対する締め付けを強化しており、新興ばかりでなく古参の企業も、経営環境の不透明感が増し、市場でも動揺が広がっている。
 習主席は格差是正のスローガン「共同富裕」を掲げている。ただ、習氏の政策シフトが意味するところはなお不明で、国内メディアのコメンテーターの意見が公然と対立する事態となっている。

 中国共産党機関紙の人民日報系の新聞、環球時報の胡錫進編集長は、当局の取り締まりを「革命」と呼んだ論説記事を批判。現行の改革は規制を強化し、社会ガバナンスを改善する狙いがあると論じた。
 共産党中央財経委員会の韓文秀氏は先月、共同富裕のスローガンについて、「貧困層を助けるために富裕層を抹殺する」ものではないと説明した。
 国家市場監督管理総局の張工局長は6日、中国が官民双方において経済への「揺るぎない」支援を継続するとともに、「資本の無秩序な拡大」や「独占的な行動」を防止すると表明。また「発展と安全、効率と公正、活力と秩序の関係を調整し、把握することが急務だ」との考えを示した>(以上「REUTERS」より引用)



 習近平氏が突如始めた「改革」に中共政府は戸惑っているようだ。REUTERSの記事の冒頭で出て来た劉鶴氏は習近平氏と同じく「紅二世代」だ。彼の父親は毛沢東が進めた「文化大革命」で迫害され死亡した。劉鶴氏は「文化大革命」を父親の敵として2008年に批判している。
 劉鶴氏は習近平氏の一学年上で、習近平氏とは極めて親しい関係にあるようだ。だから習近平氏は主席に就くや劉鶴氏を共産党政治局員、国務院副総理に迎えて習近平氏の経済政策を支える側近になっている。

 その劉鶴氏が習近平氏の進める「現代の文化大革命」を公然と批判した。それは大きな意味を持つ。なぜなら劉鶴氏が習近平氏の推進する「現代の文化大革命」を進言した経済ブレーンでないことを明かしたことになるからだ。
 本来、中共政府で経済政策は李克強首相の所管だった。しかし昨年辺りから経済政策まで習近平氏の口から語られるようになり、それを李克強首相が婉曲に批判するようになった。例えば2020年4月に習近平氏が小康社会の実現を果たした、との演説を受けて、李克強首相が五月二十八日の記者会見で「中国では六億人の月収が千元(約一万五千円)前後だ」と発言した。それは習近平氏が自身の政策が功を奏して中国が小康社会になった、と自画自賛したのを婉曲に否定したと話題になった。

 一方、今年六月一日出版の党理論誌「求是」は、昨年四月に習近平(しゅうきんぺい)国家主席が行った演説を掲載し、習氏は「わが国の発展が不均衡で収入の差があるのは正常なことだ。(習政権が目標にする)小康社会の全面的実現は平均主義ではない」と訴えた。格差の存在を問題視する李氏の発言を打ち消す内容ともいえる。
 8月24日に14次五カ年計画(2021~2025年の中期経済政策)に関する経済・社会学者たちとの座談会が北京で開催されたのだが、国務院による開催ではなく、習近平が個人的に召集した座談会であり、本来経済を主管するはずの首相の李克強は参加していなかったという。8月24日の座談会では、9人の重量級エコノミストが召集され、彼らがおそらく習近平の今後の経済ブレーンであろうとみられている。その顔触れは次のとおりだったという。
北京大学国家発展研究院名誉教授:林毅夫
中国経済体制改革研究会副会長:樊綱
清華大学公共管理学院:江小涓
中国社会科学院副院長:蔡纊
国家発展改革委員会マクロ経済研究院長:王昌林
清華大学国家金融研究院長:朱民
上海交通大学安泰経済管理学院特任教授:陸銘
中国社会科学院世界経済政治研究所長:張宇燕
香港中文大学(深セン)グローバル当代中国高等研究院長:鄭永年
 彼らが習近平氏が相次いで発表している常軌を逸した一連の経済政策を提言しているブレーンだとすると、習近平氏の「迷走ぶり」が解るような気がする。

 九人の中で主導的立場にあるのは林毅夫氏だと思われる。『中国を動かす経済学者たち』(関志雄著、東洋経済新報社)を参照すると、林毅夫氏は台湾出身で、現役エリート国民党軍将校時代の1979年に駐屯地の金門島から台湾海峡を泳いで中国に亡命。その後、改革開放後最初に米国留学した中国人留学生組の1人だ。
 2008年に世界銀行のチーフエコノミストに就任し、このときは最初の途上国出身のチーフエコノミストと注目されたという。しかし林毅夫氏は経済学者としての基礎を築いたのは30歳代以降であり、純粋な意味での学者というよりは権力志向が強い「祖国富強」論者であり、中国が世界経済の中心となる夢を語ってきた愛国者でもある。その経済政策の方向性は、中国共産党による開発独裁的政策支持であり、憲政体制に移行することが経済の長期的な発展と成功にとって十分かつ必要な条件であるかどうかは疑問である、という立場のようだ。

 鄭永年は人民日報の取材に対し「香港に対して断水するぞと威嚇すれば、デモの乱は終結する」などと発言し、大いに香港世論の反発を招いた。鄭永年は党のすることのほとんどすべてを正当化している。共産党と市場経済制度を混合するなど、理論は基本的に西側の発展の模倣を肯定しているが、政策的管理、統制を重視しており、実際のところ習近平の考えとほぼ一致しているという。
 このような「御用学者」を身辺に集めて、習近平氏が経済政策を直接所管しているとしたら、破滅的な経済政策を相次いで実行しているのも頷ける。それに対して、経済ブレーンとして長年の側近だった劉鶴氏が警鐘を鳴らしたのも理解できる。しかし習近平氏の経済政策を批判したのを習近平氏が看過するだろうか。おそらく劉鶴氏は更迭され失脚するか、あるいはすでに実質的に失脚しているのかも知れない。

 だが劉鶴氏が9人の経済ブレーンと異なるのは彼が「紅二代」であることだ。中国共産党の生粋の党員で、格としては習近平氏と変わらない。いや、だからこそ劉鶴氏が危険な立場にあるのかも知れない。
 かつて日本にも権勢を誇りそれを永遠のものにしようと企んだ者がいた。それは藤原不比等だった。彼の名は「並び立つ者なし」という意味だ。彼によって都から追放された政治家は柿本人麻呂をはじめ多数に上る。鎌足の次男として生まれた彼は平城京遷都を推し進め、更に大宝律令の改訂を主宰して養老律令を制定し、律令制度国家を完成させた。

 しかし習近平氏は「戦狼外交」により鄧小平氏以来の「改革開放」策を台無しにしてしまった。国内民営企業は否定するが、外国投資は歓迎する、という矛盾した「資本主義」を推進する経済政策は決して成功しないだろう。
 習近平氏は彼と並び立つ者の存在を許さない極めて自意識の強い人物のようだ。それが映画俳優であろうと起業家であろうと、人気者の存在を許さないようだ。歌手やスターのファンクラブを解散させたのも、ある俳優のファンクラブ会員が5,000万人もいることに恐怖したからだそうだ。彼が指揮権を握っている人民解放軍ですら200万人しかいないというのに、5,000万人ものファンを擁するスターの存在を許せなかったという。

 既に習近平氏は「イエス・マン」ばかりを身辺に集めた裸の王様だ。劉鶴氏の苦言に耳を傾けるなら、まだ習近平体制は続くだろうが。

このブログの人気の投稿

それでも「レジ袋追放」は必要か。

麻生財務相のバカさ加減。

無能・無策の安倍氏よ、退陣すべきではないか。

経団連の親中派は日本を滅ぼす売国奴だ。

福一原発をスーツで訪れた安倍氏の非常識。

全国知事会を欠席した知事は

安倍氏は新型コロナウィルスの何を「隠蔽」しているのか。

自殺した担当者の遺言(破棄したはずの改竄前の公文書)が出て来たゾ。

安倍ヨイショの亡国評論家たち。