アトキンソン氏の日本衰亡論。

「デフレ」は複数の要因が複雑に絡み合った現象
先日、オックスフォード大学時代に日本経済を教えていただいた恩師と、現在の日本経済の問題点について意見交換をしました。

 先生は、今の日本経済のデフレは、(1)明らかに金融政策の問題ではない、(2)需要側だけの問題でもない、(3)供給側の問題だけでもない、(4)総合的に考えるべきである、と指摘されていました。
 日本経済は、デフレであることを見ればわかるように、需給が崩れている状態にあることは事実です。ただ、需給が崩れている根本的な理由は一般に言われているような「個人消費の低迷」ではありません。結論を先に言うと、内需が足りていないのは「企業の投資需要が低下しているから」です。
 では、企業の投資需要の低下の原因は何なのでしょうか。政府の緊縮財政や「デフレだから」で片づけられるほど単純なものではありません。となると、MMTに基づいて積極財政政策を推し進めれば解決できるとはかぎりません。

 この点について、2回にわたって検証していきます。
 私はこの数カ月、日本のデフレ問題を検証するため、海外の経済学界のたくさんの論文を読みました。その中には「生産性向上はデフレ要因である」「PGS(生産的政府支出)が重要だ」など、示唆に富んだ論文が数多くありました。

 特に衝撃的だったのは、世界のデータを分析すると、インフレになるほど購買力調整済みの生産性が下がるということでした。
 シカゴ連銀によると、アメリカの1947年から1994年までのデータでは、インフレと生産性の相関係数は−0.36と、負の関係にありました。1956年からバブルが始まる前の1986年末までの日本のデータを分析すると、アメリカほど強くはありませんが、−0.12と、同じように負の相関関係にありました。
 因果関係に関しては議論がありますが、120カ国の長期にわたるデータで、生産性向上率とインフレ率は一貫して負の相関関係にあることが確認されています。これは海外の経済学会のコンセンサスで、私が考えた仮説ではありません。

 初歩的なものでも、経済学の教科書を読めば、生産性向上はデフレ要因だとあります。19世紀の後半と同じように、生産性が向上すればするほどデフレになりますが、労働分配率が下がらないかぎり、それは「いいデフレ」と言えます。逆に、インフレ率が高くなればなるほど、生産性向上率は下がります。
 生産性向上の観点からすると、インフレでもデフレでもない環境は最も望ましいと思います。
 
デフレの最大要因は「個人消費」ではない
 多くの人は、需給が崩れている理由を個人消費に求めます。主に、消費税の引き上げによる悪影響や、実質賃金の減少、可処分所得の減少などを問題視します。確かに、賃金は下がっています。
 しかし、個人消費は世間で言われるほど弱くはありません。GDPにおける最大の項目である家計の最終消費を見ると、堅調なのがわかります。

給料が減っても個人消費が堅調な理由
 個人消費が堅調なのは、安倍政権の間に、生産年齢人口が減っているにもかかわらず雇用が大きく増加したからです。
 また、戦後から長年問題視されてきた家計部門の高すぎる貯蓄率が下がっていることも貢献しています。
 確かに、高齢化が進むことによって、生産年齢人口から高齢者層に次第に所得が移転するので、若い層の消費できる金額が減っています。実際に若い層の消費は減少していますので、それだけに注目すれば、これこそがデフレの正体に見えると思います。しかしそれは、視野が狭すぎる分析です。
 これから生産年齢人口の所得が増えなければ、ますます所得は高齢者層に移転します。当然、生産年齢人口はますます貧しくなり、消費も細ります。その代わり高齢者が移転してきた所得を消費するので、中身は変わりますが、消費の総額は変わりません。

デフレの最大要因は「企業の緊縮政策」にある
 日本では経済の供給側の問題を強調する人もいれば、需要側の問題を指摘する人もいます。しかし、残念ながら、総括的に見ている人はあまりいないように感じます。しかも、今日本が直面している問題は、勉強すればするほど複雑に感じてきたので、冒頭に書いたように私の意見を恩師にぶつけて議論をしたのです。
 議論の結果、「日本経済の最大の問題は、企業の緊縮戦略にある」ということで意見が一致しました。
 「企業の緊縮戦略」とは、簡単にいえば、日本企業が労働者の賃金を下げるだけで、投資も増やさず、配当も控え、浮いたお金を内部留保金としてためこんでいることを指します。つまり、日本で内需が足りていないのは、消費にまわるべき個人のお金を企業が吸い上げて、貯金していることが原因なのです。
 デフレの正体も、経済成長率が低いのも、ここに主因があります。
 経済学では、生産性の向上率と賃上げ比率の差の分だけ、デフレ圧力がかかるとされています。つまり、生産性向上率が5%で、賃上げの比率が3%だと、2%分のデフレ圧力が発生します。経済学の言葉で表現すると、「労働分配率が低下すると、インフレ圧力が弱まる」となります。

日本企業は規模に関係なく、労働分配率を下げています。
 人口増加は地価を押し上げることでインフレに大きく寄与するのですが、日本は人口が増加しないので、労働分配率が低下すると、他国、とりわけアメリカよりデフレ要因を超えるインフレ要因が少なく、デフレに陥りやすい環境にあります。
 どの経済でも、インフレ要因とデフレ要因があって、そのバランスで全体のインフレ率が決まります。例えば、日本もアメリカも、デフレ要因が−2%で、インフレ要因はアメリカが+3%、日本は+1%しかないならば、同じデフレ圧力でも、全体のインフレ率は大きく違ってきます。この場合は日本だけが慢性的なデフレとなります。
 一方、企業部門では貯金が増えています。企業は生産性向上率ほど賃金を上げていないので、お金が貯まるのです。個人部門から吸い上げている金額を配当に回したり、投資に回したりすれば、企業部門の需要は増えて、内需全体は減りませんが、実際は配当もそれほど出さず、投資もしていませんので、貯金ばかりが増えています。
 つまり、内需が不足している理由は、個人消費ではなく、企業の投資不足なのです。

企業が労働分配率を下げると、現在の個人消費に悪影響を及ぼします。
 また、企業が先行投資をしない分だけ、労働生産性も上がらないので、将来の賃金も低迷します。将来の個人消費も増えません。
 
世界的に起きている企業の緊縮戦略
 この現象こそ、日本の成長を低迷させている原因です。では、なぜ企業は労働分配率を下げているのでしょうか。その原因を「政府が放置しているデフレが原因だ」「消費税が原因だ」などと分析する人が多いですが、その仮説には大きな盲点があります。
 実は、この現象は日本のみならず先進国各国で起きています。特に、2008年以降、労働分配率低下と企業の投資減少が深刻化しています。

まず、労働分配率の動向を確認しましょう。
 1990年代に入ってから、世界的に労働分配率の低下傾向が続いています。ILOとOECDが2015年に発表した論文、The Labour Share in G20 Economiesによると、1980年代から労働分配率が大きく低下し、先進国各国では戦後の最低水準になっています。フランスでは1897年の水準まで下がっていて、アメリカでは1930年代より低い水準で推移しています。
 労働分配率の低下は、労働分配率の低いIT業界などの従業者数が増えたことが原因ではなく、ほぼ全業種で起きています。
 原因は、主に「モノプソニーが強くなって、労働者の交渉力が低下している可能性が高いことを示唆している」とあります。モノプソニーは、特にサービス業で働きやすいので、先進国の労働力がモノ作りからサービス業に移動すればするほど、労働分配率が下がりやすくなります。

 この論文では、生産性の向上に比べて、実質賃金が上がっていないことが労働分配率の低下の主な原因であるとしています。このことにより、格差が広がり、個人消費に悪影響を及ぼしているとあります。格差が広がる理由は、労働分配率の低下が低所得者中心に起きており、資本の分配率は上がっているものの、資本の分布は高所得者層に偏重しているからだとありました。
 
対GDP比だけでなく「総額」で減っている日本の投資
 次に企業の投資動向を確認しておきましょう。
 世界的に見ても、企業の投資は対GDP比で減少傾向にあります。
 当然、諸外国は継続的にGDPが成長していますので、対GDP比率が下がっているとはいえ、絶対額は増えています。
 しかし、日本では対GDP比で下がっているだけではなく、驚くことに絶対額も減っています。1994年から2019年までの間に、個人消費が19.4%も増えたにもかかわらず、企業の投資は9%も減っています。1990年から2018年の間に、先進国の対GDP比率が11.8%減少しているのに比べて、日本は29.5%も下がっています。

 いうまでもなく、長期的には投資をすることによって、経済が成長し、賃金も上がります。対GDPで投資が減っているだけではなく、絶対額も減っていることは日本経済にとって大打撃です。だからこそ、日本の賃金は上がらず、諸外国との格差が次第に拡大しています。
 諸外国の企業の投資の主流がICTや社員教育に移行する一方で、日本はこの2つの分野に十分な投資を行っていないことが、海外とのギャップができている大きな理由の1つでしょう。

企業の投資を促進することが最大の課題
 労働分配率の低下と企業投資の減少によって、世界的にインフレ率が低下しています。日本は、人口減少と高齢化というさらなるデフレ要因も加わって、デフレから抜け出せなくなっているのだと分析しています。
 労働分配率低下と企業投資減少による経済への影響は、世界中の先進国で観測できるので、日本だけの現象ではありません。日本は海外に比べて、極端なだけです。
 となると、日本政府が行っていた緊縮財政や消費税の引き上げは、経済に対して短期的な悪影響を及ぼしたのは確かですが、もともとあった問題を悪化させているだけの「副因」であって、経済低迷の主因ではないことになります。
 日本で賃金が上がらないのは、労働分配率の低下と企業投資の減少に最大の原因があります。個人消費が増えないことこそ企業の緊縮戦略の原因だ、という反論が聞こえてきそうですが、そうではありません。実際、個人消費が増えているときでも、企業は労働分配率も投資も減らしています。
 理屈上、唯一「日本経済が成長しない理由はデフレだから」という仮説が成立するには、企業が労働分配率を下げて、投資もしない、直接かつ最大の原因が「デフレだから」ということにならないといけません。
 世界に視野を広げていけば、財政緊縮をしていない国でも、デフレになっていない国でも、この企業の緊縮戦略問題が起きています。その事実を考慮すれば、日本企業が緊縮戦略をとっている主因は、日本政府の緊縮財政でもデフレでもありません。となると、緊縮財政は経済低迷の主因でないので、緊縮財政を止めれば経済が本格的に回復する、とはかぎらないのです。
 MMTの論者も、国の負債は民間の資産であると強調しますが、MMTに基づいて政府支出を増やしても、企業の投資需要を喚起することができず、企業部門が今のようにその稼ぎをすべて内部留保に回した場合、MMTによる負債増は企業の貯金(資産)になるだけで、持続的な内需喚起につながらない可能性が高いのです。その場合、大変な逆効果になります。ぜひ、和製MMT論者の皆さんには、PGS(生産的政府支出)の考え方を取り入れて、MMTに基づいて政府支出を増やした場合、どう企業投資を喚起させられるかを考えていただきたいと思います。

 日本のこれからの経済政策を考えるにあたって、政府はなぜ企業が賃金の引き上げも投資もしないのかを真剣に考え、どうしたら企業の投資を促進できるのかに頭を使うべきです。これはMMTに基づく積極財政を実施するか否かにかかわらず、最も重要な問題なのです。

次回は引き続き、海外の経済学者によるしっかりとした統計分析を基に、「なぜ企業は投資しないのか、なぜ企業は労働分配率を下げているのか」を検証します>(以上「東洋経済」より引用)





 東洋経済誌に悪名高きアトキンソン氏の論評が掲載されていたので、彼の正体をブログ読者各位に知って頂きたいと思って転載させて頂きました。もとよりアトキンソン氏は政府「成長戦略会議」の委員で、日本の「構造改革」に竹中平蔵氏と共に大きく関与している政府委員の一人だ。
 アトキンソン氏の評論の大見出しは「「企業がケチになった」から日本経済は衰退した」というもので、小見出しは「デフレや消費税は「副次的な要因」にすぎない」だ。失われた30年の元凶は企業で、デフレや消費税は「副次的な要因」にすぎない、とは仰天すべき論理だ。

 彼の言によれば日本経済を強くするには企業が気前よく振舞えば良い。ということになる。デフレや消費税はそのままで良い、ということで、現行の税制や緊縮財政は問題ないという結論だ。そんな「経済理論」などこの世に存在しない。
 確かにGDPは消費支出+政府支出+貿易収支の総合計だ。だから消費支出の内の企業支出を増やせば良い、ということのようだが、それなら安倍自公政権で大幅に引き下げた法人税率を元に戻せば良い。なぜなら法人税が高かった当時は納税するくらいなら職員給与の引き上げや福利厚生費に使う方が良い、とのマインドから企業は地域活動にも力を入れていた。

 しかし法人税が引き下げられ、アトキンソン氏のような「物言う株主」が現れると企業は内部留保を引き上げて株主配当に回すようになった。しかし最も大きな企業支出の減少要因は工場の海外移転と派遣社員の拡大だ。
 国内で生産していれば、当然海外の廉価な労働力と競うため、国内工場の生産性向上を図らなければならない。そうしなければ国際競争に勝てないから企業は必死で生産性向上のための技術開発や製品の付加価値を高めるためや新製品開発のための研究開発に投資するだろう。法人税の引き下げにより外国投資を日本国内へ呼び込む、と安倍氏が語った法人税引き下げのお題目は全く効果を上げていない。いったいどれほどの外国企業が日本へ工場新設などの投資を行ったというのだろうか。

 「企業がケチになったから日本経済は衰退した」とはお笑いだ。そんなあやふやな原因で失われた30年の長いトンネルの中に日本経済が迷い込んでいるのではない。まさしくアトキンソン氏が指摘した「デフレや消費税」こそが主要因で、それら決しては「副次的な要因」ではない。
 デフレが何故30年間も続いているのか。理由は簡単だ、需要が足りないからだ。国内どの大学の経済学部の学生に訊いても同じ返答をするだろう。それではなぜ需要が足りないのか。それは労働者の所得が低いからだ。昔から無い袖は振れぬ、という。

 それではなぜ労働者賃金が低いのか。それは国内企業の生産性が向上してないからだ。当たり前といえば当たり前の話だが、企業は国内工場に投資するよりも、中国などの労働力の安価な外国に工場を新設すれば簡単に企業利益を増大させられるから、企業経営者は先を争うように中国などへ工場を移転させた。その数たるや六万社に及ぶ、というから企業の日本国内投資など空洞化して当然だ。
 そして海外移転させた工場の労働費と国内の労働費を比較して、なんとか国内労働費を引き下げる方法はないかと「構造改革」の着手した。その解決方法は実に簡単な話だ、正規社員の数を減らして臨時や非正規社員を大量雇用すれば良い。それだけの話で、それなら暗愚な企業経営者でも利益を上げることが出来る。ただし、それは「短期」のことでしかない。なぜなら生産性向上投資を怠った企業は必ず海外企業との競争力が低下し、企業体質がぜい弱になり混載的な競争に敗れる運命にあるからだ。

 引用した論評の中で最大の嘘は「労働分配率の低下は、労働分配率の低いIT業界などの従業者数が増えたことが原因ではなく、ほぼ全業種で起きています。原因は、主に「モノプソニーが強くなって、労働者の交渉力が低下している可能性が高いことを示唆している」とあります。モノプソニーは、特にサービス業で働きやすいので、先進国の労働力がモノ作りからサービス業に移動すればするほど、労働分配率が下がりやすくなります」という個所だ。
 モノプソニー(<モノプソニーとは、買い手独占とも訳され、経済学において、 一人の買い手が、多くの売り手によって提供する商品やサービスの主要な購入者として、市場を実質的に支配している市場構造のことである>以上「 ウィキペディア」より引用)が成立するのは非正規労働者のケースだ。その多くは飲食やサービス業においてみられる。正規社員を雇用している産業ではそうしたことは起きない。つまりアトキンソン氏たちが「構造改革」で推し進めた新自由主義による「自己責任」の社会がそうさせているに過ぎない。

 そして労働者の交渉力が低下したのも同じラインに正規社員と非正規社員とが混在する職場環境によって労働者が分断されているからだ。竹中氏に到っては「正規社員は既得権者だ」と批判し、正規社員全廃論すら展開している。彼らには「恒産なくして恒心なし」という言葉の意味すら分からないだろう。
 日本を破壊し外資にバラ売りして濡れ手に粟の儲けを企む人たちには「恒産なくして恒心なし」という言葉を噛みしめて頂きたい。日本を蘇生させるには、まずデフレギャップを政府支出で埋め、国内企業に生産性向上のための投資を促す諸施策を展開することしか方法はない。もちろん政府支出だけでデフレギャップを埋めてもデフレマインドを払拭することは出来ない。そうした国民のデフレマインドを一掃するために消費税の廃止を行うべきだ。

 財政赤字を放置していて良いのか、と古典経済学者たちがすぐに口を尖らせるが、税収で償還できる規模でないことは明らかだ。尤も国債を償還する必など無いのだが、それでも償還するとしたら経済成長によるインフレ率で償還するのが最も穏当な考え方だ。
 縮小経済下での問題は深刻化するだけで袋小路だが、拡大する経済下での問題は発展的解消できる。アトキンソン氏は日本を解体してM&Aで大儲けしたいのだろうが、そうはいかない。竹中氏は正規社員を全廃して、派遣業で中抜きピンハネ稼業でボロ儲けし続けたいのだろうが、国民も政治家もバカ揃いではない。必ずや政権交代して経済成長する日本に再生するだろう。その時にはあなたたちは官邸の御用政府委員からお払い箱になる。いや、彼らをお払い箱にしないと、日本は衰退の道をたどるだけだ。そうしてはならない。

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