政府統計数字のカラクリ。とカラクリに気付かない能天気な政治家たち。

昨今の経済現象を鮮やかに切り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第26回。
法人企業統計によると、今年46月期の企業の人員数は前年同期比234万人減(6.5%減)。これからすると、失業率が大きく上昇しているはずです。しかし、7月の労働力調査では、失業率は「わずか」2.9%でした。この差は、「休業者」をどう捉えるかによります。仮に休業者を失業者とカウントすれば、失業率は6.2%になります。

企業利益が激減

91日に発表された46月期の法人企業統計調査によると、全産業の売上高は前年同期比17.7%減少し、営業利益は64.8%減少しました。
製造業は、売上高が20.0%減、営業利益は91.2%の減です。輸送用機械は、売上高が37.2%減、営業利益が実に218.1%も減少しました。つまり、昨年の黒字額を超える赤字額となったのです。
石油・石炭、鉄鋼、金属製品、業務用機械、輸送用機械、運輸業・郵便業では、赤字になっています。輸送用機械の赤字額は8720億円、運輸業・郵便業の赤字額は10101億円という巨額のものです。
日本企業は極めて深刻な事態に直面しています。
企業はこの状況にどう対処しているのでしょうか?
売上高の急減に直面した企業は、売上原価を前年同期比17.3%減と、ほぼ売上高減少率と同率だけ削減しました。
他方で、販売費および一般管理費は、7.6%の減少にとどまっています。
ここでの「売上原価」とは、商品の仕入れ高、製品を製造するために要した材料費や製造ラインの人員の賃金、そしてサービスを行う人員の人件費などです。
「販売費および一般管理費」とは、広告宣伝活動や販売促進活動などにかかった費用や人件費、および、企業全体を運営し管理するために要した費用です。
企業は、現在のように売上高が大きく落ち込んだ事態はいずれ元に戻ると考えて、管理部門は手を付けていないために、販売費および一般管理費の削減率が低いのでしょう。
では、人件費はどうでしょうか? これは、前年同期比で7.3%の減となっています。
人員数でみると、前年同期比で234万人減(6.5%の減)です(図表1参照)。
(外部配信先では図表やグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)
これは、かなり大きな削減率です。仮に、法人部門以外でも同じような人員削減が行われ、かつ削減された雇用者が失業したとすれば、失業率は6.5%ポイント程度上がるはずです。
なお、人件費は、売上原価と販売費および一般管理費の両方に入っています。ただし、公表されている数字では、その内訳はわかりません。
売上原価の減少率が高く、そしてこれは現場関係の費用であることからすると、減っている大部分は非正規雇用者であろうと想像されます。

労働力調査では、雇用者減は73万人でしかない

以上で見たように、法人企業統計が伝える雇用情勢は、深刻なものです。
ところが、1日に公表された労働力調査は、これとはかなり違う姿を伝えています。7月の完全失業率は2.9%だったのです。
決してよい数字ではありませんが、法人企業で人員が6.5%も減っていることから想像されるのとは、だいぶ違う状況です。
実際、労働力調査では、雇用者数はあまり減っていないのです。
20195月から20205月の間に、雇用者が73万人減(うち非正規が61万人減)でしかありません(図表2参照)。
上述した法人企業統計の234万人減とは大きな違いです。
しかも、労働力調査は個人事業なども含むため、対象が法人企業統計より広くなっています。
労働力調査では、20205月の雇用者は5920万人、それに対して法人企業統計の46月期の人員は3389万人です。
したがって、労働力調査の数字が法人企業統計の数字の1.7倍程度になっていないと、おかしいのです。
この両者の関係はどうなっているのでしょうか?

休業者の扱いが、2つの統計で違う

この謎を解くカギは、休業者の扱いにあります。
ここで、「休業者」とは、仕事を持っていながら調査期間中に仕事をしなかった者です。雇用者の場合は、仕事を休んでいても給料・賃金の支払いを受けている者です。現在、その大部分は、雇用調整助成金によって支えられていると考えられます。
これは、労働力調査では、雇用者の中に含まれています。
労働力調査によると、20205月の休業者は423万人で、20195月の149万から274万人の増でした(図表3参照)。
上述した「労働力調査の数字が法人企業統計の数字の1.7倍程度」という換算率を当てはめると、「法人部門での休業者は249万人(=423÷1.7)程度」ということになります。
ところが、「法人企業統計における46月期の人員は、対前年比234万人減」と上で述べました。いま算出した249万人という数字は、ほぼこれと一致します。
■雇用されているが働いてない人々が大量に?
つまり、法人企業統計では、「昨年は賃金を出していたので人員に含め、今年は雇用調整助成金が賃金を支払っていて企業が払っていないので、人員にカウントしていない」と考えると、つじつまがあうのです。
すでに述べたように、休業者とは、「雇用されているが働いていない」人々です。
法人企業統計では「働いていない」あるいは「企業が賃金を支払っていない」という側面で捉えられ、労働力調査では「雇用されている」という側面で捉えられていることになります。
どちらの側面で捉えるかによって、現在の日本の労働市場の評価が大きく変わってしまうのです。
「失業率2.9%」という数字で安心している人が多いかもしれません。
とくに、アメリカの失業率が改善したとはいえいまだに2桁であるのと比較すると、日本の状況はかなり良好だと考えられるかもしれません。
しかし、日本の失業率がこのように低いのは、労働力調査が、休業者を「雇用されている」と捉えているからなのです。
そして、現状においてそれらの人々が雇用され続けているのは、雇用調整助成金が賃金を支払っているからです。
企業の立場から言えば、これらの人々は「賃金を払わなくてもよい人々」と捉えられているわけで、そうした人たちが多い現在の日本の状況は、決して安心できるものではありません。

休業者220万人を失業者とカウントするなら?

仮に7月における休業者220万人を失業者とカウントするなら、7月の失業者数は現実の失業者196万人に220万人を加えた416万人となり、失業率は6.2%となります。
これでもまだ、アメリカの半分以下の水準であることは事実です。しかし、レイオフを簡単に行えるアメリカの特殊性などを考慮に入れれば、両国間に大きな差はないとの見方も可能でしょう。
これまでは、統計による定義の違いで状況判断が大きく違うということは、ありませんでした。
休業者がきわめて多数になっている現在の日本では、それをどう捉えるかによって、経済の現状の捉え方が大きく異なるものとなるのです。
なお、すでに述べたように、今年46月期において、企業の人件費は対前年比で3.2兆円削減されています。
仮に企業がこれだけの人件費を削減できなかったとしたら、営業利益は現実値の5.8兆円ではなく2.6兆円となり、対前年同月比は、マイナス84.3%になっていたでしょう。つまり、法人企業全体として赤字すれすれのところまで行っていたわけです。人件費削減の効果がいかに大きいかがわかります>(以上「東洋経済」より引用)



 
 引用記事は東洋経済誌に掲載された野口 悠紀雄氏の論評だ。(グラフは上手く掲載できなかったので、詳しくは東洋経済誌を購読して頂けばと思います)。総裁選で菅氏たちが口にする安倍自公政権の経済政策が正しかった、とする根拠に政府統計を持ち出すが、それがいかにいい加減なものか、良く判る論評だ。
 失業者にコロナによる休業やレイオフ社員を加算すると失業率は米国のそれと大して変わらない危機的状況だ、ということが分かるはずだ、と野口氏は力説している。まさにその通りだと思う。

 しかし能天気な政府の認識はすべて政府統計がおかしいからだろうか。それなら政治家を各都道府県から選出している意味がない。国民の代表というなら、全国一区にして国民投票で選出しても構わないことになる。
 そうしないのは全国各地で異なる状況を政治に勘案するためではないか。全国一律の政治、というのは社会保障や教育など、極めて限定的なことでしかないのではないだろうか。むしろ地域開発や首都圏の問題など、政治が各地域の特徴に沿った政策を立案し法律を定めて実施すべきではないだろうか。

 だから全国各地に選挙区を限定して、政治家を国会へ出しているのだ。彼らは政府統計に載らない、地方の実情を政治に反映させる義務がある。
 しかし政治討論などを見ると、彼らは政府統計の数字だけしか見ていない。しかも、その数字に何が含まれ、何が含まれていないかすら言及しないとしたら大馬鹿でしかない。野口氏の失業率の計算にしても、休業者やレイオフを含めるだけではまだ足りない。実際に減少したアルバイトやパートタイムも実労働者数に換算すれば米国以上の失業率になるのではないか。

 大学生のバイト口がなくなれば親の負担が増すのは目に見えているし、負担できなければ大学を退学するしかないだろう。パート先を切られた主婦の家庭はそれだけ収入減にならざるを得ない。もし主婦がシングルマザーならどうやって生計を立てられるというのだろうか。
 そうした国民の厳しい実態の見える統計数字を出すようにするのが政府統計のはずだ。そうでなければ政治に何を反映することが出来るというのだろうか。安穏として「まだ日本の失業率はそれほど高くはない」などと寝言を言っている政治家が自民党総裁となって、日本の政治の舵取役に就任する。なんと恐ろしいことだろうか。

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