日本企業風土に経営者の高額年俸はそぐわない。

豊田章男社長ら6人の取締役に対する2019年3月期の役員賞与を前期比2.7%増の総額12億5700万円としたことが14日、分かった。1人当たり平均は2億950万円で、前期を550万円上回る。19年3月期連結売上高が国内企業で初めて30兆円を突破するなど好調な業績を反映した。

 社外取締役と退任者を含む計13人の賞与と役員報酬の総額は1.5%増の19億4500万円だった。6月13日に開く定時株主総会の招集通知に記載した。
 総会では取締役に対する報酬総額の上限を現在の年間40億円から70億円に引き上げることも提案する>(以上「共同通信」より引用)


 トヨタの六人の取締役の平均年酬が2億円を超えたという。つまり労働者の生涯報酬を一年で手にするという。
 一方で2017年の自動車業界における非正規社員を抱える1位は86,843人のトヨタ自動車で、5年間の増加数は2,0447人となっている。全体の社員数が圧倒的に多いため、非正規社員割合はそれほど高くないが、しかし、それでも86,843人は少なくない人数だ。

 ちなみに自動車業界で多くの非正規社員を抱える企業の第二位は30,454人の非正規社員数となったデンソー。5年間の増加数は11,949人。デンソーはトヨタ系列だ。
 役員が多額の報酬を手にするのは日本の企業風土になじまないのではないか。日本企業には「一家意識」があって、果実を等しく分かち合う、という風潮があった。しかしグローバル化がそうした企業風土を一掃したのだろうか。

 日本経済がデフレ化している最大の原因は個人消費が総需要不足に陥っていることだ。つまり労働者賃金が上昇しないのが最大の原因なのだ。
 企業が利益を労働者に分配しないで内部に溜め込んで、株主や経営者が以前より多くの分配にあずかっている。つまり欧米型の経営にみられる「資金分配論」に日本の企業経営者も毒されたのが日本経済デフレ化の最大の原因だ。

 日産のゴーン氏の高額報酬に対する怨嗟の声が日本中に満ちたのが彼の長期拘留を可能にしたともいえる。伝統的に日本人には「権力者は清貧に甘んじる」という風土があった。
 しかし、そうした考え方は今では完全に日本人から払拭されてしまったようだ。スポーツ選手が平均的な労働者が生涯で獲得する報酬の何倍もの「契約金」を手にするのも珍しくなくなった。お笑い芸人がテレビに一回出演するだけで平均労働者の年俸に近いギャラを手にする、という。そうした異常なショウビジネスの報酬のあり方が日本国民の考え方を変えさせたのだろうか。

 しかし生物としての人は江戸時代と大して変化していない。人は「起きて半畳 寝て一畳、天下取っても二合半」という生物でしかない。豪邸を誇り美食を自慢する、というのは卑しいことだと日本人は親から教えられていた。
 しかし現在のテレビ番組では登場人物が自らの豪邸を誇り、美食で腹を満たしていることを自慢する。ドコソコの料理が美味しい、と教えあったりしている。それだけでテレビ番組が成り立つというのだから恐ろしい。

 権力者が友達を優遇し、瓦版屋が権力者の晩餐会に招待されることを自慢する。それが普通の日本の風景になってしまった。そして安倍自公政権の六年有余で官邸機密費が72億円を超えたという。しかし国民には税と保険料負担の増額を課す。
 日本の社会全体がおかしくなっている。日本はグローバル化ということで「世界基準」としての欧米化を経営者も報酬に関して取り入れているようだが、欧米が世界基準として行ってきた数々の悪行を忘れたのではないだろうか。欧米が13世紀からつい先の世紀まで世界中でどれほどの悪行三昧を行って来たか。帝国主義により有色人種の地域を植民地とし、現地人の人権無視どころか牛馬のように使役した。地域によっては文明を破壊し、民族の歴史を永遠に闇に葬った。

 欧米が必ずしも正しくないし、欧米の創出した世界基準が必ずしも今後も世界基準であり続けるのではない。経営者が年俸で労働者の生涯報酬以上の金額を手にするのは、日本人の倫理観にはそぐわない。
 みんなの仲間のような顔をしているテレビの人気者が実は豪邸に暮らす高額所得者というのも裏切られたような気分だ。日本人はいつからこれほど低俗な民族に成り果てたのだろうか。トヨタ社長の12億円もの年俸は86,843人もの非正規社員の汗と涙でもあることを忘れてはならない。

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