グローバル化の総括。

毎月の勤労統計、賃金統計など、厚生労働省の統計について多くの不正が発覚し、批判を浴びています。確かに、こうした不正は全く良いことではありません。ですが、これを機会に「統計を扱う要員を増やせ」とか、中には厚労省は忙し過ぎるので分割しようなどという「焼け太り」を狙う提案もあるようです。これはいただけません。
勤労統計や賃金統計というのは、いわばルーチンです。正しいデータを提出することを民間に義務付ける、その際に紙ではなくデータで電送させ、信ぴょう性のある元データが毎月リアルタイムで揃うようにする、その上で「統計を理解した専門の担当者」が管理するようにすれば、何千人などという要員は必要ないはずです。
人手が必要になるのは、例外処理が発生するような運用がされていたり、紙のデータを受け付けるなどの非効率を許していたりするからです。今回のスキャンダルを機会に、仕事の進め方をより標準化、簡素化、迅速化すれば、コストも含めて効率化を達成しつつ、データの信頼度を回復することは可能だと思います。
ですから、そもそも「統計担当の人数を増やせ」などという野党の批判は、ほとんどナンセンスだと思いますが、それ以上にナンセンスなのは、この問題を深追いするあまり、「そもそもどうして賃金が下がったのか?」という重要な論点を忘れていることです。
それでは、どうして日本の賃金が下がったのでしょうか?
現象面から言えば、80年代までは正規労働だった職種がどんどん非正規になっていったとか、初任給水準が30年近く据え置かれ、さらにはその後のベースアップも極めて低水準だったので、世代が若くなるにつれて年齢別の年収が猛烈に低くなっていることがあります。
ですが、こうした現象面は結果に過ぎません。
そうではなくて、日本の経済が負け続けているからです。
例えば、家電の最終組み立てという業種があります。80年代までは日本は世界の先端を行っていました。ですが、今は世界の工場としての地位は中国に取られてしまっています。最初のうちは、日本で研究開発した製品を中国に作ってもらっていました。ですが、白物家電などは、どんどん中国や他国のメーカーにシェアを奪われています。
一方で、最終消費者向けの製品は景気変動があるので、「B2B」つまり企業向けビジネス向けの製品にシフトするという企業もありました。ですが、鉄道車両にしても、電力にしてもうまくいっていません。
日本の輸送用機器産業は、最初は自転車やバイク、船舶中心だったのが、四輪自動車にシフトして成功しました。ですが、その四輪自動車が「現地生産主体」になって海外に出ていった後は、もっと高付加価値の宇宙航空にシフトするべきでしたが、そうはなっていません。
その宇宙航空でも、そしてエレクトロニクスでも、かつての最終製品の製造メーカーの多くが部品産業に後退してしまっています。堅実なビジネスかもしれませんが、利幅は限られますし、何よりも発注者の経営姿勢に対して受身となります。
では、どうして負け続けているのかというと、構造的な理由があります。英語でビジネスのできるインフラがないことがまず指摘できます。そのために、アジアの金融センターの地位は、香港やシンガポールに奪われてしまいました。
いつまでも日本語の非効率な事務仕事を抱えて、しかもそれを電算化・省力化することができずにいる、そんなオフィスワークの生産性の問題もあると思います。今は、円安なので許されているものの、仮に少しでも円高になれば、多国籍企業の場合、日本での高コストのアドミ業務は切り捨てられる可能性があると思います。
コンピューター、特にソフトウエアの人材を積極的に育成しなかったという問題もあります。特殊な専門職として別会社や別の給与体系に移して冷遇してきた歴史も罪深いと思います。
日本の大企業は空前の利益を上げているというニュースもありますが、そのほとんどは海外市場での業績であり、最近は開発から生産、営業、販売すべて海外というビジネスも多くなっています。そうした場合は、日本の名前のついた企業であっても、カネは海外でグルグル回っているだけで、国内には還流しないのです。
そうした様々な構造的な問題のために、日本国内の賃金水準は低くなっています。そうした構造にメスを入れて、労働慣行を中心に国内の規制改革を行なって、生産性を向上するだけでなく、最先端の技術開発が国内でできる、全世界の消費市場に対して直接向き合うビジネスができるようにしなくてはなりません。
野党は、政府の統計問題を追及するヒマがあるのなら、そうした本質的な部分に斬り込んで、日本の給与が本当に上がるような改革を提案すべきです。それができない中では、消去法で自民党政権が続くのも仕方がないと言えます>(以上「NEWS week」より引用)

 日本の労働賃金はなぜ下がったのか、それは日本が負け続けているから。上記NEWS weekの論評はそう結論付けている。しかし、なぜ負け続けてきたのかは明快に解説していない。
 なぜ「負け続けた」のか、それはグローバル化の一環で国際分業論に乗って、生産部門の海外(主として中国)へ移転したからだ。当初はそこで安価な労働力を使って企業の最大利益を実現したが、それは短期間で終わってしまった。

 そもそも戦後高度経済成長がターニングポイントを迎えたのはプラザ合意だ。迎えたというよりも、強引に「負け」を呑まされた。
 それまで日本は生産効率化で世界のGDPの17.6%を占める経済大国になっていた。ちなみに現在の中国ですら世界GDPの15%を占めているに過ぎない。つまり当時の日本はそれほどに巨大な経済大国だった。

 しかし欧米に嫉妬され、米国のプラザホテルで行われた会議により日本は円高を呑まされた。それまで1ドル240円だったものが一年後には倍の120円となり、強くなった円に浮かれた日本国民は海外消費に走り、ついには1ドル80円までに高騰するや、日本企業がロックフェラービルを買収したりハリウッドの映画会社を買収したりと狂乱状態になった。
 国内ではジュリアナ東京で毎晩の乱痴気騒ぎが繰り広げられた。しかし、円高は日本企業の輸出競争力を削ぎ、企業は生き残りをかけて円高の影響を受けない海外へ生産部門を移す選択をせざるを得なかった。

 それで、国内雇用吸収力は激減し、就職氷河期が訪れた。バブル景気の直後にバブル崩壊の不況が迫っていたことに日本国民の多くは気付かなかった。雇用が失われれば雇用者側が強くなるのは当然の理だ。その梃子を利用してグローバル化の「終身雇用制度撲滅運動」が開始された。同時に「構造改革」と称する日本の諸制度破壊が進められて「安全」や「安心」が蔑ろにされた。
 それが国際化というのなら、グローバリズムは国民生活にとって望むべからざる制度だ。そして海外移転した生産部門は中国の独特な株式の過半数を中国企業が握るという「商法」によって生産工場も知的財産も含めて奪われた。


 負け続ける日本には負ける原因があった。それは「円」の切り上げによる輸出産業への打撃だ。円が三倍に上がれば、外国で日本製品価格が三倍になる。上記論者は日本語がいかにも非効率であるかのような「負け続け目日本」の原因の一つに数えたいようだが、それなら躍進する中国言語が効率的かというと甚だ疑問だ。
 つまり言語に「負け続ける」原因を探すのは間違いだ。そして日本はコンピュータのOS開発要員の育成を怠った、という指摘もどうかと首を傾げざるを得ない。コンピュータのSEやプログラマーに「派遣」社員が多いのはフリーランスが多いことに他ならない。人材育成というよりも、プログラムの作り方を学べば良いだけだ。

 それは大して困難ではない。ただプログラムが英語もどきの符丁を使うから英語教育がプログラマーの育成に必要だ、と真顔で言う人がいるが、勘違いも甚だしい。
 符丁は符丁でしかない。だから覚えるしかないが、プログラム自体は事務処理や作業の流れを規則に従って構築することだ。だから処理すべき仕事の全体をいかに把握するかが大事だ。それは必ずしも英語で思考する必要はない。

 なぜ日本は負け続けたのか、それはプラザ合意を何の対策もなく呑んだからだ。そして円高景気に浮かれて、その後に来る円高不況に備えなかったからだ。
 物事には必ず表と裏がある。利益と不利益は表裏一体だ。グローバル化で企業は儲けたかも知れないが、国民は貧困化した。それがグローバル化の経済面で、社会面はこれから「移民問題」が日本社会の大きな枷になる。それでも日本国民はグローバル化を進める安倍自公政権を支持するのか。

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