幼児教育無料化よりも、手厚い子供手当の給付を。
<2019年10月、幼稚園や保育所にかかる費用が無料になる。消費税増税による増収分の一部が財源で、女性の就労支援と少子化対策が狙いだ。女性がますます働きやすくなると期待がかかる一方、待機児童問題が悪化する懸念もある。
2019年10月、幼稚園や保育所にかかる費用が無料になる、という。さっそく日経新聞が上記記事を掲載して御用報道にあい勤めている。
無償化について悲観はしていない。待機児童など現実的には様々な課題があると認識しているが、マクロで見たときのプラス効果を捉えるべきだ。
無償化で潜在的な保育需要が喚起されるというが、それはつまり、企業が潜在的な労働力を確保するということでもある。未就学児を持つ非就労の母親への調査では、働きたいと考える女性が6割もいた。圧倒的な労働力不足のなか、保育の受け皿確保は極めて有効な解決策になる。
待機児童問題は、保育の需要をどこまで見込むのか、という視点で語られることが多い。ただ、保護者のニーズにどこまで対応すべきかという線引きの議論は、もはや限界に来ている。
むしろ、女性就業率の目標達成に必要な受け皿はどれくらいかという視点で考えるべきだ。2023年時点の政府目標である女性就業率80%を達成するには、現在の保育の受け皿の整備計画では足りない。我々の試算では、さらに27.9万人分が必要だ。
受け皿を整備したくても、保育士が確保できないとの声を聞く。そこで資格を持ちながら働いていない潜在保育士を活用したい。我々の調査では、潜在保育士の6割は保育士として働きたいと考えている。試算では5.6万人にのぼり、これで16.9万人の保育の受け皿が整備可能だ。
彼らが求めているのは必ずしも高い報酬ではなく、柔軟な働き方だ。報酬も重要だが、短時間勤務などライフスタイルにあった働き方を求めている。それが結果的に保育士の処遇改善や質の確保にもつながる。一時的にマネジメントの負担になっても急がば回れだ。
企業の保育所にも期待したい。無償化で働きたい女性が出るのは人手不足の企業にはチャンスだ。経営戦略として保育の整備を進めるべきだ。従業員のためなら質を確保するモチベーションもあるはず。人材がいる住宅地に複数の企業と設置する手もある。国はそういう企業を支援すべきだ。
女性就業率80%が実現した場合、新規就労者46.1万人、最低で年間3.8兆円の経済効果が見込める。一方、追加の受け皿整備に必要なのは4千億円、運営費に年3千億円弱だ。
調査では、保育の受け皿が充足すればもう一人産みたいと考える母親が66%いた。ここから保育の受け皿が整備された場合に期待できる合計特殊出生率を試算すると1.78となり、国が掲げる1.8と同水準だ。
女性の就労で子育て世帯の収入は安定的に増え、少子化の一因でもある経済的不安も解消される。出生率1.8が実現すれば、少なくとも65年時点で人口1億人が維持できる。人口ピラミッドのゆがみも改善され、短期的な労働力不足の解消だけでなく、長期的な社会保障の担い手の確保にもつながるだろう>(以上「日経新聞」より)
幼児教育の無料化が働く女性にとって朗報だ、という捉え方は如何なものだろうか。すると政府は「働く女性にとって」出産はマイナスだと考えている証ということになる。
むしろ待機児童の解消には一定規模の企業は企業内に「託児所」の設置を義務化する方が早いだろう。そして無料化ではなく、子育てのための子供手当を増額する方が良い。
なぜなら幸運にも保育所などに入所できた人は「無料化」の恩恵を受けるが、入所できなかった人は「無料化」の恩恵に与れないことになる。つまり社会福祉の格差が生じることになる。
都会などの公共交通機関が発達し、人口密度の高い地域であれば保育所に子供を預けるのも困難ではない。しかし田舎ではそうはいかない。保育所がある地域の方が少ないし、あっても車で数十分かかることも稀ではない。
子供が就学するまで働くのを休んで、家庭で育児するしかない世帯は保育所無料化の恩恵は一切ない。都会でも保育所に入所できなかった人は無料化の恩恵に浴さない。こうした子育てに関して「格差」が生じる政策は決して褒められるものではない。
しかし日経新聞にそうした論調は皆無だ。なぜすべての子育て世帯に子供手当を充分に給付する方が「平等だ」という主張がマスメディアに一切登場しないのだろうか。
子供手当が十分にあれば、保育所を無料化する必要はない。子供を育てられる人は休職して自らの手で保育する方が子供にとっても良い場合が多々あるだろう。
子供を預けて仕事を継続するか、子供が就学するまで子育てを家庭で行うのかの選択肢がある方が良い。何が何でも女性を家庭から引き離して職に就かせようとする政策に違和感を覚える。
保育所などを無料化する、という政策は官僚の発想だろう。そうすれば幼稚園を管轄する文科省と保育所を管轄する厚労省の予算はそれだけ増加し、設置権限や指導権限が強化される。それらは官僚たちの退職後の天下り先の待遇などに大きく影響する。
しかし子供手当の増額給付なら、どの省庁も巨額な「子供手当」予算の恩恵に与れない。官僚にとって何も良いことはない。だから民主党政権で公約した子供手当2万6千円にマスメディアはこぞって「財源は~」と批判の嵐を浴びせて潰してしまった。
深刻な少子高齢化の坂道を転がり落ちている日本を真剣に認識すれば、子供手当こそもっと根必要な「未来への投資」だということに気付くはずだ。子育て環境は地域により家庭により異なる。すべての子育てにある日本国民に平等に支援するのなら「子供手当」以外にない。これほど自明の理を主張しない日本のマスメディアは官僚の広報機関に成り下がっていると批判されても仕方ないだろう。